最三判令和6年3月26日判決が同性パートナーの犯罪被害にも遺族給付金を認める判決―最高裁が社会権で同性パートナーを事実婚として承認する歴史的判決

最判令和6年3月26日第三小法廷が犯給法で同性婚を事実婚として承認する画期的判決

 

シュシュ:今回の判決は、いわゆる同性婚判決とは異なるみたいだけど、重要な意味合いがあるの?

弁護士:うん。「内縁」って分かる?

シュシュ:社会的実態としては夫婦であるけど、婚姻届は出していない夫婦のことだよね。

弁護士:最高裁は、内縁を保護する法理を発展させてきたのだけど、当然、それは、「男女」を前提にしていたものであるけど、社会的実態としては夫婦であるけど、婚姻届は出していないのは、同性カップルも一緒なんだ。

シュシュ:同性婚が認められる以前に、「内縁関係」として最高裁の法理で、同性婚のパートナーに一定の保護を与えてしまえば、法制度がなくても内縁という媒介律を経て保護を与えられるのではないか、とも考えられるんだ。

弁護士:そして、実は、社会権を規定した法令の多くに明文に内縁の妻を保護するという行政法が日本にはたくさんあるんだ。だいたい行政法の文言は、「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」と規定されており、文言上男女を前提とする縛りは憲法24条1項と異なり存在しないんだ。

シュシュ:そうなんだ。社会権って、アメリカでもなかなか認められなかった分野だよね。

弁護士:うん。いわゆる同性婚訴訟は、男同士、女同士の結婚を民法が制限しているのであるから、市民の自由を国家が規制しているから「自由権」の文脈で語れるのに対して、今回の犯給法は「社会権」の文脈で語れるんだ。

シュシュ:名古屋地裁や名古屋高裁の判決は、社会権ながら、さながら朝日訴訟や堀木訴訟を想起する最悪な差別的判決だったね。

弁護士:同性であれば、死んでも精神的打撃を受けることはないという名古屋高裁の説示は基本的な人権感覚が全くないというべきですね。

シュシュ:今回の判決のインパクトはどれくらいあるのかな?

弁護士:繰り返すけど、社会権を規律した行政法に、「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」という文言が使われている法律は枚挙に暇がないんだ。

社会権の文脈に限らずとも、例えば、厚生年金保険法における遺族厚生年金の受給権(同法第3条第2項)、労働者災害補償保険法における遺族補償年金の受給権(同法第16条の2)、公営住宅法における入居の際に同居した親族(同法第2 7条第5項)、犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律における遺族給付金の受給者資格(同法第5条第1項第1号)、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律における対象者(同法第1条第3項)、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律における受刑者の処遇(同法第45条)などが挙げられるね。

シュシュ:正直、日本では、同性婚の議論が国会でできないから、「行政運用」でこれらの法律を変えてしまえば、行政解釈で同性婚を事実上作り上げることができ、同性パートナーが「内縁」という媒介律を経て保護されることになるね。

弁護士:本判決は、その試金石になる判決であって、波及効果が大きいと思うんだ。そして、憲法ではなく、行政法総論を勉強している法律家が少ない日本において、行政法の目的に沿って目的論的解釈を展開するお手本ともいえる判決で、今後の行政救済で争う場合のお手本のような裁判なんだ。

シュシュ:本件では、話題の宇賀克也裁判官がおそらくメインストリームと思われる立場だね。

弁護士:第三小法廷に係属したのはラッキーだったね。宇賀裁判官は、行政法のテキスト主義からいっても妥当だという論旨を詳細に補足すべきだったと思われ、行政法学者でありながら行政法総論が問題になっているにもかかわらず、補足をしなかったのは残念と言わざるを得ない。いや、むしろ期待された職責を放棄したともいえる。まあ、宇賀さんは行政法総論はイマイチな学者ではあるが。

シュシュ:そうなの?

弁護士:宇賀さんは行政救済法の学者というイメージが強いからね。一応総論の教科書もあるよ。

宇賀、渡邉、林の三裁判官はLGBTQに好意的な投票行動をしている。他方、今崎裁判官は保守的だね。第三小法廷には外交官出身が配転されるので、石兼公博最高裁裁判官がどのような投票をするか分からないけど、前任の長嶺裁判官もLGBTQに否定的態度はとらなかったんだ。長嶺判事は、任期が短すぎて「お客さん」という感じだけどね。

シュシュ:長崎県大村市は、本判決に影響を受けたものと考えられるね。

弁護士:うん。内縁か否かは、住民票で、「妻(未届)」と職権で記載することができるんだね。大村市は、男性同士のカップルについて、住民票の続き柄について「夫(未届)と職権で記載したんだ。NHKの報道によると、令和6年5月2日、Aさんを世帯主、Bさんを夫(未届)を大村市が職権で記載していたんだ。

シュシュ:大村市にはパートナーシップ制度があるとはいえ、異例だよね。

弁護士:内縁は、戸籍法上の届出ができない場合に、住民基本台帳法上の届出をしていることが証拠の一つになるから、このような続き柄記載が認められると、本判決の適用を受けやすくなるよね。もっとも、住民票は本来総務大臣が権限を持っている法定受託事務だから、第一義的に大村市長が職権で判断しても、総務大臣が書き換えてしまう可能性があるが、そこまでやるのかは一つ問題となると思うよ。

長崎新聞の要旨は以下のとおりだったよ。長崎新聞によると、ABさんは①Bさんは性的傾向を巡って中学生のころから苦しんでいた、②大学生のリベラルな雰囲気にBさんは救われたが社会人になって保守的な雰囲気に飲み込まれた、③Bは、上司が「ゲイとかマジで許せない」と発言しているのを聴き退職した、④ABは交際を始めたが一方の病状の説明に他方の同席を拒否された、⑤ABは神社が同性愛者に否定的な言動を採っていると知り神前結婚式の申込みを30件の神社に申し込んだが全て断られた、⑥地元の小さな神社のみが引き受け神前結婚式を挙げた、⑦Bはカミングアウトしていたため親族や同僚が駆け付けたがAはカミングアウトをしていないためA側の出席はなかった、⑧Aは異性愛者を演じるのに疲れたと語る、⑨Aは挙式後両親にカムアウトしたところ好意的な反応だった、➉Bの母親は同性愛者に嫌悪感を示しAに「あんたのせいで台無しだわ」などと述べた。⑪居住移転の自由についてもパートナーシップがある自治体に限られていると推察される―など逆境そのものだね。

シュシュ:神様もひどいけど、日本は八百万の神というように、救いを与える神社があって良かったね。でも「神前結婚式」にトライしたのは好感持てる。こうして人権は勝ち取られていくんだね。キリスト教も同性婚には差別的ではある。でも、Bさんと日本の一部の神様に言っておきたいけどさ。

コナンも「劇場版名探偵コナン沈黙の15分(クォーター)」で、以下のようなセリフをいっている。当事者の立場に立たないとダメだね。「そこまでだ!二人ともそれ以上言うのはやめろ」「一度口から出しちまった言葉はもう元には戻せねえんだぞ」「言葉は刃物なんだ」「使い方を間違えるとやっかいな凶器になる」「言葉のすれ違いで一生の友達を失うこともあるんだ」。名古屋高裁の言葉は遺族を刃物で傷付けるものでひどすぎる。

また、大村市のケースでは、Bさんのお母さんや一部の神様は是非、コナンの率直な指摘を見て考えて欲しいね。

弁護士:名古屋高裁の裁判官は、コナンくんのセリフに何を思うんだろうね・・・。僕等は、「永遠の大学院生」として、本件判決の「波及効果」に期待しまし。

また、長崎県大村市に敬意を表したい。大村市の園田裕史市長は、職権の行使について、令和6年6月5日、「我々が対処した内容が他の自治体でも理解され、同様の対応をしようとしている」と記者会見で述べています(朝日新聞社令和6年6月5日付記事)。このような発言からは、大村市長の職権の行使は問題提起を含む意図があったものと考えられます。

2.判決の要旨

犯給法は、目的規定が置かれ、犯罪被害者等給付金を支給すること等により、犯罪被害等(犯罪行為による死亡等及び犯罪行為により不慮の死を遂げた者の遺族が受けた心身の被害をいう。以下同じ。)の早期の軽減に資することを目的とするものとされた。

その後、平成16年に、犯罪等により害を被った者及びその遺族等の権利利益の保護を図ることを目的とする犯罪被害者等基本法が制定され(同法1条)、基本的施策の一つとして、国等は、これらの者が受けた被害による経済的負担の軽減を図るため、給付金の支給に係る制度の充実等必要な施策を講ずるものとされた(同法13条)。

そして、犯給法は、犯罪行為により不慮の死を遂げた者の遺族等の犯罪被害等を早期に軽減するとともに、これらの者が再び平穏な生活を営むことができるよう支援するため、犯罪被害等を受けた者に対し犯罪被害者等給付金を支給するなどし、もって犯罪被害等を受けた者の権利利益の保護が図られる社会の実現に寄与することを目的とするものとされた(同法1条)。

また、犯給法の各改正により、一定の場合に遺族給付金の額が加算されることとなるなど、犯罪被害者等給付金の支給制度の拡充が図られた。

以上のとおり、犯罪被害者等給付金の支給制度は、犯罪行為により不慮の死を遂げた者の遺族等の精神的、経済的打撃を早期に軽減するなどし、もって犯罪被害等を受けた者の権利利益の保護が図られる社会の実現に寄与することを目的とするものであり、同制度を充実させることが犯罪被害者等基本法による基本的施策の一つとされていること等にも照らせば、犯給法5条1項1号の解釈に当たっては、同制度の上記目的を十分に踏まえる必要があるものというべきである。

犯給法5条1項は、犯罪被害者等給付金の支給制度の目的が上記のとおりであることに鑑み、遺族給付金の支給を受けることができる遺族として、犯罪被害者の死亡により精神的、経済的打撃を受けることが想定され、その早期の軽減等を図る必要性が高いと考えられる者を掲げたものと解される。

そして、同項1号が、括弧書きにおいて、「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」を掲げているのも、婚姻の届出をしていないため民法上の配偶者に該当しない者であっても、犯罪被害者との関係や共同生活の実態等に鑑み、事実上婚姻関係と同様の事情にあったといえる場合には、犯罪被害者の死亡により、民法上の配偶者と同様に精神的、経済的打撃を受けることが想定され、その早期の軽減等を図る必要性が高いと考えられるからであると解される。

しかるところ、そうした打撃を受け、その軽減等を図る必要性が高いと考えられる場合があることは、犯罪被害者と共同生活を営んでいた者が、犯罪被害者と異性であるか同性であるかによって直ちに異なるものとはいえない。

そうすると、犯罪被害者と同性の者であることのみをもって「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」に該当しないものとすることは、犯罪被害者等給付金の支給制度の目的を踏まえて遺族給付金の支給を受けることができる遺族を規定した犯給法5条1項1号括弧書きの趣旨に照らして相当でないというべきであり、また、上記の者に犯罪被害者と同性の者が該当し得ると解したとしても、その文理に反するものとはいえない

以上によれば、犯罪被害者と同性の者は、犯給法5条1項1号括弧書きにいう「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」に該当し得ると解するのが相当である。

3.事案の概要

X(男性)は、平成6年頃にA(男性)と交際を開始し、その頃からAと同居して生活していたところ、Aは、平成26年12月22日、第三者の犯罪行為により死亡した。

Xは、Aの死亡について、Xは犯給法5条1項1号括弧書きにいう「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」に該当すると主張して、遺族給付金の支給の裁定を申請したところ、愛知県公安委員会から、平成29年12月22日付けで、Xは上記の者に該当しないなどとして、遺族給付金を支給しない旨の裁定を受けた。

本件は、Xが、Yを相手に、上記裁定の取消しを求める事案である。

原審の名古屋高裁は、「民法上の婚姻関係と同視し得る関係を有しながら婚姻の届出がない者も受給権者とするものであると解される。そうすると、同号括弧書きにいう『婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者』は、婚姻の届出ができる関係であることが前提となっていると解するのが自然であって、上記の者に犯罪被害者と同性の者が該当し得るものと解することはできない」として同性愛者は事実婚に該当しないと判示した。これに対する上告審が本件である。(林道晴裁判官補足意見、今崎幸彦裁判官反対意見がある。)

 

4.判例を読む―犯給法同性事実婚判決を読み解く。

本件は、プラグマティズムに基づく解釈を展開しているわけではなく、テキスト主義からいっても十分妥当性を証明できる判決であり、行政解釈上の違和感もない。それだけ世間が思う程、行政法の内縁への解釈は進んでいる。その実態は、名古屋地裁や名古屋高裁も見逃していたことである。

同性婚に関連して憲法上の社会権に関連する裁判は珍しく、また、最高裁が同性でも事実婚はあり得るし、文理上も是認できるとしている点で注目に値する。

いわゆる同性婚訴訟は、自然権においてパートナーの結びつきはあり得たので、立法が異性婚のみを制度化していることは憲法上の少数者の結婚の自由の侵害と考えられる。

これに対して、本件では、遺族給付金の支給という憲法上の社会権が問題となっている。

憲法が性的自己決定権を保障している以上、その性的指向性もまた個人の自由であり、異性としか婚姻できないとして同性婚を否定すべき理由に乏しく憲法24条に反するというのは、自由権的側面をいうものである(松井茂記『日本国憲法第4版』476条(有斐閣、2022年)。

したがって、憲法上、やむにやまれない政府利益を達成するために必要不可欠な規制以外許されないというのが憲法理論として自然かつ合理的である。(前掲松井479頁)。

しかしながら、我が国の最高裁は、社会権となると広い行政裁量ないし立法裁量を認める。朝日訴訟(最大判昭和42年5月24日民集21巻5号1043号)において問題を裁量論で捉える方向を示唆した。そして、傍論ではあるが「何が健康で文化的な最低限度の生活かについては、生活保護法はその認定判断を厚生大臣の裁量に委ねており、本件の事実関係では裁量権の逸脱・濫用があったとはいえない」とされている。

また、堀木訴訟(最大判昭和57年7月7日民集36巻7号1235頁)では、「憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ない場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄である」とされた。

このように、憲法論では社会権は、通常審査が緩められてしまうことが多かった。これは、アメリカでも同じであり、同性婚を認める法制が採られていた州があったとしても、社会保障給付金の整備は遅れており、連邦遺産税の控除、公務員配偶者の医療手当、軍人配偶者の医療手当や歯科保健、住宅割引や遺族補償年金の整備が遅れていたのである。

アメリカでは、これを指して、後に連邦最高裁が違憲判決をした「DOMA」(結婚防衛法、結婚は男女のものであるという連邦法)は差別的であり強制し難いが、金銭的給付が関連すれば話は別になる、と指摘して、政府が同性婚の社会的保障の給付に後ろ向きなのは「富のあるところに心があるからである」という聖書の言葉を引用し反論される例もあったようである。

本件判決は、行政法の制定法の解釈の問題として目的論的に処理して、同性婚の社会権的側面に目を向けたと考えられる点で、注目に値する判例といえる。

5.今崎裁判官反対意見―今崎裁判官は名古屋高裁のように差別主義だから反対したのではないこと。

今崎裁判官反対意見は、国家を運営する以上、予算を心配して反対意見を附したものである。

朝日新聞が指摘するとおり、同種立法は、200あるといわれているため、同性パートナーが全て包含されると考えると、予算的措置を考える必要があると指摘するものである。

しかしながら、予算を理由とするのは、悪名高き昭和の不適切にも程がある「全農林警職法事件」(最大判昭和48年4月25日)と同じ論理であり時代錯誤である。

もちろん予算は大事であるが、予算を理由に憲法上の人権制限を正当化することはできない。しかも、本件判決は犯給法にしか射程距離が一応及ばないと解釈されるから、直ちに首肯することはできない。

ただし、今崎裁判官が懸念することを前提とすると、今崎裁判官反対意見は、本件判決の射程距離は林道晴裁判官補足意見が指摘することとは異なり、200ある行政個別法の「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」の文言解釈として広く射程が及ぶと考えているのではないかとも思われることも注意して読まなくてはならない。

地球市民は、200ある行政個別法についても諦める必要はないという希望の反対意見ということもできよう。

6.名古屋地裁、名古屋高裁の人権感覚の欠如―今崎裁判官ですら避けた論理

今崎裁判官反対意見は、名古屋地裁、名古屋高裁とは論旨が異なる。名古屋地裁は、民法の不法行為では事実婚に同性婚は含まれるとした宇都宮地裁真岡支部令和元年9月18日、東京高裁令和2年3月4日がある。つまり、民法上は既に同性パートナーでも内縁ないし事実婚の保護があるとの判決が存在している。

ところで、名古屋地裁、名古屋高裁は、公的な給付を受ける「配偶者」は限定解釈しなければならないとした。

なぜ「限定解釈」をしなければならないのか趣旨は不明であるが、我が国では、同性婚については共同生活関係を婚姻関係と同視し得るとの社会通念は形成されていないなどとしており、ほぼ「性的指向」で差別的な判決を出したものと酷評することができよう。

名古屋高裁も名古屋地裁とほぼ同趣旨の差別的判決であり、犯罪被害者等給付金においては事実婚は異性間の関係のみしか対象にならないと断じた。とりわけ厳しい非難を免れないのが名古屋高裁判決である。

7.名古屋高裁の呆れた論理―同性パートナーは殺されても精神的打撃はなし。

 名古屋高裁の論旨は法律家として甚だ遺憾と述べる外ない。名探偵コナンも驚きの「言葉は刃物」判決である。裁判官の名前は記しておかなくてはならない。裁判長永野圧彦、右陪席裁判官前田郁勝、左陪席裁判官真田尚美である。残念な裁判官たちである。彼らはコナンに学ぶべきであろう。

憲法14条違反の論旨に対しては、犯罪被害者給付金は見舞金であり権利ではないこと、立法府に広い裁量が認められるとした。そして、同性パートナーが殺害されたからといって精神的苦痛を被る社会的意識が醸成されていないから不合理な差別とはいえず憲法14条1項には違反せず合憲とした。

しかしながら、名古屋地裁は社会権だからといって当然に事実婚の範囲が狭くなることの論証に成功していない。

また、名古屋高裁は、同性婚は認めないというもはや信念の下、そもそも犯給法の目的規定の法令解釈に誤りがあることは明らかであって、行政法解釈の基本的な作法に違反しているように思われる。また、行政法の解釈においても、犯給法は権利を国民に授けた行政個別法であるにもかかわらず「権利や法的地位を具体的地位を基礎づけるものではない」など支離滅裂というしかなく、行政法総論に無知と言わざるを得ない。28ページに及ぶ長ったらしい判決であるが、なんてことはない。「AかもしれないしBかもしれないしCかもしれないけど国民感情からDにします」という司法試験における落第答案の典型である。

本決定が述べるように、たとえ同性同士の事実婚であっても犯罪被害者の死亡により、民法上の配偶者と同様に精神的、経済的打撃を受けることが想定され、その早期の軽減等を図る必要性が高いとするのは、犯給法の立法の目的に沿うもので、このこと自体は、今崎裁判官反対意見ですら名古屋地裁の事実婚の範囲は社会権なら当然狭くなるとか、名古屋高裁の判旨(同性パートナーが殺害されても精神的苦痛を被るという社会通念は醸成されていないという非常識な論理)の論理を否定した。

予算を持ち出すのは、ある意味立法担当者の本音が垣間見れるものといえる。だが、予算を理由に基本的事件を侵害しても良いという「全農林警職法事件大法廷判決」の論理を持ち出すことは国民感情が許さないというべきである。

今崎反対意見は、「犯罪被害給付制度については、ややわかりにくい説明との印象をぬぐえないのは、犯罪被害給付制度が政策的色彩の強い制度であり、それゆえに国の一般会計に財源を求める給付金も特殊な意味付けがされている」と述べる。

そのうえで、今崎反対意見は、生活保障という観点から検討し、「犯罪被害者の収入によって生計を維持していた子らは同性パートナーに劣後し、支給対象から外れることとなる」といった不都合性などを主張したり、同性パートナーには、犯罪被害者として加害者に対する損害賠償請求権を有しないと主張したりするが、いずれも牽強付会との印象を持つ。

そして、今崎裁判官の本音は「予算」にあるのではないかと思われる。すなわち、今崎反対意見は、他法令の社会権的立法の解釈運用への波及する恐れを指摘する。

すなわち、犯給法5条1項1号の「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」と同一又は同趣旨の文言が置かれている例は少なくないが、そうした規定についても、同性婚が事実婚として保護するのは相当ではないとすると述べている。これは正しくかつてのアメリカの議論の繰り返しといえよう。

8.判決の要旨

林道晴裁判官補足意見は、今崎裁判官反対意見を反駁するものである。

「事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」の解釈は、その文理に加え、遺族給付金等の犯罪被害者等給付金の支給制度の目的を踏まえて行えばよく、あくまで同制度の目的は、犯罪行為により不慮の死を遂げた者の遺族等の精神的、経済的打撃を早期に軽減するなどし、もって犯罪被害を受けた者の権利利益の保護が図られる社会の実現に寄与することにあるのであり、犯罪被害者等基本法における同制度の位置付けや同制度が上記目的を達成するために拡充されてきた経緯等に照らしても、同制度の目的は重要というべきであって、これを十分に踏まえた解釈をすべきと補足する。

その限りでは、今崎反対意見の射程距離が広がり過ぎるという見解を否定し、また、反対意見は、Xが民法上の不法行為債権を加害者に持っていないことを批判する点については、そもそも公法上の請求権である以上、民法の賠償請求権と一致する必要はないし、しかも本件の場合、Xは加害者に民法上の不法行為の慰謝料請求はできるから前提からして誤りと反駁した。

そして、行政法の解釈は、個別法の目的に応じて、上記文言と同一又は 類似の文言が用いられているからといって、当該規定に係る制度全体の趣旨目的や仕組み等を踏まえた上で判断されるべきものであり、今崎反対意見は杞憂であると指摘した。保守的な反対意見を「杞憂」と断じる林道晴裁判官補足意見は、その射程論にいささか賛同できないところがあるが、その趣旨とするところには傾聴に値するものがある。

9.学説の理論的状況

社会保障制度における「配偶者」の定義に同性カップル当事者を含めて解釈することができるということが可能であるという見解がある。

本件決定は、法令の目的論や仕組みに着目したが、実質的にこれら解釈の影響を受けたものということができよう(増田幸弘「社会保障とジェンダー」社会保障法研究7号140頁、濱秦芳和「LGBTの社会保障・生活保障の賢首と法的支援の課題」市民と法108号16頁)。

朝日新聞社は令和6年3月28日の社説で、今崎裁判官反対意見に抗して「同様の表現で事実婚パートナーも対象にしている法制度は、遺族年金、労災の遺族補償年金をはじめ200以上ある」と指摘し、「同性パートナーを漏れなく対象から除外する実務は判決に照らして許容されない」と指摘した。同趣旨を述べるものとして、令和3年2月18日付日弁連「同性の者も事実上婚姻関係と同様の事情にある者として法の平等な適用を受けるべきことに関する意見書」が参考になる。

東京新聞社は令和6年3月27日の記事で、「京都産業大の渡辺泰彦教授(家族法)は『そもそも同性であるために婚姻外の関係を法的に不利に扱うことは平等権に反する』と指摘。「他の法令を巡り、今後、国や公的機関は、異性と同性を区別する合理的な説明や制度設計の再考を求められる。ドミノ倒しのように、解釈が見直されていく可能性は十分にある」とみるとの有識者の見解を紹介しています。

 

社会保障給付に関する法律で同性婚に関連する議論が取り上げられたのは本件が初めてであるのである。今後、社会保険の被扶養者、遺族年金の受給者に同性パートナーが含まれるのかなどの試金石として、今後、一定の実務上の参考になると思われる。

10.犯給法事件の今後の展開

本判決は破棄差戻しになっているので、本書が執筆された令和6年GW前の時点において名古屋高裁判決は出ていないと思われる。

攻防の舞台は「内縁関係にあったか否か」という事実認定を巡って、名古屋高等裁判所に移ることになる。

なお、共同通信の報道によると、松村祥史国家公安委員長は、令和6年4月9日の参院内閣委員会で、本判決を受け、同性パートナーも「犯罪被害者給付金」の支給対象に該当し得るとの対応をするよう警察庁を通じて都道府県警察に対応を求める通知を出したと答弁している。

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