熟年離婚で重要な「年金分割」の種類と手続き
熟年離婚で重要な「年金分割」の種類と手続き、相手が応じてくれない場合の対処法
熟年離婚するときには「年金分割」が非常に重要なポイントになります。
婚姻年数が長い分、分割される年金額も高額になり生活に与えるインパクトが大きくなるからです。
実は年金分割には「合意分割」と「3号分割」の2種類があり、それぞれ要件や手続きの方法が異なっています。
今回は年金分割の種類や方法、期限、相手が応じてくれないときの対処方法をお伝えしますので、熟年離婚する方はぜひ参考にしてみてください。
1.年金分割とは
年金分割とは、夫婦が婚姻中に払い込んだ年金保険料を按分して将来受け取れる年金額を調整する手続きです。
離婚時に年金分割をしておくと、将来年金を受け取る年齢になったときに支給額を増やしてもらえる可能性があります。
夫が会社員や公務員の方は、必ず年金分割の手続きをしておきましょう。
年金分割の対象になる年金
年金分割の対象になるのは、「厚生年金」のみです。
夫がどこかの会社にお勤めされていて、毎月の給与明細から「厚生年金」を引かれている場合、年金分割できると考えましょう。夫が会社経営者や役員の場合にも、厚生年金に入っているケースが多数です。
かつての公務員共済年金も年金分割の対象になります。今は公務員の年金も厚生年金に統一されているいので、夫が公務員の場合にも年金分割は可能です。
一方で「国民年金」は年金分割の対象外なので注意しましょう。夫が個人事業主やフリーランスなどで国民年金にしか加入していない場合には、年金分割を受けられません。
2.熟年離婚で年金分割が重要な理由
次に、熟年離婚で年金分割が極めて重要な理由をお話します。
2-1.年金分割すると老齢になったときの生活が守られる
1つ目は、年金分割によって将来受け取れる年金額が上がり、生活レベルを維持しやすくなることが挙げられます。
たとえば専業主婦だった方が離婚時に年金分割を受けておかなければ、老齢になったときに基礎年金しか支給されません。基礎年金の支給額は人にもよりますが月額6万円にも満たないケースもあり、その収入だけで生活するのは困難でしょう。
熟年離婚で年金分割すると、ケースにもよりますが4万円程度年金額が増える可能性もあります。そうなれば毎月の年金受給額が10万円となるので、生活が楽になるでしょう。
毎月4万円アップすると、1年で48万円、10年で480万円、20年間年金を受け取れば960万円もの差額が発生します。
2-2.分割される年金額が高額になる
熟年離婚では、分割される年金額が高額になりやすい特徴があります。年金分割される年金保険料は、「婚姻中の厚生年金加入月数」に比例したものとなるからです。
婚姻年数が長い熟年離婚のケースでは、当然厚生年金の加入月数も長くなり、分割される年金保険料が高額になりやすいといえます。その結果、分割される年金額が高額になり、将来の年金額に与えるインパクトが大きくなります。
2-3.年金を受け取る年齢が近い
熟年離婚の場合、年金を受け取る年齢が近いことも無視できません。
年金分割をしても、実際に増額された年金を受け取れるのは「年金受給年齢になってから」です。離婚後すぐに受け取れるわけではありません。
若い人の離婚のケースでは、あまり現実感がないでしょう。
熟年離婚の場合、数年先には年金を受け取る方も多いですし、年金をすでに受給中の方もおられます。
熟年離婚では、年金分割しておくかしないかでその後の生活資金額が大きく変わってくるので、必ず手続きを行いましょう。
3.年金分割でよくある誤解
年金分割について、以下のように誤解されるケースがよくあります。
3-1.年金が半分ずつになる制度ではない
年金分割というと、「夫婦で年金額が半額ずつになる」と思われているケースがありますが、誤解です。
年金分割しても、相手と同額の年金をもらえるわけではありません。
移譲される金額はケースにもよりますが、月額2~4万円程度になる事例が多いでしょう。
たとえば夫の年金額が月額20万円、妻の年金額が月額6万円のケースで年金分割を行い月額3万円の年金が移譲されると、夫の受給額は月額17万円、妻の受給額は月額9万円となります。
13万円ずつに分割されるわけではありません。
3-2.妻が年金をもらえる制度ではない
年金分割というと「妻が夫の年金をもらえる制度」と誤解している方もおられます。しかし年金分割は妻だけが年金を受け取れる制度ではありません。
妻に収入があって厚生年金に加入していたら、妻の年金も相手に移譲されます。
夫より妻の年収の方が高ければ、妻の受け取り年金額を減らされる可能性が高くなり、妻が会社員、夫が個人事業主の場合には、妻の年金が相手に移譲されるだけです。
必ずしも妻の年金を増やしてもらえるとは限らないので、有職者の方は特に注意してください。
3-3.自分が年金受給年齢にならないともらえない
年金分割すると、いつから年金を増やしてもらえるのでしょうか?
「夫の年金をもらうのだから、夫が年金受給年齢になったら元妻は年金をもらえるようになるのでは?」と考える方もおられるでしょう。
しかしこれも誤解です。妻が増額した年金を受け取れるのは、妻自身が年金受給年齢になってからです。
たとえば夫が67歳ですでに年金を受給しており、妻が63歳でまだ年金を受け取っていないとしましょう。
この場合、妻が年金を受け取れるのは妻が65歳になってからです。
年金分割によって夫が年金を減らされても、すぐに妻が年金を受け取れるわけではないので、注意しましょう。
4.2種類の年金分割
年金分割には「3号分割」と「合意分割」の2種類があります。それぞれがどういった制度なのでしょうか?
4-1.3号分割
3号分割は、平成20年4月以降の婚姻中に「3号被保険者」だった方ができる年金分割です。
3号被保険者とは、配偶者の扶養に入っていて自分では厚生年金や国民年金に入っていなかった人をいいます。わかりやすくいうと「夫の扶養に入って社会保険に入れてもらっていた妻」が3号被保険者になると考えましょう。
3号分割の場合には、当然に年金保険料を分割してもらえます。相手の同意は要りません。離婚時に相手と話し合って合意してもらわなくても、元妻が離婚後に1人で年金事務所へ行って年金分割の申請ができます。分割割合は当然に0.5(2分の1ずつ)となるので、分割請求者にとっては有利な制度といえるでしょう。
ただし3号分割できるのは「平成20年(2008年4月)以降の年金加入期間」のみです。
それより前から婚姻していた方の場合、以前の期間については次の「合意分割」をしなければなりません。
熟年離婚の場合には平成20年3月より前から婚姻していたケースが多いでしょう。その場合、3号分割だけではなく合意分割もしなければならないので注意してください。
4-2.合意分割
合意分割は、被分割者の合意を要する年金分割です。
分割割合も0.5とは限らず、所定の範囲で自由に決められます。
合意分割の場合、被分割者が年金分割に同意しなければ手続きできません。
分割割合についても話し合って決める必要があります。
熟年離婚で夫が年金分割を拒否すると、簡単には合意分割できません。その場合の対処方法は後の項目で詳しくご説明します。
5.3号分割の方法
3号分割が適用される場合には、離婚後分割請求者が年金事務所へ1人で行けば手続きできます。
年金手帳や身分証明書、戸籍謄本などの「婚姻期間を証明できる書類」をもって年金事務所へ行きましょう。
「標準報酬改定請求書」という書類を提出すれば、年金分割を受け付けてもらえます。
相手に連絡する必要はありません。
6.合意分割の方法
合意分割する場合には、事前に「年金分割情報通知書」を入手しましょう。
ここには合意分割できる割合などが記載されています。年金事務所へ言って申請すると、1~2週間程度で自宅に送られてきます。
50歳以上の方の場合、年金分割した場合の「分割見込額」も知らせてもらえるので、合わせて申請しましょう。
年金分割情報通知書を受け取ったら、相手と話し合って年金分割に同意してもらう必要があります。その際、年金分割情報通知書に書かれている範囲内で分割割合も決めましょう。
年金分割の合意をとれたら「年金分割に関する合意書」または「離婚協議書」を作成してください。相手が年金分割に応じたことや話し合って決めた年金分割の割合を書く必要があります。
離婚届を提出したら、相手と一緒に年金事務所へ行きましょう。
その際、以下のような書類が必要です。
- 請求者の年金手帳や基礎年金番号通知
- 戸籍謄本など婚姻期間がわかる資料
- 年金分割の合意書や年金分割について書かれた離婚協議書
上記を持って相手と一緒に年金事務所へ行き「標準報酬改定請求書」を作成して提出すれば、年金分割の手続きが完了します。
公正証書を作成しよう
合意分割する場合には、年金分割に関する合意書や離婚協議書を「公正証書」にしておくようお勧めします。
公正証書による取り決めがあれば、相手に一緒に来てもらう必要がなく、請求者が1人で年金事務所へ行って手続きができるからです。
相手に協力してもらうのが難しい場合や頼みたくない場合、非常に有効な対処方法となるでしょう。
7.相手が年金分割に応じてくれない場合の対処方法
合意分割するには相手による同意が必要です。
離婚時に話し合っても相手が年金分割に合意してくれない場合、どうすればよいのでしょうか?
納得しない相手に年金分割を求める方法には、離婚時に年金分割する方法と離婚後に年金分割する方法があるので、それぞれみていきましょう。
7-1.離婚時の年金分割~離婚調停を申し立てる
相手が合意しないケースにおいて離婚時に年金分割するには、離婚調停を申し立てる必要があります。
離婚調停を申し立てれば、通常は調停委員が相手に対し年金分割に応じるよう説得してくれるでしょう。相手が応じれば、年金分割をふまえて離婚できます。
年金分割について記載した調停調書があれば、相手と一緒に年金事務所に行かなくても、請求者1人で手続きできるメリットもあります。
ただし調停はあくまで話し合いの手続きなので、相手が納得しなければ強制はできません。
その場合、調停が不成立になって離婚訴訟となってしまう可能性もあります。
もしも争点が年金分割だけであれば、先に離婚を成立させて、離婚後に年金分割調停を申し立てるのがよいでしょう。離婚訴訟よりも離婚後の年金分割調停の方が、手続き的に非常に楽だからです。時間も費用もかかりません。
7-2.離婚後の年金分割~年金分割調停を申し立てる
離婚時に年金分割の合意ができなかった場合、離婚後に家庭裁判所で「年金分割調停」を申し立てましょう。
年金分割調停を申し立てると、調停委員が間に入って相手に年金分割に応じるよう説得してくれます。その際「分割割合は0.5」とするように言ってもらえるのが通常です。
調停になれば、たいていの人は合意分割に応じるでしょう。
相手がどうしても納得しない場合には調停が不成立となって「審判」になります。審判になると、審判官が年金分割についての決定を下します。
このときにはほぼ100%の確率で0.5の割合で年金分割が認められるのが実務上の運用です。
以上のように相手が年金分割を強く拒否していても、最終的に年金分割審判を利用すれば0.5の割合で年金分割してもらえるので、あきらめたり妥協したりする必要はありません。
困ったときには弁護士に相談してみてください。
8.年金分割の期限
離婚後に年金分割の手続きを行うとき、期限があるので要注意です。
年金分割は「離婚成立後2年以内」に年金事務所で手続きしなければなりません。
2年が過ぎると3号分割も合意分割もできなくなってしまいます。
離婚時に年金分割の取り決めをした場合や3号分割を受けられる場合、早めに年金事務所で手続きしましょう。
相手が合意してくれず年金分割調停を利用する場合にも、2年間の期限が適用されます。
ただし調停中に2年が経過した場合には、調停成立後1ヶ月以内であれば年金分割を受け付けてもらえます。調停成立後1ヶ月を経過すると、せっかく調停で合意分割してもらっても年金分割できなくなるので、早めに年金事務所へ調停調書を持参して手続きしてください。
当事務所では熟年離婚される方へ向けて積極的に支援を行っています。数多くの離婚案件を解決する中で、年金分割や財産分与など、熟年離婚に関する知識やノウハウも蓄積してきました。これから相手と離婚したい方、すでに離婚協議や調停を行っている方など、まずはお気軽にご相談ください。