財産分与に強い弁護士が財産分与で配偶者の個人事業の資産の取り扱いを解説!

 

財産分与で配偶者の個人事業の資産の取り扱い

 

財産分与というと、婚姻期間中に増えた不動産、預貯金、有価証券、退職金見込額、社内預金、生命保険金の解約返戻金相当額、自動車の査定額などを通算して、増えた部分があれば半分に分けるというのが典型的な「清算的財産分与」です。

不動産や自動車も査定をとることができますので、査定を中心に評価すれば、いずれも金銭に評価することはできます。

しかしながら、例えば、夫が個人事業主で歯医者さんをしており、妻が医療事務として仕事を手伝っているような場合、どのように財産分与をすればいいのでしょうか。そもそも、個人事業主が有している事業用資産というのは、財産分与の対象になるのでしょうか?仮になるとしても、どのように金銭的評価をするのか、また、一方は離婚に伴い離職してしまうケースがほとんどですから、分与する方法も問題といえます。

1.個人事業の扱い

原則的処理パターンは、例えば夫が個人事業として歯科医をしている場合、個々の事業用資産は分与の対象になるといえるでしょう。

つまり、事業用であってもなくても、夫・妻に帰属する財産は、財産分与の対象になるというのが原則的パターンということになります。

しかし、歯科医のように、場合によっては、銀行から設備を設置するため借入れをしているような場合は、例外的パターンになる場合があります。

大規模な設備や多くの従業員がいるような大規模な事業である場合には、個々の資産だけではなく、収益性による事業価値を評価する傾向にあるといわれています。

つまり、個人事業の資産は、単なる「資産」とみるだけではなく、キャッシュを生み出す事業価値があるということになります。このような場合は、例外的処理のパターンとして、個人事業主の資産を財産分与の対象として、具体的分与の対象としないという解決方法(この場合、妻には、個人事業に関連する以外の分与対象財産の分与を受けてもらうことになるでしょう)や、借入れがある場合は個人事業の資産を負債とともに除外されるというケースもあるようです。いずれにしても、キャッシュを生み出す事業価値が生じた場合には、単純に「資産」と評価されない可能性があることは注意しておきましょう(松山地裁西城支部昭和50年6月30日判決)。

もっとも、歯科医師にしてもそうですが、実際には事業の規模が大きくなると、法人を設立して、法人で事業を経営するということが広く一般に行われているので、個人事業主で規模が大きい場合は、一度弁護士に相談されると良いでしょう。

財産分与として夫と妻の個人名義の事業の顧客を分けたケース

【設例】

夫と妻がおり、2人のこどもがいました。2人でA商品の販売業を営んでいましたが、法人化はせず、基本的には夫の名義で取引をしていました。ただし、実態としては、父母それぞれが営業活動をしており得意先をもっていた。

 

【ポイント】

個人事業主で、事実上、のれん分けをして、父母で事業の顧客を分けるというケースはめずらしいといえます。着目すべき点は、A商品を仕入れして販売するという事業形態であり、工場のような設備は必要なかったということも大きいといえます。

また、夫婦それぞれが営業マンになっていて個別に顧客を持っていたという事情も大きいといえます。つまり、この場合、妻が夫の事業から手を引いてしまうと、夫は、妻が有していた顧客を失ってしまう可能性もあるので、そうであったら話合いで顧客も分けた方が良いという解決になりやすかったものと考えられます。

その他、事業のもうけとして、年間2000~3000万円を維持していたという点も大きいでしょう。これは、個人事業主の規模であれば、仮に半分のもうけの規模になってしまっても、十分、個人事業を存続させるメリットがあるといえます。

そのほか、夫と妻との間には、自宅、自宅以外の不動産、預貯金があり、個人事業以外の資産も分与することにより調整できたことが、個人名義の事業の顧客を分けられたことの大きな要因といえます。

【解決の方法】

法律上は、取引については「資産」とはいえないと思われますが、父母でのれん分けするということになり、6:4の割合で顧客を分けることになったそうです。

法的な構成としては、夫が妻に4割分の事業譲渡をするということになりますが、妻は夫に対して、その対価として、個人事業以外の資産の中から一定額を拠出するということでまとまるということが考えられます。

夫独自の個人事業に用いていた不動産を分与対象財産に含めたケース

【設例】

父母は、二人のこどもをもうけていました。婚姻後、父母は、飲食店を営むとともに、夫は、従業員を一人雇い不動産業をしていました。

離婚する場合、夫名義の3000万円の預貯金、1億5000万円相当の不動産が存在していました。ところが、夫名義の預貯金や不動産は、ほとんどが不動産業の遂行上使用するものでした。

夫は、夫名義の財産は夫自身の個人事業の事業用資産であるため、分与対象ではないと主張しました。これに対して、妻は、夫名義の財産は、事業用財産としても分与対象になると主張しました。

【解決】

本件では、妻は飲食店で働き不動産業にはタッチしていないケースとします。そして、個人事業主にありがちですが、不動産業に関する預貯金と家計としての預貯金は明確には区別されていませんでした。

そうすると、事業との区別が混在一体としており曖昧であることや、不動産業の人員的な規模が小さいという事情から、不動産業に関する財産も分与対象となる方向性となりました。

そして、不動産業の利益は大きいものといえましたが、これに対する妻の貢献が小さく、また、飲食店の利益は小さいといえる状況でした。

そこで、妻が飲食店及び不動産業という「事業」による資産形成に貢献した程度は比較的小さいといえるものでした。そこで、妻の寄与の程度を調整することになりました。

結論的には、妻は、事業用部分とされたものの預貯金と不動産相当の20パーセントを分与が受けられることになりました。ポイントとしては、個人事業の場合、事業用資産について分与の対象になるか否かで意見が対立することがあります。この点、夫として、妻の寄与割合を下げることを前提に、不動産業に関する財産も一部財産分与の対象とすることで合意していたといえます。

夫独自の個人事業に用いていた不動産を分与対象財産に含めたケース

【設例】

夫と妻は、婚姻し、一人の子をもうけました。婚姻後、父母は、食品製造業を営んでいました。食品製造業とは別に、夫は、不動産取引と宿泊事業も行っていました。不動産取引については、従業員はなく、宿泊事業については、アルバイトが数人いました。夫名義の5000万円相当の預貯金、8000万円相当の不動産が存在しました。また、不動産の取引に伴う夫名義の借入れが約3000万円程度残っていました。夫は、個人事業財産については、財産分与の対象にならないと主張し、妻は財産分与の対象に含まれると主張しました。

【解決】

事業用財産については、もし対象とする場合、事業のための借入れ等を含める必要が出てきます。本件では、夫名義の借入れが約3000万円あるということですので、妻の主張どおり、個人事業財産を財産分与の対象に含めるとすると、負債も通算する必要が生じることになります。

まず、夫の不動産取引、夫の宿泊業については、妻が事業に関与することはありませんでした。そして、預貯金と家計としての預貯金は明確に区別されていないとします。

このような観点からみますと、財産が混然一体としており、財産の区別が曖昧であり、不動産取引の人員的規模が小さいという事情からすると、不動産取引に関する財産も分与対象とするのが相当といえました。

この点、個人事業財産が財産分与の対象とならない可能性がある場合のメルクマールとしては、①事業用財産と家計用財産が峻別されていること、②事業の人員的規模が小さいこと、③事業用の多額の借入れがないことなどが考慮要素になるのではないか、と考えられます。

2.夫婦(個人)共同の事業の評価額は顧客数を基に計算した事例

(松山地裁西城支部昭和50年6月30日判時808号93頁)

婚姻後、妻がプロパンガス販売業を始めました。その後、夫も従事するようになりました。法人化することはせず、夫婦それぞれ個人が取引をしている状況であった。

妻は、離婚に伴う財産分与を請求した事例です。

裁判所は、不動産を含む事業用医師や資産その他の財産・負債とは別に営業権にも言及しており、計算上、夫婦共同財産として認めています。これは比較的めずらしい裁判例であると考えられます。そして、営業権の評価については、得意先1戸あたりの単価5000円に約3000戸を乗じた1500万円と計算していることも注目されます。本件は、夫が不貞をしており慰謝料的財産分与や扶養的財産分与も考慮していると考えられるため、清算的財産分与のみの場合の参考にどれくらいなるか分かりませんが、妻の長期間忍従を強いられながら夫婦財産を構築してきたその尽力の程度、子の養育にささげてきた費用等諸般の事情を考えて、妻の分与割合を7割として、夫が妻に金銭で分与することにしたものです。

3.夫婦(個人)共同の事業の得意先(名簿)を妻に分与した事例

本件は、事業の得意先名簿を妻に分与を命じた事例としてめずらしいものといえるでしょう。

夫婦が共同で医薬品配置販売業(「富山の薬売り」)を営んでいたところ、妻は、夫に対して、離婚に伴う財産分与を請求しました。

裁判所は、清算的・慰謝料的・扶養的要素のすべてを考慮した上で、土地・建物・金銭とともに、帳簿9冊、現金500万円を夫が妻に分与することとしました。

帳簿ですが、「懸場帳」というもので、配置薬の得意先905戸分が掲載されていました。この点についても、得意先名簿が妻に渡るということに照らすと、実質的には事業譲渡がされていると考えることもできますが、この裁判例では、得意先名簿自体を「物」として財産分与を命じていることが特色といえます。

4.2つの裁判例についての評価

新注釈民法(17)411頁に、プロパンガス販売業の営業用財産、医薬品配置販売業の得意先が記載された懸場帳を分与対象財産と認めた古い裁判例が紹介されている程度とされています。

5.まとめ

個人事業者の事業用財産は財産分与の対象とすべきか否か、明確に論じた文献は見当たりません。

当事者からは、事業用財産は専ら事業の用に供され、個人財産とは完全に切り離して管理されていることから、財産分与の対象とはならないという主張をされることもあります。

これに対して、事業の用に供され、個人財産とは別に管理されているからといって、当事者が所有する財産であるのに財産分与の対象とならないという理論的根拠はないという見解もあります。また、当事者が経営する会社の株式が財産分与の対象となることとの均衡からも、事業用財産は、分与対象財産となる場合があるという見解があります。

こうした財産分与では、なるべく有利な結論を得るため,弁護士によるサポートを受けましょう。

自分で対応すると明確な文献がない「事業用財産の分与対象財産性」について上手く説明ができず、不利な結論が出てしまうリスクが高まります。

 

離婚や財産分与の問題、とりわけ経営者や資産家の財産分与に注力している弁護士に依頼して、効果的な活動を得るようにしましょう。

経営者や資産家の財産分与問題は、複雑ですので、自分で処理するよりも、弁護士に対応を依頼した方が、自分で対応する労力や時間を省けるうえ,精神的なストレスも大きく軽減されます。経済的なコストとしても十分見合います。

 

名古屋駅ヒラソル法律事務所では経営者や資産家の離婚や財産分与問題に力を入れていますので、お困りの経営者、資産家、個人事業主、医師,歯科医師などの方はお早めにご相談ください。

依頼者様の想いを受け止め、
全力で取り組み、
問題解決へ導きます。

の離婚弁護士

初回60
無料相談受付中

052-756-3955 受付時間 月曜~土曜 9:00~18:00

メールでのお申込み

  • 初回相談無料
  • LINE問い合わせ可能
  • 夜間・土曜対応
  • アフターケアサービス

離婚問題の解決の最後の最後まで、どんなご不安・ご不満も名古屋駅ヒラソルの離婚弁護士にお任せください。