財産分与時に任意開示を拒否された場合の対応とは~新しい財産分与制度

財産分与時に任意開示を拒否された場合の対応とは~新しい財産分与制度

離婚時における財産分与は、重要なポイントの1つです。正当な財産分与を行うためには、お互いの管理する財産の内容についてそれぞれ開示する必要があります。しかし人によっては、開示を拒否することがあります。配偶者に開示を拒否された場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

この記事では、財産分与時に任意開示を拒否されたときの対応について解説します。

 

そもそも開示拒否は法律違反にならない?

任意開示を拒否されたときの対応

自分で証拠を集める

弁護士に説得してもらう

調停委員会から説得してもらう

弁護士照会制度を利用する

調査嘱託制度を利用する

任意開示を拒否するよくあるケースについて

任意開示に一切協力しないケース

特定の財産を「特有財産」と主張するケース

まとめ

そもそも開示拒否は法律違反にならない?

財産に関する情報の開示は、あくまで任意であり拒否しても違法ではありませんし、罰則もありません。また、配偶者以外から開示を求められても、従う必要はありませんでしたが、令和6年改正により、「裁判手続における情報開示手続」がもうけられ、開示せず又は虚偽の情報を開示した場合は10万円以下の過料の制裁に処されることとなりました(人訴法34条の3第3項、家事法152条の2第3項)。

従前から、家裁においても調査嘱託制度が積極活用されてきたところでした。(名古屋家裁の場合)

開示を拒否することで離婚の手続きが長引いたり、離婚時の条件が不利になるおそれが非常に大きいことや、開示しない場合は裁判官が「一切の処分」として、反対側の主張を真実と認めるという証明妨害法理が適用される可能性があるため、特殊な事情がない限り開示拒否は望ましくありません。

情報開示義務の背景事情

これまでの実務上は、反対側の財産を個別具体的に把握していない限り、財産分与のテーブルに載せられないという不公平な事態を招いていました。裁判所は、調査嘱託制度がありますが、これはあくまで補充的なものとされていました。

最近は、「ダブルインカム・ノーキッズ」のように、婚姻直後から一貫して財産の管理を夫婦が個別的に行ているということが増えてきました。

したがって、離婚時に初めて互いの相手名義の財産を把握するというケースも珍しくありません。

そこで、改正法では、財産分与について、裁判手続内において、当事者に対して、裁判手続内における財産開示義務を法律で義務付けることにしました。

したがって、今後は、任意開示よりも先に、法令上の「裁判手続における情報開示義務」が先行する可能性があると考えられます。

もっとも、こうした手続は法令に精通している家族法の弁護士に依頼しているかで差異を生じる可能性もないとはいえないでしょう。

任意開示を拒否されたときの対応

任意開示を拒否された場合、調停の場合は家事法152条の2に基づき、離婚訴訟の場合は人訴法34条の3に基づき、必要性を疎明して、情報開示の処分をするよう家庭裁判所裁判官に求めることになります。ただし、調停委員には、この処分をする権限はありませんので、やはり、「裁判官と話したい」と言わない限り、水際大作戦でブロックされる可能性もありますから、今後とも弁護士に依頼する必要性はなくならないであろうと考えます。

この規定は離婚調停にも準用されていますが、離婚調停でどの程度利用されるかは、弁護士の腕次第かもしれません(家事法258条3項)。

自分で証拠を集めるところから始める

どのような手段を取る場合でも、まずは相手側の口座についての情報を得ておくことがおすすめです。法令で「情報開示義務」がもうけられたからといって、「裁判官が必要があると認めるとき」という法律要件があります。

したがって、相手方が財産を隠蔽している可能性があるという証拠を示すことができれば、他にも隠しているかもしれないという推論が働きやすくなり、「裁判官が必要があると認めるとき」という法律要件が満たしやすくなります。

ゆえに、相手方が保持する通帳のコピーを取ったり、クレジットカードの利用明細などを確認したりしましょう。最低限、口座の銀行名と支店名は把握しておきたいところです。これがない場合は、「フィッシング」といって「証拠漁りだ」という反論も十分説得力を生じる可能性があります。

弁護士に説得してもらう

特に、家庭裁判所というのは全国津々浦々にあり、東京家裁と大阪家裁だけが家庭裁判所ではありません。率直にいえば、一般調停委員の場合、弁護士や当事者の方がインテリジェンスが高い事例は相当多く接します。ですから、強制力はありませんが、弁護士から「裁判官が必要があると認めるとき」という法律要件をいかに満たし、開示をすることが公平であり、デュー・プロセスにかなっているのかということを話すことが始まりになることが多いと思います。

調停委員に対しては、弁護士を通すことで、こちら側の離婚にかける決意の強さが相手に伝わるでしょう。他方、田舎の調停委員は「僧侶」がしており非常識な人間もいます。僧侶調停委員の中には、「女はキャバクラで働けば良い。わたしの馴染みのキャバクラを紹介してやろう。養育費など不要である」と調停委員が言ってこられたことがあり、唖然としたこともあります。岐阜の裁判所でした。

比較的弁護士にご依頼いただく場合でも「調停委員が非常識過ぎる」ということが動機になっている例もあります。

調停委員会から説得してもらう

調停の場であれば、調停委員会から任意開示に従うよう説得してもらえます。しかし、調停委員会といっても、実際は、裁判官の「鶴の一声」です。裁判官1名と調停委員2名の3名の合議体で構成するのですが、「きちんと多数決を採りましたか?」と質問すれば、たいてい、裁判官の独断と偏見で、調停委員は「忖度」しているだけというケースしかありません。

こちらも強制力はありませんが、公平な第三者からの説得はより有効と考えられます。しかし、余りにも酷い場合は、ヒラソルは裁判官に外れてもらうことも全く恐れていません。公式に苦情を申し立てて、調停委員や裁判官に外れてもらった経験もあります。

調停委員会は、構成メンバーのインテリジェンスが高い場合は使えますが、そうでない場合は、権威の象徴として強要する「マジックワード」として用いることがあります。北陸などはそのような傾向が見られるような感想を禁じえません。権威に頼る調停委員は語るべき「法に対する認識」がないのです。

だいたい調停委員が「当調停委員会は」と、自分のことを大きく見せる場合はダメ調停委員のケースが多いといえるでしょう。

弁護士照会制度を利用する

弁護士照会制度とは、弁護士法23条の2に基づき弁護士会を通じて、公務所や公私の団体に対して必要な事項の報告を求められる制度です。

一定の条件を満たす必要があるほか、正当な理由があれば金融機関は拒否できますが、弁護士しか行えない制度ではあります。もっとも、企業法務も担当する弁護士をしている筆者の場合、企業法務側では、弁護士会照会には応じないという対応をしていることも多く、弁護士会照会を利用するのが最善とは限りません。ただし、公法上の照会を行うことができるのは、弁護士の特権でもあります。そうした経験を活かし最善の一手に結び付けたいと思うのです。

調査嘱託制度を利用する

調査嘱託制度とは、当事者が裁判所に申し立てすることで企業や団体などに調査結果の提出を求められる制度です。正当な理由がない限り、調査嘱託を受けた企業や団体は回答を拒否できません。

強制力のある制度ですが、「裁判手続における情報開示義務」の創設に伴い、調停段階においても弁護士が就いている場合は積極利用される傾向にあるのではないか、と考えております。また調査は、銀行と支店名などで十分です(ネットバンキングは、支店名は不要。)。

任意開示を拒否するよくあるケースについて

ここからは任意開示を拒否された場合の対処について、よくあるケースを解説します。財産分与に関する情報開示を拒否するケースには、いくつかの類型があります。主なものとして、以下の2つが挙げられます。

 

  • 任意開示に一切協力しないケース
  • 特定の財産を「特有財産」と主張して開示しないケース

 

それぞれのケースについて、見ていきましょう。

任意開示に一切協力しないケース

 当事者が財産に関する情報の開示に一切応じない場合、どのような手順で審理を進めるかが問題になります。

当事者が開示しないからといって、金融機関に対し全店舗を対象とした包括的な調査を行うことはできません。

弁護士としては、まずは、第一は情報開示を申立て、第二に調査嘱託の申立てをして、第三に、家事法152条の2第3項や人訴法34条の3第3項に照らして、「証明妨害の法理」を適用し、申立人の主張を「一切の処分」として真実として認めるべきであると主張することも今後は考えられるようになるでしょう。

家事調停は職権主義であるため、「民事訴訟法」をまともに理解していない弁護士もいますが、これら「証明妨害法理」などは民事訴訟法に精通している弁護士しか知りませんので、経験のみならず訴訟法学に対する教養がある弁護士に依頼することが望ましいでしょう。(古くからの家庭裁判所の事件しか行ってこなかった弁護士は驚くほど、訴訟法の教養に欠けている方も少なくありません。)

通常は、財産の存在を裏付ける何らかの情報がある金融機関に対し、基準日から6ヶ月程度(場合によっては1年分)の取引履歴を確認する調査を行うのが一般的です。これらも駆け引きや調査の必要性の疎明の程度によりますので、弁護士の力量によるところがあるでしょう。

また、相手方名義の口座がどの金融機関にあるか分からない場合は、以下のような情報をもとに調査を進めるかは将来の残された課題でしょう。(通常こうした口座に多額のお金が隠されていることは経験的に少ないです。)

 

  • 勤務先からの給与振込先口座(複数の口座に分けて振り込まれている場合もある)
  • 水道・ガス・電気料金の引き落とし口座
  • クレジットカードの引き落とし口座

 これらの情報をもとに、金融機関に対し取引履歴の開示を求める調査を行います。調査の結果、金融機関から「振替」や「振込」と記載された取引履歴が提供された場合は、さらにその振替先や振込先の口座を明らかにするための追加調査を行います。

 なお、勤務先に対する調査を行う際には、給与の振込先口座だけでなく、基準日時点での退職金の見込み額や、財形貯蓄・保険契約の有無についても併せて確認しておくことが望ましいでしょう。ヒラソル法律事務所では、同族企業の経営者、ベンチャーの社長、トヨタ自動車、愛知県警、デンソーなど主要な会社の仕組みに精通していますので、制度を知った上で開示を求めますし、制度を知った上でディフェンスを行います。

 その他、近時は離婚時における財産分与において、暗号資産、NFTのデジタル財産について特別な考慮が必要との見解もあります(家法55号33頁)。とりわけ夫婦の一方に暗号資産の知識がないような場合、NFTは個人の嗜好性が強く実際財産分与の対象になり得るとしても実務上分けられているのか統計等は存しないように思われます。

特定の財産を「特有財産」と主張するケース

 特定の財産(預貯金や保険契約など)について、当事者が「特有財産である」と主張して開示を拒む場合があります。しかし、民法762条3項では「夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は共有財産と推定される」と定められています。そのため、財産の存在や基準日時点の残高を明らかにするために、調査を実施することになります。

 すなわち、令和6年改正で初めて、「離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため、当事者双方がその婚姻中に取得し、又は維持した財産の額及びその取得又は維持についての各当事者の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力及び扶助の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める」とされました。

 そして、「この場合において、婚姻中の財産の取得又は維持についての各当事者の寄与の程度はその程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする」と2分の1ルールが民法768条3項で明文で規定されるに至っています。

 この民法768条3項の議論は、平成8年の要綱に基づいていますが、裁判実務では離婚後の「扶養的要素」は、清算的財産分与や慰謝料による給付では、離婚後の配偶者の保護が十分でない場合は、今後とも、補充的に認められている。平成8年要綱の法制審議会部会委員より、扶養的・補償的要素を含める趣旨とされ、民法768条3項の文言を前提としても、「婚姻による稼働能力の喪失」は考慮されうることが確認されています。

 調査の結果、預貯金の残高が明らかになった後は、特有財産であることを主張する側が「親族から相続した財産である」あるいは「贈与されたものである」といった主張を展開し、特有財産であることの証明を行わなければなりません。

まとめ

 当事者が任意開示に応じないと、財産分与に関する審理が長引き、全体の手続きが長期化するおそれがあります。そのため、財産の開示については、できるだけ任意で協力することが望ましいでしょう。

 また、令和6年改正を受けて、「新しい財産分与制度」の下で、諸外国では離婚慰謝料を廃止し(破綻主義や無責離婚)、離婚後扶養や補償的要素が中心になっています。そこで、改正法により、扶養的・補償的要素が適切に考慮される方向に変化していくのか、変化していくとしてどのような額が認められるのか、今後の家庭裁判所のプラクティスで明らかにされるものと思われるといえましょう。

 拒否された側は自分で情報を集める以外にも、さまざまな対応を取ることができます。また、過料の制裁では実効性が十分ではないとの指摘もあり、「手続の全趣旨」において、適切に考慮することにより、適切な情報開示を促進させることが重要であるといえると思われます。

これらは、訴訟法的な専門的な知識が必要とされるものが多いため、任意開示を拒否された際は弁護士に依頼することを強くおすすめします。ヒラソル法律事務所では、こうした財産分与に関する離婚相談を得意にしております。是非、ご相談ください。

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