財産分与に伴うさまざまな問題~退職金、婚姻費用不払いの清算、負債の財産分与~
財産分与に伴うさまざまな問題~退職金、婚姻費用不払いの清算、負債の財産分与~
離婚にともなう財産分与の際にはさまざまな問題が発生するものです。
たとえば相手方に退職金があれば、退職金も財産分与対象になる可能性があり、具体的な分け方について話し合って決めなければなりません。別居中に十分な婚姻費用(生活費)を払ってもらえなかった場合には未払い婚姻費用の清算も可能です。
負債がある場合の考え方も知っておく必要があるでしょう。
今回は財産分与にともなう諸問題として、退職金と未払い婚姻費用、負債の問題を取り上げます。
財産分与方法で悩まれた場合には、ぜひ参考にしてみてください。
1.退職金の財産分与
まずは退職金が財産分与でどのように扱われるのか、みてみましょう。
1-1.退職金が財産分与対象となる条件
退職金はどのような場合でも財産分与対象になるわけではありません。
そもそも離婚時財産分与の対象となるのは「離婚時に存在している財産」に限られるからです。すでに受け取った退職金は財産分与対象になりますが、まだ受け取っていない退職金は対象から外れるのが原則といえます。
ただし退職金には「給与の後払い的な性質」があります。つまり婚姻中にはたらいて得られた給料が後から支払われるだけなので、その限度では財産分与の対象とすべきと考えられます。そこで一定の場合には、退職金も財産分与の対象とされます。
退職金が財産分与対象となる条件は以下のとおりです。
離婚後10年以内に退職する
退職金が財産分与対象とされるのは、退職時期がおおむね離婚後10年以内のケースです。
それ以上先の場合、退職金を支給されるかどうかが定かではなくなってくるため、対象から外されるのが一般的です。もっとも,東海地方の場合,大手企業にお勤めの方は,30代でも,自己都合退職の場合の退職金が財産分与の対象になるケースもあると考えられますので,個別具体的なことは弁護士にお尋ねください。
退職金支給の確実性が高い
2つ目の条件として、退職金支給の確実性が高いことも必要です。
たとえば公務員や上場企業で退職金規程が整っている会社の労働者などであれば、退職金支給の確実性は高いといえるでしょう。
一方、退職金規程のない会社や零細事業者などの場合、退職金支給の蓋然性は低くなります。
基本的に、上記の2条件を満たせば退職金を離婚時財産分与に含められると考えましょう。実務上は,退職金規程のない会社の場合,退職金の財産分与が困難になることが考えられます。
1-2.退職金の財産分与計算方法
退職金の財産分与は、どのように計算すれば良いのでしょうか?
すでに退職金が支給されている場合
すでに支給されている場合には、退職金が振り込まれて形を変えた預貯金や株式、不動産などを2分の1ずつにすれば足ります。
たとえば3000万円の退職金が振り込まれて離婚時に2000万円残っている場合、預貯金を有している元労働者側が相手方へ1000万円を支払って清算します。
将来支給される退職金の場合
まだ支給されていない場合には将来の退職金をどのように分けるべきかが一義的に明らかになりません。
実務的には「離婚時に自己都合退職した場合の退職金額」を基準にして、2分の1ずつに分けるケースが多数です。
「将来定年退職したときに受け取れる退職金」を基準とするのではないので、間違えないように注意しましょう。
たとえば離婚時に自己都合退職した場合に500万円の退職金を受け取れる人なら、受け取る側が相手方へ250万円を払って清算しなければなりません。
1-3.企業年金の取り扱い
退職金に関連して、企業年金の取り扱いについても確認しましょう。
企業年金とは、年金方式で支給される一種の退職金です。公的年金ではないので、年金分割の対象にはなりませんが、退職金の一種なので、財産分与の対象になる可能性があります。
企業年金には年数を区切って支給されるものや終身のものなどさまざまなタイプがあり、不確定な要素が大きくなっています。
実務的には以下のような方法で計算されます。
計算方法1
企業年金の1年における受取金額×(年金支給開始年齢における平均余命に対応するライプニッツ係数)×(同居期間/在職期間)×2分の1
計算方法2
離婚時に企業年金を解約して受け取れる解約返戻金額×(同居期間/在職期間)」×2分の1
ただし上記以外の方法で計算するケースもあります。
企業年金の適切な財産分与計算方法は事案によっても異なり複雑なので、迷ったときには弁護士へご相談ください。
2.未払い婚姻費用の清算
財産分与を行うとき「未払い婚姻費用の清算」を含めるケースも考えられます。
未払い婚姻費用とは、夫婦が離婚前に別居した際などに払われるべきだったのに払われなかった生活費です。
ご夫婦が離婚前に別居したら、収入の多い配偶者は少ない配偶者へ生活費を払わねばなりません。
それにもかかわらず生活費が払われなかった場合、本来受け取れるはずの婚姻費用を受け取れなかったので離婚時に清算を求められるのです。
判例でも「離婚訴訟で財産分与を決定する際には、婚姻費用の清算も含めて財産分与額や方法を決めることができる」と判断されたものがあります(最三小判昭和53年11月14日)」。
今日では婚姻費用の清算を財産分与の一内容として求められることに争いはないといってよいでしょう。
未払い婚姻費用、清算金の計算方法
未払いの婚姻費用が発生している場合、具体的にどのくらいの金額の清算を求められるのでしょうか?
この場合、基本的には「未払い婚姻費用の金額」を基準とすべきです。
婚姻費用の基本となる金額については、裁判所の定める「婚姻費用の算定表」から求めることができます。
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html
たとえば月15万円の婚姻費用が払われるべきケースにおいて1年間支払いが行われなかった場合、180万円の婚姻費用が未払いとなります。
支払いを受けられなかった配偶者は、離婚時に相手方へ180万円を請求できる可能性があるといえるでしょう。
ただし実際の請求時には、必ずしも未払いとなった全額の支払いが認められるわけではありません。裁判所は「一切の事情を考慮して財産分与方法を決められる」からです(民法768条3項)。
必ずしも未払いとなった全体の期間分の清算が認められるとは限らず、一部に減縮されるケースが多数となっています。
つまり、婚姻中に婚姻費用が未払いになっても、離婚時に全額が清算されるとは限りません。婚姻費用については、可能な限り離婚前にきちんと請求をして全額の支払いを受けておくのが得策といえるでしょう。
別居中だけではなく同居中でも婚姻費用の請求は可能です。まだ離婚していないのに相手から婚姻費用の支払いを受けられていない方がおられましたら、お早めに弁護士までご相談ください。
3.負債の財産分与
離婚するとき、夫婦に「負債」があったら財産分与の対象になるのでしょうか?
たとえばカードローンや住宅ローンなどの負担はどのように分配すれば良いのか、問題になるケースが多々あります。
負債が財産分与対象になるケースもありますが、必ずではありません。
以下で負債が財産分与対象になる条件や具体的にどのように清算すべきかなど、負債の種類に応じてみていきましょう。
3-1.負債が財産分与対象になる条件
まずは負債が財産分与の対象になる条件をご紹介します。
資産額が負債額より大きい
1つ目の条件として、資産額が負債額より大きくなければなりません。
たとえば不動産や預貯金などの資産が十分にあり、負債額より多ければ財産分与が可能です。
一方、負債が資産を上回って「全体としてマイナス」になる場合には、そもそも財産分与ができません。
結婚生活のための借り入れ
2つ目の条件として、結婚生活のための借り入れでなければなりません。
たとえば生活費が足りないのでカードローンやキャッシングを利用した場合、夫婦で住む家を購入するための住宅ローンなどは財産分与の対象になります。
一方、結婚生活と無関係な趣味のための借金やギャンブル、浪費のためにできた借金などは基本的に財産分与の対象になりません。夫婦のうち一方が大学の奨学金債務を返済したような場合、「特有負債」ということになるので,財産分与の対象とならないと考えられます。
3-2.住宅ローンがある場合の財産分与
住宅ローンについても、基本的に上記の考え方が適用されます。
まず住宅の価値が残ローン額を上回るアンダーローン状態なら家は財産分与の対象になります。
一方で、住宅の価値が残ローン額を下回るオーバーローン状態なら家は財産分与の対象になりません。
住宅ローンがある場合には、まずはアンダーローンかオーバーローンかを調べましょう。
- アンダーローン…家を売れば残ローンを完済できる状態
- オーバーローン…家を売っても残ローンを完済できない状態
アンダーローンの場合の財産分与方法は3つ
アンダーローン状態の場合、家の財産分与方法は以下の3種類です。
- 家を売って清算する
- 住宅ローン名義人が家を取得する
- 住宅ローン名義人でない側が家を取得する
以下でそれぞれの方法について、簡単にご説明します。
家を売って清算する
1つは家を売って売却金を2分の1ずつに分ける方法です。
離婚後にお互いの関係が残らず、もっともすっきりする方法といえるでしょう。
たとえば住宅ローン残が1000万円の家が2000万円で売れたら、夫婦が1000万円ずつのお金を受け取って清算します。
住宅ローン名義人が家を取得する
2つ目は住宅ローン名義人が家を取得する方法です。この場合、家を取得する側が相手に清算金を払わねばなりません。
たとえば家の価値が2000万円で残ローン額が1000万円としましょう。
この場合に住宅ローン名義人が家をそのまま取得するなら、相手に500万円を払わねばなりません。
住宅ローン名義人でない側が家を取得する
もっとも問題になりやすいのが、住宅ローン名義人ではない側が「家を取得したい」と希望するケースです。この場合、家の名義を家の取得者に変更した上で、家を取得する側が相手へ清算金を払わねばなりません。
ただ残ローンが残っている状態では、金融機関は物件の所有名義の変更を了承しないのが通常です。そこで以下のような対処が必要となります。
- 家を取得したい側が別の金融機関で住宅ローンを借りて今のローンを完済する
- 今の金融機関と話し合い、住宅ローンの名義人を変更してもらう
②については金融機関との協議が難しくなるケースが多く、現実的には①の方法を利用される方が多数です。
とはいえ家の取得を希望する側に十分な収入がなければ他の金融機関で住宅ローンを利用できません。その場合、どうしても住宅ローン名義人でない側が家に住みたければ、住宅ローン名義人(家の所有者)と居住者が異なる状態が継続する可能性もあります。
すると途中でローンが払われなくなるリスクや賃料設定の有無、完済した場合の所有名義の問題など、さまざまな問題が発生するので、こういった複雑なケースでは事前に弁護士へ相談しましょう。
名古屋駅ヒラソル法律事務所では、離婚や財産分与の問題に積極的に取り組んでいます。名古屋や東海地方で離婚問題にお悩みの方がおられましたら、お気軽にご相談ください。