財産分与の特有財産はどのように主張・立証しますか

 

財産分与の特有財産はどのように主張・立証しますか

 

財産分与における特有財産とは、その取得について名義人でない配偶者の寄与が認められない財産をいいます。特に年齢層に関係なく主張されることがありますが、例えば30歳に結婚して35歳に離婚するという場合、23歳から30歳までの独身財産と30歳から35歳までの夫婦共同財産が混在していることがあり、しばしば特有財産の問題が生じることがあります。

特有財産の典型例は、

① 結婚前から有していた財産

② 贈与・相続により取得した財産

―が挙げられます。

 

よく法律相談で、「この部分は特有財産で」といわれる方がいます。しかし、特有財産には証明責任の問題があります。

 

つまり、ある財産が特有財産であるか否かの証明責任は、その主張をすることにより有利になる方、つまり、当該財産が特有財産であると主張する側にあります。

したがって、客観的に「特有財産」であるとしても、その立証ができない場合には、当該財産は夫婦共有財産、すなわち分与対象財産として扱われることになります。

 

特有財産が転換した財産、例えば、相続した預貯金を原資に購入した不動産もまた特有財産となりますが、その紐付けは明確にされる必要があります。

 

調停前置主義において、調停では簡易に、基準時の財産の総額から婚姻時の財産の総額を控除するという包括的な捉え方の主張をされることがあります。当事者間で合意が成立していればそれで足りますが、法律用は、特有財産性の立証(紐付け)は個々の財産ごとにされる必要があります。

 

この記事では財産分与における特有財産性の主張立証について弁護士が解説します。

 

財産分与で、特有財産の主張を考えている方は是非参考にしてみてください。

1.預貯金の特有財産について

婚姻前から有していた預貯金や、贈与・相続により取得した金員を原資とする預貯金は特有財産となります。

もっとも、財産分与において特有財産として扱われるためには、基準時において残存していたことを要するとされています。

例えば、婚姻後、別居に至るまでの間にいったん預貯金がゼロになっている場合は、基準時において特有財産が残存しているとはいえないでしょう。

預貯金については、特有財産の残存が容易なパターンと困難なパターンがあります。

  • 特有財産の残存の立証が容易なパターン

① 定期預金

② 定期積金

このように、定期預金など基本的に動きがないパターンの預貯金については比較的容易であるといえます。また、定期積金など残高が経時的に増加しているパターンの預貯金も比較的容易といえます。

 

  • 特有財産の残存の立証が困難なパターン

① 普通預金

普通預金は、いつでも自由に入出金をすることができ、①給与の受取、②各種生活費の支払等-に用いられます。

このように、頻繁に入出金がされているのが通例ですから、婚姻時に存在した残高は、その後の頻繁な入出金を経て、婚姻後に得た収入等と混然一体となることによって、基準時において特有財産とならない可能性もあります。

 

  • 例外的に、「普通預金」でも特有財産になる可能性のあるパターン

では、例外的に「普通預金」でも特有財産になるパターンはどのようなものでしょうか。

① 基準時の残高から婚姻時の残高を差引計上することに当事者の合意がある場合

② 結婚後、ほとんど動きがない場合

③ 婚姻時から基準時まで期間が概ね1年未満の場合

―このような場合は、特有財産の残存が認められる可能性があります。

2.生命保険の特有財産について

 

  • 全額前納しているパターン

生命保険については保険料を結婚前に全額前払いしてしまっているという方はいませんか。

親が生命保険の保険料を支払っていたり、特有財産たるお金を原資に保険料を全期前納していたりする生命保険料は特有財産です。

 

  • 婚姻前から継続的に加入している生命保険のうち婚姻前に支払った保険料対応部分

婚姻時に支払った保険料に対応する部分は、特有財産部分です。この特有財産部分の立証の方法は、婚姻時の「解約返戻金相当額」(婚姻時時点の解約返戻金証明書)によることいなります。これをもとに、基準時の解約返戻金相当額から特有財産分をマイナスすることになります。

 

3.退職金の特有財産について

  • 基準時に退職したとしてその相当額をもって分与する場合

退職金につき、婚姻前の労働の対価たる部分は特有財産となります。

例えば、基準時の退職金が300万円で、入社してから婚姻するまでが365日で、入社から別居までの期間が730日とします。

計算式は、退職金額×入社から婚姻までの期間÷入社から別居までの勤続期間との按分計算により評価し、これを退職金額から特有財産としてマイナスします。

上記の例でいえば、300万円×2分の1=150万円が特有財産となりますので、300万円から150万円を控除した150万円が財産分与の対象になります。

 

  • 退職金額を定年退職時の退職金で評価する場合

上記のパターンと異なり、「基準時に退職した」というフィクションを挟まないということになるので、①入社してから婚姻するまで、及び、②別居してから定年するまで―の2か所で特有財産が生じることになります。

このため、特有財産部分を求める計算式もイレギュラーなものとなり、退職金額×(入社から婚姻までの期間+別居から定年退職までの期間)÷入社から定年退職までの期間との按分割合により評価し、これを退職金額から控除します。

例えば、退職金が300万円で、入社してから婚姻するまでが365日で、別居から定年退職までの期間が1095日、入社から定年退職までの期間が1825日とするとどうなるでしょうか。

この場合、300万円×(1460÷1825日(=0.8))=240万円が特有財産部分となり、これを控除した60万円が財産分与対象財産となります。

 

4.特有財産としての株式について

  • 原則的パターン

婚姻前から有していた株式や、贈与を受けたり、相続したりした株式は特有財産となります。

なお、実務上しばしば見るものとしては、夫の親が夫の名義を借りて株式を運用していたなどの名義株です。しかし、出資者たる親の固有財産ないし親から贈与された特有財産として、紐付けができれば財産分与の対象から除外されることになります。

  • 例外的パターン

上場株式については、証券会社作成の取引履歴によって、婚姻前から有していたことを立証することになります。

しかしながら、継続的かつ頻繁に複数銘柄の売買を繰り返しているような、いわゆる個人投資家の場合には、証券総合口座内で特有財産と婚姻後の追加入金とが混然一体となり、特有財産部分の判別がつかなくなるといわれています。

つまり、売買を繰り返す過程で、特有財産たる株式が転換したものであるという紐付けができなくなってしまうのです。

このことから、個人投資家の場合において、証券総合口座内で特有財産部分と婚姻後の追加入金とが混然一体となっている場合には、特有財産株式が何に転換したのか、その紐付けがもはやできず、特有財産株式が基準時において残存していたことの立証は極めて困難です。

 

5.不動産の特有財産部分について

不動産を購入するにあたり、例えば妻側の親族が300万円を贈与するなどということが一般に行われています。この場合、300万円は「特有出資」とされ、特有財産部分として、財産分与の対象から除外されます。

5-1.特有財産部分の評価

特有財産部分である「特有出資」は、不動産の時価×(特有出資額÷不動産購入価格)との計算により特有財産を求め、不動産の時価から特有財産価格をマイナスすることになります。

なお、「不動産購入価格」とは、純粋な代金額をいい、仲介手数料、登記手続き費用等を含みません。

5-2.住宅ローンの残債務がある場合

不動産の住宅ローンが残っている場合、特有財産部分の評価額を圧縮する計算式を持ち出す場合があります。

負債が残っているのであるから、特有出資で残存しているものは少ないという考え方と思われます。

計算式は、特有財産の評価を(不動産の評価-住宅ローン残高)×(特有出資額÷不動産購入価格)との計算によるものですが、少数説となっています。

住宅ローンの残債務がある場合でも、これを不動産の時価から引くことはせずに、「不動産自体に占める特有出資の割合」で決めることになります。

 

5-3.住宅ローンを返済中の場合

結婚後、妻の実家からの援助金300万円を頭金として、4500万円で購入した土地・建物が、3150万円に値下がりしています。夫単独名義の住宅ローン残高が550万円(別居時)あります。別居後は夫が家に住み、ローンも夫が支払い家を取得する予定の場合、妻に対する代償金はいくらになるか。

 

この点、特有財産部分である「特有出資」は、不動産の時価×(特有出資額÷不動産購入価格)との計算により特有財産を求めることになります。

 

3150万円×(300万円÷4500万円)=210万円(四捨五入)

 

特有出資は210万円になりますので、不動産の時価価格である3150万円から210万円をマイナスして、2940万円が財産分与の出発点となります。

 

本件では、住宅ローンが550万円残っているので、2940-550=2390万円の半額が財産分与対象財産になります。よって、1195万円がベースラインとなります。

本件では、特有出資が妻の側にあるので、1195万円のベースラインに210万円を足して、1405万円が妻の取り分と計算することになります。

なお、これ以外に、不動産の購入にあたり、双方が特有財産を拠出した場合には、取得資金に占める特有財産の比率によって寄与度を決めるという見解もあります。仙台家庭裁判所平成29年4月18日がこの見解に依拠しましたが、同じ設例で比較しても、特有財産を拠出している方の最終的取り分は、一般的な家裁実務より少なくなる傾向があるようです。

6.特有財産部分の考慮

特有出資の帰属者が不動産の名義人であるか否か、共有であるかで3つの処理のパターンがありますので、ご紹介します。

6-1.特有出資の帰属者が夫で、不動産の名義人も夫の場合

この場合、特有財産部分の考慮は、特有財産部分である「特有出資」は、不動産の時価×(特有出資額÷不動産購入価格)との計算をして、求められた特有財産の価格を除外すれば良いので、それ以上の考慮は必要ありません。

つまり、平易な財産目録であれば、上記で例えば210万円を除外して、2940万円を財産目録に載せれば良いというイメージです。(※財産目録の載せ方は各庁により異なりますが簡単にするとそのようなイメージになるでしょう。)

 

6-2.特有出資の帰属者が妻で、不動産の名義人が夫の場合

この場合、特有財産部分を清算するため、不動産の名義人(あるいは取得者)である夫から特有出資の帰属者である母に対し、特有財産部分の評価額を支払わせることになります。

仮に、不動産しか資産がない場合、先に、不動産の時価×(特有出資額÷不動産購入価格)との計算をして特有財産部分を除外した、ベースラインの金額を2分の1ルールで折半するということになると思われます。

上記の例からすれば、特有出資は210万円になりますので、不動産の時価価格である3150万円から210万円をマイナスして、2940万円が財産分与の出発点となります。

本件では、住宅ローンが550万円残っているので、2940-550=2390万円の半額が財産分与対象財産になります。よって、1195万円がベースラインとなります。

本件では、特有出資が妻の側にあるので、1195万円のベースラインに210万円を足して、1405万円が妻の取り分と計算することになります。このベースラインである1195万円に210万円を加算する行為が特有財産の清算であり、不動産の名義人から特有出資の帰属者に対し、特有財産部分の評価額を支払わせる(分与額に加算する)ことになります。

 

6-3.不動産が共有名義の場合

財産分与の結果、不動産が共有で残るということは、あまり多くないと思われますが、もとより登記名義が①夫の共有持分が5分の4、妻の共有持分が5分の1である場合、②夫の共有持分が10分の9、妻の共有持分が10分の1である場合のそれぞれの分与額はどうなるか、ということを考えてみたいと思います。

 

このテーマは、あくまで離婚裁判になった場合の判決ベースの話ではないか、とも思われますので、調停段階において登記名義の多寡によって計算方法が左右されるかは、個人的には疑問を感じます。

 

不動産が共有名義の場合は、特有財産部分控除後の評価額に登記上の共有持分を乗じた額をそれぞれ分与対象財産の評価額として計上する。

そのうえで、特有出資の帰属者については、上記評価額から特有財産部分の評価額を控除します。そして、特有財産部分の評価額が例えば400万円である場合、特有出資の帰属者の共有持分の価額(時価×登記上の共有持分)を超える場合には、その清算のため、その超える額を、他方当事者から特有出資の帰属者に支払わせるという特別ルールがあるようです。

 

【設例】

夫及び妻は婚姻後、自宅マンションを3000万円で購入し、共有名義で登記をした。妻は、親から贈与金600万円を頭金に充てました(特有出資)。

他方、残代金2400万円については夫を債務者とする住宅ローンを組みました。

基準時において住宅ローンは完済しており、自宅マンションの時価は2000万円というものです。この場合において、

①夫の共有持分が5分の4、妻の共有持分が5分の1のパターン

②夫の共有持分が10分の9、妻の共有持分が10分の1というパターンについて

 

【考え方】

まず、特有財産を除外する必要であるので、「不動産の時価×(特有出資額÷不動産購入価格)」の計算をします。2000万円×(600万円÷3000万円)=400万円となります。よって、特有出資は400万円と画定できることになります。

 

今回のパターンでは住宅ローンの残がありませんので、2000万円から400万円をマイナスして1600万円の出発点となります。

 

ところが、本件の①では、2分の1ルールを採用するのではなく、「①の場合は、夫の分与対象財産は1600万円×5分の4=1280万円」になるという見解があります。

 

この場合、妻について考えると、「妻については、1600万円×5分の1=320万円、そこから特有財産部分の評価額400万円を控除しますので、分与対象財産の評価額は0となります」とする見解があります。

もっとも、この見解も、不動産登記から離れて、「夫の純資産額が(結局)1280万円、妻の純資産額が0となり、2分の1ルールを適用すると、夫から妻に対する分与額は640万円」という結論に至っています。

あくまで財産目録を作成する際は、夫と妻で別々に計上する必要であるので、登記簿上夫が5分の4を持っているので1280万円、妻が5分の1を持っているので、320万円持っている前提で、320万円から特有出資である400万円を控除しなければならないので、結果妻側の持分の評価は0になるという趣旨と思われます。

そして、妻側の持分は特有出資の方が上回っているので、結局、夫の1280万円を2分の1ルールで分けるということになると考えられます。

 

これに対して、②の場合は、特有出資が400万円で、時価が2000万円となります。

そして、1600万円を基軸に、夫分が1600万円×10分の9=1440万円、妻分が1600×10分の1=160万円となり、そこから、特有財産部分の評価額400万円を控除するので、結局、分与対象財産の評価額としては0となります。

そのうえで、夫の資産が1440万円であるので、2分の1ルールで、夫から妻に分与する額は720万円となります。さらに、この事例では、特有出資が400万円であるところ、妻の共有持分を超える場合はその超える価額について清算が必要になるという見解があります。

この点、妻の共有持分の価格は2000万円×10分の1=200万円となるところ、その超える価額200万円については清算が必要となり、これを分与額に加算すると、920万円になります。

 

①の場合、妻の共有持分の価格は2000万円×5分の1=400万円となるため、妻の共有持分が特有出資を超えていないので、その価値について特別ルールの適用はなく、清算が必要にならないということを前提にしていると思われます。

 

なお、例えば、夫と妻で2分の1の持分ずつの場合、特有出資が400万円で、時価が2000万円であり、財産分与対象財産は1600万円となります。

持分はそれぞれ2分の1ずつですので、夫800万円、妻800万円となります。

上記の見解によると、そこから特有財産部分の評価額400万円を控除するので、分与対象財産の評価額は夫800万円、妻400万円になるのではないかと思います。

そして、特有財産の評価額が、特有出資の帰属者の共有持分の価額(時価×登記上の共有持分)を超える場合には、その清算のため、その超える額を、他方当事者から特有出資の帰属者に支払わせるという特別ルールを考慮すると、共有持分の価格は2000万円×2分の1=1000万円となり、特有出資400万円を超えることはなく、清算の必要はなく特別ルールの適用はないということになると思われます。

 

8.財産分与トラブルは名古屋駅ヒラソル法律事務所までご相談ください

離婚されたとき、離婚すべきかすべきでないか等は繊細な問題です。適切に判断するには客観的な視点から状況を見られる第三者による意見が重要となるでしょう。

中でも弁護士は離婚問題に精通しており法的な観点からもアドバイスできるので、迷ったときに頼りになる存在です。

名古屋駅ヒラソル法律事務所では財産分与問題や離婚問題に力を入れて取り組んでいます。お悩みの場合、お気軽にご相談ください。

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