不倫、再婚、失業の婚姻費用の増減額調停・審判―名古屋の離婚弁護士解説!
不倫、再婚、失業の婚姻費用
古藤肇麿(仮)・家事調停官と弁護士とのパースペクティブ
妻のなるみさんと夫の鈴世さんとは、平成18年に婚姻し、平成20年に長男・緋生、平成24年に千騎が生まれましたが、鈴世さんによるなるみさんへの暴力もあり、平成30年以降、なるみさんが、長男と次男を連れて実家に帰り、別居状態にあります。鈴世さんは婚姻費用を支払っていません。なるみさんは婚姻費用の分担を求める調停を起こしました。
ところが、鈴世さんは第一、修復を希望するとともに、なるみさんは不倫をした有責配偶者と主張しています。他方、なるみさんは不倫を否定し、暴力を理由に同居を拒否しています。第二、離婚調停で養育費の折り合いがつかない場合はどうなるか、第三、調停離婚後、鈴世さんはココさんと再婚しキキさんが生まれました。そこで鈴世さんは養育費の減額を求めていたところ、教師である鈴世さんは突然失職してしまいました。この場合は、養育費をなるみさんは求めることができるのでしょうか。
古藤肇麿先生は判事出身で現在は弁護士ですが週1回、家事調停官をなされています。
弁護士:よろしくお願いいたします。婚姻費用については、いつからかは分かりませんが、「専ら又は主として別居の原因」を作った有責配偶者からの妻分の婚姻費用分担請求は認められない、という規範が定着し、不貞と暴力が典型のように思います。まず設題1なのですが、この点は、調停官としてはどのように考えられるでしょうか。
調停官:私は、大阪の家事抗告集中部の影響を一時的に受けて離婚訴訟の財産分与で解決をすれば良いという見解が示されて、各大阪高裁管内がその決定を出していることに疑問を持っておりました。弁護士が指摘されるように、不貞が証拠によって認められる場合は、権利の濫用又は信義則違反として妻分は否定され養育費部分のみ肯定されると考えるべきでしょう。
弁護士:かつては、大阪高裁管内出身の判事が権利濫用を否定していましたが、有責配偶者の場合、直ちに離婚訴訟が提起されるとは限らないのですよね。したがって、婚姻費用分担審判である程度審理をせざるを得ないと思います。また、証拠を殺すというやり方で不貞の事実を否定しつつ算定表の下限をとる裁判官もいました。
調停官:いずれも姑息ですね。婚姻費用を決めるよう審判が起こされているのですから、ただ、目の前の事件に集中すべきで、法律上の連続性が保障されていない人訴をあてにして、確立された高裁判例である権利濫用の判断を避けるのは姑息だと思います。また、事実で殺すというのは優秀な民事裁判官のやり方かもしれませんが、明確な証拠があるのにそれを否定し算定表の下限をとるというのは、自由心証主義の埒外にあるという意味で姑息といわざるを得ないですね。女性からの意見があることも承知しますが婚姻費用は婚姻破綻した妻分の生活費も含むもので男性には負担が重たいものです。それを拙速に決めればよいというものではなく、簡易迅速というのは幼稚な決定を出す抗弁にすぎないと思います。
弁護士:心証の程度ですが、人事訴訟と異なるところはあるのでしょうか。
調停官:弁護士、それは、理論的には非訟だからとか、そういう屁理屈はあるでしょう。
しかし歴史的事実は一つしかなく、同一証拠に対する同一裁判官の証拠評価は基本的に一つです。これは願わくば裁判所ですら同じであるべきだと思いますが、職権の独立というのもあるでしょう。いわんとするところは、やはり最高裁の定式でいう不貞行為の認定が地裁レベルで認定できる程度の証拠は出ていないと、利益衡量上、母親分を否定するのは難しいですね。
弁護士:私も経験がありますが非訟なので簡易迅速にしてくれ、人訴の財産分与でやってくれといわれても財産分与で訴訟遅延しますし、清算する額も当然増えます。そして、回収の実効性が低い可能性もあり、婚姻費用分担審判で行うべきですね。
調停官:判例時報にも東京高裁が載り、事務総局の意向が示されたとみてよいのではないですか。設例1なのですが、婚姻費用で不貞を認定できるのは証人尋問ができませんから、探偵資料など地裁よりも証拠が弁護活動では限られるとは思います。しかし、不倫が認定することができるのであれば、妻自身の生活費は認められず、子である緋生と千騎の生活費のみ分担すれば足りることになります。
弁護士:それに関連してですが、本件では鈴世さんは暴力を振るっており、あるいは、こどもがいない場合、どのように考えるべきでしょうか。
調停官:暴力が診断書で認定できる場合については、これは、裁判官によって判断がわかれるところでしょう。つまり弁護士が指摘する別居の原因からすれば、不倫が原因なのか、暴力が原因なのかということだと思います。私の場合は、局所的な暴力のみを問題にすることはせず不倫があるのであれば妻分は否定すると思いますが、不倫と因果関係がない暴力がありそれが別居原因の可能性がある場合は証拠を吟味のうえ、婚姻費用の分担額を適宜調整することもあり得ると思います。しかし、「あり得る」という話しで原則論は否定ということになります。また、こどもがいない場合は全部否定するのが首尾一貫するところです。
私はそれで問題意識を持ちませんが、女性裁判官の中には、婚姻費用の半分を支払うべきとか、生活保護相当分は支払うべきとか、温情決定を出す人も非訟である以上、いるかもしれませんが、所詮、それは、浪花節の世界であり法理論ではありません。
弁護士:設例2なのですが養育費が決まらない場合です。正直、離婚弁護士として弁護をしていると養育費の1万円又は2万円が定まらず、離婚訴訟になってしまうことも不合理性を覚えますが、感情的な問題から離婚訴訟に移行してしまうことが少なくないことが実情で、離婚を先行させ養育費を審判で、あとで決めるということはできないのが実情です。特に日弁連基準の新算定表や加算調整要素として「無理筋」な主張を展開している場合、仲裁案をこちらが示してものってくれない場合があります。
また、ある裁判官の本には離婚調停において、離婚及び親権者については、争いがない場合、養育費の額で折り合いがつかない場合は、調停裁判所が相当と考える場合、養育費の額を内容とする調停に変わる審判をすることができる、とありますが、このようなことはできるのでしょうか。
調停官:たしかに、養育費は非訟であるのに、いわば附帯処分で合意ができないため、本訴をしなくてはならない、というのは、不相当と感じる気持ちは分かりますし、理論的にもおかしいと思います。しかし、養育費請求権が発生するのは、離婚時ですから離婚とセットでなければならないと思いますね。そういう意味では、離婚、親権、面会交流、財産分与、慰謝料、年金分割、養育費、これらすべてを調停に代わる審判で行えば理論的には可能だろうと思います。
弁護士:しかし、なるみさんからすれば暴力を受け、かつ、慰謝料を請求されている立場ですね。
調停官:そうですね。ですから、弁護士がいわれるように、現実的にはこういうケースは面会交流、財産分与、慰謝料にも争いがあることが多いと思います。したがって、某裁判官が指摘するような調停裁判所が相当と考える場合というのは想定できず、仮にあるとすればインフォームドコンセントが欠けている場合だと思いますので、それはそれで問題だ、と思います。
弁護士:人訴の場合は、20歳までの慰謝料までしか請求できないので、調停とも建付けが違いますからね。
調停官:いわれるとおりで、加算調整なので養育費が標準算定方式から逸脱し、上乗せ分が、合理性が認めれない場合は異議が申し立てられる可能性も高いですから、わざわざ調停に代わる審判を出すことはないと通常の判事であればしないと思います。少しアクロバティックなのは、離婚、親権のみ調停に代わる審判で成立させ、面会交流のみ調停を続行させるという裁判官がいるとうかがっております。
弁護士:離婚後に養育費審判を申し立てることも考えられますが、権利者にとっては、離婚の成立よりも、婚姻費用の支払いがなくなる一方で養育費の審判の確定まで養育費は支払われないので、かかる方法によることを望む人は少ないのが実情といえそうです。
続いて設例3ですが新たな監護すべき子が産まれた場合は当然、減額事由になると思いますが、失業などの考え方を中心にうかがわせてください。
調停官:そうですね。弁護士、的確の指摘のとおり監護すべき子が増えれば減額すべき対象になることは明らかですね。失業についてはやはり難しいでしょう。
弁護士:特に鈴世さんの場合、病状や離職の動機などが総合考量される可能性がありますね。
調停官:この点は、確立された考え方はないでしょう。一例を挙げると失業保険があるので、失業保険相当分を収入認定するケースもありますし、前年度を基準とするのが相当なケースもありますし、失職して無収入になる場合は事情変更でゼロとすべき場合もありますね。
やはりセンサスなど男性の場合は妥当なケースが多いのではないでしょうか。同居中の収入状況、賃金センサス等によって収入を推計することもありますが、労働能力喪失等がある場合は、慎重な認定が求められることは当然といえるでしょう。