熟年離婚で重要な「財産分与」|退職金、住宅ローンの計算方法を弁護士が法律相談
熟年離婚で重要な「財産分与」|退職金、住宅ローンの計算方法を弁護士を弁護士が法律相談
熟年離婚では「財産分与」が争点となるケースが極めて多くみられます。婚姻年数が長くなる分、分与対象財産の種類も多くなり、評価額も高額になるケースが多いためです。
退職金や住宅ローンつき自宅など、評価や分け方が複雑になる資産もあります。
今回は熟年離婚で重要な財産分与の対象資産、財産分与割合や基準時などについて解説します。
財産分与で損をしないためにも、ぜひ参考にしてみてください。
1.熟年離婚は財産分与でトラブルが起こりやすい!
熟年離婚では、若い方の離婚以上に財産分与が争点になりやすい傾向があります。理由は以下の通りです。
1-1.財産の種類が多く高額になる
一般に「熟年離婚」といわれる場合、婚姻年数が20年以上に及ぶケースが多いでしょう。
20年も経過すると、その間にたくさんの財産を築いているものです。
預貯金、社内積立、各種の保険、不動産投資や株式投資など、種類も多くなりますし評価額も高額になるでしょう。どのような財産があるのかを特定し、評価するだけでも大変な作業となります。
また高額な分、離婚後の生活に与えるインパクトも大きくなります。
財産を分与する側は「できるだけ分与したくない」と考えますし、財産分与を受ける側は「多くの分与を受けたい」と考えるので、お互いの意見が合わずにもめてしまうケースが多々あります。
1-2.退職金を分与したくない夫と受け取りたい妻の意見が合わない
退職金も一定の要件を満たすと財産分与の対象になります。
すでに支給されている場合にはもちろん、まだ受け取っていなくても近い将来に受け取る予定があれば財産分与対象に含まれます。
熟年離婚の場合、すでに退職金を受け取っているケースもありますし、まだ受け取っていない場合でも財産分与の対象になるケースが多くなります。
夫側は「退職金は絶対に渡したくない」と考える一方で、妻側は「必ず退職金も財産分与してほしい」と考えるので、お互いの意見が合致せずもめごとになりやすい傾向があります。
1-3.自宅の分与方法でもめる
熟年離婚する場合、居住する家の財産分与でトラブルになるケースも少なくありません。
婚姻年数が長くなると、住宅ローンを組んで自分たちの家を購入している方が多いでしょう。
すると離婚後に「どちらが家に住むのか」で争いが生じる可能性があります。住宅ローンが残っていれば「どちらが残ローンを負担するのか」についても決めなければなりません。妻が連帯保証人になっている可能性もあります。
また自宅購入時にどちらかの実家が頭金を出したり独身時代の貯金を出したりしていたら、お金を出した側は「自分の取得割合を多くしてほしい」と希望するでしょう。その際の計算方法も複雑になります。
熟年離婚する場合に自宅があると、もめやすいので注意が必要です。
1-4.共有財産と特有財産の振り分けでもめる
財産分与の対象になるのは、「夫婦共有財産」のみです。どちらかが独身時代から持っていた財産は「特有財産」となるので、財産分与の対象になりません。
しかし熟年離婚で婚姻年数が長くなると、独身時代から持っていた財産も夫婦共有財産に混じってしまい、振り分けが難しくなるケースが多々あります。
たとえば以下のようなケースが考えられるでしょう。
- 妻の独身時代の預貯金が生活費に使われ、家計の預金に混じってしまった
- 夫が独身時代から持っていた車を売却したお金が家計の預金に混じってしまった
- 夫が独身時代に買っていた株の売却金が家計の預金に混じってしまった
一方は「特有財産だから財産分与対象から外すべき」と主張するでしょうけれど、相手方は「共有財産だから財産分与に含めるべき」と主張するので、話がまとまらなくなってしまいます。
1-5.財産隠しが行われやすい
熟年離婚の場合、財産隠しが行われやすい問題もあります。
財産が多種多様になるので、一部を隠されても相手方に気づかれにくいためです。
たとえば夫が財産を管理している場合、自分名義の預金や保険、株式などを妻に開示しないまま財産分与を進めようとするケースが少なくありません。
損をしないためには、相手の財産隠しを防ぐ必要があります。
1-6.財産の使い込みも起こりやすい
熟年離婚の場合、相手方による財産の使い込みにも要注意です。
せっかく高額な預金があっても、使い込まれてしまったら実際に支払いを受けるのが難しくなってしまう可能性があります。
たとえば夫に2000万円の退職金が支払われても、離婚前に夫が消費してしまったら妻はお金を受け取りにくくなるでしょう。
差し押さえをしようとしても、対象となる資産が見当たらなければ不奏功に終わる可能性が高くなります。
熟年離婚で損をしないためには、財産の使い込みを防止しなければなりません。
以上のように熟年離婚では財産分与に関するトラブルが非常に多く、それぞれに関して適切な対応が要求されます。不利益を受けないため、困ったときには弁護士へ相談しましょう。
2.財産分与の対象
そもそもどういった資産が財産分与の対象になるのでしょうか?
基本的には「夫婦共有財産」が分与対象になります。夫婦共有財産とは、婚姻中に夫婦が協力して形成した財産です。
2-1.財産分与対象財産の例
以下のようなものはすべて財産分与対象になります。
- 現金、預貯金
- 社内積立
- 持株会
- 株式や投資信託、債券、仮想通貨など
- 積立型の保険
- 退職金
- 不動産
- 車
- 貴金属、宝石、骨董品など価値のある動産
2-2.借金の財産分与
夫婦のどちらかに負債がある場合、財産分与の対象になるケースとならないケースがあります。
財産分与対象になるのは「生活のための負債」です。
たとえば生活費のために利用したカードローンやクレジットカードの残債、未払い光熱費などは財産分与の際に考慮される可能性があります。一方で、投資や浪費のための個人的な借金については財産分与対象になりません。
また資産から負債を引いた残額がマイナスになる場合、マイナスの財産分与は行われません。
たとえば総資産が300万円で夫名義の生活のための借金額が400万円の場合、差し引きすると「マイナス100万円」となります。この場合、財産分与は行われないため、妻が50万円の返済をする必要はありません。
一方、総資産が1000万円で夫名義の生活費のための借金が400万円の場合、差し引きすると資産は600万円です。この場合、妻は2分の1の300万円相当の財産分与を受けられます。
2-3.財産分与の対象にならないもの
以下のようなものは財産分与の対象になりません。
- 夫婦のどちらかが独身時代から持っていた財産
独身時代から持っていた預金や自動車、不動産などは財産分与対象外です。
独身時代から生命保険に入っていた場合、独身時代の加入年数は差し引いて財産分与対象部分を計算します。
- 夫婦のどちらかが実家から引き継いだ財産
婚姻中に得た財産であっても、実家から相続した遺産や生前贈与された財産などは財産分与の対象になりません。
3.熟年離婚における財産分与の割合
熟年離婚の際、「財産分与の割合」についても争点となるケースが少なくありません。
財産分与の割合は、「夫婦で2分の1ずつ」とするのが基本です。妻が専業主婦やパートで低収入の場合でも、財産分与割合は2分の1ずつとしましょう。
夫が「収入がない妻の取得割合を減らすべき」と主張しても、聞き入れる必要はありません。家事労働も外で働くのも同じように経済的価値があると評価されます。
ただし一方が特殊な能力や資格などをもっており、一般より著しく高い収入を得ている場合には分与割合が調整される可能性があります。
通常一般のご家庭であれば2分の1ずつで分配して問題ありません。
3.財産分与の基準時は?
財産分与するときには「基準時」も重要なポイントとなります。離婚前に「別居」するケースも多いからです。別居後離婚までの間に財産を使い込まれた場合に分与対象財産額を減らされると、使い込まれた側は大きく不利益を受けてしまうでしょう。
「いつの時点を基準に財産分与を計算するか」が大きく影響してきます。
法律上の財産分与の基準時は、以下の通りです。
- 別居しなかった場合には離婚時
- 離婚前に別居した場合には別居時
別居すると夫婦の家計が別々となって「共同で資産形成する状態」ではなくなるので、別居時で財産を固定します。
以上より、別居後に相手が財産を使い込んだとしても、財産分与では考慮されません。「使い込み前の財産」を基準に財産分与を計算できます。
いわゆる「使い得」が許されるわけではないので、安心しましょう。
4.退職金の財産分与
熟年離婚では退職金の財産分与が問題となるケースが多いので、注意点をご紹介します。
退職金が財産分与対象になるのは、以下の条件を満たす場合です。
- すでに退職金が支給されている
- 離婚後10年以内に退職する
- 退職金が支給される蓋然性が高い
すでに支給された退職金は預金や不動産、株式などの形に変わっているでしょう。そういった個別資産が財産分与対象になります。
まだ支給されていない場合には、離婚後10年以内に退職予定があり、退職金が支給される蓋然性が高ければ財産分与対象になります。
退職金の財産分与計算方法
退職金の財産分与を計算するときには、「分与対象額」を特定しなければなりません。
婚姻前から働いていた場合、全額を財産分与対象にはできないためです。勤続年数のうち、婚姻年数に比例した部分のみが財産分与対象となります。
たとえば夫の退職金が3000万円、勤続年数が45年、婚姻年数が30年の場合、分与対象となるのは3000万円÷45年×30年=2000万円の部分です。
これを2分の1ずつに分けるので、夫婦それぞれの取得分は1000万円ずつになります。
将来の退職金の場合には、以下の2種類の算定方法があります。
- 「現在退職した場合の退職金見込額」をもとに計算する
- 「定年退職時の退職金」を基準として婚姻年数に比例した計算を行う
どちらを適用するかはケースバイケースであり、話し合いによって決める必要があります。
迷ったときには弁護士に相談してみてください。
5.住宅ローンつき物件の財産分与
住宅ローンが残っている家がある場合、家の価値から住宅ローンの残債を引いた金額が財産分与対象額になります。
ただしオーバーローン物件の場合、財産分与対象になりません。「マイナスの財産分与」は行われないので注意しましょう。
たとえば家の査定価値が4000万円、残ローン額が2000万円であれば財産分与対象額は2000万円です。これを夫婦で2分の1ずつにわけるので、お互いの取得分は1000万円ずつとなります。
一方、家の査定価値が2000万円、残ローンが2500万円の場合、2000万円-2500万円=-500万円となり、オーバーローンです。この場合、家は財産分与対象になりません。
5-1.頭金を出している場合
夫婦のどちらかが独身時代の貯金から頭金を出した場合やどちらかの実家が頭金を出した場合には、その分を財産分与対象から差し引かねばなりません。
この場合、以下のようにして計算します。
家の購入代金のうち、頭金の割合を算定
まず家の購入代金のうち、頭金の金額の割合を算定しましょう。
たとえば購入代金が3000万円、妻の実家が1000万円出した場合、妻の実家の出した頭金の割合は3分の1です。
家の現在価値から頭金の割合を減額
次に家の現在価値のうち、頭金の割合を減額します。頭金の部分は「特有財産」となり、財産分与対象から外れるためです。
たとえば今の家の評価額が900万円、妻の実家の出した頭金の割合が3分の1の場合、妻の特有財産となる部分は900万円×3分の1=300万円となります。
300万円は財産分与対象から外れるので、財産分与対象になるのは残りの600万円になります。
残った金額を2分の1ずつにする
財産分与対象となる600万円を夫婦で2分の1ずつに分配します。
すると夫婦それぞれの取得分は300万円ずつです。ただし妻には特有部分が300万円認められるので、妻が600万円分(特有部分300万円+共有部分の財産分与300万円)、夫が300万円分(共有部分の財産分与)を取得する結果になります。
5-2.どちらも家の取得を望まない場合
夫婦のどちらも家の取得を望まない場合には、家を売却して清算する方法が便利です。
家の査定価値が残ローンを上回る「アンダーローン物件」であれば、売却して残った残金を夫婦で2分の1ずつに分配してお金を受け取れます。
家の査定価値が残ローンを下回る「オーバーローン物件」の場合、金融機関の許可をとって任意売却を行わねばなりません。残ったローンは住宅ローンの名義人が離婚後も返済を続けていく必要があります。
6.熟年離婚の財産分与は弁護士へご相談を
熟年離婚の財産分与計算は非常に複雑になりやすく、トラブルが多発する傾向があります。
財産分与の対象額を明らかにするのも難しいケースが多く、当事者間で協議を進めると混乱が生じてしまう事例が少なくありません。困ったときには弁護士へお気軽にご相談ください。