養育費の相場について

離婚をする際には、お母さん、お父さんのいずれが子どもの親権者になるかを決めなくてはいけません。そして、子どもを実際に引き取る方、多くはお母さんですが離婚後でも元・夫に対して養育費を請求することができます。離婚後、子どもの両親は、子どもの監護養育に必要な費用を一方から他方に請求することができます。具体的には、子どもが独立して社会人として自立するまでの費用と解されていて、たとえば衣食住の費用、教育費、医療費などをいいます。養育費の相場は、東京家庭裁判所のホームページに掲載されています養育費の算定表の範囲が目安になると考えると良いと思います。算定表は、子どもの生活費を求めて両親の収入割合に応じて按分して割り付けている、という考え方をとっています。これはいわゆる三代川論文に基づいていますが、前提となる算定方式の仕組みや計算式を理解している弁護士は実は多くありません。収入は給与所得者の場合は源泉徴収票、自営の場合は課税所得から各種控除を持ち戻したものとなります。

養育費の現状

例えば、収入がゼロのお母さんが15歳未満の子ども1人を引き取り、お父さんの年収が1000万円の場合は、算定表をみると月々10万円から12万円となります。 司法統計年報によりますと、子どもひとり当たり平均金額2~4万円が分布としては最も多くなっています。 弁護士である私たちに相談をされるケースは養育費を算定することが難しいケースが多いと思います。養育費にはきちんとした計算式があり、算定表のような幅のある数字ではなく1円単位まで理論値を求めることができます。 したがって、調停で養育費の話し合いがまとまらないと家事審判に移ることになります。もっとも、私たちに相談してくだされば家事審判官の判決を事前にほぼ正確に予想をすることができますから、それも踏まえて調停で話し合いを行うということになります。 私が、養育費を請求した側で、難しいケースは医師の場合、特別職の公務員、自営業者などの場合です。医師の場合は個人事業主としての側面もあり、所得の捕捉が難しいという面があります。また、国会議員などの特別職の公務員はどこまでが所得になるのか、という難しい問題があります。自営業者の場合は交際費の関係で所得税法上の所得と実態がかけ離れている、ということもあります。 また、相手が収入を明らかにしなかったり、お母さんの側が働く姿勢を示さなかったりする場合にも、弁護士を入れた話し合いをすることをおすすめします。

養育費と調停

調停委員の方は必ずしも弁護士に限られません。このため、算定表を持ち出して定規で測ってこの金額で決まりといって聴かない調停委員もいるようです。算定表というのは、あくまで簡易迅速に目安を知るためのものであり、個別具体的な生活状況も考慮して決定されるべきです。 しかし、調停委員の方はなかなか変わりません。ですから調停委員ペースで調停が進められてしまうという危惧感から弁護士に依頼されるケースも増えています。 特に住宅ローンがあり、清算をすることなくお父さんがそのまま住宅ローン月数万円を支払続けているというケースは珍しくありません。この場合、養育費の算定にあたって住宅ローンを考慮することが相当なこともあります。 また、算定表は私立学校の学費・教育費は考慮していません。お父さんが私立学校に進学することを認めていたり、その収入状況から私立学校に進学したりすることも相当な場合は、養育費の算定にあたり私立学校の学費も考慮される必要があります。 さらに、自営業者の場合の事業ローン、夫婦で買った自動車ローンの支払いをお父さんが続けている場合なども個別的な事情といえます。自営業者の場合、法人格がないため不相当に養育費が高額になることもあります。自営業者は確定申告書の課税所得をベースラインとして養育費を決めていくことになります。もっとも税法上特別に控除された費用のうち非現金支出については控除されず持ち戻しの対象になるものと考えられています。 このような特別の事情は的確に指摘をする必要があります。特に養育費は算定表をベースラインとしつつ、当事者間に不公平が生じる場合があります。例えば、自分が生活している賃貸マンションの賃料だけではなく、妻又は夫と子供が生活している賃貸マンションの賃料を引き続き支払っているような場合などが考えられます。 しかし、これらは、主張をきちんと整理する必要がありますので、弁護士に依頼されることをおすすめいたします。また、算定表は計算の結果にすぎず、その生活指数での考慮など算定表の建て付けを計算式で理解をしている弁護士や調停委員はほとんどいません。当事務所では、養育費の調停・審判では、計算式を基準に行いますので、養育費のエキスパートに是非、ご相談ください。

養育費についての考え方

「養育費・婚姻費用算定表の運用上の諸問題について」

第1 算定表の考え方 1 生活保持義務 養育費とは,非監護親から監護親に支払を命じる未成熟子の養育に関する費用をいう。 養育費は,生活保持義務とされており,自らの生活を犠牲にしない限度で,被扶養者の最低限の生活扶助を行うこと(=生活扶助義務)では足らず,自らの生活を保持するのと同程度の生活を被扶養者にも保持させること(=生活保持義務)に基づくものである。 したがって,非監護親は,生活に余裕がある場合にのみ援助をすれば足りるものではなく,自らの生活を保持するのと同程度の生活を子どもに保持させなければならない。

2 養育費の決定のプロセス

(1) 養育費の考え方 養育費の算定は,子が義務者と同居しているとすれば,子どものために費消されていたはずの生活費を計算により認定して,認定された生活費を義務者と権利者の収入の割合で案分する。 この案分により,義務者が支払われるべき額が養育費ということになる。 すなわち,被監護親が子どもと同居していたというフィクションに基づいて,収入の一定額が子どものために使われるはずであり,それを収入の割合で案分するのが通常の夫婦であるので,案分の結果を養育費とするものと考えられる。

(2) 養育費の算定方法 上記義務者が子どもと同居していれば,子どものために費消されたはずの生活費を計算により認定し,認定した生活費を義務者と権利者で案分するためには,以下のプロセスが必要となる。
ア 義務者・権利者の基礎収入を認定すること 子どもの生活費は,義務者・権利者の基礎収入の範囲内で支出されるのが通常である。 したがって,子どもの生活費を計算するよりも先に,義務者・権利者の手取り収入を確定しておく必要がある。養育費の算定の基礎となるのは,税込収入から公租公課,職業費(多くの場合は10パーセントから20パーセントである。)及び特別経費(住居費・医療費などが特別経費である。)を控除したいわゆる手取収入である。上記基礎収入とは,上記で説明した手取収入をいう。
イ 義務者・権利者及び子どもの最低生活費をそれぞれ算出 一般的には,収入の範囲で生活をしなければ家計の維持が困難であるので,手取収入が明らかになれば各人の最低生活費を算出することができる。
ウ 義務者・権利者の分担能力を認定する 手取収入が認定されてから各人の生活費を求めたところ,今度は,子どもの生活費を義務者及び権利者に割り付ける作業が必要となる。 上記アで既に義務者及び権利者の収入が認定されているので,当該ウはニュートラルな作業となるが,当該ウが有意であるのは,義務者の収入が義務者の最低生活費を下回っている場合には,義務者には養育費の支払能力がないとして,支払義務はないとする。 エ 子に充てられるべき生活費を認定する オ 義務者の負担分を認定する
(3) 争いのポイント ア 算定表が発表される以前 上記の養育費の考え方自体は合理的であったが,時間を要したのが,上記(2)
アの基礎収入の認定である。すなわち,税込収入を算出すること自体はそれほど困難はないが,公租公課や特別経費を実額で認定していたこと,何を特別経費と認めているか,その金額の認定を巡って主張や資料の応酬が存在したのである。
イ 算定表の発表後 そこで基礎収入の認定,より突き詰めると,公租公課及び特別経費の認定を簡易迅速に行うことが志向されるようになり結実したものが,三代川俊一郎ほか「簡易迅速な養育費等の算定を目指して―養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案」(判タ1111号285頁,以下,「算定表」という。)である。 すなわち,控除されるべき税金を合理的に推計するというのが標準的算定方式の中核を成すのである(判タ1208号91頁)。 (なお,算定表は,各自の子どもの生活費の案分割合については,生活保護基準及び教育費に関する統計から導き出される標準的な生活費指数によって認定するものとされているが,これについての詳細なコメントは本稿の使命とするところではない。)
ウ 具体的な攻防ポイント
① 総収入の認定 * 児童扶養手当や児童手当は,子のための社会保障給付であるので,権利者の収入に含めることは許されない(東京家庭裁判所ホームページの記載)。
② 「算定表」では考慮されない「特別の事情」の有無
③ 「特別の事情」が認められる場合の算定方法 第2 算定表適用をめぐる攻防 1 算定表の税込収入から公租公課及び特別経費の認定について 公租公課が税込収入に占める割合は,税法等で理論的に算出された標準的な割合により算出するものとされた。 特別経費は実務上一般的に特別経費と認められている項目に限り,統計資料に基づいて推計された標準的な割合により,標準的な基礎収入率を認定して行うものとされている。 標準的算定方式は,基礎収入の算定において総収入から控除されるべき金額を推計しようというものであり,控除されるべき金額の実額を主張立証してその推計を争うことは可能であるが, 当該場合,控除されるべき金額のすべてについての実額の主張立証が必要であるとされている。

2 税込収入の認定についての攻防

(1) 確定申告書に基づいて税込収入を認定する場合,確定申告書の「課税される所得金額」が税込収入にあたるとするのが「算定表」の立場であるが,これは必ずしも相当ではない。 確定申告書の「課税される所得金額」というのは,税法上の控除項目に該当する金額が控除された後の結果であるからであり,当該金額をそのまま総収入とすべきではなく,現金支出を伴わない控除項目については加算して得た金額を総収入とすべきである。

(2) 確定申告書の「所得から差し引かれる金額」のうち,現金が現実に支出されない税法上の控除項目(=非現金支出)は,養育費の算定にあたり税込収入の認定にあたり控除することは許されないと解するのが相当である。具体例としては,「雑損控除」「寡婦,寡夫控除」「勤労学生,障害者控除」「配偶者控除」「配偶者特別控除」「扶養控除」「基礎控除」「青色申告特別控除額」が挙げられる 。また,「専従者給与額の合計額」については,法は現実の支出を予定しているが,一般的には現実に現金が動かない非現金支出としての利用が多いことに照らすと,これも加算の対象とするのが相当であると思料される。
(3) 次に,現金支出が伴っている場合は,加算(=「持戻し」と表現しても良い)の対象となるのが原則であるが,以下のとおり例外がある。 すなわち,確定申告書の所得から差し引かれるものとしては,「医療費控除」「生命保険料控除」「損害保険料控除」があるが,これらは,「算定表」では特別経費という費目として考慮するものとされており,二重に評価することは許されない。したがって,「医療費控除」「生命保険料控除」「損害保険料控除」は,総収入を減じる費目と解するのは相当ではなく,加算(=「持戻し」)の対象となる。
(4) 算定表によることが著しく不公平となるような特別の事情があること 「算定表」は,あくまで標準的な養育費を簡易迅速に算定することを目的としており,最終的な額は,各事案の個別的要素を考慮して定められる。 しかしながら,個別的事情といっても,通常の範囲のものは,標準化するにあたって算定表の額の幅の中で既に考慮されている。したがって,この幅を超えるような額の算定を要するのは,「算定表」によれば著しく不公平となるような特別の事情がある場合に限られる(岡健太郎「養育費・婚姻費用算定表の運用上の諸問題」判タ1209号4頁)。 医療費については,原則としては,総収入から税法上の考慮を容れて減額することは許されないが,算定表によることが著しく不公平となるような特別の事情が認められる場合は,別途,その支出額等を特別経費として考慮することが相当と思料される場合もある
(5) 養育費の支払いに優先すべきとは考えられない費目 「小規模企業共済等掛金控除」「寄付金控除」については,基本的にはこれらの支出は養育費の支払いには優先されるものとは考えられないので,「課税される所得金額」に加算するのが相当である(岡健太郎「養育費・婚姻費用算定表の運用上の諸問題」判タ1209号4頁)。 また,負債を総収入から標準的に控除すべき特別経費とすることについては,負債の返済がその性質にかかわらず生活保持義務に優先することになり,相当性に疑問があるとして,実務上否定されている。例外については,婚姻費用に関して,義務者が婚姻生活を維持するためにやむを得ず借り入れたと認定される負債に限定する。
(6) 纏め 確定申告書に基づいて総収入を認定する場合,「所得から差し引かれる金額」のうち,「社会保険料控除」以外の各控除項目,青色申告特別控除額,現実に支払のない専従者給与額の合計を,課税される所得金額に加算することとなる。

3 事業所得のほか給与所得がある場合の攻防

(1) 問題の所在 「算定表」では,給与所得者か自営業者かにより収入欄が区別されている。これは,総収入に占める基礎収入の割合が異なるためである。具体的には給与所得者の場合,基礎収入は総収入から公租公課,職業費及び特別経費を控除して認定するのに対して,自営業者の場合は総収入の認定において必要経費及び社会保険料が控除されているため,総収入から控除するのは,公租公課と特別経費のみとなるからである。 すなわち,給与所得者は総収入から必要経費及び社会保険料を控除するが,自営業者の場合は,すでに必要経費及び社会保険料が控除されたものが総収入と認定されているので,自営業者の方が総収入に占める基礎収入の割合が多くなるからである。

(2) 事業所得及び給与所得のいずれもが存在する場合 事業所得及び給与所得のいずれもが存在する場合,通算の方法として給与所得額と事業所得額の一方を他方に換算し,合算した額について算定表を利用する方法が考えられる。 例えば,事業所得を給与所得に換算して計算する方法,反対に,給与所得を事業所得に換算する方法が考えられる。

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