高裁は同性婚違憲で出揃う―大阪高判令和7年3月25日、名古屋高判令和7年3月7日で出揃う
大阪高裁、合憲とした原審を覆し違憲、名古屋高裁、二級のシビルユニオンでは足らず婚姻を認めよ
シュシュ:日本の5つある高等裁判所で、婚姻を異性同士に限っている民法が憲法違反であるということで出揃ったね(札幌高判令和6年3月14日、東京高判令和6年10月30日、福岡高判令和6年12月13日、大阪高判令和7年3月25日、名古屋高判令和7年3月7日)で出揃ったね。
第九の弁さん:シュシュは印象深い判決はあったかな?
シュシュ:一番最初に違憲判決を出した札幌地裁令和3年3月17日のロジックと、香港での違憲判決と同じロジックを使った保守的な名古屋地判令和5年5月30日のロジックかな。これらは、最高裁でも考慮の対象にされると思うよ。
第九の弁さん:札幌地裁は、「同性婚」を新しい憲法問題として割り切り憲法14条1項で処理して、「新しい人権に対する処理アプローチ」を示したことも含め、多くの高裁が憲法14条1項を持ち出す影響を与えた判決だったね。
シュシュ:弁護団が凄いのは、「邪悪」な名古屋地判令和5年5月30日の「二級市民としての連帯契約」を認めれば合憲というロジックをいっせいに高等裁判所でつぶしにかかったことだね。高裁判決がまともなものが多いのは、名古屋地判令和5年5月30日を認めない、法律婚を同性婚にも認めなければダメであるという強い意思の表れかなと思いました。
第九の弁さん:面白いのは、高裁の裁判官が、名古屋地判令和5年5月30日という「問題作」をどのように潰していくのか苦悩の後が見られることですね。名古屋地判の背景には唯一合憲とした大阪地判令和4年6月20日判時2537号40頁のように、同性カップルには自己実現を図るため婚姻を望む権利はないとしたわけですが、名古屋地判も根底では同性カップルは「二級の市民」として差別して良いという差別意識が流れているわけです。
シュシュ:改めて思うけど、「自己実現」というマジックワードで子なき異性婚は正当化するけれど、同性婚はダメというのは本当に憲法に詳しくない裁判官だったんだね。大阪地判は。厳しい批判を免れないと思います。
第九の弁さん:そもそも区別の合理性は、同居義務、共同親権、法定相続分の設定など、それぞれの効果ごとに個別的に検討されるべき問題であり、大阪地判みたいに、「生殖と無関係だから」といわれても合憲の理由(違憲性阻却理由)として豪も響くところがありませんね。
シュシュ:名古屋地判は、民法について「国の制度によって公証し、その関係を保護するのに相応しい効果を付与するための枠組みすら与えられていないという限度」で違憲にしたに過ぎないんだ。つまり、「二級の市民契約法」を作れば同性婚がなくても合憲という異色の筋であったんだ。
第九の弁さん:つまり、高裁では、①法的効果に関係なく、「同性同士だから」という理由で、同居義務、共同親権、法定相続分の設定や社会保障などについて差別して良いのかというところに大阪地裁のおかげで光が当たり、②全ての高裁が名古屋地判の「二級の市民契約法」を認めれば合憲という筋を否定して、それぞれの論拠で違憲論を展開しました。
打ち上げ花火のように度肝を抜かれたのが、正面から、憲法24条1項の「両性」に同性カップルも該当するから婚姻を認めなければ違憲である、とストレートに打ってきたのが札幌高判令和6年3月14日だった。この判決の意図は同性カップルも「両性」であるから、法律婚を認めなければ違憲であり、「二級の市民契約法」を認めても違憲であることに変わりはないということだったんだ。
もう一つとても美しかったのが、「初手天元」と評される福岡高判令和6年12月13日だった。憲法13条の個人の尊重や幸福追求権は人権カタログの先頭であるから「憲法上の婚姻権」が同性婚にも認められているから違憲であると論じたんだね。
シュシュ:かまびすしいけど、多くは札幌地裁のアプローチを採用しているね。
弁護士:うん。憲法14条1項と憲法24条2項違反だね。それだけ、世界に衝撃を与えた札幌地裁の最初の違憲判決が、ロジカルで論争的主題を回避して巧みで説得的だったんだろうね。個別的な理由付けは少し違いますが、東京高判令和6年10月30日、福岡高判令和6年12月13日、大阪高判令和7年3月25日、名古屋高判令和7年3月7日は、概ね札幌地裁のアプローチと同じと評して差し支えないと思います。
第1大阪高判令和7年3月25日令和4年(ネ)第1675号判例集未登載
1 決定要旨
民法の諸規定のうち、婚姻当事者を異性同士であることを婚姻の要件とし、異性婚についてのみ婚姻の手続等を定め、婚姻の法的効果を異性カップルのみが享受することができることとする本件諸規定は、憲法14条1項及び24条2項に違反する。
2 事案の概要
本件は、同性の者との婚姻届を提出したが受理されなかった控訴人が、国に対し、婚姻に関する民法及び戸籍法の諸規定が同性同士の婚姻を認めていないことは憲法13条、14条及び24条に違反するとして国家賠償請求を行ったものである。
3 判決の要旨
本件控訴を棄却する。
4 解説
⑴ 合憲と判断した大阪地裁判決を覆して、憲法14条1項及び憲法24条2項違反としている。
⑵ 札幌高判令和6年3月14日服部勇人「■最近のLGBTQをめぐる判例について」愛知県弁護士会研修センターVol47家族法研究2024年5月号)が、憲法24条1項には同性婚も含まれると判断したが、大阪高裁は、憲法24条1項が直ちに同性間の自由を保障されており、同性婚の法制化を要請するものではないとした。
⑶ また、憲法24条を媒介項とするべきであり、憲法13条により同性婚を保障するのは適切ではないとした。
⑷ そのうえで、憲法24条2項との関係で「同性婚を許容しない本件諸規定は、性的指向が同性に向く者の個人の尊厳を著しく損なう不合理なもの」とした。
⑸ さらに、憲法14条1項との関係で、「子を持つことやその可能性があることは婚姻の成立、存続の要件」ではないと指摘して、合理性を肯定し得ないとした。
⑹ 同性パートナーシップについては、「法の下の平等の原則に悖るものと言わざるを得ない」と指摘し、同性パートナーシップの普及は、憲法14条1項違反を何ら左右しないと結論付けている。
第2 名古屋高判令和7年3月7日令和5年(ネ)第570号判例集未登載
1 決定要旨
本件諸規定が、同性カップルが法律婚制度を利用することができないという区別をしていることは、憲法14条1項に違反するとともに、憲法24条2項に違反するに至ったというべきである。
2 事案の概要
本件は、同性の者との婚姻届を提出したが受理されなかった控訴人が、国に対し、婚姻に関する民法及び戸籍法の諸規定が同性同士の婚姻を認めていないことは憲法13条、14条及び24条に違反するとして国家賠償請求を行ったものである。
3 判決の要旨
本件控訴を棄却する。
4 解説
⑴ 主に、憲法24条2項にしか違反しないとした原審を覆す内容の高裁判決であったが、いわゆる「戻り判決」として起案されているため、大変読みにくい内容となっている。もっとも、当事者としての特殊性から、同性カップルが里子を持つ場合や、パートナーシップやファミリーシップが「アウティング被害(=性的指向を事実上暴露させることを余儀なくさせること)」に結び付き差別的なもの判示するなど、パートナーシップという「二級の婚姻権」があれば合憲であることを示唆した一審名古屋地裁判決と打って変わった内容となっている。以下は高裁判決の実質判示部分の一部を紹介する。
⑵ 個人の尊厳と法の下の平等を定める憲法に照らし性的指向が同性に向くという性的少数者の権利が不当に侵害されているか否かという観点から判断されるべき法的問題であって、司法が多数決の原理では救済することが難しい少数者の人権をも尊重擁護する責務を負うものであり、特に本件諸規定が自らの意思で選択や変更することができない性的指向を理由として婚姻に対する直接的な制約を課すことになっていることに鑑みると、上記の司法の責務を発揮することが期待される。
⑶ パートナーシップ制度が拡充されていることや、契約や遺言等の法律行為によって、婚姻によって付与される効果を一定程度実現できるということを踏まえても、同性カップルが法律婚制度を利用することができないことによる不利益は相当程度解消又は軽減されているということはできず、次のとおり看過することができないものと言わざるを得ない。
⑷ 婚姻の効果には、民法や戸籍法が規定する上記の効果以外にも、税や社会保障等にかかわる制度など様々な社会政策的判断に基づき付与された効果が多数存在する。特に、同性カップルには、所得税・住民税の配偶者控除や所得税・住民税の医療費控除についての世帯での合算が認められないことや、遺言をしたとしても相続税ではなく贈与税が科せられ、その贈与税についても配偶者控除が認められないことは、契約や遺言等によっては解消することができない不利益である。
⑸ 同性カップルが共同して子を養育している場合が一定数存在し、控訴人らのように同性カップルが里親として里子を養育する場合も一定数存在するが、同性カップルが法律婚制度を利用することができないから、同性カップルのうち実親でないパートナーが子と養子縁組をした場合は実親の親権が失われるため(民法818条2項)、同性カップルのうち実親ではないパートナーと子の法的な親子関係を形成することは事実上困難であり、里子との間で特別養子制度を利用することもできない(民法817条の3)。
⑹ そのため、その子に医療行為が必要となった場合、パートナーシップ制度やファミリーシップ制度を利用しても、親権がない者の同意によって子が医療行為を受けることができるか否かは、当該医療機関の個別の判断にゆだねられることになり、子の進学についての同意や学校行事の参加の可否等についても学校の個別の判断にゆだねられることになるうえ、実親が死亡した場合、未成年後見人を指定する遺言(民法839条1項)が存在しない場合には子の養育が制度的に保障されないなど、子の生命・身体・福祉に関して深刻な問題が生じ得る。
⑺ パートナーシップ制度やファミリーシップ制度といった婚姻制度と異なる制度を利用すること自体が、個人の属性に係る秘匿性の高い情報である性的指向を自らの意思に反して開示することを求められるというプライバシー侵害につながる危険性がある。
⑻ 個人の尊厳の要請に照らして合理的な根拠を欠く性的指向による法的な差別取扱いであって憲法14条1項及び立法裁量を逸脱するから憲法24条2項に違反する。
※なお、名古屋高裁の判決文中に遺言による場合は贈与税と書いてありますが、同性パートナーに対しても相続税法が適用される明白な誤りがありますのでご注意ください。贈与税と相続税は実効税率で、大きな違いがありますので、比較有利の問題であると思いますので、税理士にご相談されることをおすすめいたします。