父に恐怖心を抱くこどもの心情を考慮して,電話等間接交流が相当とされた事案

 

父に恐怖心を抱いているこどもの心情を考慮して,電話や手紙による間接交流を重ねるのが相当とされた事案

 

父に対して恐怖心を抱いている未成年者の心情を考慮して,まずは,従来から実施していた電話や手紙による間接交流の実施を重ね,未成年者の不安や葛藤を低減していくのが相当として間接交流の具体的な方法等について詳細に検討した事例です。

 

この裁判例は,奈良家庭裁判所令和2年9月18日令和元年(家)第391号,392号です。

 

本件は,父が,母との間に生まれた長女C,二女Dと面会する時期,方法などを定めることを求めた事案です。年齢は10歳前後のこどもと考えられます。

 

父と母は,平成20年に婚姻し,平成29年7月に子連れ別居したものです。

1.直接交流が認められなかった理由

本件では,なぜ,間接交流にとどまったのでしょうか。

本審判のポイントは以下のものでした。

  • 年齢が近いので,2人の姉妹の面会交流は同じ内容の実施要領を定めるのが相当
  • 期間については,長女が中学に入学し,生活環境が変わることが見込まれる時期である令和4年3月までの実施要領のみを定めた。

 

では,本件はどうして「直接」の面会交流ができないパターンだったのでしょうか。

  • 長女が同居中の父の言動への恐怖心から直接交流への不安を抱いていること
  • 母が離婚後も父に恐怖心を抱く姿を見て不安を強めていること
  • 長女の発達特性
  • 二女も直接交流に拒否的であり,長女と一緒でなければ無理と述べていること

―などのポイントを考慮し,当該機関での直接交流の実施は相当ではなく,まずは間接交流を重ねて未成年者らとの不安と葛藤を低減していくべきとしました。

 

2.「電話」による間接交流が認められた珍しい事例

本件裁判例は,間接交流の中でも,「電話による交流」が認められた珍しい事例といえるかもしれません。

 

以前,別の裁判例では,監護親が電話を無理やり切ってしまうなどの行為で葛藤が高まりかねないとして否定された事例もありました。直接交流が認められている事例であっても,電話による交流が認められることは,子の福祉にとっては前向きなものではないかと思います。

 

では,間接交流の中では,もっとも、手紙やプレゼントと比較して最も「直接性」が強い電話による交流が認められたのでしょうか。

 

ポイントとしては,

  • 従前は,電話による交流ができていたこと

―があるようです。

 

こどもが恐怖心を抱いている場合は,電話での交流も実施不相当になることが多いですから,この裁判例は画期的なものといえるかもしれません。

 

では,頻度はどれくらいにされたのでしょうか。

  • 毎月とするのは未成年者に負担がかかる
  • 年3回,春,夏,冬の各長期休みに1回ずつ,時間は一人当たり20分としました。

 

そのほか,以下の間接交流を認めました。

  • 手紙につき2か月に1回
  • プレゼントについては,誕生日とクリスマス
  • 月1回未成年者らの写真を,年1回未成年者らの通知表

―を,母において父に送付させるものとしました。

直接交流が難しいときに,未成年者らの心情を踏まえて,間接交流の具体的なあり方を検討したものとして参考になると思います。

3.面会交流についての基本的な考え方

裁判所で採られている面会交流の一般論は,父母が離婚又は別居しても,子にとっては親であることに変わりがなく,非監護親からの愛用も感じられることが子の健全な成長のために重要である。子の養育・健全な成長の面からも,一般的には,親との接触が継続することが望ましく,可能な限り家庭裁判所は親子の面会ができるように努めることが民法766条の意図するところであるとされています。

国民の意識も,面会交流を積極的に捉えており,我が国及び海外における心理学の諸研究によると,一方の親との離別は子にとって,最も否定的な感情体験の一つであり,非監護親との交流を継続することは子が精神的な健康を保ち,心理的・社会的な適応を改善するために重要であることが基本的な認識となっています。

 

4.「東京家裁における面会交流調停事件の運営方針の確認及び新たな運営モデルについて」からの分析

  • 審判の場面では,面会交流の実施により,子の利益に反する事情があるかどうか

①子,同居親及び別居親の安全

②子の状況

子の状況は,直接交流についてウェイトが高い。長女や二女のように、自己の意向を表明できる年齢の未成年者が恐怖心や不安を抱いたり,拒否的な意向を示していたりしていることは重視される要素であるとされています。

「長女が同居中の父の言動に恐怖心を抱き、現在も直接交流に対する不安を有していること」「母の状況を見て不安を強めていること」「二女についても,直接の交流は拒否的であり,長女と一緒でなければ無理と述べていること」

③同居親と別居親の状況

④同居親及び別居親と子との関係

「電話についてこどもの意向は拒否的であるものの、従前には実施できていた実績があり、この際、父が未成年者を不安定にさせた様子は見られないこと」

⑤親同士の関係

「母は離婚後も父に恐怖心を抱く姿」

⑥子,同居親及び別居親を取り巻く環境

―という6つのカテゴリーを総合考慮して,子の利益を最も優先して考慮することになります。

そして,現時点では,交流の実施が子の利益に反する事情がある場合には,直接交流の禁止から間接交流まで,どこまでの交流を禁止する必要があるか,禁止する場合は期間を定めた禁止で足りるか,どの程度の期間とするべきか,その期間を経過した後の交流はどのような方法によるべきかを検討していくことになります。

直接交流を禁止する事由がなく,直接交流の実施が適当と言える場合は,その回数,頻度,日時,場所,方法,第三者機関の利用の有無等を検討することになります。

直接交流の実施が適当でない場合,間接交流を実施するのが相当か,どのような方法での間接交流を実施するのかを検討するのかとともに,間接交流から直接交流に移行するのが適当か,その場合の直接交流に至る段階的実施の適否等についても検討することになります。

5.事情変更が認められやすい?―面会交流

面会交流について,実施要領が付く場合は,その実施要領の期間についても検討してもらうのが良いと思います。

 

この時間的要素の検討は面会交流の調停・審判において非常に重要なものとされています。

 

一般論として,子と別居親との面会交流は長くなれば,成人を迎えるまでの十数年にも及ぶ長期間のものといえます。

 

したがって,葛藤状態の時期的パターンも生じ得るのです。

  • 別居直後
  • 別居からある程度経過して落ち着いた時期
  • 子が成長して分別がついた頃

 

このように,調停で合意するにせよ,審判で決するにせよ,ある一時点において,その後の長期間にわたる変動要因を予測した上で,全期間に統一して適用されるべき面会交流の在り方を決することができるものではありません。また,決すべきものでもありません。

 

その時点における状況を踏まえた面会交流の在り方をひとまず決し,その後に事情が変わればあるいは,事情の変更が予測される一定期間後に,変更後の事情に応じて面会交流の在り方を定め直すべきものです。その意味では,暫定的判断を繰り返すものといえます。この裁判例では,小学校を卒業し環境の大きな変化が見込まれる新年度,つまり1年半後までの実施要領としています。

 

段階的実施,すなわち面会交流の質的な拡大ないし量的拡大の可否についても、この時間的要素の検討の中で検討されるべき問題といえます。

 

例えば,子が面会交流に拒否的というような事案がなく,同居親と別居親が面会交流を通じた父母の在り方に慣れさえすれば拡大も見込めるとの予測が可能な場合には,一例として,最初の数回は3か月に1回,次の数回は2か月に1回,その後は1か月に1回の頻度というように,段階的に拡大していく実施方法を定めることも考えられます。

 

しかしながら,子が面会交流に拒否的である場合,あるいは,子の心情面に問題がある場合は,時間的な経過で子の心情面の問題が確実に解消するとはいえないので,現時点では,直接交流を不相当として,一定の間接交流にとどめつつ,後に実際に子の心情が変化したところで面会交流の拡大を改めて検討することもあり得る。

本件裁判例は、間接交流とはいえ、電話という直接性の高いツールを使いつつ,後者の発想で行われている。裁判所は、まずは、間接交流の実施を重ねる中で,未成年者らの不安や葛藤を低減していくことを求めているといえます。

 

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