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婚姻費用シミュレーション
離婚前に別居する場合、収入の低い配偶者は相手に婚姻費用を請求できます。主には女性が男性に対して婚姻費用を請求するケースが多いと思います。婚姻費用は妻の生活費を含むものですので、養育費より2万円から5万円くらい高くなるという印象ですが、詳しくは算定表を比較ください。
今回は、婚姻費用をどのくらい請求できるのか、相場や計算方法を、具体的なシミュレーションとともに解説します。
1.婚姻費用とは
婚姻費用とは、夫婦が互いに分担すべき生活費です。
法律上、夫婦はお互いに助け合って生活しなければならないと定められています(民法752条)。
その義務を具体化したものの一つが「生活保持義務」です。
生活保持義務とは、相手の生活を維持すべき義務をいいます。
自分と同レベルの生活をさせる必要があり、相手を助けるためなら自分の生活レベルを落とさねばなりません。
たとえば借金をしていたり高額な家賃や住宅ローンを払っていたりして生活費の送金が苦しくても、収入があるならそれに見合った婚姻費用を払う必要があります。この点、借金は、あまり婚姻費用の減算要素として考慮されないことになっています。
1-1.婚姻費用を請求できる条件
婚姻費用は、「婚姻期間中」に請求できるお金です。離婚後は元のパートナーへ婚姻費用を求められないので注意しましょう。(離婚後はこどもがいる場合に養育費となります。)ただし離婚後に子どもの親権者になった場合、養育費の請求は可能です。
次に、基本的に「相手より収入が低い(生活が苦しい)」ことが条件となります。たとえば夫婦のみのカップル(子どもなし)で相手より稼いでいるなら、生活費の分担は求められないと考えましょう。特に、こどもがおらず共働きなどの夫婦では婚姻費用は発生しないことが多いと思います。
一方、子どもがいる場合には、相手より収入が多少高くても婚姻費用を請求できる可能性があります。
1-2.婚姻費用の請求を行うべき典型的なケース
離婚前の別居中に婚姻費用を請求することが多いのは、以下のようなケースです。
- 妻が専業主婦やパートなど低収入であり、夫が会社員や自営業者
- 妻が子どもを引き取って別居し、夫へ婚姻費用を請求
- もともと夫が一家の大黒柱であった
夫の給料によって生活している方は、別居したら離婚時まで婚姻費用を請求できる可能性が高いといえるでしょう。
収入が低くても、別居したら生活できなくなるわけではないので、安心してください。
他方、東京などで多い共働きで年収が大きく変わらないなどの事情がある場合は、それほど多額の請求はできない可能性があるといえるでしょう。
2.婚姻費用で請求できる金額
別居後は婚姻費用として、どのくらいの金額を請求できるのでしょうか?
婚姻費用の相場の金額は、基本的に「夫婦それぞれの年収」と「子どもの有無、人数」によって決まります。
考え方は、別居した父母が同居している場合に、それぞれの生活費で分担する割合を各父母の収入に割り付けるという考え方をとります。(標準算定方式)
相手(支払う側)の年収が高ければ婚姻費用は高額になりますし、請求者の収入が高ければ婚姻費用は少額になります。
また婚姻費用には子どもの扶養料(養育費に相当するもの)も含まれるので、子どもを養育していればその分加算されます。
子どもが15歳以上になると小さい頃より食費や教育費などの費用がかさむようになるため、婚姻費用が増額されます。
婚姻費用分担表で相場を確認できる
婚姻費用の相場の金額については、裁判所がパターンごとに表によって明らかにしているので参照するとよいでしょう。(令和元年版標準算定表)
裁判所で婚姻費用分担調停や審判が行われるときには、基本的にこちらの表にしたがって婚姻費用が算定されます。
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html
3.パターン別 婚姻費用のシミュレーション
以下で、具体的な事例にあてはめて婚姻費用がどのくらいになるのか、シミュレーションしてみましょう。
3-1.夫婦のみ
- 夫の年収600万、妻の年収100万
夫が会社員や公務員であれば、妻が夫へ請求できる婚姻費用の金額は毎月8万円程度です。
- 夫が自営業者で年収400万、妻の年収50万
夫が自営業者の場合、算定表の「自営」のラインを確認する必要があるので注意しましょう。
このケースの場合には、妻が夫へ請求できる婚姻費用の金額は毎月8万円程度となります。
3-2.子どもが1人
子どもがいる場合、年齢によって参照すべき表が変わります。子どもが14歳以下であれば14歳以下の表、15歳以上であれば15歳以上の表を参照しましょう。
- 夫の年収600万、妻の年収100万、14歳以下の子どもが1人
夫が会社員や公務員などの給与所得者の場合、妻が夫へ請求できる婚姻費用の金額は月額10万円程度となります。
- 夫の年収500万、妻の年収50万、15歳以上の子どもが1人
夫が会社員や公務員などの給与所得者で子どもが15歳以上の場合には、妻が夫へ請求できる婚姻費用の金額は毎月10~12万円程度となります。
3-3.子どもが2人
子どもが2人いる場合、子どもそれぞれの年齢によって参照すべき算定表が変わってきます。間違いのないように正しい表を確認しましょう。
- 夫の年収600万、妻の年収100万、12歳と10歳の子ども
夫が会社員や公務員などの給与所得者の場合、毎月の婚姻費用は12~14万円程度となります。
- 夫の年収500万、妻の年収50万、16歳と12歳の子ども
夫が会社員や公務員などの給与所得者の場合、毎月の婚姻費用は12万円程度です。
- 夫の年収600万、妻の年収100万、16歳と18歳の子ども
夫が会社員や公務員などの給与所得者の場合、毎月の婚姻費用は14万円程度です。
3-4.子どもが3人
- 夫が自営業で年収500万、妻の年収50万、3歳と6歳と9歳の子ども
この場合の婚姻費用の金額は月額18万円程度となります。
- 夫の年収500万、妻の年収100万、9歳と12歳と16歳の子ども
夫が給与所得者であれば、婚姻費用の金額は月額14万円程度です。
- 夫の年収600万、妻の年収50万、12歳と16歳と17歳の子ども
夫が給与所得者であれば、婚姻費用の相場は月額16万円程度となります。
- 夫の年収600万、妻の年収50万、15歳と17歳と18歳の子ども
夫が給与所得者であれば、婚姻費用の相場は月額18万円程度です。
このように夫や妻の年収が同じでも、子どもの人数が多かったり年齢が上がったりすると婚姻費用の金額は変わります。
別居中に子どもが15歳以上になって相場の金額が変わったら、婚姻費用の額を変更できます。
相手と協議しても増額に応じてもらえない場合には、家庭裁判所で婚姻費用増額調停を行いましょう。
また夫が給与所得者か自営業者かでも見るべきラインが異なってくるので、婚姻費用の算定表を確認する際にはご注意ください。自営業者の場合は、算定表の見る位置が変わります。これに対して、役員報酬の会社経営者は給与所得者としてラインを見ることになります。
4.離婚前の生活費についてお悩みがあれば弁護士へ相談を
婚姻費用を払ってもらえない場合や妥当な婚姻費用の金額を自分で算定するのが難しい場合には、弁護士に相談しましょう。もちろん、標準算定表が一つの目安になりますが、加算減算などの事情があるかもしれません。また、事情変更があり、養育費や婚姻費用の増額調停や減額調停などのご相談もあります。
弁護士であれば、適切な婚姻費用の金額を算定できますし、状況に応じたアドバイスが可能です。また、審判になれば、審判の金額を算定できるので、前もって調停で調停をまとめることも可能になる可能性も高まります。
弁護士を代理人として相手に婚姻費用を請求すれば、相手の態度が変わって支払を受けられるケースが少なくありません。また、調停や審判を経ている場合は、強制執行が認められることになり、給与などへの執行が検討できるようになります。
また婚姻費用分担調停を申し立てて支払の約束をさせたり、場合によっては審判によって支払い命令を出してもらえたりもします。
離婚前の別居に関してお悩みがありましたら、まずはお気軽にご相談ください。