離婚後の社会保障・児童扶養手当は?
離婚後の社会保障について
「離婚後の生活に経済的な不安を感じています。公的な社会保障を受けられないのでしょうか?」
といったご相談を受けるケースがよくあります。
離婚しても生活不安に襲われると、幸せになるのは難しくなります。
実際には離婚した方に向けてさまざまな公的支援が用意されています。申請が必要なものや所得制限のあるものも多く地域による違いもあるので、利用できる制度内容を知って適切なものを選択しましょう。
今回は離婚後の社会保障制度について名古屋の弁護士が解説します。
離婚後の社会保障の種類
離婚後の社会保障制度はいくつかに分類できて、主に以下のような種類があります。
- 経済支援
- 住居の支援
- 医療費の補助
- 就業支援
- 子育て支援
- 教育費の支援
- 公的費用や交通費などの減免制度
以下でそれぞれについてみていきましょう。
1.経済支援
経済支援とは、主に「ひとり親」が子どもを育てるときに経済的な援助を受けられる制度をいいます。以下のようなものがあります。
1-1.児童扶養手当
児童扶養手当は、ひとり親家庭のこどもの生活の安定、自立促進を目的とした給付金です。母子家庭だけではなく父子家庭や、祖父母が孫を扶養するケースも対象になっています。そして,受給できるのは,子どもが満18歳になる年度の最初の3月31日までです。この間、行政から現金で給付を受けられます。
給付を受けるには、市区町村から認定される必要があります。認定申請をして、生活状況などの認定調査を経て支給条件を満たされていると認定されれば,手当が支給されます。
申請前に一度,役場の担当窓口に出向き,必要な書類を確認しておきましょう。
認定に際しては,どうやって生計を立てているか、養育費をいくらもらっているのかなどの生活状況が問われることがあります。
2017年4月からは、物価の変動に応じて給付額が変わる方式が採用されており、金額は年度によって変わります。
また基本的に給付額は所得に応じて計算されますが、満額であればおおむね1月月1万~4万円程度です(子ども1人の場合)。子どもの人数が増えれば児童扶養手当の金額も増額されます。
もっとも、ひとり親と同居している人たちの所得も合算されますので注意が必要です。
平成30年8月から児童扶養手当の所得制限限度額が引き上げられましたので,給付を受けられる方が増えたと考えられます。
児童扶養手当は,所得制限で受給できない方もいましたが,限度額が30万円引き上げられ,扶養するこどもが1人の場合,全部支給の所得制限が87万円,一部支給の場合は230万円となります。2人の場合,全部支給の所得制限が125万円,一部支給の場合は268万円となりました。(2022年6月5日現在)
児童扶養手当を受給していると、別の優遇制度を使えることになりますので、認定を受けられる場合は額に関わりなく申請しておくと良いでしょう。(例:ひとり親家庭医療費助成、福祉定期預金制度、JR通勤定期割引制度)
1-2.児童手当
児童手当は子どもが0歳から中学校を卒業するまでの間、支払われる手当です。ひとり親に限らず支給されるので、離婚前から受け取っていた方も多いでしょう。
ただし世帯主へ振り込まれるので、離婚前は夫名義の口座へ振り込まれていた家庭が多数です。その場合、離婚後には自分名義に振り込むように申請をしましょう。
また離婚前に別居した場合、離婚が成立していなくても扶養者名義の口座へ児童手当を振り込んでもらえる可能性があります。別居している事実や調停になっている事実を証明する書類を用意して、一度役所へ相談に行ってみてください。
1-3.児童育成手当
自治体によっては独自にひとり親支援制度をもうけているところもあり、たとえば東京都では「児童育成手当」が用意されていますし,名古屋市では「ひとり親家庭手当」が用意されています。
東京都との場合は、児童育成手当の金額は月額13,500円となっており、所得制限額も児童扶養手当より高めです。養育費を考慮しないなど、児童扶養手当を受け取れない人でも受け取りやすい内容となっています。
お住まいの自治体でひとり親世帯への経済支援制度が用意されていないか、一度相談してみてください。
1-4.生活保護
児童扶養手当などの公的支援を受けてもどうしても生活を維持できない場合、生活保護の受給を検討しましょう。生活保護を受ければ最低限の生活費が保障されます。
たとえば病気やけがではたらけない場合、子どもが小さくて就職できない場合などにも生活保護を受けられる可能性があります。ひとり親である必要はなく、単身世帯でも生活保護の対象になります。
生活保護を受けるには、福祉事務所のケースワーカーへ相談しましょう。弁護士を通じて手続き申請した方がスムーズに保護を受給できるケースも多いので、困ったときにはお気軽にご相談ください。
2.住居の支援
離婚してひとり親になると、子どもと一緒に暮らす住居について悩みが生じるケースも多々あります。各自治体では住居の支援も行われているので、積極的に利用しましょう。
以下でどういった支援制度があるのかご紹介します。
2-1.公的住居への優先入居
離婚して家を出たら、物件を探さねばなりません。
「母子及び父子並びに寡婦福祉法」では、各自治体に向けて「公営住居を提供する際にはひとり親家庭などの福祉を増進するよう配慮しなければならない」と定められています(27条、31条の2)。
そこで公的住居の募集を行う際、ひとり親家庭に優先入居を認める自治体が多数あります。
住居の決まっていない方はぜひ応募してみてください。
2-2.母子生活支援施設の利用
住居が見つからない場合、母子生活支援施設に入居することも検討できます。
母子生活支援施設とは、児童福祉法にもとづく施設で18歳未満の子どもを養育している母子家庭や何らかの事情があって離婚届を提出できない女性が子どもと一緒に利用できる施設です。DV被害者が一時保護の入居先として利用する例も増加しています。
入居したい場合には福祉事務所が窓口となるので、困ったときには相談してみてください。
2-3.住居費の補助
各自治体では、一般の賃貸住宅に入居する際の家賃補助も行われているケースがよくあります。補助額や要件は自治体によっても異なるので、一度役所へ相談してみましょう。
3.医療費の補助
子どもやひとり親が病気やケガで病院を受診する場合、医療費の補助制度も利用できます。
3-1.乳幼児医療
子どもが乳幼児の場合には、乳幼児医療制度が適用されます。
ただし所得制限があり、どこまでの支援が行われるのかは自治体によって異なるので、まずは役所で相談してみましょう。
3-2.ひとり親家庭の医療費補助
ひとり親の場合には、ひとり親家庭の医療費補助を受けられます。
この制度では、乳幼児などの子どもだけではなく親にかかる医療費も補助の対象になります。
適用される期間は子どもが18歳になって最初の3月31日になるまでの間です。
どこまでの所得制限があるのか、どこまでの補助を受けられるのかは自治体によって異なるので、一度問い合わせてみましょう。
なお一般的には入院時食事療養や生活療養標準負担額は助成対象外ですが、自治体によっては助成されるケースもあります。
4.就業支援
ひとり親が就業する際に受けられる支援制度もあります。
4-1.マザーズハローワーク
マザーズハローワークとは、子どもを育てながら就職活動をしている方が子連れで利用できる就業相談サービスです。就職に役立つ情報を得られるセミナーなども利用できるので、関心がありましたら一度ハローワークへ問い合わせてみてください。
4-2.自立支援教育訓練給付金
ひとり親家庭の親がスキルや資格を身につけるために各種の講習を受けるとき、助成を受けられる制度です。たとえばパソコンや医療事務などの資格を取得する学校に通うとき、その費用の一部が支給されます。
自立支援教育訓練支給金を受け取るには、受講前に都道府県から講座の指定を受けなければなりません。対象となる資格講座も限定されています。
関心があれば、早めにお住まいの自治体へ相談しましょう。
4-3.高等職業訓練促進給付金
高等職業訓練促進給付金は、ひとり親世帯の親が看護師や介護福祉士などの資格を取得する際に支援を受けられる制度です。
1年以上対象機関で勉強する際、生活費の負担軽減のために継続して支援金を受け取れます。
詳細についてはお住まいの自治体へ相談に行きましょう。
5.子育て支援制度
病気やケガなどにより、一時的に子どもを育てるのが難しい状況になった場合などに利用できる子育て支援の制度があります。
5-1.ひとり親家庭ホームヘルパー
ひとり親家庭の親が病気やケガなどによって一時的にヘルパーを必要とする場合や、生活環境の激変などによって生活に支障を生じている場合などに利用できるホームヘルパーサービスです。
ヘルパーが自宅に来て食事の世話や育児、掃除などを行ってくれます。
5-2.子育て短期支援事業
病気や仕事などの都合で子どもの養育が一時的に難しくなった場合、児童養護施設などが子どもを一時的に預かってくれる事業です。
短期入所生活援助(ショートステイ)では原則として7日以内の期間、子どもを児童養護施設で預かってくれます。
保護者が仕事の都合で夜間に子どもを見られない場合、夜間養護(トワイライトステイ)も利用できます。
詳細についてはお住まいの自治体へ相談しましょう。
6.教育費の支援
教育費が不足する場合、以下のような支援も受けられます。
6-1.就学援助費
学用品や給食費、修学旅行費や部活の費用などを支援してもらえる制度です。
自治体により支援方法や内容は異なり、金銭で支給されるケースもあれば、体操服などの現物支給が行われる自治体もあります。
一般的に、以下のような費用に付いて補助が行われるケースが多数です。
- 学用品の購入費用
- 新入学児童生徒学用品の購入費用
- 校外活動の費用
- 移動教室に参加する費用
- 夏季施設へ参加する費用
- 修学旅行費
- 給食費
- 卒業記念アルバムの費用
- 医療費用
詳しくはお住まいの自治体へ相談してみてください。
6-2.母子父子福祉資金貸付金
母子父子福祉資金貸付金は、ひとり親に対して、市区町村が資金を貸し付ける制度で,12種類の資金を借り受けるというものです。
一時的に生活費や子どもの教育費が不足する場合、母子父子福祉資金貸付金というローンを利用することも検討しましょう。修学資金、修学支度資金、就業資金、就職支度資金(児童分)については無利子であり,それ以外は連帯保証人を立てた場合は無利子、立てない場合は年利1パーセントの利子が付きます。
大学の修学資金の場合、国公立で自宅通学の場合、月額7万1000円(2022年6月5日現在)を、4年間貸し付けを得られる可能性もあり、利用を検討されるのも一つでしょう。
ですので、役所や福祉事務所で受け付けてもらえるので、一度相談に行ってみましょう。
6-3.社会福祉協議会の生活福祉資金貸付金
社会福祉協議会でも生活福祉資金貸付金として、無利息でお金を借りられる制度があります。教育費や生活費に困ったときには一度、相談してみましょう。
7.公的費用や交通費の減免
税金や保険料、交通費などの減免を受けられる制度もあります。
7-1.国民年金や健康保険料の減免
所得が低い場合、国民年金保険料や健康保険料が減免されます。請求が来て困ったときには放置せずに自治体へ相談しましょう。
7-2.所得税や住民税の扶養控除
子どもを養育している場合、所得税や住民税の扶養控除を適用して税額を抑えられます。
7-3.JR定期券の割引
JRでは、ひとり親の通勤定期券を3割引で購入できるサービスが実施されています。
事前に役所で「特定者資格証明書」の交付を受け、JRの窓口で証明書を提示すれば割引料金で定期券を購入できます。割引率が3割となりますので、利用した方が得といえます。
7-4.公共交通機関の割引
たとえば東京都では都バスや都電などの公共交通機関でも割引料金が適用されます。
お住まいのエリアでも割引を適用できる可能性があるので、各交通機関へ確認してみてください。
7-5.水道料金や粗大ごみ費用の免除や割引
水道料金、粗大ごみの費用なども割り引かれる自治体があります。
適用できる制度がないか、自治体へ問い合わせてみましょう。
名古屋駅ヒラソル法律事務所では離婚する方への支援に力を入れています。お悩みの方がおられましたらお気軽にご相談ください。