妻側の実家から1500万円の援助があった財産分与はどうなりますか。援助を返す必要はありますか。

妻側が住宅を買うときに、妻側の実家から1500万円の援助があった財産分与はどうなりますか。援助を返す必要はありますか。

 

自宅を買うにあたって、夫婦の預金1000万円と妻の実家から1500万円の援助、計2500万円で購入した不動産の時価が原価償却法によれば1500万円になっている場合、夫婦それぞれの取得金額はいくらになりますか。

 

1 はじめに

 購入時点より時価額が下回っている場合は本件のポイントです。結婚生活が長い場合、たいていこのような時価の目減りがあるのです。今回は2500万円で取得したものが、認定で1500万円になる場合です。この場合、よくあるケースとしては、妻側や妻の実家が特有財産として1500万円を認めてくるように求めることがあります。しかし、減価償却の考え方を簡単に考えると、約6割に資産が目減りしていると考えられるので、これとの均衡から金600万円を返すという考え方、2分の1ルールを変更して妻の取り分を処理する考え方があります。近時、前者の考え方をした裁判例に対して、高裁が後者の考え方をした例があります。いちがいにはいえませんが後者の方が取得額が多くなるような気がしますが、財産分与はただでさえ見通しが立ちにくいので、前者の考え方で主張して予備的な主張にとどめておくのが妥当のように思います。繰り返しになりますが、財産分与は非訟手続、つまり裁判官がする行政処分であるため、自由な裁量を認められているため、各裁判体により考え方が異なることから、弁護士とよく相談して対応することが合理的といえます。

 

2 特有財産の比率に応じて双方の寄与度を算定する考え方

 婚姻後に形成された夫婦の預金は、いずれが名義人となっていても双方の寄与度は2分の1となります。

 また、妻の実家からの援助金は、原則として妻への贈与とみることになっています。そこで妻の特有財産から出捐しているといえますので、これを財産形成にあたって妻の貢献として評価する必要があります。

 なお、住宅ローンと同様、負債と評価する場合もあります。妻の実家からの援助金について、借用書が差し入れられており、これを月々返済してきたなどの特段の事情が認められる場合、住宅ローンと同様に純然たる債務として、時価から借入金をマイナスして得た金額を2分の1又は寄与度を算定するという考え方もあります。

 各自の寄与度は、夫の寄与度は1000万円×2分の1/2500万円=5分の1

 妻は1000万円×2分の1+1500万円/2500万円=5分の4

 そこで夫が取得する場合、妻に1200万円の代償金を財産分与として支払うことになります。

 

3 不動産の時価額から特有財産が原資とされる割合を控除して計算する方法

 不動産の時価額から、夫婦の一方の特有財産が原資とされる割合を控除して財産分与の対象とみるべき額を算出する方法をとっています。

 

 この場合、不動産の時価額×(1-特有財産/取得資産)=財産分与対象額

 

 今回の事例にあてはめると、1500×(1-1500/2500)=600

 

 夫は財産分与として、600万円×2分の1である300万円、妻は特有財産900万円と財産分与300万円の合計1200万円を取得することになります。これは、金額が、2と同じになっています。

 

 不動産のほか預貯金、退職金、保険など分与対象財産がある場合、この方法で取得すると、不動産について特有財産を控除した額を他の財産額と合算して2分の1ルールを用いることにより計算することができます。

 

4 その他

 不動産の時価額の減少率と同じだけ特有財産が減少したという考え方をすることもできるでしょう。

5 参考判例(大阪高裁平成19年1月23日判決)

上記認定事実によれば,自宅マンションの購入資金とされた被控訴人名義の三菱信託銀行梅田支店の貸付信託(ビッグ)の解約金1486万5624円は,その口座が結婚の翌年である平成元年9月に開設され(乙26),その後,毎年12月のボーナス時期に多額の預入れがされていることからすれば(乙25,26),その全額が,被控訴人の給与・ボーナス等の収入を原資として婚姻後に形成された財産であると認めるのが相当である。
 被控訴人は,ビッグのうち平成2年12月20日までに預け入れた270万円は,被控訴人が婚姻前からの特有財産の移動を終えて作成した財産目録(甲13)に記載があり,婚姻前からの預金を充てたものであると主張する。
 しかし,甲13号証は,その作成日付によれば,既に婚姻後約3年経過した平成3年1月28日に作成されたものであり,しかも,ビッグの記載の前に,「学資保険(第一生命)」,「郵便貯金(葉子)」,「郵便貯金(花子)」など,子のための保険及び妻子名義の貯金の記載があり,更に妻花子名義の郵便貯金の預入日の記載をみると,婚姻前の昭和59年のものから順次記載されている。このような作成時期及び記載内容からすれば,甲13号証が,被控訴人の婚姻前の特有財産のみを記載した財産目録であるとは,到底認められない。
 したがって,甲13号証の記載に基づく被控訴人の上記主張は,根拠に乏しく採用できない。
 被控訴人は,明治生命の一時払養老保険の満期金についても,甲13号証の記載に基づき,被控訴人の特有財産を自宅マンションの購入資金に充てたものであると主張する。
 しかし,甲13号証は,上記認定のとおり被控訴人の特有財産のみを記載したものではない上,その記載によれば,明治生命の一時払養老保険は,婚姻の翌年である平成元年3月17日に妻の控訴人を受取人として契約したものであることが認められるから,これを被控訴人が婚姻前に形成した財産と認めるべき根拠とはならない。
 以上のとおり,自宅マンションの購入資金として被控訴人の特有財産が充てられた金額は,ワイドの解約金1681万円(1万円未満切捨)に限られ,ほかに,これを認めるべき証拠はない。」
 ウ 19頁4行目から同10行目までの全文を次のとおり改める。
「(ウ) したがって,自宅マンションの評価額から,取得価額に占める被控訴人の特有財産が原資とされた割合を控除して夫婦の実質的共有財産部分を算出すれば,自宅マンションの評価額のうち財産分与の対象とみるべき額は,次の計算式のとおり2517万円となる。
 3785万円×(1-1681万円÷5020万円)=2517万円(1万円未満切捨)

6 参考判例は退職金についても双方の寄与度を検討しています。

原審は,夫が,妻に対し,退職金を支給されたときに550万円を支払うことを命じた。これに対し,妻が控訴し,夫も附帯控訴した。本判決は,一定額の財産分与を命じた原判決を変更し,本判決別紙1「退職手当財産分与計算式」記載の退職手当財産分与額のとおり,退職手当支給額(所得税と住民税の徴収額を控除した手取額)と退職時期を変数とする計算式を定め,これにより定まる金額の支払を命じた。その金額は実際の退職手当の支給額によって変動するため,本判決は,妻の控訴と夫の附帯控訴の双方を認容している。
 本判決の計算式は,退職手当の実際の支給額(手取額)に,妻の寄与割合に相当する割合を乗じた額を定めたものである。しかし,就業規則に基づく退職手当支給規程によれば,退職手当の支給額は,離婚後も勤続すれば,勤続年数に応じて基本給に対する退職手当の支給割合が上がることで変動する。そこで,本判決は,退職手当支給額に対する妻の寄与割合が,婚姻同居期間の割合も考慮し,現時点で退職した場合に支給額の4分の1の割合となり(判決言渡時点での勤続期間30年に対する婚姻同居期間15年の割合である2分の1と夫婦間の寄与割合2分の1を乗じた割合),離婚判決後も勤続期間が延びて支給額が増加する分は財産分与の対象とならないように,退職時期を変数とする計算式を定めたものである。具体的には,判決言渡時点(平成19年1月)で退職した場合の支給割合は,基準俸給額の50か月分であるが,平成19年3月以降に退職する場合には,55か月分に達するまで,勤続期間1年につき1か月分増える。そこで,勤続期間が30年を超えて退職した場合には,実際に支払われる退職手当の額(51~55か月分)から,勤続期間30年の場合の支給割合(50か月分)に対応する退職手当の額を求め,これに判決言渡時点で退職した場合の寄与割合4分の1の割合を掛けて財産分与額を算出している。
 本判決が,原審のような一定額ではなく,実際の退職手当支給額を基礎として定まる額の財産分与を命じた理由は,判決が述べているように,定年までなお5年あることから,その間に退職手当の算定基礎である本俸の変動,あるいは退職事由の如何により,退職手当の実際の支給額が,相当程度変動する可能性が残されていることを考慮したものである。自己都合退職の場合,定年退職の場合の2分の1程度に減額される可能性もある。更には,今日の社会情勢では,退職手当に関する制度自体に変更が生ずる可能性もないとはいえないことも考慮されている。
 本判決の意義は,退職金の財産分与について,判決時に定めた一定額ではなく,退職金の手取額と退職時期を変数とする計算式に基づき定まる額,すなわち判決言渡時点で不確定な変動する額の支払を命じた点にある。高齢化社会の中で,企業の退職金制度自体が見直しの対象となり,将来の支払やその金額の不確実性が高まっていることは事実である。就業規則及び退職金規程の定める退職金の額も,退職事由などにより決して一定ではない。しかし,他方で,退職金には賃金の後払の性質があり,勤続が夫婦の協力の賜物である以上,このような不確実性があるからといって退職金を財産分与の対象としないこととすれば,いわゆる熟年離婚における夫婦間の公平を害するおそれがある。本判決は,このような不確実性に伴う退職金額の変動に対処し得る計算式を定め,退職金の財産分与を命じたものといえる。このように計算式を示した例としては、かなり特殊な判例といえます。

7 特殊な退職金の判決文でもある大阪高裁

 この大阪高裁判決(大阪高裁平成19年1月23日)の判決主文は、被控訴人は,控訴人に対し,被控訴人が中小企業金融公庫から退職手当を支給されたときは,別紙1「退職手当財産分与計算式」記載の計算式によって求められる退職手当財産分与額の金員を支払え。というものです。

 上記のとおり,夫婦の間の婚姻期間中の財産形成についての寄与割合2分の1,現時点で退職した場合の勤続期間約30年,別居までの婚姻期間はその勤続期間の2分の1の約15年であるから,仮に,現時点で退職した場合には,被控訴人は,控訴人に対し,退職手当が支給されたときに,実際に支給される退職手当(ただし,所得税及び住民税の徴収額を控除した額)の4分の1の割合の額を財産分与として支払うこととするのが相当である。すなわち,勤続期間に占める婚姻同居期間の割合2分の1に,夫婦間の寄与割合2分の1を掛けて得られる4分の1の割合の財産分与をするのが相当であるからである。
 ただし,現時点で退職した場合の支給割合は,基準俸給額の100分の5000(50か月分)であるが,平成19年3月以降に退職する場合には,勤続期間が31年になり,以後勤続期間1年につき支給割合100分の100(1か月分)増えることになる。そして,勤続期間が今後31年を超えることにより支給割合が増えることによる退職手当の増加については,控訴人の寄与はない。そして,この勤続期間の増加による支給割合の上昇は,支給割合が100分の5500(55か月分)に達するまで認められている。
 そうすると,勤続期間が30年を超えて退職した場合には,実際に支払われる退職手当のうち,勤続期間30年の場合の支給割合(100分の5000)に相当する退職手当の額に対し,上記4分の1の割合を掛けるのが相当である。
 勤続期間が30年を超える場合において,勤続期間30年の場合の支給割合に相当する退職手当の額の割合は,次のとおりとなる。
 勤続31年の場合(平成19年3月以降,平成20年2月以前に退職した場合) 51分の50
 勤続32年の場合(平成20年3月以降,平成21年2月以前に退職した場合) 52分の50
 勤続33年の場合(平成21年3月以降,平成22年2月以前に退職した場合) 53分の50
 勤続34年の場合(平成22年3月以降,平成23年2月以前に退職した場合) 54分の50
 勤続35年以上の場合(平成23年3月以降に退職した場合)         55分の50
 以上によれば,被控訴人が控訴人に対し,退職手当の財産分与として支払うべき額は,別紙1「退職手当財産分与計算式」記載の計算式によって求められる退職手当財産分与額のとおりとなる。

別紙1 退職手当財産分与計算式
 退職手当財産分与額=退職手当支給額(ただし,所得税及び住民税の徴収額を控除した額)÷4×50÷A
 (計算式の説明)
 Aは,被控訴人が中小企業金融公庫を退職した時期に応じて次の数値を用いる。
 平成19年2月以前に退職した場合           A=50
 平成19年3月以降,平成20年2月以前に退職した場合 A=51
 平成20年3月以降,平成21年2月以前に退職した場合 A=52
 平成21年3月以降,平成22年2月以前に退職した場合 A=53
 平成22年3月以降,平成23年2月以前に退職した場合 A=54
 平成23年3月以降退職した場合            A=55

 

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