財産分与の対象にならないものは何?離婚時にトラブルになりやすい点について解説
財産分与の対象にならないものは何?離婚時にトラブルになりやすい点について解説
夫婦が離婚する際、トラブルになりやすいもののひとつが「財産分与」です。夫婦共有財産の分配は離婚後の生活に直結するため、お互いに譲れないことも多いでしょう。
この記事では離婚時の財産分与において、財産分与の対象とならないものを解説します。
非弁に相談して、一番理解できないのが財産分与でしょう。財産分与は立証責任分配法理を理解できない人には、上手く説明ができないからです。民事訴訟法、人事訴訟法、刑事訴訟法にも精通したヒラソルの弁護士が訴訟法的観点も加えて解説をします。
財産分与について
財産分与とは、夫婦が協力して築いた財産を離婚する際に公平に分けることをいいます。
夫婦が結婚後に得た財産については、夫婦の協力があってこそ得られたものであると法的に解釈されています。夫は働いて収入があり、妻は専業主婦で収入がなかったとしても同様です。いわゆる「内助の功」として、妻の支えがなければ夫は収入を得られなかったと解釈されているのです。
もっとも、女性が働き続けるパターンでは、89歳までの世帯の手取り年収は5.1億円、再就職しフルタイムで働くパターンでは3.83億円、パート型は3.45億円、専業主婦型は3.2億円といわれております(中日新聞令和6年7月11日付)。
夫婦が結婚後に得た財産は個人のものではなく夫婦のものであり、その財産を分ける割合は夫婦間で自由に決められます。
一方で離婚時に夫婦間で財産についての紛争が起こった場合は、50%ずつ分けることが基本です。
財産分与の請求期限は、離婚時から2年以内と定められています。法令改正後は5年になるものとされていますので留意する必要があります。
一方が財産分与対象の財産を隠していたような悪意のあるケースでは、この限りではありません。ただし、この論点については、複雑な論点もあります。一例を挙げると、確定した離婚判決において清算的財産分与が定められている場合に、同判決において考慮されていない夫婦共有財産があることを理由に当該財産について重ねて清算的財産分与を認めることは例外なく許されないとした事例があります(東京高決令和4年3月11日)。
財産分与の対象にならないもの
基本的に、夫婦が結婚後に築いたプラスの財産は夫婦のものと考えられています。一方で金銭的な価値のある財産と考えられるものであっても、財産分与の対象とならないものも存在するのです。
ここでは、財産分与の対象にならないものを詳しく解説します。
特有財産
次のものは「特有財産」と呼ばれ、財産分与の対象とはなりません。
ただし、「特有財産」というと、当然、財産分与の対象にならないと誤解している方がいますが、特有財産であることの証明に成功する必要があります。いうまでもなく、真実は特有財産であっても、証明に失敗して、財産分与の対象になるということも少ないとまではいえません。この点は、インターネット上の知識しか有さず、民事訴訟法を知らない方々にとっては理解し難い点なのかもしれません。弁護士は、民事訴訟法、人事訴訟法、家事事件手続法、非訟事件手続法、刑事訴訟法などの訴訟法の専門家です。
法廷を知らないと財産分与は語れないのです。
訴訟法の専門家からの有益なアドバイスを受けることができます。
- 婚姻前から有していた独身時代の財産
- 婚姻中であっても、夫婦の協力によって取得したものではない財産(相続財産)
結婚前から保有していた財産は夫婦のものではありません。また、たとえ結婚後であっても、夫婦の協力を必要とせずに取得した財産は夫婦のものではないのです。
ここからは、特有財産について詳しく解説します。ただし、いずれにしても立証できることが条件であり、インターネットの知識を振りかざしても最も無駄な分野といえます。
結婚前の預貯金
夫婦それぞれが結婚前に有していた預貯金は、理論的には財産分与の対象外です。
しかし、当時現役裁判官が執筆した著書に記載のとおり立証はかなり困難を伴います。
つまり、普通預金は、いつでも自由に出入金をできることをその特徴として、婚姻生活と密接な関連を有する給与の受け取りと各種生活費の支払い等に用いられて頻繁に出入金がされているのが通例ですから、婚姻時に存在した残高は、その後の頻繁な出入金を経て、離婚後に得た収入と混在一体となることにより、基準時においてもはや特有財産として考えることができなくなっているとの見解が示されています。
この点を誤解している人が多いので注意しましょう。
結婚前から保有していた預貯金であっても、結婚した後で夫婦の管理にしたりそれらを結婚後の生活のために使用したりすることもあるでしょう。このような場合は個人の預貯金に対する線引きが難しく、トラブルになりやすい傾向があります。この点、夫婦共有財産の典型ともいえる給与が口座に混じりこんでいる場合は特有財産性を失う可能性はないとはいえません。
離婚する際にトラブルになると、夫婦だけでは解決できないことが考えられます。解決が難しい場合は、トラブルになる前に弁護士に相談することがおすすめです。特に、インターネットの間違った知識を宗教のように信じている方もいますから、個別具体的な
立証が必要であるということのご説明にお時間を要する方が少なくないように感じます。
損害賠償金や保険金
交通事故で受け取った損害賠償金やケガや入院で受け取った保険金は、財産分与の対象外です。ただし、これには例外があるので弁護士に相談をすると良いでしょう。
一方で交通事故が原因であっても、財産分与の対象になるケースがあります。
交通事故や事件に巻き込まれたなどのため、本来得られるはずであった収入を得られなかった場合、加害者に対して逸失利益が請求できます。逸失利益は夫婦の財産と考えられるため、財産分与の対象となるのです。
このケースは間違えやすいため、しっかりと理解しておきましょう。
一例を挙げれば、財産分与の対象財産は・・・傷害慰謝料、後遺障害部分に対応する部分は、事故により受傷し、入通院治療を受け、後遺障害が残存したことにより交通事故被害者が被った精神的苦痛を慰藉するためのものである。したがって配偶者は、上記の取得に寄与はしていないから、被害者の特有財産になるとしています。
他方、症状固定後のいわゆる労働能力喪失にかかる逸失履歴については、配偶者の寄与がある以上、財産分与の対象となるとしている裁判例もあります(大阪高決平成17年6月9日)。したがって、逸失利益部分は財産分与の対象となります。加えて、後遺障害逸失利益については、いずれも事故による障害のため、得られなかった得べかりし利益の問題であるとしています。実務上は、症状固定を基準に、それより前は休業損害の問題であり、その後は逸失利益の問題となります。
もっとも、休業損害については、婚姻費用の問題として処理されるため、財産分与の先渡しとは評価されないと評価されています。この点は、給与と同視されるので、生活費として費消せず残存した場合は財産分与の問題となるという少数説もあります。
親や親族から贈与または相続した財産
親や親族から贈与や相続をした財産は、財産分与の対象とはなりません。結婚してから、贈与や相続をしたケースでも同様です。もっとも、親や親族からの贈与は、借入か否かで争いになることがあったり、贈与の税務上の申告をしていたりするかなど立証の問題で躓くことがあります。
贈与や相続をした財産を元手に夫婦で協力して投資をして資産を増やしたケースでは、財産分与の対象となる可能性があります。財産分与に詳しい安藤一幹弁護士は、贈与の趣旨が夫婦の投資の減資とする趣旨である場合は財産分与の対象になりやすいと語ります。また、安藤一幹弁護士は、贈与を受けたAには投資の知識がないが、Bに投資の知識があり財産が増えたと認められる場合は、財産を増やしたことに対する貢献が認められ、その部分について一定の寄与が認められる可能性があると解説しています。
この場合は明確な線引きがないため、弁護士に相談しましょう。
ブランド品
一定の資産とみなされる高価なアクセサリーやブランド品などは、個人の占有物とされます。
そのため、これらの物品については、たとえパートナーからの贈り物であっても財産分与の対象とはなりません。
ギャンブルや投資で負った個人的な借金
マイナスの財産についても、財産分与の対象です。しかしながら、財産分与は、プラスを分ける制度であるため、財産目録(貸借対照表)を作成し、マイナスの方が多い場合は財産分与をすることはできません。
一方で競馬や競輪、パチンコなどのギャンブルや、個人的な投資などのために負った借金は財産分与の対象ではありません。あくまでも夫婦共有負債のみです。
マイナス財産における財産分与については、後述します。
第三者名義の財産
管理している財産の中には、夫婦以外の名義のものが含まれている可能性があります。
例えば、次のようなものです。
- 子ども名義の財産
子どもが貯めたお年玉やアルバイトで得た給与などを子どもの名義で貯蓄しているものは子どもの財産のため、夫婦の財産分与の対象とはなりません。この点は、財産分与の対象になるという説とならないという説が対立しています。しかし、時代の流れに照らすと、こどもに人権共有主体性を認めない時代は、こどもの財産は親のものという理屈で良かったように思われますが、こども名義のものを当然に夫婦共有財産とするには抵抗があります。
もっとも、メルクマールとしては、子の固有の財産であれば、財産分与対象財産にならないこと、実質的に借名口座など夫婦に帰属していると認められる場合には清算の対象となります。
もっとも、この点は、様々な判例があり、子名義の預貯金について、子に対する贈与の趣旨でなされている場合は、財産分与の対象にならないとした高松高裁平成9年3月27日家月49羹10豪79頁があります。
- 法人名義の財産
パートナーが会社を経営している場合、会社の財産は別人格であるため、夫婦の財産とはみなされません。したがって、財産分与の対象にはなりません。一方で夫婦が協力して会社の利益を出していたケースでは、会社の財産についても財産分与の対象となる可能性がないとまではいえないのですが、難しい問題ですので弁護士にご相談ください。
ケースバイケースで判断されるため、早めに弁護士に相談することをおすすめします。参考までに、裁判例など最近公刊されているレベルの裁判例では、アドホックに法人所有の財産を分与対象財産としている例はほとんど見られません。そこで、株式を問題にすることが考えられます。
財産分与の対象になるもの
財産分与の対象にならないものは、ご理解いただけましたでしょうか。ここからは反対に、財産分与の対象となるものを詳しく解説します。
いざというときのために、財産分与についての法律的な考え方を覚えておきましょう。
結婚後に夫婦で築き上げた共有財産
財産分与の対象となるものは、結婚後に夫婦で協力して築き上げた財産です。
代表的なものとして、預貯金や不動産、自動車、退職金などが挙げられます。結婚後に購入した家具や家財なども財産分与の対象です。
一方で結婚前に購入した家具や家財は財産分与の対象外であり、退職金についても結婚前に働いていた期間の分については対象外とされるため、混同しないよう注意しましょう。
預貯金
夫婦の預貯金は、共有財産です。夫婦で協力して築いた預貯金であれば対象となるため、口座の名義は問われません。
夫名義であっても妻の名義であっても、それぞれ個人の財産ではなく夫婦の財産とみなされるのです。
家や土地などの不動産や車や家具などの動産
結婚後に夫婦で購入した家や土地は共有財産のため、財産分与の対象です。
財産を分ける際は、専門家に依頼して不動産を鑑定して鑑定額を基準に財産を分けます。夫婦の離婚時に不動産購入時のローンが残っているケースでは、不動産を引き継ぐ側が引き続きローン返済することが一般的です。
有価証券
結婚後に購入した有価証券は、財産分与の対象です。
有価証券は現物で分配したり、換金して分配します。有価証券を夫婦の一方が引き続き所有するケースでは、所有する側が放棄する側に代替財産を譲ったり、代償金を支払ったりすることがあります。
貯蓄型の生命保険
貯蓄型生命保険は「夫婦で協力し保険料を支払っていた」と考えられるため、財産分与の対象となります。
このケースでは保険会社に解約返戻金の額を問い合わせ、その金額を元に分配を検討します。
ローンや借金などマイナスの財産
財産分与の対象は、プラスの財産だけではありません。住宅ローンや家族の生活のために負った借金など、マイナスの財産も同様に財産分与の対象です。
また医療費や学費などのために借金をしたケースも、生活のための借金とみなされます。
一方で個人的なギャンブルや投資などのために負った借金は、財産分与の対象ではありません。
あくまでも夫婦が生活する上でやむを得ず負った負債のみ、夫婦共有のマイナス財産であると考えられています。
財産分与によるトラブルは弁護士に相談を
夫婦の離婚時に欠かすことのできない財産分与は、複雑な作業です。
離婚時において、財産分与が原因でトラブルになるケースは少なくありません。財産分与によるトラブルを、夫婦だけで解決することは非常にハードルが高いでしょう。
財産分与が難しいケースや、夫婦間でトラブルになりそうなケースは、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
悩むよりも、まずはお気軽に無料相談をご利用ください。
また、財産分与は、弁護士の能力の差が出やすい分野といわれています。
また、訴訟法の理解がない残念ながら、司法書士、行政書士では、特有財産について適切に処理はできないように思われます。
特有財産の主張ですと、何を集めて良いか分からないということも考えられます。
また、財産規模によっては、財産分与に詳しい弁護士が「効果的な弁護」を受けるために必需品になる場合があります。
名古屋駅ヒラソル法律事務所では、離婚におけるトラブル対応の経験が豊富な弁護士が親身で迅速な対応を行います。