配偶者の親名義の土地に家を建てたが離婚に。財産分与はどうなる?
配偶者の親名義の土地に家を建てたが離婚に。財産分与はどうなる?
親名義の土地に実子の配偶者の名義で家を建てたものの、その後離婚することになりました。さて、財産分与はどのようにすればよいのでしょうか。
この記事では、親名義の土地に配偶者名義で家を建てている状態で離婚した場合の、各種ケース別の対応方法と財産分与時の注意点について解説します。
対応方法は主に4つ
親名義の土地に実子の配偶者の名義で家を建てている状態で離婚した場合、次のケースについてそれぞれ財産分与の方法を解説します。ここでは、妻の先祖代々の土地に住宅ローンで建物を建ててしまった場合を想定していきましょう。
- 実子が家に住み続ける
- 実子ではない元配偶者が家に住み続ける
- 家を売却する
- 家も土地も売却する
家と土地それぞれについて、検討が必要です。
実子が家に住み続けるケース
実質的に実子が、家に住み続けるケースでの財産分与の方法によるものであり現実的です。
家を出る配偶者に家の評価額の半分を財産分与として渡し、家の名義を取得します。住宅ローンの支払いについては別途、夫婦間で協議が必要です。ところが、この建物の評価については、本件のケースでは夫には、土地利用の権原がありませんので、評価をどのようにするのかも問題となるのです。
土地の利用については、実子が引き続き土地を使用するため一般的に「使用貸借」の関係が継続となり、借地料が発生しないケースが多いでしょう。この場合、土地は無償で利用可能です。
実子ではない元配偶者が家に住み続けるケース
実子が家を出て、元配偶者が住み続けるケースでの財産分与の方法です。家を出る実子に、家の評価額の半分が財産分与として渡されます。
もっとも、土地の登記名義は、妻の先祖代々の土地ですから、夫が家に住み続ける場合、建物価値の清算とともに、土地賃貸借契約の締結を検討することになるでしょう。
土地の利用については「使用貸借権」が解除され、新たに土地の賃貸借契約を結んで借地料を支払う必要があるでしょう。
ただし、借地権は借地人の権利が強く保護されており、最低でも30年間は維持されます。契約更新も正当な事由がない限り拒絶できないため、元義両親との関係が良好でなければ土地の賃貸借契約を結び直すことは難しいでしょう。最悪、元義両親から建物を取り壊して土地を明け渡すよう求められる可能性もあります。この場合、使用貸借させてもらえないかは一応確認してみるということもあり得るでしょう。一例では「こどもが中学校を卒業するまで」とか、「妻の生存中は」という期間を設定することがありますが、これらはあくまで公正証書などでの合意の活用について述べるもので、合意ができるとは限りません。
このように、財産分与の対象とならない特有財産に敷地使用権を設定することは、清算的財産分与においてこれは裁判で設定することができるかというと裁判では認められないとするのが多数説となっています。
婚姻関係の破綻を理由に使用貸借権の解除が認められたケース
実子でない配偶者が住み続けるケースにおいて、婚姻関係の破綻を理由に使用貸借権の解除が認められた判例があります。
これは、妻の先祖代々の親の土地に、夫が建物を建てていたケースです。
夫の不貞行為や暴言が原因で離婚になった際、元妻は元夫名義の建物に住み続ける意向を示したものの、元夫は拒否しました。
そこで、娘の離婚を理由として元妻の親が使用貸借権を解除し「建物収去土地明渡し」を求める可能性を主張したのです。
しかし、「法は法」ですから、建物の権原がないため、夫が取得した途端、妻の義両親から、建物収去土地明渡しを求められてしまい、困難に陥ることは容易い想定されます。
協議の結果、元妻の親による主張が認められ最終的に建物は元妻に譲渡されました。実務上も妥当な解決といえるでしょう。
家を売却するケース
土地付きの家で、家のみを売却するケースがあります。
ただし、家のみを売却することは現実的ではありませんから、実際は、妻の父などを説得し、後は取り分の問題として調整することになることが多いかと思います。
売却金額が住宅ローンの残債を上回る状態(アンダーローン)であれば抵当権が抹消でき、売却が可能です。
この場合、借地権付きの建物として売却し、親と買主が賃貸借契約を結ぶというオプションもありますが、実際は、親と一緒に売却するというケースが実務上は多いように思われます。
このうち、建物の売却益は財産分与の対象となり、夫婦で2等分します。
家も土地も売却するケース
家と土地を売却するケースでは、家のみを売却するよりも高い価格で売却できますが、売却には親の同意が必要で土地の売却益の多くは、一般的に土地が把握する価値の方が高いですから、親が受け取ります。
親は将来的に子どもに土地を譲りたい、相続してほしいと考えるケースが多いでしょう。土地を売却することで親の意向に背く結果となるため、慎重な検討、話し合いが必要です。
そのほか、実子でない配偶者が家に住み続ける方法としては、家と土地を買い取るか、または第三者に買い取ってもらって借りる方法があります。ただし、先祖代々の土地の場合、周囲には、元配偶者側の親戚が多く暮らしていることが普通です。したがって、実子でない配偶者が家に住み続けられることも、慎重な検討が必要です。
財産分与時の注意点
財産分与には、法的な条件がさまざまにあります。
ここでは、住宅ローンの取り扱いや家の名義変更に関する注意点を解説します。
住宅ローンの取り扱い
まず、不動産売買の実務では、土地・建物が民法や不動産登記上別々の不動産であっても、売買は一体として行われることが普通です。
こうしたことを前提に、家のみを売却して住宅ローンの返済を終えても利益が残る状態(アンダーローン)であれば、残った売却益が財産分与の対象になります。逆に、住宅ローンの返済分が上回る状態(オーバーローン)であれば、売却自体ができないため財産分与の対象外となります。
オーバーローンの場合、住宅ローンを夫婦どちらが払うかは話し合いで決めることになるでしょう。ただ、夫婦間で収入の格差がある場合は、ローンの名義書き換えが認められないことがほとんどです
とりわけ、妻側が専業主婦の場合は、金融上の信用がないことが多いので、話合いが難航することが予想されます。
どのような形で支払いを続けるかは、弁護士などの専門家を含めて話し合うことを強くおすすめします。この類型は弁護士が最も難しいと考えている財産分与の分野です。
一例では、住宅ローンの支払いをどうするのかを話し合われたうえで、「住宅ローンについては、甲が責任をもって支払い、乙には迷惑をかけない」といった趣旨の条項を入れて対応することもありますが、合意に達することができるかにハードルがあるといえるでしょう。
家の評価額について対立したケース
夫の親の土地に建物を建てていた妻が、財産分与にあたって家の評価額について夫と対立したケースがあります。
この夫婦は、性格の不一致によって離婚しました。元夫は建物がオーバーローン状態で財産分与の対象にならないと主張しましたが、元妻はアンダーローン状態だと主張。
調停の結果、オーバーローン状態が認められて預貯金のみが分与の対象とされました。
このような不動産の場合、夫の親の土地に建物がある場合、夫から見れば使用貸借があるので、価値がありますが、妻から見れば土地利用権がありませんので、こうした点も踏まえて低廉な評価とされる可能性も否定されないでしょう。
家の名義変更
離婚にあたって家の名義人を変更する場合は「所有権移転登記」が必要です。
たとえば協議離婚の場合は、以下の書類を用意します。財産分与は特定承継ですので登記に必要な書類は「売買」とほとんど変わりません。
なお、調停調書がある場合は、判決による登記が可能となりますので添付書類が異なりますのでご注意ください。
【双方】
- 印鑑(分与する側は実印)
- 本人確認書類
【財産分与側】
- 印鑑証明書
- 離婚の記載がある戸籍謄本
- 財産分与を証明する書類(登記原因証明情報)
- 登記済権利証(または登記識別情報)
- 固定資産評価証明書(または課税明細書)
【財産分与を受ける側】
- 住民票
財産分与に贈与税はかかりませんが、離婚が確定する前に家を売却して財産を分けた場合、贈与に見なされるおそれがあるため注意しましょう。その他、所得税法上は認定課税や、不動産取得税については事前に調べておいた方が無難です。相談先は、弁護士ではなく税理士になることが多いでしょう。
まとめ
親名義の土地に実子の配偶者名義で家を建てている場合、離婚時の財産分与は次のケースで対応が異なります。
- 実子が家に住み続ける
- 実子の配偶者が家に住み続ける
- 家を売却する
- 家も土地も売却する
住宅ローンの取り扱いや家の名義変更などは、弁護士などの法律専門家を交えて財産分与の注意点に留意しつつ夫婦間や親との話し合いを行うことで、トラブルを避けられるでしょう。
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