財産分与で開示する資料とは?新しい財産分与制度の解説
財産分与で開示する資料とは?新しい財産分与制度の解説
財産分与は、除斥期間が2年から5年に改められています。このため、財産分与の話合いは弁護士のリーガルチェックが欠かせないといえるでしょう。
財産分与の前には、まず財産がどれくらいあるかを明確にしなければなりません。夫婦がそれぞれどれだけ財産があるかを把握するためには、財産に関する資料を共有する必要があります。
この記事では、所有する財産の種類ごとに開示する、もしくは開示を求められる可能性がある資料について解説いたします。
財産分与の考慮要素
また、令和6年改正では、財産分与の考慮要素が規定されています。令和6年改正では、2分の1ルールを民法のルールとして取り入れました。
民法768条3項は、「離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため、当事者双方がその婚姻中に取得し、又は維持した財産んの額及びその取得又は維持についての各当事者の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力及び扶助の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
この場合において、婚姻中の財産の取得又は維持についての各当事者の寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする」とされています。
財産分与時の資料開示に関する基本的ルール
財産分与時には、財産を管理している側が財産に関する資料を求められます。しかし、さまざまな理由で資料開示は避けたい方がいるかもしれません。
ここでは、財産分与時の資料開示における基本的なルールを紹介します。
資料開示は義務であること(人訴法34条の3第3項、家事法152条の2第3項)
離婚時に財産分与する際、財産に関わる資料は開示しなければならないのでしょうか。
家事事件手続法の規定が改正され、情報開示制度が家事調停の中にもうけられました。
これに対する違反は過料の制裁があります。
もっとも、中には、制裁を甘んじ受けて、財産開示に応じないということもあるかもしれません。
しかし、後述しますが開示を求める側には、資料の開示を要求するさまざまな手段があります。
特に離婚調停に至った場合、資料開示を拒否し続けると隠し財産があるのではという疑念を抱かれ、心証が悪化するおそれが大いにあります。
正当な理由なしに開示を拒否するのはおすすめできません。場合によっては「一切の事情」として、相手方の言い分が真実と認められることもあるでしょう。
配偶者が開示に非協力的な場合については、以下の記事をご参照ください。
資料開示を求める方法
配偶者に資料開示を拒否された場合、開示を請求する方法として以下のようなものがあります。
- 弁護士を通じて開示を求める交渉をする
- 裁判手続きにおける情報開示義務(家事法56条1項)を利用する
- 弁護士会照会を依頼する
- 調停員から開示を依頼してもらう
- 調査嘱託を申し立てる
令和6年改正で、「裁判手続きにおける情報開示義務」が創設されてきました。令和6年改正では、財産分与に関し、裁判手続き内において当事者の財産の把握を簡単にするため、当事者に対して裁判手続内における財産開示ルールがもうけられ家事調停の実効性が上がることになりました。
財産分与請求の申立てがされているときは、裁判所は当事者に対して「必要があると認めるときは」という法律要件の下、財産の状況に関する情報の開示規定がもうけられました。過料の制裁もあります(家事法152条の2第3項)。
開示を拒否し続けると離婚手続きが長期化するだけではなく、「財産隠しが見つかると不当利得返還請求や損害賠償請求をされるおそれがあります。また、家事法56条1項の裁判手続における情報開示義務に応じない場合は、手続の全趣旨において、裁判所は、応じない当事者に不利な裁定をするという実務運用がされることが望まれるという見解もあります。
財産隠しに関するトラブルについては、以下の記事をご参照ください。
【財産別】開示する資料と提出方法のまとめ
財産の種類によって、開示する資料は異なります。ここでは、財産分与において開示すべき基本的な資料とその提出方法について説明いたします。
不動産
婚姻期間中に取得した不動産は、財産分与の対象となります。不動産の特定と所有状況を明確にするため、不動産登記全部事項証明書を提出し、名義や取得時期を確認することが重要です。
また、不動産の価値は口頭弁論終結時の時価で評価されるため、不動産鑑定書や査定書、固定資産評価証明書などを準備します。住宅ローンの有無も確認が必要であり、登記の権利部(乙区)を確認し、抵当権の有無や債務者、抵当権者を特定します。ローン残高を示す証明書や、返済計画書なども重要な資料となります。
さらに、不動産の取得経緯を明確にするため、売買契約書や金銭消費貸借契約書、住宅ローンの支払履歴などを収集することが望ましいでしょう。特有財産の割合を算出する場合は、土地や建物の代金、融資利用の状況、元本返済額が分かる資料が必要になります。
預貯金
基準日時点の預貯金残高は夫婦共有財産とされるため、通帳の写しや金融機関発行の残高証明書を準備します。
通帳の提出方法としては、主に以下の方法があります。
- 婚姻期間中の全履歴を提出する
- 基準日を含む通帳全ページを提出する
- 基準日の残高証明書を提出する
- 基準日付近の該当ページのみを提出する
- マスキング処理した取引明細を提出する
- 基準日残高のみを示す形で提出する
開示の程度によっては、相手方から追加開示を求められることがあります。例えば基準日残高が不自然に低い場合、より詳細な取引履歴を求められることがあります。
預貯金の分与については、以下の記事をご参照ください。
退職金
将来給付される退職金は、基準日時点で自己都合退職した場合の額を分与対象財産とするのが一般的です。
提出資料としては、勤務先発行の退職金計算書や試算結果の記載された社内メール、就業規則、雇用契約書などです。分与対象となる範囲は婚姻期間中に対応する部分であり、婚姻前の労働分は控除されます。
保険
生命保険、学資保険、医療保険、自動車保険などの貯蓄性のある保険は財産分与の対象となります。ただし、掛け捨ての保険は評価額が0円です。
提出資料として、保険証券の写しや基準日での解約返戻金証明書が必要です。婚姻前からの契約については、契約開始日や証券番号の連続性を証明する資料が求められます。
分与対象財産の計算方法は、以下の通りです。
分与対象財産額=基準日の解約返戻金相当額 ×(婚姻後の同居期間 ÷ 契約期間) |
各種保険の分与については、以下の記事をご参照ください。
株式
株式は、原則として口頭弁論終結時の評価額で算定されます。
上場株式の場合、株式の種類や証券会社の通知書などの数量が分かる資料や直近の株価資料を提出します。証券総合口座を利用している場合は、投資信託(MRF)の残高証明書の開示が必要です。
非上場株式の場合、決算書や法人税申告書類などを提出し、純資産評価額を確認します。
私的年金
確定給付企業年金は財産分与の対象であり、退職金の分割払いに相当するため、勤務先や金融機関作成の計算書を提出します。
企業型確定拠出年金や個人型確定拠出年金も分与対象となるため、金融機関の資産状況照会画面の写しや残高証明書を準備する必要があります。
確定拠出年金の分与については、以下の記事をご参照ください。
まとめ
財産分与では、不動産、預貯金、退職金、保険、株式、私的年金などが対象となります。それぞれの資産について適切な資料を準備し、必要に応じて開示することが求められます。特に、不動産や預貯金は取得時期や所有状況、ローン残高を明確にすることが重要であり、退職金や保険については婚姻期間に対応する部分を計算してからの提出が必要です。
開示方法にはいくつかの選択肢があり、相手方の要求や状況に応じた適切な提出方法を検討することが重要です。
財産分与の調停や人事訴訟の運営であれば経験豊富な名古屋駅ヒラソル法律事務所にご相談ください。