婚姻費用における収入認定~給与所得者、自営業者、子どもが4人いる場合の計算方法~
婚姻費用における収入認定~給与所得者、自営業者、子どもが4人いる場合の計算方法~
別居中の婚姻費用を計算する際には「収入額」を明らかにしなければなりません。
給与所得者と自営業者では収入の基準が異なります。
また子どもが4人以上いる場合や子どもが別々の親に養育されている場合などの算定方法は婚姻費用の算定表に示されていません。個別計算する必要があります。
今回は給与所得者と自営業者の場合の収入認定方法や子どもが4人いる場合などのイレギュラーな場合の収入計算方法をご説明します。
これから婚姻費用を決める方、すでに取り決めた婚姻費用の金額を見直したい方はぜひ参考にしてみてください。
1.給与所得者と自営業者で基準が異なる
婚姻費用の金額については、基本的に裁判所の公表している「婚姻費用、養育費の算定表」を使って計算します。
これをみると「給与所得者」と「自営業者」とで基準が異なることがわかります。
同じ収入金額なら給与所得者よりも自営業者の方が、婚姻費用や養育費は高額になります。
自営業者の場合さまざまな経費を参入できて、控除の限られる給与所得者と同等にすべきではないと考えられているからです。
まずは給与所得者と自営業者における違いを把握しましょう。
1-1.給与所得者とは
給与所得者とは他人に雇用されて給料をもらっている労働者です。正社員だけではなく会社役員、契約社員、アルバイトやパート、派遣社員などもすべて給与所得者です。
毎月勤務先から給与明細書をもらっており、毎年源泉徴収票をもらっていたら給与所得者と考えて良いでしょう。例えば、国会議員も歳費をもらっているという点からは、国からもらう歳費の部分は給与所得として計算することになると思います。
1-2.自営業者とは
自営業者とは、誰かに雇われずに自分で事業を行って稼いでいる人です。典型的なのは、個人事業主です。会社経営者のうち、法人の役員は、「給与所得者」の方に分類されますので、間違えないようにしましょう。
個人事業主として確定申告をしていれば自営業者といえるでしょう。なお稀に自営業を行っているにもかかわらず確定申告しない人もいます。そういった人であっても自営収入があることに間違いはないので、婚姻費用を負担しなければなりません。
以下では給与所得者と自営業者それぞれにおける「収入の求め方」を説明します。
2.給与所得者の収入認定方法
給与所得者の場合には、基本的に毎年年末年始に勤務先から渡される「給与所得の源泉徴収票」の「支払総額」を基準に収入を認定します。控除前の金額を採用するので、手取り額ではありません。
就職したばかりで源泉徴収票がない場合には、直近3か月分の給与明細書から年収を推計します。
複数の勤務先で働いている場合には、複数の勤務先における源泉徴収票の支払総額を合算します。源泉徴収票が多くなって把握しきれない場合「課税証明書」を取得しましょう。
課税明細書とは昨年度の住民税に関する証明書です。複数の仕事をしている方の場合、課税証明書にはまとまった金額が載っているので、これがあれば個別に調べて合計する手間が省けます。
3.自営業者の収入認定方法
次に自営業者の場合の収入認定方法をみてみましょう。
自営業者の場合には、基本的に確定申告書の「課税される所得金額」をもとに計算します。
これとは別に、「課税される所得金額」をみるよりも、「所得金額(営業)」をベース金額にして、「所得から差し控える金額」の「社会保険料控除」の金額をマイナスして、現実には支払われていない「専従者給与控除額」と「青色申告特別控除額」をプラスするという計算方法もご紹介しました。(所得金額(営業)−社会保険料控除+働いていない場合の専従者給与+青色申告+雑所得)という計算方法もあります。こちらは、「自営業者の総収入の認定(「所得税確定申告書記載の数字の見方ってどうするの?」でも触れていますので、そちらも参照してください。)
さて、課税される所得金額には実際に支払っていない金額も含まれるので、以下の金額は足し算しなければなりません。
- 寡婦・寡夫控除
- 勤労学生、障がい者控除
- 扶養控除
- 配偶者控除
- 基礎控除
- 雑損控除
- 青色申告特別控除
- 専従者給与の合計額で現実に支出されていない部分
すでに算定表において「特別経費」として考慮されているために加算しなければならない項目もあります。
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 医療費控除
さらに以下の項目も足さねばなりません。
- 小規模企業共済などの掛金控除
- 寄付金控除
4.給与収入と自営収入の両方がある場合の収入認定
給与収入と自営収入の両方がある場合には、どちらかに一本化しないと収入を計算できません。例えば、国会議員の場合、歳費は給与所得、その他の所得は自営所得と二つあるといえると思います。
自営収入を給与収入におきかえてまとめて給与収入として計算するか、その反対の作業を行いましょう。
たとえば給与収入が700万円、自営収入が203万円の場合、自営収入は給与収入の275万円程度となります。この場合、算定表を参照すると良いでしょう。
そこで700万円に275万円を足して、975万円の給与収入があるものとして収入額を認定します。
5.収入が不明な場合の認定方法
婚姻費用分担調停で期日に出席しない人や収入資料を提出しない人の場合、収入が不明になってしまいます。その場合には家庭裁判所から勤務先へ照会し、収入額を調べることができます。相手が非協力的な場合には、家庭裁判所へ調査嘱託を申し立てましょう。
6.労働能力があっても働いていない場合
相手に病気やケガなどの事情があってどうしても働けない場合、収入は0円となります。
一方で、本当は働けるにもかかわらず働いていない場合には、収入は0円になりません。そのようなことを認めると、一時的に失業することによって婚姻費用の支払いを免れてしまうためです。
相手方に労働能力があるにもかかわらず働いていない場合には、一般的に賃金センサスの平均賃金を用いて収入額を認定します。ケースにもよりますが、男女別や学歴別、年齢別などの平均賃金を利用する事例が多いでしょう。
子どもが小さくて働けない場合の収入
小さな子どもを抱えていると、就職も難しくなり、育児にも手間がかかります。仕事ができなくても仕方がないと考えられるでしょう。そこで子どもが乳幼児の場合、具体的には、2歳くらいまでは、仕事をしていなければ収入は0円とされるのが一般的です。
ただし子どもが6歳程度以上となって学童期に入ってくると、親も働きやすくなるものです。実際には収入がなくても「潜在的な稼働能力」があるとして、年収120万円程度はあるとみなされるケースが多くなってきます。
こどもが15歳を超えている場合などは,年収200万円程度はあるとみなされるケースもないわけではありません。
潜在的な稼働能力があるかどうかは、本人の年齢やこれまでの就労歴、子どもの年齢や健康状態などを総合的に考慮して判断されます。
婚姻費用を受け取る側に収入があれば、相手から払われる婚姻費用の金額は下がります。
「子どもがいるから働けない」というだけでは収入が0円にならない可能性があるので、婚姻費用算定の際に注意しましょう。
7.年金や配当、失業保険などの収入がある場合
年金や配当収入、失業保険からの支払いを受けている場合、どのように収入を認定すれば良いのでしょうか?
これらの収入がある場合、職業にかかる費用である「職業費」が発生しません。そこで収入を計算する際の「基礎収入割合」を修正する必要があります。
算定表の計算では、基礎収入割合は総収入の13~18%程度とされています。
しかし、配当収入などの場合には51~72%程度となる可能性があります。なお基礎収入割合については次の項で詳しくご説明します。
また年金収入を給与収入におきかえて算定表にあてはめる計算方法もあります。
年金や配当収入、失業保険の収入がある場合の婚姻費用算定方法は一律ではありません。個別的な検討が必要となりますので、迷ったときには弁護士までご相談ください。
8.子どもが4人いる場合の収入認定方法
子どもが4人いる場合、婚姻費用の算定表をみても該当がありません。子どもが3人までの表しか用意されていないためです。どのようにして妥当な婚姻費用の金額を計算すればよいのか、以下で解説します。
婚姻費用には法的な「計算式」があります。実は算定表は、個別的な計算をもとにして典型的な事案を表にまとめたものなのです。
もともとの計算式を用いれば、どういった事案でも適切な婚姻費用を算定できます。子どもが4人いる場合にも、婚姻費用の計算式を適用しましょう。
以下で婚姻費用の個別的な計算方法を解説します。
STEP1 基礎収入を算定する
まずは「基礎収入」を計算しましょう。基礎収入は、総収入から公租公課、職業費、特別控除を引き算した数字です。
給与所得者の場合に基礎収入割合が38~54%程度となっています。
自営業者の場合、基礎収入割合は48~61%程度です。
高額な所得があると、基礎収入割合は下がります。
STEP2 生活費指数を明らかにする
次に「生活費指数」を明らかにしなければなりません。
生活費指数とは、生活費にかかる部分を明らかにするための数値です。
大人(親)の場合には100となり0歳から14歳までの子どもの場合には62、15歳以上の子どもの場合には85として計算します。
STEP3 算定式にあてはめる
基礎収入と生活費指数を使って婚姻費用を計算します。
算定式は以下のとおりです。
権利者が必要とする金額=(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)×権利者の家族の生活費指数合計÷義務者の家族の生活費指数合計
次に婚姻費用を求めます。上記の金額から権利者の年収を引けば年間で必要とする金額を算定できます。
婚姻費用(年額)=権利者が必要とする年額-権利者の基礎収入額
さらにこれを12か月で割り算すると、毎月の婚姻費用の金額が明らかになります。
婚姻費用の月額=婚姻費用(年額)÷12か月
9.子どもが別々の親に養育されている場合の収入認定方法
上記と同じ計算方法を使えば、複数の子どもがいて別々の親にそれぞれ養育されている場合の婚姻費用も算定できます。
婚姻費用の個別計算は非常に複雑でわかりにくいので、算定表に載っていないケースでは弁護士へ個別計算を依頼しましょう。
10.有責配偶者からの婚姻費用請求は認められない可能性がある
本来は収入の低い配偶者は高い配偶者へ婚姻費用を請求できるはずですが、請求が認められないケースもあります。それは権利者が「有責配偶者」の場合です。
有責配偶者とは、婚姻関係破綻の原因を作った配偶者をいいます。
自ら婚姻関係を破綻させておきながら婚姻費用を請求するのは信義則に反するので、婚姻費用の請求が認められません。
典型的な有責配偶者は「不貞をした人」です。不貞とは、法律用語で不倫した人をいいます。
相手の不貞を知らないまま婚姻費用を支払った場合、後に取り戻せる可能性もあります(大阪高判平成20年2月28日)。
ただし有責配偶者が子どもを育てている場合、子どもの養育費に相当する金額は請求できると考えられています。有責性は親のみに関する事情であり、子どもに悪い影響を及ぼすべきではないからです。
例えば妻が不倫して子ども2人を連れて家を出たとしましょう。妻は自分の婚姻費用を夫に請求できませんが、子ども2人の分の養育費は夫へ請求可能です。
婚姻費用のご相談は名古屋駅ヒラソル法律事務所へ
別居する際には婚姻費用の計算が必須となります。収入認定の場面でお互いに意見が合わず、妥当な婚姻費用について合意できないケースが少なくありません。個別計算が必要なケースも意外とたくさんあるものです。名古屋で離婚や別居、婚姻費用についてお悩みの方がおられましたら、お気軽に名古屋駅ヒラソル法律事務所の弁護士までご相談ください。