有責配偶者からの離婚請求可能な場合を徹底解説!名古屋の離婚弁護士

有責配偶者からの離婚請求について

古藤肇麿(仮)・家事調停官と弁護士とのパースペクティブ

弁護士:続いては、有責配偶者からの離婚請求につきまして討議したいと思います。不貞といいますと、いろいろな価値観もあるところであるので、結果として夫婦が冷え込んでいるものの、最高裁大法廷昭和62年9月2日民集41巻6号1423頁の3要件ないし考慮要素が厳しい、というような話しもあるところです。さて、事案といたしましては、このようなものです。
松浦要士と松浦千弥子とは昭和62年に婚姻し、平成元年に長男游、平成6年に長女立夏が生まれた。要士は、留美との夫婦関係が悪化して、平成20年に自宅を出て、平成22年から、小石川留美とその長女・小石川光希と長男小石川朔と同居を始めた。要士は、平成28年、離婚調停を経たうえで、離婚訴訟に至りました。請求原因としては千弥子の浪費等により口論が絶えなかったため別居に至り婚姻関係が破綻したと主張しています。これに対して、千弥子は、別居の原因は要士の度重なる暴力にあり、別居後も大学時代の同級生の留美と不貞行為に及んだのであって要士からの離婚請求は認められないと反論しました。
なお、要士の認否は留美との同居は認めるが婚姻破綻後の同居であると主張している。

弁護士:この事案は、いろいろな問題が凝縮していると思いますのでよろしくお願いいたします。
調停官:弁護士さんが仲裁人でしたら、どのように進行しますか。
弁護士:はい。大変難しい質問です。なぜなら、有責配偶者からの離婚請求の場合は訴外での示談交渉案件も少なくないからです。したがって、訴訟については請求原因にのっとり行われれば事実認定のうえあてはめて判決となりそうですが調停や仲裁の進行は簡単ではない、と思います。とはいえ、まずは、相手方となる千弥子さんに離婚意思があるかどうかを確認することになるかと思う点は通常の調停と変わらないと思います。そして、本件の場合、8年の別居期間がありますので、調停については離婚方向でのあっ旋になるだろうと思います。この点、仮に有責配偶者であるとしても、2名のこどもはいずれも成人していると思いますので、最高裁の昭和62年判決をみましても、長期の別居及び未成熟子はいないことになります。したがって、あとは千弥子さんが、経済的手当がなされるかですが、洋酒メーカーに勤務しており年収も800万円近い点が特徴的です。ですので、相応の慰謝料で調整できれば調停が成立する可能性もあるのかな、という見立てです。
調停官:はい。弁護士の調停における整理は参考になりました。もっとも、人事訴訟では、この夫婦は、8年も別居し要士は別の女性と同居しているというのですから婚姻関係を修復することを期待することはできないので、婚姻破綻自体は認定できるでしょう。
弁護士:問題は、有責配偶者の抗弁、すなわち信義則違反ですね。
調停官:よく勘違いしている弁護士さんもいるのですが、基本的に別居から2年後に同居しているので昭和62年の判例を引用することも考えられます。しかし、今般では、基準時は別居時に求める見解が有力なのです。そこで千弥子の「別居の原因は、要士の度重なる暴力にあり、別居後も留美と不貞行為に及んだ」という主張なのですが、別居の原因が要士の暴力にあると争点整理をします。
弁護士:そこで問題なのですが、裁判所は別居時以降の不貞については冷淡なのではないか。探偵資料があっても全くとりあってくれないという不平も聴くところです。
調停官:本件の主張の仕方ですと、不貞行為と婚姻関係の破綻との因果関係の証明がなされるかがポイントになります。問題は、不貞行為の時期と婚姻破綻の時期の先後関係です。
この点、信義則違反は抗弁ですので千弥子さんに不貞行為の時期の特定の責任があります。平成22年以降の不貞行為については前提となる事実にして良いのではないか、と思いますが、問題は、第一、不貞行為の時期を平成22年よりも前、具体的には同居時から交際していたことの証明ができるか、第二、婚姻破綻の時期はいつか、ということになります。
裁判所の破綻の認定は、離婚を認めるか否かと、そうでないかで少しブレがあるのではないか、と思っていますが、別居から2年後の不貞行為を破綻後の不貞行為と位置付けるか否かですね。この点に攻撃防御が集中することになると思いますが、裁判官の頭の中には、少なくとも千弥子さんは留美さんに慰謝料請求することは、平成8年の最高があるので難しいだろうと考えると思います。
弁護士:教科書設例ですので、因果関係があることを争うとか、有責配偶者の離婚請求の要件を満たさないということを予備的に証明することもあり得るでしょうね。
調停官:弁護士さんは、先ほど8年について相当の長期間であることを前提とされましたね。
弁護士:離婚における破綻のメルクマールは、安倍嘉人さんの提言でも5年プラマイ1年程度と考えていますので、本件は相当長期と思います。また、相当長期というのはこどもが青年に達するまでというパラフレーズと考えているので、こどもがいずれも20歳を超えている本件では、相当な長期と考えたのです。
調停官:本件は、同居期間が20年を超えている案件でもあります。ですから弁護士さんのいうとおり、当然に相当に長期だ、ということは困難と思います。そこで弁護士がいわれた未成年者の問題などを取り上げて8年自体が「相当の長期間」にあてはまるというあてはめをするのです。
そして、離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような事情についてみると、精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態に置かれているかを判断することになります。ご指摘の千弥子さんは、精神的・社会的・経済的に安定しているとはいえそうですね。
弁護士:なるほど。私は、別居から2年後であるので有責配偶者からの離婚請求の法理があてはまらないという射程を気にしていましたが、仮にそうであっても、問題はクリアされているとみることもできるのですね。
調停官:いえいえ、射程も大事です。これは抗弁ですから千弥子さんの側に証明責任があります。ですから、要士さんの2年後の交際が婚姻関係の破綻に原因を与えたという因果関係が必要ですが、結果的に要士さんと千弥子さんが没交渉を続けたという場合は私も有責行為が婚姻関係の破綻後に生じたときは有責配偶者とはいえないとする最高の昭和46年5月21日民集10巻12号1537頁を意識することになると思います。家事調停官としては、有責行為以前に夫婦が別居していたことは、有責行為の時点で婚姻関係が破綻していたこと、あるいは因果関係がないことを示す事実の1つになると考えている方が多いように思います。最高裁昭和62年の事例では3カ月の別居で破綻を認めていましたが、別居に至る経緯や別居の態様は様々であり別居後の有責行為ならば直ちに因果関係を否定されるものではないと考えられますので、例えば、3カ月も経過しないうちに同居をしているなどの事実関係がある場合は、婚姻破綻の事実を要士さんの側で証明する必要に迫られることになります。
弁護士:有責配偶者からの離婚請求では証明が重要であることが分かりますね。証明によっては判断枠組みが変わってくることもあり得ます。
なお、附言しておきますが昭和46年の判例は、「原審は、夫婦の婚姻関係がYおよびその父の侮辱や虐待によって破綻し復元の見込がない状態になったことを確定し、Xが他の女性と同棲するに至った」と指摘し、別の女性との同居は「その後のことであるから、かかる同棲の事実をもつて、本件離婚請求を排斥することができない」と判示したものです。
有責行為と婚姻破綻との間に因果関係がないときには、有責行為を理由として離婚請求を否定することはできず、有責行為と婚姻破綻との因果関係の存在を前提としているわけですね。
調停官:そうですね。ところで、証拠がなければ時系列から動かしがたいところを中心に認定していくことになるだろうと思います。
弁護士:最高裁昭和62年判例は、3要件がありますが、それに加えて諸要素も考慮の対象になるとされています。具体的にいいますと、有責配偶者の責任の態様・程度、相手方配偶者の婚姻継続についての意思及び請求者に対する感情、離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子、更に未成熟の子の監護・教育・福祉の状況、別居後に形成された生活関係、時の経過がこれらの諸条件に与える影響をも考慮要素として示しています。3要件と諸要素との関係については、学説が3つに分かれています。A説は、信義則は3要件に集約されているという見解、B説は3要件のほかに信義則要素が総合考慮されて離婚請求の可否が決まるという見解、C説は諸要素の方が3要件よりも重要であるとする見解に分類することができます。たしかに判例をみてみると諸要素の方が先に説示されていますね。他方、判決要旨は、いわゆる3要件が挙げられています。具体的には、「有責配偶者からされた離婚請求であっても、夫婦の別居が当事者の年齢及び同居期間と対比して相当の長期間に及び、その間に未成熟子がいない場合には、相手方配偶者が離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできない。」とされています。
調停官:最高裁の判例は、紹介のあったA説が一般的ですし判示事項にもなっていますが、最高裁の判例の中にも、B説やC説に立つものもあるということですね。
弁護士:比較的新しいもので、東京高判平成26年6月12日判時2237号47頁が、別居期間が2年間で、4歳と6歳のこどもがいる夫婦のフランス国籍の妻が夫に対して離婚請求したという事案ですがC説による枠組みにより、有責配偶者からの離婚請求を認容していますね。本件は女性からの請求というのもあるかもしれませんが、離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような事情を中心に据えて信義則の判断基準である諸要素を検討し、婚姻関係が破綻した責任の一端は夫にもあり、妻の離婚請求を認容しても子の福祉がことさら害されるものではなく、夫がもともと妻との離婚を求めていた経緯、夫の収入に照らして、妻の離婚請求を認めたとしても夫が精神的・社会的・経済的に著しく不利益な状態になるわけではないことを考慮して妻の離婚請求は社会正義に照らして許容できるとしたものでした。
調停官:この判決は長期間の別居及び未成熟子の不存在は、離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような事情の要件が問題となる典型的な場合について言及したものとされていて、具体的な状況次第では必ずしも必須の要件ではないとの理解を前提としています。
弁護士:同判決と同様の判断枠組みが現れるかは注視するとして、別居期間においても数量的基準が示されたわけでもありませんし、こどもがいても離婚請求が認められる余地がある可能性を示すものといえます。
調停官:もっとも、3要件及び信義則の判断基準である考慮要素はもともと有機的に結びついています。したがって、B説によって判断する場合によっても、各要件の判断に当たって、実施って気には、信義則の判断基準である諸要素を勘案することになるだろうと思います。
弁護士:ただ、この事案は、準拠法は日本法とはいえ、一方当事者はフランス国籍で領事と面談までしているという案件です。原審はけんもほろろに請求を破綻もしていないし、有責配偶者からの離婚請求であると端的に棄却しています。
フランスでは、いわゆる苛酷条項も廃止され離婚給付に関する法整備をして、基本的には2年の別居による離婚を認める積極的破綻主義がとられています。フランスでは、そもそも夫婦が離婚する原因は分からないことを前提に、夫婦の一方が離婚の意思を有しているのであれば離婚を認めます。ただし、離婚によって不利益を被る他方当事者の準備期間として2年が設定されています。そして、別居を離婚事由として設定して2年別居していれば離婚が認められるということになっています。そういう意味では母国法の影響を受けたものといえなくもなく特殊な事例といえそうです。

最大判昭和62年9月2日民集41巻6号1423頁
一1 民法七七〇条は、裁判上の離婚原因を制限的に列挙していた旧民法(昭和二二年法律第二二二号による改正前の明治三一年法律第九号。以下同じ。)八一三条を全面的に改め、一項一号ないし四号において主な離婚原因を具体的に示すとともに、五号において「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」との抽象的な事由を掲げたことにより、同項の規定全体としては、離婚原因を相対化したものということができる。また、右七七〇条は、法定の離婚原因がある場合でも離婚の訴えを提起することができない事由を定めていた旧民法八一四条ないし八一七条の規定の趣旨の一部を取り入れて、二項において、一項一号ないし四号に基づく離婚請求については右各号所定の事由が認められる場合であつても二項の要件が充足されるときは右請求を棄却することができるとしているにもかかわらず、一項五号に基づく請求についてはかかる制限は及ばないものとしており、二項のほかには、離婚原因に該当する事由があつても離婚請求を排斥することができる場合を具体的に定める規定はない。以上のような民法七七〇条の立法経緯及び規定の文言からみる限り、同条一項五号は、夫婦が婚姻の目的である共同生活を達成しえなくなり、その回復の見込みがなくなつた場合には、夫婦の一方は他方に対し訴えにより離婚を請求することができる旨を定めたものと解されるのであつて、同号所定の事由(以下「五号所定の事由」という。)につき責任のある一方の当事者からの離婚請求を許容すべきでないという趣旨までを読みとることはできない。
他方、我が国においては、離婚につき夫婦の意思を尊重する立場から、協議離婚(民法七六三条)、調停離婚(家事審判法一七条)及び審判離婚(同法二四条一項)の制度を設けるとともに、相手方配偶者が離婚に同意しない場合について裁判上の離婚の制度を設け、前示のように離婚原因を法定し、これが存在すると認められる場合には、夫婦の一方は他方に対して裁判により離婚を求めうることとしている。このような裁判離婚制度の下において五号所定の事由があるときは当該離婚請求が常に許容されるべきものとすれば、自らその原因となるべき事実を作出した者がそれを自己に有利に利用することを裁判所に承認させ、相手方配偶者の離婚についての意思を全く封ずることとなり、ついには裁判離婚制度を否定するような結果をも招来しかねないのであつて、右のような結果をもたらす離婚請求が許容されるべきでないことはいうまでもない。
2 思うに、婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもつて共同生活を営むことにあるから、夫婦の一方又は双方が既に右の意思を確定的に喪失するとともに、夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり、その回復の見込みが全くない状態に至つた場合には、当該婚姻は、もはや社会生活上の実質的基礎を失つているものというべきであり、かかる状態においてなお戸籍上だけの婚姻を存続させることは、かえつて不自然であるということができよう。しかしながら、離婚は社会的・法的秩序としての婚姻を廃絶するものであるから、離婚請求は、正義・公平の観念、社会的倫理観に反するものであつてはならないことは当然であつて、この意味で離婚請求は、身分法をも包含する民法全体の指導理念たる信義誠実の原則に照らしても容認されうるものであることを要するものといわなければならない。
3 そこで、五号所定の事由による離婚請求がその事由につき専ら責任のある一方の当事者(以下「有責配偶者」という。)からされた場合において、当該請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断するに当たつては、有責配偶者の責任の態様・程度を考慮すべきであるが、相手方配偶者の婚姻継続についての意思及び請求者に対する感情、離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子、殊に未成熟の子の監護・教育・福祉の状況、別居後に形成された生活関係、たとえば夫婦の一方又は双方が既に内縁関係を形成している場合にはその相手方や子らの状況等が斟酌されなければならず、更には、時の経過とともに、これらの諸事情がそれ自体あるいは相互に影響し合つて変容し、また、これらの諸事情のもつ社会的意味ないしは社会的評価も変化することを免れないから、時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮されなければならないのである。
そうであつてみれば、有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできないものと解するのが相当である。けだし、右のような場合には、もはや五号所定の事由に係る責任、相手方配偶者の離婚による精神的・社会的状態等は殊更に重視されるべきものでなく、また、相手方配偶者が離婚により被る経済的不利益は、本来、離婚と同時又は離婚後において請求することが認められている財産分与又は慰藉料により解決されるべきものであるからである。
4 以上説示するところに従い、最高裁昭和二四年(オ)第一八七号同二七年二月一九日第三小法廷判決・民集六巻二号一一〇頁、昭和二九年(オ)第一一六号同年一一月五日第二小法廷判決・民集八巻一一号二〇二三頁、昭和二七年(オ)第一九六号同二九年一二月一四日第三小法廷判決・民集八巻一二号二一四三頁その他上記見解と異なる当裁判所の判例は、いずれも変更すべきものである。
二 ところで、本件について原審が認定した上告人と被上告人との婚姻の経緯等に関する事実の概要は、次のとおりである。
(一) 上告人と被上告人とは、昭和一二年二月一日婚姻届をして夫婦となつたが、子が生まれなかつたため、同二三年一二月八日訴外Aの長女B及び二女Cと養子縁組をした。(二) 上告人と被上告人とは、当初は平穏な婚姻関係を続けていたが、被上告人が昭和二四年ころ上告人とAとの間に継続していた不貞な関係を知つたのを契機として不和となり、同年八月ころ上告人がAと同棲するようになり、以来今日まで別居の状態にある。なお、上告人は、同二九年九月七日、Aとの間にもうけたD(同二五年一月七日生)及びE(同二七年一二月三〇日生)の認知をした。(三) 被上告人は、上告人との別居後生活に窮したため、昭和二五年二月、かねて上告人から生活費を保障する趣旨で処分権が与えられていた上告人名義の建物を二四万円で他に売却し、その代金を生活費に当てたことがあるが、そのほかには上告人から生活費等の交付を一切受けていない。(四) 被上告人は、右建物の売却後は実兄の家の一部屋を借りて住み、人形製作等の技術を身につけ、昭和五三年ころまで人形店に勤務するなどして生活を立てていたが、現在は無職で資産をもたない。(五) 上告人は、精密測定機器の製造等を目的とする二つの会社の代表取締役、不動産の賃貸等を目的とする会社の取締役をしており、経済的には極めて安定した生活を送つている。(六) 上告人は、昭和二六年ころ東京地方裁判所に対し被上告人との離婚を求める訴えを提起したが、同裁判所は、同二九年二月一六日、上告人と被上告人との婚姻関係が破綻するに至つたのは上告人がAと不貞な関係にあつたこと及び被上告人を悪意で遺棄してAと同棲生活を継続していることに原因があるから、右離婚請求は有責配偶者からの請求に該当するとして、これを棄却する旨の判決をし、この判決は同年三月確定した。(七) 上告人は、昭和五八年一二月ころ被上告人を突然訪ね、離婚並びにB及びCとの離縁に同意するよう求めたが、被上告人に拒絶されたので、同五九年東京家庭裁判所に対し被上告人との離婚を求める旨の調停の申立をし、これが成立しなかつたので、本件訴えを提起した。なお、上告人は、右調停において、被上告人に対し、財産上の給付として現金一〇〇万円と油絵一枚を提供することを提案したが、被上告人はこれを受けいれなかつた。
三 前記一において説示したところに従い、右二の事実関係の下において、本訴請求につき考えるに、上告人と被上告人との婚姻については五号所定の事由があり、上告人は有責配偶者というべきであるが、上告人と被上告人との別居期間は、原審の口頭弁論の終結時まででも約三六年に及び、同居期間や双方の年齢と対比するまでもなく相当の長期間であり、しかも、両者の間には未成熟の子がいないのであるから、本訴請求は、前示のような特段の事情がない限り、これを認容すべきものである。
したがつて、右特段の事情の有無について審理判断することなく、上告人の本訴請求を排斥した原判決には民法一条二項、七七〇条一項五号の解釈適用を誤つた違法があるものというべきであり、この違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、この趣旨の違法をいうものとして論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、右特段の事情の有無につき更に審理を尽くす必要があるうえ、被上告人の申立いかんによつては離婚に伴う財産上の給付の点についても審理判断を加え、その解決をも図るのが相当であるから、本件を原審に差し戻すこととする。

東京高判平成26年6月12日判時2237号47頁
ア 本件では,上記のとおり,控訴人と被控訴人との婚姻関係は既に破綻しており,民法770条1項5号所定の「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するというべきであるが,被控訴人は,控訴人は夫以外の男性と交際しており,そのために被控訴人との離婚を求めているものであって,いわゆる有責配偶者に該当するから,控訴人からの離婚請求は信義則に反するものとして認められるべきではないと主張しているので,この点について検討する。
イ まず,控訴人は,被控訴人との婚姻関係は平成21年8月又は平成23年9月には既に破綻していたと主張している。しかし,上記認定のとおり,控訴人は,平成23年3月11日の東日本大震災の後,その被害を恐れて未成年者らを連れてフランスの控訴人の実家に避難していたのであるが,同年5月には,被控訴人は,控訴人と未成年者らに会うためにフランスに出向き,その際,控訴人と被控訴人は,未成年者らを控訴人の両親に預けて2人でバルセロナ旅行に行くなどしていたのであるから,その時点では,まだ婚姻関係が修復される可能性が残っていたことは明らかである。しかも,その後も控訴人と被控訴人の婚姻関係はギクシャクしていたものの,亀裂が決定的というほどではなかったのであって,控訴人は平成24年5月30日に別居を開始しているから,その直前に婚姻関係を破綻に導くような出来事があったと考えるのが自然であるところ,控訴人は,平成23年10月から12月頃にDと交際し,さらに平成24年3月頃にはEと交際するようになって,被控訴人に対して離婚してほしいと伝えているのであるから,控訴人と被控訴人の婚姻関係が決定的に破綻したのは,主に控訴人がDやEと不貞行為に及んだためであるというべきである。したがって,平成21年8月又は平成23年9月の時点で既に2人の婚姻関係は破綻していたとの控訴人の主張を採用することはできない。その意味で,控訴人は有責配偶者であり,控訴人による本件離婚請求は有責配偶者からの離婚請求ということになる。
ウ ところで,民法770条は,裁判上の離婚原因を制限的に列挙していた旧民法(昭和22年法律第222号による改正前の明治31年法律第9号。以下同じ。)813条を全面的に改め,1項1号ないし4号において主な離婚原因を具体的に示すとともに,5号において「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」との抽象的な事由を掲げているところ,同条2項は,法定の離婚原因がある場合でも離婚の訴えを提起することができない事由を定めていた旧民法814条ないし817条の規定の趣旨の一部を取り入れて,1項1号ないし4号に基づく離婚請求については,各号所定の事由が認められる場合であっても,2項の要件が充足されるときは離婚請求を棄却することができるとしているのであるが,1項5号に基づく請求についてはかかる制限は及ばないものとしているのであって,民法770条の立法経緯及び規定の文言からみる限り,同条1項5号は,夫婦が婚姻の目的である共同生活を達成し得なくなり,その回復の見込みがなくなった場合には,夫婦の一方は他方に対して,訴えにより離婚を請求することができる旨を定めたものと解されるのであって,同号所定の事由(以下「5号所定の事由」という。)につき何らかの責任のある一方の当事者は,いかなる場合でも離婚を請求することができないとまで定めたものではないというべきである。もっとも,5号所定の事由がありさえすれば常に離婚請求が認められるとすると,自らその原因となるべき事実を作出した一方の配偶者において,そのことを自己に有利に利用して一方的に他方の配偶者に対して離婚を求めることができる事態となって,他方の配偶者の立場を著しく不安定なものとして,夫婦間の信義則に反する結果となるから,そのような離婚請求を許容するべきではないことはいうまでもない。そして,憲法24条の趣旨に照らし,婚姻は,両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことを本質とするものであるから,夫婦の一方又は双方が既にその意思を確定的に喪失するとともに,夫婦としての共同生活の実体を欠き,その回復の見込みが全くない状態に至り,もはや社会生活上の実質的基礎を失っている場合においてまで,なお戸籍上の婚姻を存続させることは不自然であり,不合理であるといわざるを得ないが,それと同時に,婚姻関係が法律秩序の一環である以上,その離婚請求が正義や公平の観念,社会的倫理の観念に反し,信義誠実の原則に反するものであるときは,これを許容することは相当ではないというべきである。そして,5号所定の事由による離婚請求が,その事由につき専ら責任のある一方の当事者(有責配偶者)からなされた場合において,その請求が信義誠実の原則に照らして許容されるか否かを判断するに当たっては,有責配偶者の責任の態様・程度はもとより,相手方配偶者の婚姻継続についての意思及び請求者に対する感情,離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子,特に未成熟子の監護・教育・福祉の状況,別居後に形成された生活関係等が斟酌されるべきである(最高裁昭和61年(オ)第260号同62年9月2日大法廷判決(民集41巻6号1423頁)。そして,これまでそのような有責配偶者からの離婚請求が否定されてきた実質的な理由の一つには,一家の収入を支えている夫が,妻以外の女性と不倫や不貞の関係に及んで別居状態となり,そのような身勝手な夫からの離婚請求をそのまま認めてしまうことは,残された妻子が安定的な収入を断たれて経済的に不安定な状態に追い込まれてしまい,著しく社会正義に反する結果となるため,そのような事態を回避するという目的があったものと解されるから,仮に,形式的には有責配偶者からの離婚請求であっても,実質的にそのような著しく社会正義に反するような結果がもたらされる場合でなければ,その離婚請求をどうしても否定しなければならないものではないというべきである。
エ そこで,上記のところを踏まえて本件について検討すると,本件で離婚を望んでいるのは,妻である控訴人であり,控訴人と被控訴人の婚姻関係が決定的に破綻したのは,主に控訴人がDやEと不貞行為に及んだことが直接の原因ではあるものの,上記認定のとおり,最初に離婚を切り出したのは被控訴人であり,しかも,控訴人に被控訴人の言うことを聞かせようとして,被控訴人が控訴人の携帯電話やメールやクレジットカードを使えなくするなど実力行使に出て,控訴人の人格を否定するような行動をとったため,控訴人において被控訴人に対する信頼を失い,夫婦としての亀裂が急速に拡大していったものであって,控訴人がもはや被控訴人と婚姻関係を継続することはできないと考えるようになり,DやEと交際するようになったことについては,フランス人として個人の自由や権利を尊重することを当然のこととする控訴人の気持ちや人格に対する十分な理解や配慮を欠き,控訴人を追い詰めていった被控訴人にも相応の原因があるというべきであり,控訴人と被控訴人との婚姻関係が破綻した責任の一端が被控訴人にもあることは,明らかというべきである。そして,控訴人と被控訴人の間には,現在6歳の長男と4歳の長女がいるが,控訴人としては,働きながら両名を養育監護していく覚悟であることが認められるところ(甲30),後記認定のとおり,控訴人による養育監護の状況等に特に問題もないことを考慮すれば,控訴人の本件離婚請求を認容したとしても,未成年者の福祉が殊更害されるものとは認め難いというべきである。また,本件では,被控訴人は,もともと控訴人との離婚を求めていた経緯があるだけではなく,後記認定のとおり,平成25年度において約961万円の年収があり,本件離婚請求を認めたとしても,精神的・社会的・経済的に著しく不利益な状態に立ち至るわけでもないと考えられる。そうすると,本件については,確かに,形式的には有責配偶者からの離婚請求ではあるものの,これまでに述べた有責配偶者である控訴人の責任の態様・程度はもとより,相手方配偶者である被控訴人の婚姻継続についての意思及び控訴人に対する感情,離婚を認めた場合における被控訴人の精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子である未成年者らの監護・教育・福祉の状況,別居後に形成されている相互の生活関係等を勘案しても,控訴人が求めている離婚請求は,社会正義に照らして到底許容することができないというものではなく,夫婦としての信義則に反するものではないというべきである。したがって,本件離婚請求は理由があり,認容するのが相当である。
4 附帯処分について
(1) 親権者の指定
上記認定の事実及び証拠(甲30)によれば,長男は現在6歳で,平成26年4月に小学校に入学し,英語教室と空手教室に通っていること,長女は現在4歳で保育園に行きながら,空手教室に通っていること,控訴人が被控訴人と別居してから約2年が経過しているところ,未成年者らはいずれも健康体で,心身ともに特段の問題もなく控訴人と一緒に生活していること,他方,被控訴人は,仕事が忙しく,海外出張もあるなど,継続的かつ安定的に未成年者らの養育監護をすることは困難であることなどの事情が認められるのであって,これまでも主に控訴人が未成年者らの養育監護に当たってきたことや,現在の控訴人による養育監護の状況が未成年者らの福祉に反することを具体的にうかがわせる事情はなく,これを変更する特段の理由がないこと,未成年者らがまだ幼く,母である控訴人を愛着の対象として必要としていることなど,諸般の事情を考慮すると,本件では,未成年者らの親権者をいずれも控訴人と定めるのが相当である。そして,被控訴人と未成年者らとの父子関係は,面会交流を充実させることによって維持発展させるのが相当であり,未成年者らの福祉にとっても必要なものであるから,控訴人は,被控訴人と未成年者との今後の面会交流については,できるだけ寛容な態度で臨み,未成年者らの福祉に反することのないよう十分に配慮すべきである。
(2) 養育費
証拠(甲29,30,乙13)によれば,控訴人は,フランス語教師や私立高校教師等として稼働し,平成25年分の確定申告書(甲29)によれば,その収入金額は,営業等が32万7000円,給与が72万2880円の合計104万9880円であるが,課税される所得金額は0円であること,被控訴人は,F株式会社に勤務し,平成25年分の給与所得の源泉徴収票によれば,その支払金額は961万3500円であることが認められるから,控訴人の総収入を給与相当額の72万2880円とし,被控訴人の総収入を961万3500円として,いわゆる算定表(「簡易迅速な養育費等の算定を目指して」(判例タイムズ1111号285頁以下参照)の「表3 養育費・子2人表(第1子及び第2子0~14歳)」)により,養育費を算定すると,12~14万円の範囲内となるので,被控訴人が控訴人に対して支払うべき養育費の額は,長男及び長女がそれぞれ成人に達する日の属する月まで,1人当たり月額6万円ずつとするのが相当である。
5 結論
よって,以上のところと異なる原判決は相当ではないから,これを取り消した上,控訴人の離婚請求を認容するとともに,付随的処分として,未成年者らの親権者をいずれも控訴人と定め,被控訴人に対し,その養育費として1人当たり月額6万円の支払を命ずることとして,主文のとおり判決する。

最高裁昭和46年5月21日
原審が適法に確定した事実によれば、被上告人は、上告人Aとの間の婚姻関係が完全に破綻した後において、訴外Bと同棲し、夫婦同様の生活を送り、その間に一児をもうけたというのである。右事実関係のもとにおいては、その同棲は、被上告人と右上告人との間の婚姻関係を破綻させる原因となつたものではないから、これをもつて本訴離婚請求を排斥すべき理由とすることはできない。右同棲が第一審継続中に生じたものであるとしても、別異に解すべき理由はない。右と同旨の原審の判断は正当として首肯することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の認定にそわない事実を前提とするか、独自の見解に基づき原判決を攻撃するものであつて、採用することができない。

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