インドネシア法の離婚法と宗教法との交錯

インドネシア法について離婚法と宗教法の交錯

1 インドネシア法の親権(イスラム教は除く、ヒンズー教が念頭)

インドネシア国内の裁判は、準拠法はインドネシア国内法になる可能性となります。それゆえ、準拠法は、婚姻法(Undang-Undang Perkawinan No. 1 Tahun 1974)及び民事訴訟法(HIR/RBg等)となるのです。

周知のとおり、インドネシアは多宗教国家であり、宗教により、裁判官の裁量や地域の宗教的価値観が事実認定に与える影響が少なくない可能性があります(シンガポール法のシャリア法廷参照)。

訴訟活動は、インドネシア語によることになります。

2 親権や面会交流に関して

婚姻法の規定によると、親は婚姻の有無にかかわらず、子に対する保護・養育義務(hak asuh)を負っているように思われます。ただし、離婚後の監護については、10歳未満の子について母子優先の原則が適用されるという見解も見られます。

面会交流(akses terhadap anak)については婚姻法第41条で規定されており概念自体は存するが、頻度や方法に関する明文化はなく、すべて裁判所の裁量に委ねられている。執行力は乏しく、相手方が協力しない場合の強制執行は困難です。

バリ州をはじめとするヒンドゥー教徒地域では、父系的家族観や宗教的儀礼(upacara)への参加が監護判断において補完的に考慮される場合があるため、地域慣習法を理解しているインドネシア法弁護士への委任が望ましいと思います。

ただし、慣習が婚姻法に優先することはなく、裁判所は親が外国人の場合や子の最善の利益を考慮に入れるように思われる。

日本の法廷の結果

日本のように、承認執行の制度がインドネシア法にはない。それゆえ、インドネシア民事訴訟法には外国判決の承認制度(exequatur)に関する規定を欠く以上、現地で訴訟をせざるをえないように思われます。

外国判決は証拠資料の一事情(bukti surat)として裁判所に提出可能であると思われるが、裁判所はインドネシア法と子の福祉の観点に基づいて独自に裁定するため拘束されるわけではありません。

結語

そもそも、インドネシアは、シンガポールのような多宗教国家であり、家族法は宗教的慣習法と密接に関連しているため、宗教法を理解していないと対応は難しい。特に諸外国でもハーグ条約とイスラム法廷(シャリフの法廷)との衝突が大きいし、インドネシアはこれ以外の宗教法と民法が混在しているのです。

また、親権や監護権などの概念が曖昧である。このように、婚姻が宗教と密接に関連しているため、国際法に馴染まないという点がある。もっとも、シンガポールは女性権利章典があるものの、父親の権利保障にも理解を示しつつあるものの、インドネシアでは10歳以下は母子優先の原則であり、10歳以上はこどもの意思や監護態勢により裁判所が判断するものとされています。

したがって、このような宗教慣習法が判例を形成している国では、母親の育児放棄、精神的健全性のなさ、父系のヒンズー教家系存続の必要性など特段の事情が必要です。

補足

インドネシアには協議離婚制度はあるものの、婚姻法では、離婚は裁判所の決定が必要とされ、政府規則施行規則によると、合意内容を政府が審査することになっています。親権の帰属についても裁判所が合意が内容を再審査する場合があるようであり、当事者の合意内容を覆すことも可能とされます。なお、合意があっても、裁判所が監護者を指定することが多いとされる。これは、そもそも、インドネシア法では、親権という概念自体が未成熟であることに由来します。

インドネシア離婚法と親権法への提言

インドネシアはハーグ条約未加盟であることは、国際法、インドネシア民法、宗教法の3つが交錯し衝突しているからです。


1. 問題の所在:ハーグ条約未加盟とその法的背景

インドネシアは、「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」(ハーグ子奪取条約)に未加盟の国の一つです。したがって、たとえ日本人の親による子の連れ去りがインドネシアにおいて発生したとしても、日本が求める返還請求は、条約に基づく迅速な返還手続を通じては実現できません。

その背後には、単なる技術的・外交的遅延ではなく、インドネシア固有の宗教と国家の法制度の交錯による「制度的抵抗性」があります。


2. 宗教と国家法の「融合的共存」:法制度の分化が不十分

インドネシアの家族法制は、前述のとおり1974年婚姻法を国家法の基礎としながらも、婚姻・離婚・親権・監護といった家族関係の核心部分について、宗教的規範(特にイスラム法)に依拠する仕組みを保持しています。もちろん全てがイスラム法は特別であり、それ以外は民事裁判所によることになっています。しかし、インドネシアはヒンズー教や仏教など多宗教です。

この構造により、以下のような「制度的分化の不十分性」が指摘されます:

  • 国家法と宗教裁判所の役割分担が不明確な領域が多く、子の監護権・離婚・再婚などの手続きが宗教の影響下に置かれる

  • 宗教による正当理由が離婚要件とされ、世俗的・中立的な裁判基準が成立しにくい

  • 親権や監護に関する判断も、こどもの福祉ではなく宗教倫理の基準が先行する可能性


3. ハーグ条約への制度的非整合:制度倫理からの批判

ハーグ条約の実施には、以下のような国内的前提が必要です:

  • 国境を越えた子の監護権の認知

  • 親による不法連れ去りと正当な監護権行使との区別

  • 速やかで中立的な裁定機関(家庭裁判所や行政庁)

しかし、インドネシアの家族法制度では、
(1) 宗教裁判所が宗教的価値観に基づく監護判断を行い、
(2) その判断に基づいて国際返還義務を排除または遅延しうる構造が温存されているため、
条約の趣旨と根本的に整合しない状態にあります。

また、国際条約で求められる衡量要素が、宗教上の監護観や家族観に吸収される恐れがあるため、「制度外のこどもの声」が制度に届きにくいという構造的欠陥も見逃せません。


「インドネシア制度内宗教性」と「制度外国際義務」のダブル・ブラインド構造

私見では、インドネシアにおける家族法制度は、「インドネシアの制度内に強く組み込まれた宗教性」と、「制度外から求められる国際的責任(条約適合性)」との間で、ダブル・ブラインド(二重拘束)状態にあると評価できます。

宗教法が国家法に優越する構造の下では、こどもの最善の利益条約による子の返還義務は、制度の外部から押し込まれる「異質な論理」として排除される傾向が強いのです。

その結果、以下のような倫理的・制度的緊張が顕在化します:

  • 宗教的多数派による監護観が少数宗教者・女性・外国人に不利益な拘束をもたらす

  • 国際条約の理念である「子の迅速な返還」や「国境を超えた共同監護」が制度的に阻まれる

  • 裁判所の役割が信仰秩序の守護者として機能し、手続的正義の担保者としての役割を喪失する

この構造において求められるのは、単なる条約批准ではなく、制度の中にある宗教性を相対化し、制度の外にある「子どもの声」や「国際的規範」を制度の内部に橋渡しする中間的緩衝装置(mediating institution)の設計であると考えます。


結語:制度の「透明化」と「説明責任」が不可欠

家族法はもっとも制度が「文化」に飲み込まれやすい領域です。インドネシアの家族法においても、宗教的正統性と国家の制度的合理性の均衡や法化社会の実現をどのように図るのかという難題が存在します。

しかし、その均衡がこどもに不利益を強いる形で制度を閉じるのであれば、それは制度ではなく支配になりかねない可能性はないとはいえないでしょう。

制度とは、制度(インドネシア法や宗教慣習法)の外の声に応答できて初めて正統性を持つといえます。

この命題を、我々は国際的家族法においても再確認すべき時に来ているのではないでしょうか。

 

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