養育費の分担―ひとり親家庭の生活保障
シュシュ:親が別居・離婚した場面、こどもの養育費は誰がどのように負担するのだろうか。養育費がきちんと支払われるためには、どのような工夫、制度が必要なのかな。
養育費の基礎知識
弁護士:直系血族および兄弟姉妹は扶養する義務は負うものとされています。だから親はこどもを、こどもは親を扶養する義務があります。養育費もその表れです。別居していても親であることに変わりはないのです。
十斗:離婚後、親権者である親が再婚し、再婚相手とこどもが養子縁組をしたらどうなるの?
弁護士:養子縁組をされた場合は、養親が実親(離婚した片方の親)と共同親権者となり、第一次的扶養義務者となります。この場合、非監護親は第二次的扶養義務者になるので養育費の支払いが免除されることになります。
十斗:僕は、パパが再婚しても養子になるのは嫌だな。
弁護士:そういうケースだと非監護親が第一次的扶養義務者であり続けます。そして面会交流も続きやすい傾向があるね。
扶養費の請求は養育費の請求で
十斗:扶養費は、こどもが請求するの?
弁護士:一般的には「養育費の請求」という形式で請求します。親に扶養義務があることを前提に、扶養義務者である親同士で、養育費の分担額を取り決めます。合意が成立しない場合は家裁に調停や審判の申立てをすることになります。養育費の調停等では、迅速に分担額の目安が分かる簡易算定表が用いられることが多いです。簡易算定表は日弁連算定表の影響を受けて今改訂作業中でこの記事は2018年12月に執筆されていますが早ければ2019年には発表される見通しです。
十斗:フランスでは養育費の不払いは罰金もあるけれども、日本はどうなのかな?
弁護士:難しいんだよね。フランスは高等教育費も無償だし、小学校も中学校も高校も無償だから。だから学費がかからないから本当にこどもの生活費を支払わない奴は悪い奴といえるかもしれない。でも、日本はそもそも親自体の生活が厳しいことも少なくないので、自己の生活と同等の生活を保障すれば足りるので、本来は税金などの控除でひとり親家庭の生活保障は考えてみる必要があります。
十斗:日本では養育費があまり支払われていないというように聴くけど。
弁護士:うーん、履行の状況まではね。調停離婚や裁判離婚の場合は将来分を含めて強制執行ができるので大手の会社に勤めている人は養育費を不払いにすることは難しいと思いますね。調停では養育費の取り決めをするケースは87.6パーセントといわれるのでほとんどのケースで決められている形ですね。
十斗:でも金額が低いという不満がある。
弁護士:そう。でも、小さいこどもを育てている人は20歳から30歳前半の人が結構多い。給与は手取りで20万円から多くても30万円までというケースがほとんどです。なので金額は監護親からは満足のいくものではないケースもあるかもしれません。おおむね1万円以下は3.1パーセント、2万円以下が14.3パーセント、4万円以下が38.4パーセント、6万円以下が22.5パーセント、8万円以下が9.6パーセント、10万円以下が5.2パーセント、10万円超えは6.1パーセントです。なので約8割が6万円以下となります。これに児童扶養手当などの公助で生活している人が多いかな。
十斗:協議離婚の場合はどうなんだろ?
弁護士:協議離婚のチェック欄で養育費の取り決めありは55.6パーセントから64.1パーセントくらいで取り決め自体はまあまあな数字なのではないかなと思います。
十斗:養育費の問題は継続的に支払われないことかなと思います。
弁護士:うん。僕の印象でもだいたい3年から5年くらいで潰えていることが多いような気がします。
理由としては面会交流をしていないため非監護親の所在が不明になってしまった、あとは同居親の別居親に対する忌避感情が先行していること、交渉することがめんどうくさいなどが挙げられます。
あとは監護親も、非監護親も再婚することによって、新たなこどもが生まれたなどでさらに生活費が厳しくなり養育費の請求が困難になるケースもあります。
あと個人的には養育費が所得認定(8割)されて、児童扶養手当が減額されるので、請求しないというケースもあることもあるかなと思います。
十斗:ふーん。養育費は学費なども関連するから教育、医療、社会保障(ソーシャルセキュリティ)の課題ともいえるんだね。
弁護士:フランスの場合、エリート大学は無償だけど、日本の場合、有償が多いので高等教育費について十分な話し合いがないまま進学しトラブルになるケースもあるね。まずは話合い、事前に面会交流などを通じて進学先などを非監護親にも伝えておく必要があるね。
大学生の学費、生活費
地域の実情により変わるのではないかなという印象ですが都市部では4年生大学卒業までは未成熟子と認める人が多いでしょうし、都市部の裁判官が地方に赴任することがあると同じ発想ですので、今後は4年生大学卒業までは生活費の支払いは認められるということになるでしょう。問題は学費ですが、これは当然に分担できるかなど難しい問題もあります。
大阪高裁平成29(2017年)年12月15日
(1) 原審相手方の扶養料分担義務
ア 原審相手方は,母への離婚申入れ当時(平成22年)から,原審申立人が医学部を含めて大学を卒業するまで原審申立人を扶養する義務を引き受ける旨伝え,本件離婚時(平成24年)にも,養育費支払義務の終期を原審申立人の医学部を含む大学卒業までとすることを了承している。したがって,原審相手方は,原審申立人の大学在学中,母とともに,原審申立人の扶養義務を負う。
イ また,原審相手方は,母への離婚申入れ当時(原審申立人15歳)から,月々支払う養育費には学費を含んでいるが,原審申立人が私立大学の医学部に進学した場合に養育費とは別に大学在学中の費用をできるだけ負担する旨申し出ている。そして,原審相手方の属性をみると,父親が医師で,自らも医師として稼働し,本件離婚時点には,開業医として高額な収入を得ており,その状況に変わりはない。その上,原審相手方は,原審申立人から,高校卒業後の進路について相談を受けた際,医学部への進学も考えている旨聞かされて賛同する意向を示しており,その間,原審申立人が私立大学の医学部へ進学することを否定する旨明言した形跡はない。そのような中で,原審相手方は,原審申立人が私立高校3年生で大学受験を控えていた本件離婚時に,子らの養育費(1人当たり月額25万円)の支払とは別に,私立大学の医学部に進学する場合を想定した本件協議条項に合意しているのである。
以上のとおりの本件協議条項の文言に加え,本件協議条項を合意するに至った経緯,原審相手方の属性,原審申立人の進路等に関する原審相手方の意向等を総合考慮すれば,原審相手方は,本件離婚当時,原審申立人が私立大学医学部への進学を希望すればその希望に沿いたいとし,その場合,養育費のみでは学費等を賄えない事態が生じることを想定し,原審申立人からの申し出により一定の追加費用を負担をする意向を有していたと認めるのが相当である。
ウ 原審相手方は,原審申立人が奨学金を受ければよい,原審申立人にはアルバイト収入や貯蓄がある,原審申立人が複数のサークルで活動する余裕があるなどと主張する。
しかし,原審申立人が本件医学部に進学したことで,本件離婚の際に合意された養育費(一時金を含む。)では私立大学の医学部の学費等を賄えないという本件協議条項の想定した事態が現に生じている。したがって,原審申立人が原審相手方に対して本件協議条項に基づき追加の費用負担を求めている以上,原審相手方は,これに従い,上記の養育費のほかに一定の扶養料を分担する義務を負うというべきである。原審相手方の主張は採用できない。
(2) 扶養料分担義務の始期
原審申立人が本件協議条項に従って原審相手方に協議を申し入れた(平成27年■■月頃)のは本件医学部への進学から約半年後であり,本件申立て(平成28年7月)は本件医学部進学から約1年4か月後である。
しかし,原審相手方は,本件離婚後7か月で再婚すると,子らとの交流に応じなくなり,再婚から9か月後には子らの養育費の減額を求める調停を申し立て,子らとの連絡を拒否するようになった。さらに,原審相手方は,一浪中の原審申立人から私立大学に進学することになった場合の援助の申し出を受けても,こっちにはこっちの事情があると述べて突き放し,本件医学部進学後の平成27年■■月に原審申立人から手紙で面会の申入れを受けるなどしても,面会に応じないどころか,今後一切連絡してこないようにと応答した。このように,原審申立人が原審相手方に本件医学部の学費等についての協議を申し入れることができずにいた原因は,上記の原審相手方の対応にあるといえる。
そうすると,原審申立人が原審相手方に対して本件医学部への進学後(平成27年4月)速やかに学費等について原審相手方と協議しなかったとしても,扶養料分担義務の始期を同月より後らせるべきではない。したがって,その始期については,本件医学部進学の月である平成27年4月とするのが相当である。
(3) 扶養料分担額の算定
ア 分担対象
(ア) 本件においては,本件離婚当時,原審申立人の養育費(月額25万円)とそれ以外の私立大学医学部へ進学した場合の追加費用とが別に取り決められている。そして,平成27年■月には,原審相手方の申立てに係る養育費減額請求事件の中で,上記養育費の額が標準的算定方式に基づいて改めて検討され,その額が標準的算定方式に従って算定される額を下回るものではないとの決定が確定している(前記大阪高裁決定参照)。
そうすると,本件においては,養育費のうち,私立大学の医学部の学費等標準的算定方式によって算定される額では賄えない部分のみを扶養料として原審相手方及び母がその状況に応じて分担し合うこととするのが相当である。他方,原審申立人の日々の生活費を含む標準的算定方式で考慮されている費用については,本件の扶養料の算定に当たって考慮すべきものに含まれないことになる。
(イ) ところで,原審相手方の平成28年の収入は,給与収入が587万6620円,事業所得が4851万1327円,雑所得が66万7133円である。そのうち,給与収入587万6620円を標準的算定表の自営収入に換算すると約430万円となり,また,事業所得4851万1327円及び雑所得66万7133円の合算額から,社会保険料211万0150円を控除した上で,現実に支出されていない費用と考えられる青色申告特別控除額65万円及び専従者給与900万円(原審相手方の妻は実質的には専業主婦である。)を加算すると,5671万8310円となる。そうすると,原審相手方の総収入は,自営収入6101万8310円と同等とみることができる(430万円+5671万8310円)が,この金額は,標準的算定表の自営収入の上限(1409万円)の4倍以上に上る。
そして,標準的算定方式によって算定される養育費は,公立学校の教育費相当額(年間33万円程度)を含んでいるが,本件のように,義務者の収入が公立学校の子のいる世帯の平均収入を大きく上回る場合には,結果として,公立学校の教育費以上の額が相当程度考慮されていることになる。実際,標準的算定表のいずれによっても,子2人での月額合計の上限額が30万円ないし36万円であって,子1人当たりの養育費の上限が月額25万円を下回っている。
これらの事情に照らせば,現時点での原審申立人の養育費1人当たり月額25万円の中には,私立学校に係る費用の一部も一定程度考慮された額も含まれているとみることができる。
(ウ) さらに,本件では,原審申立人及び母は,本件マンションに居住しているところ,本件マンションは,原審相手方が母との別居後に,離婚後の母及び子らの住居として,5000万円の住宅ローンを組んで購入したものである。そして,原審相手方が本件離婚時にその持分2分の1を母に財産分与として譲渡し,その余の原審相手方の共有持分を将来原審申立人に譲渡することを約束する一方,そのローン全額を原審相手方において完済しているため,現在,原審申立人及び母は,母による管理費等の負担のみで本件マンションに居住できている(原審申立人は,将来本件医学部付近で一人暮らしをする可能性を主張するが,本件マンションと本件医学部との距離等に照らし,転居しなければならない事情は見い出しがたい。原審申立人の上記主張は採用できない。)。
(エ) 上記(ア)ないし(ウ)の事情を考慮すれば,本件において原審相手方と母とが分担し合う扶養料は,学納金3141万円のほか会費等を含めた額である約3200万円から公立学校の教育費相当額約200万円(年額33万円程度の6年分)を控除した3000万円に止めるのが相当である。したがって,その余の教育費,医療費等も本件の扶養料分担の対象とすべきである旨の原審申立人の主張は採用できない。
イ 分担割合
原審相手方は,医師として長年稼働し,平成21年■月に整形外科医院を開業し,その後8年以上高額の収入を得てきた。他方,母は,元々薬剤師の資格を有しており,原審申立人が本件医学部進学後,薬剤師としてパートでの稼働を再開し,平成28年■月以降は正社員に稼働形態を変えている。その結果,母の収入は年収650万円程度となっている((526万5125円-39万2000円)÷9月×12月)。
このような原審相手方と母の収入に加え,原審申立人及び母が母による管理費等の負担のみで本件マンションに居住できているといった両名の生活状況等を考慮すると,原審相手方と母の分担割合については,4対1とするのが相当である。
ウ 原審相手方の分担額から控除すべき額
(ア) 母は,本件離婚時の合意により,本件離婚後の原審申立人の月々の養育費に加えて,本件離婚時に同人の養育費の一時金500万円を受け取っているが,これは,大学受験を控えた原審申立人の学費等に充てられるべきものである。
(イ) また,原審相手方は,原審申立人が高校卒業から大学入学までの2年間の浪人中も,原審申立人の養育費を支払っているが,原審申立人が大学進学のために二浪することまでは納得していなかったといえる。このことを考慮して,浪人2年目の分の原審申立人の養育費300万円(月額25万円の12か月分)については,原審相手方の分担額から控除することとする。
(ウ) さらに,本件では,原審申立人の養育費の月額25万円が子2人の月額合計の上限額(標準的算定表によれば1人当たり月額18万円)を上回っており,上記養育費の額には,私立大学に係る費用の一部も一定程度考慮されていること(前記ア(イ))をも考慮すれば,本件医学部在学中の6年間,月額10万円程度の合計720万円(10万円×12か月×6年)を控除するのが相当である。
(エ) 以上によれば,原審相手方の分担額から控除すべき額は,1520万円となる。
(計算式 500万円+300万円+720万円=1520万円)
エ 扶養料の額
上記アないしウの検討結果からすれば,原審相手方が分担すべき扶養料の額は,年額150万円となる。
(計算式 3000万円×0.8=2400万円
2400万円-1520万円=880万円
880万円÷6年≒150万円)
(4) 扶養料の支払方法及び時期
本件医学部の学納金等の納付時期及び額は,分割の場合,第1期(3月)が年額の半分程度,第2期(8月)及び第3期(12月)がほぼ同額(年額の約4分の1程度)となっている。
そうすると,扶養料(年額150万円)の支払方法は分割とし,その時期は各納付月の前月とし,その額は各納付の比率に合わせることが相当であり,具体的には,当該年度開始(4月)の直前の2月末日限り80万円,同年7月末日及び同年11月末日限り各35万円とする。
(5) まとめ
以上のとおりであるから,原審相手方は,原審申立人に対し,平成27年度ないし平成29年度の3年間の未払いの扶養料合計450万円(150万円×3年)と平成30年2月から平成32年11月まで,毎年2月末日限り80万円並びに毎年7月及び11月の各末日限りそれぞれ35万円を支払う義務を負う。
3 結論
よって,上記判断に抵触する限度で原審判を変更することとし,主文のとおり決定する。
平成29年12月15日