生死不明のケース、精神障害のケースでの離婚の進め方

生死不明のケース、精神障害のケースでの離婚の進め方

 

民法では、「配偶者が3年以上生死不明なケース」や「回復しがたい精神病のケース」において裁判離婚が認められています(民法770条1項3号4号)。

 

相手が3年以上生死不明な場合や回復の見込めない精神病にかかっている場合、裁判を起こせば離婚できる可能性があるのです。

 

ただ、具体的にどういった状況であれば離婚できるのか、訴訟の進め方についてわからない方も多いでしょう。

今回は3年以上生死不明のケースや回復しがたい精神病のケースで離婚が認められる条件や訴訟の進め方について、弁護士がご説明します。

1.3年以上生死不明な場合

民法では、配偶者が3年以上生死不明な場合に離婚原因となると定められています(民法770条1項3号)。

 

生死不明ということは「生きているかどうかが不明」な状態であり「生きているけれど行方不明」な場合には該当しません。

 

たとえば相手が事故に巻き込まれて死亡している可能性があり、そういった状態で連絡がないまま3年がすぎればこの要件を満たしやすいといえるでしょう。

 

1-1.生死不明の程度について

民法770条1項3号における「生死不明」とは「それなりの調査を行っても生きているかどうか明らかにできない状態」を意味します。

たとえば警察に捜索願を出したり探偵に調査を依頼したりしても相手の生死を明らかにできないなら、通常は生死不明といえるでしょう。

なお生死不明というために「死亡の可能性が高い」とまで証明する必要はありません。

 

1-2.婚姻関係が破綻しているともいえる

民法が認める離婚理由は「3年以上の生死不明」なので、相手が生死不明になってから3年が経過しないと離婚が認められないように思えます。

ただ民法は「婚姻関係を継続しがたい重大な事由」がある場合にも離婚を認めています(民法770条1項5号)。

相手が生死不明な状態が長期にわたって続いているなら、婚姻関係が破綻しているケースも多いでしょう。生死不明の状態が3年未満でも、婚姻関係が破綻していれば訴訟で離婚を認めてもらえます。

 

実際に「婚姻関係が破綻しているかどうか」については、同居中の夫婦の関係が大きく影響します。不仲だったケース、相手が一方的に家出したケース、相手が浮気していたケースなどでは婚姻関係の破綻が認められやすいでしょう。

 

実際、経験したケースでは、同居期間と行方不明の期間を対比して、行方不明の期間が同居期間を上回っていて、かつ、その間、婚姻費用が支払われていないような場合が考えられると思います。

 

1-3.調停前置主義との関係

日本では離婚するための手続きとして「調停前置主義」が採用されています。

調停前置主義とは、離婚訴訟を起こす前に必ず調停を申し立てなければならないとする原則です。すなわちいきなり訴訟で離婚を求められず、まずは離婚調停をしなければなりません。

 

ただ相手が3年以上生死不明な場合、調停を行おうとしても相手が出頭する可能性はほとんどないでしょう。そこで調停前置主義が適用されず、調停なしでの訴訟提起も認められます。

 

相手が長期にわたって生死不明な状況であれば離婚調停を申し立てる必要がありません。離婚したい方はすぐにでも弁護士に訴訟を依頼すると良いでしょう。

 

 

1-4.離婚訴訟の進め方

相手が3年以上の生死不明な場合、離婚訴訟の進め方にも特殊性が認められます。実務上、訴状の送達ができないので、「公示送達」という特殊な方法によることが多いと思います。

公示送達

裁判をするときには、原則的に相手に「訴状を送達」しなければなりません。

「送達」とは、わかりやすくいうと「届けること」です。具体的には「特別送達」という特殊な郵便で訴状を送達しなければ裁判の効力が生じません。ただ相手が生死不明な場合、有効な送達はできないでしょう。

そこで利用されるのが「公示送達」という方法です。公示送達とは、相手が行方不明な場合に送達する方法をいいます。裁判所の掲示板のような場所に「裁判が起こっています」と掲示して、相手に送達したとみなします。

公示送達を利用すれば相手に送達したとみなして離婚を進められます。

 

相手が3年以上生死不明な状況で離婚訴訟を起こすなら、訴えの提起と同時に公示送達も申し立てましょう。また、公示送達が必要なケースでは、弁護士に依頼することが相当と言えるケースが多いでしょう。

 

裁判が終結する時点で3年が経過していれば良い

民法は「3年以上生死不明」な場合に離婚原因となると定めていますが、「3年」という年数は「裁判の終結時(事実審の口頭弁論終結時)」に満たせば良いと考えています。

訴えを提起する段階では3年を経過していなくても、裁判が終了する場面で3年が経過していれば概ね離婚が認められるという意味です。公示送達の手続に時間がかかることを見越して手続をされると良いでしょう。(訴訟自体は、相手方が出頭しないと考えられるので、訴訟に関しては比較的短期で結審まで行く可能性が高いので、訴訟自体の進行にある程度時間がかかることについては、それほど長期間になるとは考えにくいことから、考慮しない方が妥当かもしれません。)

 

1-5.「失踪宣告」という選択肢も

相手が長期にわたって生死不明な場合「失踪宣告」も選択できます。

失踪宣告とは、一定以上行方不明な人がいる場合にその人を「死亡した」とみなす手続きです。

死亡なので離婚する必要はありません。相手方からの遺産相続も可能ですし、遺族年金も受け取れます。離婚の財産分与より遺産相続の方がより多くの財産を受け取れるケースが多く、年金分割より遺族年金が有利になるケースも多々あります。

 

一般的な事案では相手が行方不明となって7年が経過した時点で失踪宣告ができるので、生死不明な状況が7年続いている場合には離婚と失踪宣告とどちらにメリットがあるのか、検討してみるのが良いでしょう。

なお、失踪宣告は、戦地に行った方、沈没した船舶にいた方、その他死亡の原因となるべき危難に遭遇している場合は、危難が去った後、1年間で失踪宣告が認められる場合があります。

 

1-6.離婚しないなら婚姻費用も請求できる

離婚すると婚姻費用は請求できませんが、離婚しないなら生死不明の相手へ婚姻費用の請求も可能です。

ただし,実際は行方不明の方に対して,婚姻費用分担請求の法的手続をとることは難しいうえ,児童扶養手当が受け取れないなどのデメリットもあるので,併せて考えるようにしましょう。

相手方の財産については「不在者財産管理人」を選任して管理してもらうこともできます。

配偶者が生死不明な場合にあえて「離婚しない」という選択肢もありうるので、迷ったときには弁護士へ相談しましょう。

 

1-7.勝手に離婚届を提出してはならない

相手が長期にわたって生死不明な場合、勝手に離婚届を提出しようとする方がおられます。

しかし相手が合意していないのに勝手に離婚届を書いたり提出したりしてはなりません。

「公正証書原本不実記載罪」や「私文書偽造、行使罪」などに問われる可能性があります。

また、勝手に離婚届を提出した場合は、容易に離婚が無効とされる可能性がありますので、弁護士を通して、法的手続により離婚する方が良いと考えられます。

離婚するならきちんと訴訟を起こして正式な手続きをとりましょう。

2.回復しがたい精神病の場合

次に「回復しがたい精神病」で離婚できる条件についてみてみましょう。

具体的にどういった病気でどの程度の症状があれば離婚が認められるのか、解説します。

2-1.強度の精神病で離婚できる条件

民法は、相手方が「回復しがたい精神病」の場合に離婚を認めています。これは相手方が強度の精神病にかかって夫婦の精神的結合が失われたなら、配偶者を婚姻関係から解放すべきという考え方にもとづきます。もっとも,医学の進歩により,夫婦共同生活が成り立たないほどの「回復しがたい精神病」というのは、観念し辛くなってきています。離婚事由として、「回復しがたい精神病」のみを主張するケースは乏しく、それによって夫婦共同生活に支障を来たし婚姻破綻した等、「婚姻を継続し難い重大な事由」があることを併せて主張するケースが多いと思います。

 

回復しがたい精神病に該当する病気

以下のような病気が強度であれば、回復しがたい精神病に該当する可能性があります。

  • 統合失調症
  • 躁うつ病(双極性障害)
  • 編集病
  • アルツハイマー病

 

ただし上記のような病気だからといって必ず離婚できるわけではありません。

「回復しがたい」といえるほど強度でなければ離婚原因にならないのです。既に述べたように、医学の進歩により、薬理コントロールにより日常生活ができる程度に回復していれば、「回復しがたい」という評価を受けることは少ないと思います。今般では、統合失調症でも薬理治療によるコントロールが可能であることから、直ちに離婚することは難しいといわれています。

回復が見込めないかどうかは医学的な判断なので、医師に確認しましょう。

 

回復しがたい精神病に該当しない症状

  • アルコール依存症
  • 薬物依存症
  • ノイローゼ
  • ヒステリー
  • 神経症

 

ただし相手が上記のような症状であっても、婚姻関係が破綻していれば民法770条1項5号により離婚が認められる可能性があります。

 

離婚後の生活が保障されている

相手が回復しがたい精神病であるために離婚したい場合、離婚後の相手の生活保障が重要です。

判例によると「離婚後に精神病の配偶者に一定の生活基盤がないと離婚が認められない」と考えられているためです(最二小判昭和33年7月25日)。

たとえば相手が実家に帰って生活できる、障害年金などをもらいながらなんとか自活できるなど、生活基盤が整っていなければなりません。

生活の補償もないまま一方的に精神病の相手を見捨てるような離婚は認められないと考えましょう。

 

それまで療用看護を行ってきた

回復しがたい精神病の相手と離婚するには、離婚にいたるまでの間に相手を献身的に看護してきた事情なども要求されます。

これまで治療に協力したこともないのに一方的に放り出すようなかたちで離婚を求めても、認められにくいと考えましょう。つまり、離婚事由とはされているものの、信義則に即した行動をとっている必要があるということになります。

 

2-2.離婚の進め方

回復しがたい精神病のケースで離婚を請求する場合、次の点に注意が必要です。

意思能力があるかどうか

相手が重度な精神病にかかっている場合「意思能力」があるかどうかが問題になります。意思能力とは、自分の行動の意味を認識して理解する能力です。

最低限の意思能力がなければ協議離婚や調停離婚ができませんし、訴訟を受けることもできません。

 

以下では相手に意思能力があるかどうかについて場合分けをしながら離婚の進め方をお伝えします。

 

パターン1 意思能力がある場合

相手方に意思能力がある場合には、通常とおり離婚の手続きを進められます。

協議離婚も調停離婚もできますし、訴訟を受けることも可能です。

 

まずは相手に「離婚したい」と伝えて協議離婚を試み、協議が不成立となったら離婚調停を申し立てましょう。調停では「医務官」に関与してもらい、相手の病状についてアドバイスをもらうことも可能です。

 

調停も不成立になった場合には、家庭裁判所で離婚訴訟を提起しましょう。

その際には「回復しがたい精神病」や「婚姻関係破綻」を理由に法的な主張や立証をする必要があります。訴訟は弁護士に任せるとスムーズに進むので、お早めにご相談ください。

 

パターン2 意思能力がない場合

相手の精神病が重度ですでに意思能力すらない場合、そのままでは離婚を進められません。

まずは相手に「成年後見人」が必要です。

家庭裁判所へ申立をして、成年後見人を選んでもらいましょう。なお後日に離婚を考えているのであれば、ご自身が候補者となるのはおすすめではありません。候補者を立てるとしても弁護士などの専門家など第三者とするのが良いでしょう。成年後見人が選任されたら、成年後見人を相手に離婚訴訟を申し立てます。(身分行為は成年後見に適さないといわれていますが、人事訴訟法の規定により訴訟の場合は成年後見人を相手に訴訟を起こすことができます。)

訴訟内で離婚の要件を満たすと判断されれば、判決で離婚を認めてもらえます。

 

本人が離婚を受け入れる場合は協議離婚ができる

相手に成年後見人が選任されていても、相手自身が離婚を受け入れるなら成年後見人の同意なしに協議離婚が可能です。

 

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