財産分与とあげる側の譲渡所得課税
私は、夫と離婚することになり、夫とは、夫が家を出ていくので自宅を好きにしていいといわれ、夫は、自分の預貯金をもっていくというテレビドラマでよくあるようなあと腐れのない離婚をしました。しかし、あとで夫に多額の税金がかかると聴いて本当でしょうか。もともと、代金の授受もないのに、なぜ税金がかかるのでしょうか。また、私の具体的な共有持分から元夫を助けることはできませんか。
Step1.税金の負担がないことを合意の動機として表示しよう!
離婚夫婦もすべてが諍いで終わるのではなく、夫が家を出ていき妻が家を手に入れ、夫が自分の預貯金程度と退職金などをもらう程度の采配で財産分与を決めている人たちもいます。
さて、離婚に対して、不動産を動かす場合、譲渡所得の課税対象になる、あげる側が、というのが実務です。したがって、税金がかかるのか、かからないのか、という点も、不動産取得税や登録免許税はかかりますが、税理士でもない限り、なかなか家を出ていくという条件に、巨額の譲渡所得税がかかるということを予想できる人も少ないのではないでしょうか。
いわゆる認定課税によって譲渡所得税が発生した場合、税金の負担がないことを合意の動機として表示していれば、財産分与が無効にされる可能性があります。また、夫名義の不動産に対して妻が具体的な共有持分が認められるのは、双方の収入からみて協力して返済を行ってきた場合のみであり、税法は行政法であることから民法のような2分の1ルールは通用しません。
Step2.不動産、株式、ゴルフ会員権の移転には、譲渡所得税あり!
不動産、株式、ゴルフ会員権の場合、譲渡所得税の対象になるので、特にあげる側は要注意です。譲渡所得の課税対象となるのです。そして、所得税基本通達33-1の4において、財産分与において、その時の価格により当該資産を譲渡したことになる、と規定しており、取得費についても、取得した時の価格によるとされています。
最高裁も、財産分与の不動産等の課税を一貫して肯定しています。すなわち、譲渡所得税の課税対象になるとしているのです(最高裁昭和50年5月27日)。
しかし、離婚に伴う財産分与の場合、テレビドラマ的には「夫が出て行った」だけというケースも少なくなく、お金のやりとりもないのに、課税対象とすることには感情論として理解できない、というところは理解できるところがあります。弁護士目線からみると、実務上、財産分与に伴う納税資金が用意できないことが離婚成立の障害になっている事例もないわけではあります。
しかし、立法政策では、「継続賃料」と「売却賃料」の差額の問題と同じ問題意識があります。つまり、継続した状態では、売却が予想されるとも限りません。したがって、売却が現実化するときに課税すれば足りるとする日弁連からの批判があります。しかし、実務動向に変化はありません。あげる側は要注意です。
Step3.今後は救済判例は出ないと思われる!
この点、現実問題として、事実上課税されない場合もあります。なので課税されないことを要素として示していたらどうかという問題点が生じますが、昭和50年の最高裁以来の一貫した取り扱いなので、近時は知らない方に問題があるというような指摘がなされる可能性もあります。
裁判所も、財産分与自体に錯誤がないことや、民法の問題ではなく民法の物権変動に付随する行政法の問題であること、違法約束に近いことなどを挙げて、財産分与は有効とする裁判例が多くみられます(東京高裁昭和60年9月18日)。
平成3年3月14日の東京高裁の課税の不知の救済判例以降、広く知られるようになったことに照らし、錯誤無効の主張も難しいですので、きちんと弁護士チェックを受けたり、課税については税理士の税務相談を受けてからにしましょう。
Step4.元夫を法律的にサポートするため元妻は自己持分を主張できるか?
夫名義の不動産の財産分与について、元々、妻に不動産に対する具体的な共有持分があるか否かですが、混乱すると思いますが、行政法と民法は全く別物です。
したがって、妻の具体的な共有持分は原則否定されています。(最高裁平成7年1月24日)
そして、例外的なものですが、妻に具体的な共有持分が認められるのは例外的であって、夫婦の収入がほぼ等しく、妻も連帯保証人になっている場合など、双方の収入から協力して返済を行ってきた場合に限られる。よって、内助の功などはあり得ず、それは民法の夫婦内の実質共有持分の話だ、と切り捨てられてしまっているのが現状です。したがって、パート労働をしていた程度では、具体的共有持分は認められないところが、行政法と民法との大きな違いです。
Step5.不動産を財産分与する夫に警告を発した救済判例(最高裁からの差戻審、東京高裁平成3年3月14日)
一 事実関係
控訴人と被控訴人は夫婦であったところ、昭和五九年一一月二四日に協議離婚の届出がされたこと、右離婚に伴う財産分与として、控訴人の所有する本件土地建物につき被控訴人に対して同月二九日付けで所有権移転登記がされたことは、当事者間に争いがない。右争いがない事実に、《証拠略》を総合すると、次の事実を認めることができる。
1控訴人(昭和一二年八月三一日生)は、昭和三五年四月から株式会社丙川銀行に勤務し、昭和三七年六月一五日、被控訴人(昭和一三年一〇月三一日生)と婚姻して二男一女をもうけ、本件建物(二)に家族とともに居住していた。
なお、本件土地建物は、控訴人が父親から相続して新宿区内に所有していた不動産を昭和四五年に処分(交換)して取得したものである。
2控訴人は、被控訴人との婚姻後に他の女性と不貞の関係を持ったことがあったが、昭和五七、八年ころ、勤務先銀行の部下の女子行員と関係を結び、家庭をないがしろにして子供にも辛く当たり、昭和五八年七月からは被控訴人に生活費を全く渡さなくなった。このため、被控訴人は、昭和五八年一一月ころには控訴人との離婚を決意し、児玉康夫弁護士に相談していた。
3昭和五九年一一月一四日、控訴人は、被控訴人の依頼を受けた児玉弁護士に呼び出され、被控訴人からの離婚の申入れを伝えられた。突然の離婚の申入れを受けた控訴人は、勤務先への体面等から離婚は避けたいと思い、即答を避けたが、翌日から仕事を休んで家にこもり数日間ひとりで考えた結果、前記女子行員と再婚して裸一貫から出直す気になり、同月二〇日、被控訴人に対し直接、離婚に応ずる旨を伝え、離婚の条件について尋ねた。被控訴人が、本件建物に残って子供たちを育てたい旨希望したのに対し、控訴人は、これを了解し、本件土地建物全部を被控訴人に分与して、控訴人は家を出ていくことを承諾した(控訴人には、本件土地建物以外には特別の資産はなかった。)。
4そこで、被控訴人は、児玉弁護士に連絡して離婚協議書を作成してもらい、同月二一日、自宅で控訴人、被控訴人両名が平静裡にこれに署名捺印し、同時に離婚届書にも署名捺印した。右協議書によると、控訴人と被控訴人とが協議離婚することのほか、未成年の二人の子供の親権者は被控訴人とすること、控訴人は被控訴人に対し、本件土地建物、本件建物(二)に現存する家具一切及び控訴人名義の電話一本を分与すること、被控訴人は控訴人に慰謝料の請求をしないことなどが定められた。
5 ところで、右離婚協議書に署名捺印をする際、控訴人は、本件土地建物を取得する被控訴人に税金が課されることを気遣い、大丈夫かと尋ねた。被控訴人は、何とかなるというような返事をした。控訴人は、被控訴人が親せきから援助を受けて右税金を支払うものと理解した。しかし、控訴人も被控訴人も、財産分与としてされた不動産の譲渡が譲渡所得税の課税対象となるとの知識はなく、本件土地建物を財産分与することにより控訴人に課税されるとは全く思っていなかった。実際にも、控訴人には、本件土地建物を財産分与した後に、多額の税金を負担するだけの資力はなかった。
6控訴人と被控訴人との協議離婚の届出手続及び右財産分与に伴う登記手続は、控訴人から被控訴人に委任されたので、右委任に基づき、同月二四日、離婚の届出がされ、同月二九日、本件土地建物につき財産分与を原因とする被控訴人名義への所有権移転登記がされた。そして、控訴人は身の回りの品を持って家を出た。
7 控訴人は、同年一一月末が一二月初めころ勤務先銀行の上司に対し、被控訴人と離婚したことを報告し、本件土地建物全部を財産分与した旨説明した。税金に詳しかった右上司の注意により、控訴人が丙川銀行内の経営相談所に財産分与をめぐる税金問題を尋ねたところ、財産分与をした者にも譲渡所得税が課税されることがわかった。驚いた控訴人は、更に同年一二月末と翌六〇年一月初めの二回にわたり国税局の税務相談所を訪ね、また、税理士にも聞いたりしたが、本件財産分与により控訴人に対して合計二億円前後の譲渡所得税が課税されることが判明した。
その後、平成二年二月二六日、控訴人は、本件財産分与を理由として、控訴人の昭和五九年分所得税について、本税額一億八六三一万一五〇〇円(本件土地建物の譲渡所得額を五億五九五九万八八〇〇円とし、その税額を一億八五八七万六四五〇円としている。)、無申告加算税一八六三万一〇〇〇円とする甲田税務署長の決定処分を受けた。なお、右譲渡所得に対する住民税も課税されることになる。
控訴人としては、本件財産分与により自分が右のような課税を受けるのであれば、本件財産分与契約のような内容の財産分与をすることはとうてい考えられないことあった。
8控訴人は、昭和六一年一二月二二日、前記の女子行員との婚姻を届け出、昭和六二年八月一五日に同人との間に長男が生まれた。現在は、丙川銀行を退職して丁原株式会社に勤務し、月額三〇万円ほどの収入を得ている。
他方、被控訴人は、本件建物(二)に居住し、本件建物(三)と本件土地の一部に作った駐車場からの賃料収入及びピアノ教師としての収入で生活している。
以上の事実が認められる。
二 本件財産分与契約の成立
1前項認定の事実によれば、控訴人と被控訴人との間において、昭和五九年一一月二四日、協議離婚をすることになった際に、財産分与として本件土地建物を控訴人から被控訴人に譲渡する旨の合意が成立したことは明らかである。そして、右離婚及び財産分与の合意が控訴人の真意に基づかないものであったとはとうてい認められない。
2控訴人は、本件財産分与契約は離婚が成立する前の合意であるから無効である旨主張するが、離婚の合意と同時に本件財産分与契約が成立し、その三日後に離婚の届出がされているのであるから、本件財産分与契約は、離婚の届出によりその効力が生じたものであり、これを離婚成立前の合意であるとの理由で無効と解する余地はない。
三 本件財産分与契約と要素の錯誤の主張
1要素の錯誤
(一)前記一で認定したように、控訴人が本件財産分与契約の際に財産分与を受ける被控訴人に課税されることを心配してこれを気遣う発言し、これに対して、被控訴人が何とかなるというような応答をした事実からすると、控訴人は、本件財産分与に伴う課税の点について関心を有していたものであり、被控訴人もそのことを認識していたということができる。しかし、前記認定の事実によれば、控訴人も被控訴人も、離婚に伴う財産分与としてされる不動産の譲渡について、分与者に譲渡所得が生じたものとして課税されることは全く知らず、分与を受ける被控訴人に不動産取得による分与が課されることはあるにしても、分与者の控訴人に課税されることはないと信じていたものであって、そのために、控訴人か被控訴人の税負担を気遣う右発言をしたものと認められるのである。控訴人において自己に課税されないと信じたればこそ本件土地建物全部を被控訴人に分与することを承諾したことは明らかであり、そのことは被控訴人においても理解し得たところであると認められる。
そうであるとすれば、本件財産分与契約に当たっては、控訴人が自己に課税されないことを当然の前提とし、かつ、その旨を黙示的に表示していたものと認めるのが相当である。
そして、前記認定のとおり、本件財産分与により控訴人に約二億円の課税がされることになったが、本件土地建物全部を財産分与した後の控訴人の収入は勤務先から受け取る給与のみであって、右高額の税金を支払うことはできないから、このような課税を受けるのであれば、本件財産分与契約をしなかったであろうと認められる。
以上によると、控訴人の本件財産分与の意思表示には、これにより控訴人が前記の課税を受けることに関して、要素の錯誤があったものといわざるを得ない。
(二)被控訴人は、本件財産分与の合意と離婚の合意とは不可分一体のもので、離婚を成立させることは控訴人も望んでいたのであるから、財産分与のみを切り離して要素に錯誤があったとすることはできない旨主張する。
確かに、財産分与の合意は、離婚の合意と密接な関連をもち、これに付随するものであるが、一般的にいえば、離婚を成立させた後に別の機会に財産分与の合意をすることも可能であり、財産分与の合意について、離婚自体と切り離して意思表示の瑕疵を論ずることができないものではない。財産分与の合意が取り消され又は無効になっても、当然には離婚の効力に影響しないと解される。そして、本件においては、前記認定のように、被控訴人の方から進んで離婚の申入れをし、控訴人が数日間の考慮の上離婚に応ずることを決めたところで、被控訴人からの条件として、本件建物で子供を養育したいとの希望が出され、控訴人において、自分には課税されることはないとの前提で右希望を受け入れたという経過であり、もし、前記のような高額な課税を受けることが判明していれば、財産分与に関する協議が別の推移をたどったであろうことは容易に推測されるところである。してみると、本件財産分与契約の内容が当時の被控訴人にとって簡単に譲れないものであったとしても、それについて離婚の合意と切り離して意思表示の瑕疵を論ずる余地のないほどに両者が一体不可分に合意されたとみることはできない。
したがって、右の点から本件財産分与契約の要素の錯誤を争う被控訴人の主張は採用することができない。
(三)次に、被控訴人は、課税上の事項に関する錯誤は法律行為の要素の錯誤にならない旨主張する。
しかし、およそ課税上の事項に関する錯誤は要素の錯誤にならないと解することはできない。財産上の契約において課税に関する法の不知が直ちに要素の錯誤となるものではないことは当然であるが、右法の不知に由来して、ある課税がされること又はされないことが契約の意思決定の重要な動機となり、かつ、その動機が黙示的にせよ表示されている場合には、当該課税上の事項は意思表示の要素となりうるものであり、その点の錯誤が要素の錯誤を構成すると解すべきである。このように解しても、被控訴人の主張するように法律行為の法的安定を不当に損うものとは考えられない。
2重大な過失
(一)被控訴人は、控訴人が自己に課税されないと誤信したのは、控訴人の職業、地位、経歴からみて重大な過失がある旨主張する。
《証拠略》によれば、控訴人は、昭和三五年に戊田大学経済学部を卒業して丙川銀行に入行し、都内の各支店で勤務し、昭和四四年支店長代理となり、昭和五一年から東京事務集中部に勤務していた者であって、その間特に法務や税務を専門とする仕事についた経験はなかったことが認められる。また、財産分与について分与者に譲渡所得税か課されることは課税実務の取扱いであり、昭和五〇年五月二七日の最高裁判所第三小法廷判決以来同裁判所の判例とするところであるが、法律得意な弁護士の間においても賛否の結論が分かれており、少なくとも通常の一般人にとっては、財産分与者に譲渡所得が発生するとの理解は必ずしも容易ではないといわざるを得ない。《証拠略》によると、銀行員を対象とした税務研修や検定等のために発行されている教材又は解説資料の中には、財産分与についての右課税実務の取扱いに触れているもののあることが認められるか、控訴人が本件離婚問題の発生前にこれらの教材又は資料等に接して、一般的知識として右の点を理解していたこと又は当然かつ容易にこれを理解し得たことを認めるべき証拠はない。これらのことを考慮すれば、控訴人が銀行員であったとの事実から、本件財産分与により自己に課税されないと信じたことについて重大な過失があったと認めることはできない。
(二)次に、被控訴人は、控訴人が離婚の申入れを受けてから本件財産分与契約を締結するまでの間に、財産分与をめぐる課税問題を自ら調査、検討するなり、得意な弁護士に析談するなりしなかったのは重大な過失である旨主張する。
しかし、前記認定のように、控訴人は、突然離婚の申入れを受け、数日間家にこもって考え続けた上でこれに応ずる気になり、すぐに本件財産分与を承諾したものであって、このような経過に照らせは、右数日の間に控訴人が財産分与に関する課税問題についてまで自ら調査し又は得意な弁護士に相談しなかったことをもって重大な過失とみることは相当でない。
(三)更に、被控訴人は、控訴人が婚姻を破綻させた有責者であり、社会道徳上も公平の見地からも、重大な過失を認めるべきである旨主張するが、右主張のような事情があるからといって本件において重大な過失を認定すべき理由とはなり得ない。
その他、控訴人が課税されることがないと信じたことについて重大な過失があると認めるに足りる証拠はない。
3以上のとおりであるから、本件財産分与契約は、要素の錯誤により無効というべきである。
四 信義則違反、権利濫用、公序良俗違反の主張
1被控訴人は、本件財産分与契約が無効となれば、財産分与及び慰謝料のない離婚が残るだけであり、被控訴人は何らの法的保護も受けられないことになる旨主張する。
本件財産分与契約の錯誤無効が認められた場合には、当事者間で改めて財産分与について協議を行うことになるが、右協議が調わないとき又は協議をすることができないときに家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができるかどうかについては、右請求の除斥期間を離婚の時から二年と定める民法七六八条二項ただし書の規定との関係で疑問がないではない。しかし、右規定の趣旨と、本件事案の下において被控訴人に右協議に代わる処分の請求をあらかじめ行わせることは期待できないことを考えると、時効の停止に関する民法一六一条の規定を類推適用する余地があり、本件財産分与契約の錯誤無効が確定した後に行う右協議に代わる処分の請求が前記除斥期間の定めによって妨げられるものとは解されない。また、本件の離婚協議書によると、被控訴人が控訴人に対する慰謝料請求権を放棄する旨の合意をしているが、右合意は、本件土地建物の分与を前提とするものと解されるから、右財産分与が錯誤無効となれば当然に無効となり、その慰謝料請求権の消滅時効期間は本件財産分与契約の錯誤無効が確定した時点から起算されると解すべきである。そして、控訴人が被控訴人との婚姻を破綻させた有責者であること、控訴人の錯誤の原因である譲渡所得税の税負担は、本件財産分与のための費用ともみうるものであるから、これを本件土地建物自体で負担することにすれば、裸一貫から出直すことを決意して本件財産分与契約をした控訴人にとって、実際上意外な経済的不利益を受けることにはならないこと、被控訴人が子供とともに本件建物(二)に居住したいとの強い希望を有していること等の事情は、今後改めて行われる財産分与の協議又はこれに代わる処分において十分斟酌されるべきものである(控訴人も、有責配偶者として被控訴人の生活について十分に配慮すべき責任があること自体は認めている。)。そうであるとすれば、本件財産分与契約の無効を認めることによって被控訴人が財産分与も慰謝料もない苛酷な状態に置かれることになる旨の被控訴人の主張は採用できない。
2また、被控訴人は、当審における和解の経緯について言及し、控訴人が錯誤に藉口して大きな利益を得ようとしているものである旨主張するが、本件財産分与契約の効力が深刻に争われている訴訟内での和解であることなどを考えると、直ちに控訴人の請求が不当な目的に出たものであると推認することはできない。
3その他、本件の全証拠をもってしても、控訴人の本件請求が信義誠実の原則に違反し、権利の濫用又は公序良俗違反であると認めるには足りない。
五 結論
以上によれば、控訴人の請求は、当審で追加された請求を含めて理由があるものとしてこれを認容すべきであり、これと異なる原判決は不当であるから、原判決を取り消して控訴人の右請求を全部認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。