財産分与の基本知識~対象資産、基準時、割合について弁護士が解説
財産分与の基本知識~対象資産、基準時、割合について~
離婚の際には「財産分与」の取り決めが極めて重要です。
特に婚姻期間がそれなりに長く夫婦で貯めた資産が多い場合、財産分与対象資産が高額になります。離婚後の生活に直結してくるケースも少なくありません。
今回は財産分与の基本知識を弁護士が解説しますので、離婚を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
離婚時に重要となる財産分与
離婚時の財産分与とは、離婚するときに夫婦共有財産を分け合うことです。
婚姻中に夫婦が形成した財産の多くは「共有財産」となっています。
離婚すると夫婦は他人となるので共有にしておくのは妥当ではありません。
そこで財産分与を行って夫婦それぞれの取得分を明らかにします。
厳密にいうと、財産分与には以下の3種類があります。
- 清算的財産分与
離婚時に夫婦共有財産を清算するための財産分与です。もっとも一般的で、通常「財産分与」という場合には清算的財産分与を指します。
- 扶養的財産分与
夫婦の一方に生活能力がなく離婚後困窮することが予想される場合、他方が離婚後一定期間、扶養のために一定額を支払う財産分与です。
- 慰謝料的財産分与
夫婦の一方が不倫をしたなど有責性が認められる場合、慰謝料代わりに金銭を支払う財産分与です。
一般的に「財産分与」という場合には清算的財産分与を意味するので、この記事でも清算的財産分与を念頭にご説明していきます。
2.財産分与の対象資産
財産分与を行うときには「対象資産」を明らかにしなければなりません。
財産分与の対象となるのは「夫婦共有財産」です。
夫婦共有財産とは、婚姻中に夫婦が協力して形成した財産全般をいいます。どちらの名義かは関係ありません。共有名義の不動産も夫婦共有財産です。
- 現金、預貯金、電子マネー
- 車
- 保険(解約返戻金つきのもの)
- 不動産
- 株式、投資信託
- 仮想通貨
- 退職金
- 絵画や貴金属などの動産類
2-1.注意が必要な財産
以下のような財産は、財産分与対象になるかどうか間違いやすいので注意が必要です。
保険
保険については「解約返戻金のあるもの」が財産分与対象となります。
掛け捨ての保険や共済は財産分与対象になりません。
また基本的に「夫婦が契約者となっている保険」が対象です。たとえば夫婦の親が契約者となって保険料を支払っている生命保険や学資保険は財産分与対象になりません。
さらに夫婦が契約者となっていても、親が全額保険掛け金を振り込んだ場合には財産分与対象にならないケースが多数です。
退職金
退職金は、以下の要件を満たせば財産分与対象になります。
- おおむね離婚後10年以内に退職する予定がある
- 退職金が支給される蓋然性が高い
退職金全額が対象になるとも限りません。退職金のうち、勤続年数に対して婚姻年数に比例する部分のみが分与対象となります。
宝くじや馬券の当選金
運良く宝くじや馬券があたって当選金が入ってきた場合、購入資金が給料などの夫婦の生活費であれば財産分与対象になります。
子ども名義の預金
子ども名義の預貯金がある場合、祖父母からの贈与や子ども自身がアルバイトなどで貯めたお金であれば財産分与対象になりません。
一方、夫婦が子どものために子ども名義の預金口座を作って貯金した場合には財産分与対象になります。
子どものための学資保険
子どものために学資保険を積み立てていた場合、夫婦のどちらかが契約者となって給料などから保険料を払ったのであれば財産分与対象になります。
ただし「子どもへ贈与」されたとみなされると、財産分与対象から外れる可能性もあります(大阪高判平成26年3月13日)。
事業用財産
夫婦が共同で事業を営んでいた場合、事業用財産も財産分与対象となります。片方が個人事業主として事業を営んでいた場合にも、財産分与対象となるケースが多数です。
事業を法人化している場合、法人名義の財産は離婚自財産分与の対象になりません。
ただし便宜上法人にしているだけで実質的には個人事業と変わらない場合などには法人格が否認されて法人名義の車や預金も財産分与対象となる可能性があります。
2-2.財産分与対象にならない特有財産とは
夫婦どちらかの「特有財産」は財産分与対象になりません。
特有財産には以下のようなものがあります。
独身時代から持っていた財産
たとえば以下のようなものが特有財産となります。
- 独身時代に貯めた預貯金
- 独身時代から加入していた生命保険(ただし独身時代に積み立てた部分のみ)
- 独身時代から働いていた勤務先の退職金(ただし勤続年数に対して独身時代の年数に比例する部分のみ)
- 独身時代に購入した株式や投資信託、仮想通貨などの資産
- 独身時代に購入した自宅(ただし婚姻後も住宅ローンを払い続けた場合、独身時代にローンを払った部分のみが特有財産)
他方の協力なしに独自で築いた財産
たとえば以下のようなものです。
- 婚姻後、親や親族から相続、贈与された財産
- 婚姻後に交通事故に遭った場合の損害賠償金
なお,大阪高裁令和3年8月27日は、不動産の住宅ローンを婚姻期間中に繰上返済した際の資金1000万円が,夫たる控訴人から贈与を受けたものであるとする主張について,夫らの供述等があるだけで、この供述等を裏付ける客観証拠は提出されていないものの、10年前の事実を裏付ける資料を提出できないものとしてもやむを得ないものであり、そもそも、繰上返済金全額を夫の自己の財産によって支払ったことを裏付ける証拠もないこと、この不動産は、婚姻前に、夫と夫の父らが共同で購入したものである原判決と異なり、夫の上記主張部分を認めて,夫の特有財産部分の認定をした。
2-3.例外的に特有財産が財産分与の対象になる場合
一方が独身時代から持っていた財産や親から相続した遺産など、本来は特有財産であっても例外的に財産分与対象となるケースがあります。
それは、特有財産の維持や形成に他方配偶者が貢献した結果、特有財産が守られたり増加したりした場合です。
本来であれば特有財産がなくなっていたはずであるところ、他方配偶者の特別な貢献によって維持された、増加したという「因果関係」が必要となります。
たとえば以下のような場合、例外的に特有財産が財産分与対象になる可能性があります。
- 夫が父親から不動産を相続したが、妻が固定資産税を払ったり管理したりして維持した
- 夫がギャンブル好きで預金管理能力に欠けるところ、妻が努力して夫の独身時代の預金に手を付けずに守り、夫が父親から贈与された不動産を売らずに維持できた
なお特有財産が財産分与対象になる場合であっても「全額」が対象になるわけではありません。1割程度にとどまるケースもあります。
特有財産がどの程度財産分与対象になるのかについては個別的な検討が必要なので、迷われたら弁護士までご相談ください。
3.財産分与の基準時
財産分与を行う際には「基準時」を明らかにしなければなりません。
基準時とは「いつの時点で存在した財産を対象にすべきか」という問題です。
預貯金を使うと金額が減りますし、不動産を売れば財産そのものが失われます。財産内容は変動するので、いつの時点で存在した財産が対象になるのか、固定しなければなりません。
3-1.離婚時
離婚時財産分与は「離婚時」に行うものなので、基本的に「離婚時に存在した財産」を対象とします。
離婚するまでに財産が失われていたら、基本的には分与対象にできません。
3-2.別居時
夫婦が離婚前に別居した場合、別居後は夫婦の家計が分かれます。「共同で財産形成している状態」ではなくなるので、その後の財産変動を評価すべきではありません。
そこで離婚前に別居した場合には「別居時に存在した財産」を基準に財産分与を行います。
別居後に相手が預貯金を使い込んだり不動産を売却したりして夫婦共有財産が減ってしまっても、別居時にそれらの資産があったなら「あるもの」として財産分与の請求が可能です。
3-3.訴訟になった場合には「事実審の口頭弁論終結時」
離婚訴訟になると、裁判官が財産分与の方法を決定します。
その場合の基準時は「事実審の口頭弁論終結時」、つまり裁判が結審したときが基準時となります。
ただし離婚訴訟になった場合でも、夫婦が既に別居していたら別居時を基準に財産分与が行われます。
3-4.財産の評価基準時
不動産や株式などの価格変動する財産については、「いつの時点の評価額を用いるか」も決めなければなりません。
評価基準時については、基本的に「離婚時」の価額を採用します(東京地方判平成17年4月27日)。
たとえば離婚時に自宅の評価額が3,000万円となっている場合には、3,000万円を基準に財産分与を計算します。
4.財産分与割合
財産分与を行う際には「財産分与割合」も重要です。
財産分与割合については、夫婦で2分の1とするのが公平で妥当と考えられています。
実際には夫婦間で収入格差があるケースが多いですし、妻が専業主婦であれば実収入はないでしょう。ただ働いていなくても家事には従事しているはずですし、夫が外で働いてお金を得られたのは妻の貢献があってのことと考えられるので、お互いの取得分は2分の1ずつになります。
4-1.2分の1ルールを修正すべきケース
以下のような場合、2分の1ルールが修正される可能性があります。
- 夫婦の一方の特殊な技能や才能、資格によって特別高額な収入を得ている場合
たとえば夫婦の一方が医師、経営者、芸能人、プロスポーツ選手、芸術家などのケースにおいて、一般より著しく高い所得を得て財産形成した場合などです。
裁判例でも、1級建築士の夫が長期に渡る会場勤務を続けた結果高額な財産を形成できた事案において、夫の財産分与割合を7割としたものがあります(大阪高判平成26年3月13日)。
ただし一方が医師や経営者、芸能人であれば必ず2分の1ルールが修正されるわけではありません。たとえば相手の収入が通常の会社員程度であれば、あえて2分の1ルールを修正する必要はないと考えられます。
4-2.具体的な財産分与割合
財産分与割合を修正すべきケースにおいても、具体的に「何割」とすべきかは一律に決められません。個別事情を考慮して算定する必要があります。
5.当事者が財産を開示していない場合、「一切の事情」で考慮された例
離婚訴訟における財産の分与に関する附帯処分の判断において、当事者が開示していない財産分与対象財産を保有し,あるいは、保有し得た事情があり、この事情を斟酌しなければ,財産分与における衡平を害すると認められる場合には、民法768条3項の「一切の事情」として考慮して財産分与の額を定めるのが相当であるとされた事例があります。(大阪高裁令和3年8月27日決定)
本判決は、基準時における財産分与対象財産の存在を認定できる的確な証拠がない場合であっても、当事者が開示していない財産分与対象財産を保有し、あるいは保有し得たと認めるべき事情があり、こうした事情を斟酌しなければ財産分与における当事者間の衡平を害すると認められる場合には、この事情を民法768条3項の「一切の事情」において考慮して財産分与の額及び方法を定めることが相当であると判断したものです。
妻である被控訴人Y名義財産以外に、基準時における、Y名義の財産の存在及び額を認定できる証拠はないとしつつも、Yが別居の4年前から別居までの間に合計3386万円もの高額な給与収入を得ていたこと、別居以前における家族の生活費はそのほとんどが夫である控訴人の収入から賄われていたこと、Y名義の基準時における預貯金が合計300万円に満たないこと、上記給与収入が別居時までに費消されたことについて、Yが的確な証拠を提出していないことから、Yが基準時までに、上記給与収入の2、3割程度の資産を保有し、あるいは保有し得たことが推認できるとしたものです。
これは、財産分与対象財産の存在及び額を直接立証することができる的確な証拠がない場合であっても、そのような財産の存在を合理的に推認できる事情が認められ、これらの事情を考慮しないことが財産分与における当事者の衡平を害すると認められる場合には、その事情を「一切の事情」として考慮するのが相当として、財産分与の額及び方法を参考にしたものといえます。
妻の所得の割合に対して貯蓄が少ない場合において、「給与収入の2、3割程度の貯蓄を行うことができたと認められる」とした大阪高裁令和3年8月27日については,画期的な判断といえます。
名古屋駅ヒラソル法律事務所には、財産分与の計算に非常に長けた弁護士が所属しており財産分与に関する書籍を出版した実績もございます。
名古屋で熟年離婚される方、経営者、医師などの高額所得者と離婚する方など、財産分与について迷われたらお気軽にご相談ください。