共働き夫婦の離婚時に財産分与しない方法とは?具体的な手法を解説
共働き夫婦の離婚時に財産分与しない方法とは?具体的な手法を解説
夫婦が離婚するときには、財産分与は避けては通れません。特に共働きの夫婦の財産分与はトラブルに発展するケースも多く、夫婦だけで解決することは難しいといえます。
今回は、共働き夫婦が財産分与をせずに離婚する方法について、解説します。
【結論】財産分与のルールは共働きの有無で変わらない
さまざまな事情により夫婦が離婚する際、夫婦が共働きであってもそうでなくても財産分与のルールに違いはありません。
基本的に夫婦が協力して築き上げたプラスの財産は、すべて財産分与の対象と考えられます。財産分与の対象は、それぞれの口座で管理している預貯金や不動産、有価証券などです。
財産分与の割合について、法的には50%ずつと考えます。これを2分の1ルールといいます。
夫のみが働いて妻が専業主婦であった場合、妻の収入はゼロですが妻が家事や育児を分担したからこそ、夫婦の財産を築けたと考えるのです。昔は、これを「内助の功」と説明していましたが、最近は、そうした言葉を使うまでもなく、2分の1ルールとして処理していると考えられています。
その一方で夫婦が共働きのケースでは財産を築く過程において、それぞれの貢献度に大きな差がある場合があります。このようなケースでは、財産分与の割合が修正される可能性があります。もっとも、過去の裁判例では、医師などで修正が認められていたように思いますが、現在は、年収2000万円程度では修正が認められるとまではいえないかもしれません。
地域にもよりますが、芸能人、株式の取引などの事情があるなどして、妻の内助の功と因果関係がない場合が大きいように思います。もっとも、宝くじの裁判例においても、全て夫のものとすることは認められませんでしたので、財産分与の割合の修正は難しいチャレンジになるということを覚えておいてください。
共働き夫婦が離婚時の財産分与で揉めるケース
財産は、離婚後の夫婦それぞれの生活に直結するため、お互いに譲れない点が多くトラブルに発展しやすい側面があります。
例えば、海外への単身赴任の場合、海外では日本の給与体系とは異なる高額所得となる一方、妻は海外には帯同しなかったのですから寄与などないのではないか、という見解となることも少なくないように思われます。
ここでは、特に共働きの夫婦が財産分与で揉めやすいケースを紹介します。
それぞれの収入を自分の口座で管理している
夫婦それぞれの収入から一定の金額を生活費として拠出し、残りを「自分自身が自由に使えるお金」として管理しているケースです。いわゆる、DINKSと呼ばれるこどもがいない共働き夫婦に多いように思います。
この場合、家計が一体化していないため、財産分与の必要性を感じないというカップルが一方にいると揉めることがあります。
基本的に預貯金の口座名義はそれぞれ別だったとしても、財産分与の際には夫婦共有の財産とみなされます。
一方で「自分の口座に入っているお金は自分のもの」との認識は、一般的な感覚といえますが、裁判所の感覚とは異なります。
したがって、財産分与において自分の口座に入っているお金を相手に分け与えなければならないことに対して、納得できない人が多いのです。
夫婦の収入金額に大きな開きがある
日本では未だ男性が正規雇用で働く比率が高く、妻の収入と比べて夫の収入が非常に多いことが一般的です。一方で妻の収入が夫の収入よりも多いことが、珍しくない時代でもあります。
夫婦の収入額の差にかかわらず、法律が考える財産分与の基本は、結婚生活で増えた財産は、2分の1ずつ分け合うというものです。そのため、多くの収入を得ている側にとっては、不公平と感じても無理はありません。また、夫の貯蓄を専ら妻の名義の貯金通帳で貯蓄している場合なども揉めやすいといえるでしょう。
夫婦どちらか大きい収入を得ているほど、トラブルが起きる可能性があります。
夫(妻)の支出が多い
金銭感覚に問題があるパートナーが多額のお金を浪費する反面、自分はあまり支出をせずに貯蓄していたケースです。
浪費したお金の使い道にもよりますが、これまで浪費し続けてきたパートナーに対して散財せずコツコツと貯めてきたお金を渡さなければならない可能性は高いでしょう。
お金を貯めていた側は不公平に感じ、納得できないためトラブルになるのです。ただし、結論からいえば、財産分与は、ストックベースの話であることから、浪費等は、ほとんど考慮に入れられないことが少なくないことから、必要に応じて弁護士に相談されると良いでしょう。
パートナーに財産分与しないための5つの方法
さまざまな事情がある夫婦が離婚するときは、財産分与をしない手段が必要になることがあります。ベースは、お互い合意をするということです。
財産分与に詳しい安藤一幹弁護士は、「収入がお互い変わらない」「自宅を所有していない」「自宅がオーバーローンであること」が、そのような合意に達しやすいとコメントします。また、双方に貯蓄がある場合も、「お互いが牽制し合って、あるいは、お互い財産を持っているため開示をしたくないため分与は不要」「年齢が同じであり、パワーカップルの場合、退職金など資産が変わらない」という場合も、財産分与をしない合意に達する場合があるかもしれないと解説します。
基本的に、調停などのプロセスが進むほど、財産分与請求権の放棄は困難になってゆく印象があります。
ここでは、財産をパートナーに渡さないための5つの方法を紹介します。
①離婚協議書において財産分与請求権を放棄してもらう
離婚協議に入る前に、預貯金や不動産などの財産、ローンや借金などの負の財産についてリストアップしましょう。リストが完成したらパートナーと話し合い、財産分与請求権の放棄について交渉します。
財産分与は、原則プラスの財産を分け合う制度であるものの、実際は、マイナスの財産もあるわけです。したがって、マイナスの財産を引き取ってもらう以上、財産分与は求めないという解決手法はあり得ると思います。
パートナーとの交渉の際は、子どもの親権や離婚の条件なども含めましょう。例えば、こどもの親権や監護をする方が、寄与度に関係なく多くの財産分与を得て、養育費を少なくしてもらうといった協議はあり得ないわけではないと思います。
ただ、これらは離婚協議書を作成することがマストといえるでしょう。
安藤一幹弁護士は、「財産分与はしないという証拠を作り、後々の請求を防ぐため、離婚協議書はマストです。後々蒸し返されて合意が証明できないという例もあります」と指摘します。養育費も単純に上乗せするのではなく、「扶養的財産的分与」という名目であることを明示して上乗せすることにより、公平にも反していないという提案の仕方もあると思われます。
交渉がまとまって合意すれば、合同で離婚協議書を作成します。将来における何らかのトラブルに備え、必要があれば離婚協議書は公正証書にする方がよいでしょう。
公正証書は、近くの公証役場で作成できます。公証役場は公正証書作成や私文書の認定などを行う役場です。実際は、弁護士などに草案を作ってもらい、水面下で準備をしてもらい、当日は判子を押すだけということがほとんどということに注意してください。
②調停において財産分与請求権の放棄を定める
夫婦間においての離婚協議が成立しなかった場合、家庭裁判所に調停を申し立てます。
家庭裁判所での調停では、調停委員と呼ばれる第三者が夫婦の間に入り、話し合いを行います。この話し合いで再度、財産分与請求権の放棄を求めるのです。しかし、実際上は、財産がない夫婦を除いては、調停委員は当然触れてくるとは思われます。
調停でも合意に至らない場合は、離婚裁判へ移行して裁判所からの判決をもって決定されます。
③「特有財産」であると主張する
次のような財産は、財産分与の対象外です。ヒラソルでは、特有財産の主張・立証を得意にしています。
- 結婚前から保有している定期預貯金
- 結婚後であっても、夫婦の協力を必要とせずに取得した相続財産など
- 親族から生前贈与されたり、相続した財産
これらを、まとめて「特有財産」と呼びます。
しかしながら、確かに「特有財産」であるとしても、その「立証責任」は、それを「特有財産」と主張する側にあります。したがいまして、例えば、男性側の相談を受けていると、証拠がないのに、「これは特有財産に決まっている」と断定している方がいますが、証明責任を果たす必要があります。この「立証責任を果たさないと、共有財産とされる」という裁判上のルールをなかなか理解されない方が多いように思われます。
また、給与など、夫婦共同財産の典型ともいえる財産が混じりこんでいる場合、その預金は、特有財産の紐付けを失い、共有財産と判断される可能性があります。
パートナーに財産を渡さないためには、渡したくない財産が特有財産であることを証明できればよいのですが、多くの人が思う以上に、特有財産の要件は厳しく、厳格な証明が求められています。
特有財産であることを証明できなかった場合、その財産は共有財産とみなされて財産分与の対象とされます。
なお、特有財産の果実は、原則として、特有財産となりますが、婚姻後に特有財産を運用して利益を得た場合は単なる果実とは異なります。つまり、運用という経済的活動によって得られる利益であるから、運用という活動に夫婦の協力が認められる場合は、その利益には、夫婦双方の寄与が肯定されます。
例えば、家業を相続してこれを継続して経営した場合や不動産賃貸業に、妻が管理を手伝った場合は特有財産の果実といっても、一定の寄与は認められる場合もあるのです。
とはいうものの、まずは、「特有財産」の主張が重要です。
そもそも、アドホックに「寄与度」を争うよりも、特有財産性があることを主張しつつ、最終的には寄与度の問題として考慮を求めるということもあり得ます。つまり、特有財産は、基準時に存在していたことが立証されなければなりませんが、婚姻期間が長いカップルは簡単なことではありません。特有性を失ったと評される場合でも、特有財産をかつて有したことを認めることができれば、寄与割合として考慮を求め、これが難しくても一切の事情として考慮を求めることが可能な場合があるとされています(東京高裁令和4年3月25日判タ1510号200頁)。そこで、預貯金について、取引履歴が必要になることはあり、少なくとも離婚時における額は明らかにする必要があります。
④「パートナーの浪費のため共有財産が減少した」と主張する
パートナーによる著しい浪費や使い込みが原因で共有財産が減少したケースでは、財産分与割合を修正できる可能性があります。もっとも、このような主張は、あまり効果的な主張といえるか不明ですので、弁護士に依頼している場合は弁護士と相談したうえで、慰謝料など適切な場面で主張することも考えられるでしょう。
財産分与に詳しい安藤一幹弁護士は、「浪費の主張は、直ちに財産分与で効果的な主張とはいえない」と指摘します。
たとえば夫がパチンコや競馬などのギャンブルにのめり込み、生活資金にまで手をつけていた一方で、妻は堅実に貯蓄をしていたケースです。このようなケースでは無駄な出費をせずに妻がコツコツと貯めてきた貯蓄の半分を、法律が求める通り浪費癖のある夫に分配することは不公平です。
もっとも、財産分与は、「有責性」は基本的に問いませんから、最終的に、「一切の事情」として、夫の浪費と共有財産減少との関係性を証明できれば、財産分与割合を修正できる可能性がないわけではないですが、ハードルは高いと理解しておきましょう。
⑤「特殊な技能によって築いた財産」であると主張する
スポーツ選手やタレント、医師など、一般的ではない特殊な技能を有しているケースです。
もっとも、医師は、人口も多く、医師の妻の離婚で2分の1ルールを全て修正するわけにはいきません。もとより、大学病院に努める意思はそれほど高額な年収ではありません。開業医や自由診療などで実業家のような医師に限定されると考えられることがあり、誰でも修正できるわけではありません。
ヒラソルでは、医師の離婚、刑事、医道審議会弁護を多く扱っているため、こうした事情に精通していますので、医師や医療従事者の方は、是非、ヒラソルにご相談ください。医師の弁護に詳しい安藤一幹弁護士は、「開業医の場合は寄与度の主張が効果的な場合がある」と指摘します。
他方、大学病院に務めている医師などは、「能力の主張や自らの能力で貯蓄を高めた」といえると指摘します。ただ、安藤一幹弁護士は、勤務医の場合「八桁万円クラスの財産分与の可能性に渡る場合が少なくないので、ディフェンスの弁護士が必要です」と語ります。
このケースでは財産はこの技能を使って築いたものであると主張できるかもしれませんが、局所的に、今が儲かっているからというのはダメです。誰でも下積みがあり、それを支えてもらっていたなどの事情がないかなど全体的な検証が欠かせません。
もとより、裁判所は、財産分与割合を修正するというアプローチでの解決を好まないことを理解しておいてください。
夫婦間の収入の差が大きいほど、修正が認められる可能性が高くなるという見解もありますが、実務的感覚とは異なるように思われます。
また夫婦で会社を経営するケースにおいても、夫か妻が持つ高い経営能力によって財産を築いた場合は財産分与割合の修正が認められる可能性があるでしょう。
実際は、所得税を節約するため、妻も役員にして報酬を分けていたという事例などがあるように思われます。財産分与割合の修正にこだわらず、最善の一手を検討いたします。
財産分与時に財産を隠してはいけない理由
離婚時にパートナーに財産を渡したくないとの思いから、財産分与から逃れる目的で財産を隠す人がいます。現在も、調査嘱託制度が裁判所にあることから、一定の財産調査は、裁判所を通してすることができます。したがって、財産隠しがバレたリスクも少なくないといえるでしょう。財産隠しの場合は、公平の観点から制裁的な認定を受ける可能性がないとはいえません。
例えば、他方当事者の口座について過去のコピーがある場合、これら口座の利用目的、給与の入金額、固定的経費の額などが判明し、これに基づいて申立人当事者が推定して主張した基準時の額についての預金の存在を一切の事情を考慮し認めた例として、大阪高等裁判所令和3年1月13日家判38号64頁があります。
このように、財産隠しをしている場合は、申立人当事者が推定して主張した基準時の額についての預金の存在を認定される可能性も出てきます。
流石に、自ら財産隠しをしておきながら、推定値が誤っているという主張が上級審で受け入れられることはなかなか乏しいようにも思われます。
夫婦共有の財産を隠すことは非常にリスクが大きく、やめておいた方がよいでしょう。
今後は、隠された財産がある場合、財産分与のやり直しを求められることも出てくるでしょう。今後は、おそらく法改正で、財産の開示を義務付けていくという方向性になっていくのではないでしょうか。
例えば、養育費が不払いになり、財産開示を申し立てられた結果、隠し財産が発覚してしまったということはあり得ることです。
財産隠しによく使われる方法
財産隠しでよく使われる方法は、次のようなものです。
- 預貯金やタンス預金などを、新しく作った隠し口座に移す
- パートナーに伝えずに不動産を購入し、自分名義にする
- 貴金属に変えて保有する
- 現金のままでどこかに隠しつつ保有する
- 別居前に巨額の預金を引き出して、行方不明にする
いずれもよく使われる手口であり、隠し通せる可能性は低いでしょうし、最終的な清算が求められる可能性があります。
隠し通すことは非常に難しい
銀行口座にある預金やその入出金記録などは、弁護士会照会や裁判所へ申し立てる調査嘱託などにより強制的に開示される可能性があります。そのため、銀行口座の情報を隠し通すことは合理的範囲では不可能です。
離婚から2年以内(法改正後5年以内)に財産隠しが発覚した場合、財産分与を正しくやり直さなければなりません。また2年(5年)を過ぎていても財産隠しが不法行為と認められる可能性もないとはいえないでしょう。
不法行為として損害賠償を請求される可能性がある
財産隠しは現状、犯罪ではありませんが、民事上の不法行為として損害賠償(慰謝料)請求される可能性があります。また、民事執行法上の財産開示について刑罰と紐づけられていることを考えると、財産分与の2分の1ルールが定着し、かつ、財産開示における財産隠しは反道徳的と評されていることに照らすと、いわゆる証明妨害法理の適用を受けられる場面とも考えられ、社会情勢は厳しくなっているといえるでしょう。
財産隠しはバレる可能性が高く、不法行為と認められれば財産隠しを知られた3年以内ならば損害賠償請求される可能性があります。例えば再婚後に訴えられることもあります。裁判になれば、社会的に受けるダメージも大きなものになるでしょう。
少しでも財産隠しを考えている場合は、やめておいた方が賢明です。
財産分与を有利に進めるには弁護士への相談がおすすめ
夫婦共働きでは、離婚時に自分の財産をパートナーに渡したくないと考えるケースがあります。
一方で共働きであってもそうでなくても、財産分与のルールに変わりはありません。
最近は、女性が男性に金銭を渡したくないため、揉めるケースもあります。
ただし、いくつかの方法を取れば、渡す財産を少なくできる可能性があります。ここは、弁護士の能力に左右されるところといえるかもしれません。オフェンスにも、ディフェンスにも効果的な財産分与弁護が必要となります。
個人でさまざまな施策を行うには非常にハードルが高いため、早めに財産分与に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。
悩むよりも、まずはお気軽に無料相談をご利用ください。
名古屋駅ヒラソル法律事務所では、財産分与に強い離婚弁護士が親身で充実かつ迅速な対応を行います。ヒラソルでは、こうした財産分与に強い法律事務所として、強みを発揮しております。