面会交流で間接交流しか認められない事案はどのようなケース?
面会交流で間接交流しか認められない事案はどのようなケース?
「家庭の法と裁判」34号87頁に、「未成年者らとの直接的な面会交流が相当ではなく、未成年者らを撮影した写真の送付及び未成年者らに対する手紙の送付などの間接的な面会交流が相当とされた事例」として、大阪高裁令和元年11月20日が出されました。
本件の場合、1)子連れ別居後、2)妻を親権者とする離婚調停が成立しましたが、面会交流調停は不成立に終わり、審判に移行したようです。
こどもの年齢は、長男は平成23年生まれ、二男は平成27年、長女は平成29年とこどもの年齢幅が広いのも特徴と評価することができます。このような場合は一般的な定め方が難しいと考えられます。
今回は、最近運用が様々なになりつつある未成年者らとの面会で、主に母の事情が考慮されたものとして注目できるのではないかと考えられます。
1.大阪家裁の判断とは
大阪家裁は、前提事実として、次のような事実認定をしました。
「当事者間の信頼関係の喪失、特に、母が同居中に激高して包丁を持ち出すなどした夫の突発的な行動に恐怖心を抱いていることなどから、現時点では、直接的な面会交流の実施を強制することは相当ではない」「父が年数回、母に対し、未成年者らの成長の様子が分かる写真を送付することによる間接的な面会交流とせざるを得ない」としています。
2.大阪高裁の判断
大阪高裁の判断では、父母間の葛藤が考慮要素になることを論述していることが特に注目されるところです。
2-1.面会交流の意義
「未成年者と非監護親との面会交流は、基本的には、離れて暮らす親子の交流を深め、未成年者の健全な発達に資するものであると考えられるから、その実施により、未成年者の福祉に反する結果を招くおそれがあると認められる事情がない限りは、これを認めるのが相当である」という原則論を確認しました。
しかし、直後に以下ように続けました。
2-2.父母間の葛藤が面会交流制限事由になるとした部分
「しかしながら、実際に未成年者と非監護親との面会交流を実施するためには、監護親と非監護親との間に面会交流を実施するための最低限度の信頼関係が必要である。
監護親と非監護親との間に信頼関係がない中で無理に未成年者と非監護親との面会交流を実施すると、未成年者は監護親と非監護親との板挟みになり、ストレスを抱えたり、一緒に生活している監護親との関係で混乱したりすることがあり、かえって未成年者の福祉に反する」としている。
そのうえで、次のようなポイントも考慮されています!
- 母が父に対する信頼を喪失していること
- 恐怖心や拒否的感情を沈めることができないこと
- 母の体調に加えて、面会交流に立ち会うことが困難
- 第三者機関の存在も明らかではない
2-3.調停へは可能な限り出席する
家庭裁判所から離婚調停の呼出状が届くと、不快に感じて「出席したくない」と考える方が少なくありません。
しかし調停に無断で欠席してはなりません。無断欠席すると、調停委員に与える印象が悪くなってしまいます。
後日出席したときに調停委員が相手方に肩入れして、話し合いが不利に進んでしまう可能性もあります。
仕事などを調整して、できるだけ調停へは出席しましょう。また、出席がかなわない場合は弁護士を選任しておくとよいとはいえるでしょう。
3.弁護士をつけずに面会交流調停はできる?
面会交流については、子の養育、健全な成長の面から、一般的には、親との接触が継続することが望ましく、可能な限り家庭裁判所は親子の面会ができるように努めることが民法766条の意図するところであり、心理学の研究においても、面会交流を通してこどもは、精神的な健康を保ち、心理的・社会的な適応を改善するために重要であるというのは、基本認識といえます。
もっとも、最近、いわれるようになってきた面会交流を制限的に考える「ニュートラル・フラット・モデル」というのは何なのでしょうか。
3-1.原則実施説の「要件事実化」
実務では、平成25年くらいから、原則面会交流は認められ、これを妨げる拒否制限事由を主に監護親が主張立証しなければならないという攻撃防御の構造がとられるようになりました。
しかし、近時、面会交流に関する判断は、合目的的・裁量的な判断であることを前提としたニュートラル・フラットな立場からの論考になっているといわれているのです。
名古屋家裁一宮支部など、論文を曲解して、「特段の事情が認められない限り」とある部分の過度の強調としての、「面会交流原則実施論的な運用」があったと言わざるを得ないところもあるのです。
このように、離婚調停を有利に進めるためには、調停の制度や進行方法、重視されるポイントなどについての知識が必須です。
しかし当事者の方の場合、どうしてもこういった知識が不足するでしょう。有利に進めるのが困難になりがちです。法律とは無関係なことを延々と主張して無意味な時間を過ごしてしまったり、調停委員に対して過度に感情的になって攻撃したり、自分の言い分を適切に表現できなかったりすることなどもあります。
結果的に調停委員との関係が悪化し、弁護士に依頼に来られる方もいます。
家庭裁判所のあるべき立場としても、合目的な裁量判断の中で、どのような事由を考慮すべきか、特に面会交流を禁止制限すべき事由として実務上主張される主なもの(連れ去りのおそれ、非監護親の虐待、監護親に対するDVなど)に加えて、未成年者の福祉を害する具体的な事情の有無等を慎重に検討して、面会交流が相当であるのか、具体的にどのような方法によるべきかを判断して、これを踏まえた調停運営及び審判がなされるべきなのであるといえます。
4.大阪高裁の「最低限の信頼の法理」は平成7年ころのぶり返し
大阪高裁は、父親について、母親との関係において、「面会交流を実施するための最低限の信頼も有していない」と指摘しています。
他方、裁判所には、信頼関係が乏しい人たちが来るのですから、この点を重視しすぎるのは結論の妥当性を得られないように考えます。
大阪高裁令和元年11月20日は、実質判断の中で、「抗告人は、感情の起伏が激しく、2度にわたって包丁を自らに突き付け、相手方提出の書面を読んで不穏な行動に出たりしたことなどに、抗告人がその後精神的に落ち着いてきたとしても、未成年者らが未だ幼いことを併せ考慮すると、安全かつ円滑な直接的面会交流を継続的に実施できるか不安が残るものと言わざるを得ない」と判断しました。
そのうえで、「相手方の上記のような心情に照らせば、相手方が面会交流に立ち会うことは困難であり、かつ、面会交流の立会いを引き受ける第三者機関が存在するかどうかなども明らかでない」と指摘し,「相手方に対し抗告人と未成年者らとの直接的面会交流を強制すれば、相手方は、仕事と育児で多忙な上に、面会交流の負担が重なり、その実施前に体調を崩すことが十分考えられるところ、そのような事態になれば、未成年者らが抗告人との面会交流を心理的に負担と感じるようになり、かえって、直接的面会交流が未成年者らの福祉を害することとなるおそれも認められる。」
と判断しています。
本件の原審では、離婚の経緯によるわだかまりは、時間が経過することにより次第に薄まっていくものと指摘されています。
本件では、同居時に、調停が係属したなどの特殊な事情があり、それが面会交流に否定的結果となったものと考えられる。
高裁では触れられていませんが、原審では、面会交流事件について検討したことにより、母親が救急搬送されたという事実、体調を崩している事実、これらにより未成年者に不安や罪悪感を抱かせるものという前提があります。
もっとも、長男に限れば10歳程度であり、父親との楽しい思い出も記憶に残っていると考えられるのであるから、母親の感情のみで長男の面会を直ちに禁止したことが妥当であるか疑問が残るといえるのではないでしょうか。
弁護士は、「離婚」や「面会交流」という人生に一度の辛い経験を乗り越えるためのパートナーとなります。離婚調停を申し立てられて困惑されているなら、まずは一度お気軽にご相談ください。