父親の監護権指定が認められたケースからどのような場合父親に親権監護権が認められるのか
父親の監護権指定が認められたケースからどのような場合父親に親権監護権が認められるか考える
ポイント
① 父親が同居中にどの程度監護に関わっていたのか
② 子の監護状況について詳細な主張・立証ができるか
③ 子の監護を開始した際の具体的状況はどうか 游さん(仮名)は、大学時代に知り合った妻と交際を始め、平成21年7月に結婚した。平成22年11月に長女立夏、平成25年4月に長男朔が出生している。 婚姻後は妻の光希(仮名)さんの実家近くでマンションを借りて生活をしましたが、立夏の出産後に引っ越して游さんの実家の近くで生活を始め、ほどなくして朔が生まれました。
未希さんは以前から精神的な浮き沈みが激しく、朔の出産前後に不安定な様子がみられた。游さんは、その時点で離婚を考えていたが、まずは未希さんを休養させるため、未希さんの実家でしばらく未希さんとこどもらの生活をサポートしてもらうことになった。こうして、平成25年12月、游さんと未希さんは別居しました。 約1か月後、游さんが迎えにいったところ、立夏は、ぐずって游さんから離れず、チックの症状がみられた。
父親の実家ではこどもの不安定な言動はなくなっていた
母親は3点セットの申立て!
その後、游さんの実家で立夏さんが数日すごしたところ、立夏さんの不安定な言動はなくなってしまいました。游さんは、未希さんの実家での生活が強いストレスになったものと考えた。 しばらくして、未希さんから子の監護者指定、引渡し、審判前の保全処分の3点セットの申立てがあった。
弁護士と院生伊串くんのパースペクティブ
院生:母子優先の原則ですし、面会交流中の引き揚げに近いケースですから、游さんが圧倒的に不利だと思います。その後は強制執行が奏功するかの問題ではないでしょうか。
弁護士:今回のポイントは面会交流ではないかな。なかなか父親が引渡しを求められた際に、あるいは、求める際に、今回のように立夏さんが情緒不安を起こしていたり、チックなどの身体症状を起こしたりしていることを游さんが観察していたことは案件の個性だと思います。
院生:面会交流をした方がいいのですか。
弁護士:弁護士によって判断が分かれるところですね。なぜなら面会交流は監護権が相手方にあることを認めて会わせてもらう許可をもらう行為だからです。
院生:法律論としてはどうなのでしょう。
弁護士:著名な元裁判官は、母親と女性の幼児の場合、乳児母子優先という運用は確かにあった、と講演で話していましたね。同性の場合は有利性があるようです。
院生:ほら、先生、僕のいったとおり母子優先の原則ではないじゃないですか。
弁護士:テクニカルタームをふりかざすと院生じゃなくて弁護士みたいだな~
院生:兄弟不分離の原則からも朔くんが向こうにいる以上厳しいのではないですか。
弁護士:抽象論ではそういう議論もできますね。ではいきますか。
相談票で事前評議を行い、許可をもらい契約上守秘義務を負った院生も相談室へ
弁護士:立夏さんを連れて帰ったのはいつですか。
游さん:平成29年の6月です。
弁護士:そうすると、相談は9月23日ですので、3カ月から4カ月ほど游さんの実家にいるのですね。
遊さん:はい。そうです。でも立夏はどちらかというと僕に似ているんです。ほら、娘は父親に似る、とよくいいますよね。そういうことか僕の父母とは仲がよいんです。悪口いうみたいで恐縮ですが未希は情緒不安定だし母親の留美さんも料理まずいし、朔に女装させようとするし、変わり者です。その点、うちの両親は仲がいいですし、料理もおいしいので、こどもたちはとても懐いています。
弁護士:普段の身の回りのお世話は誰がされていましたか。これはうちのホームページにある子の養育者理論の10個のポイントを印刷したものなのですが、どうでしょうか。
游さん:基本的に保育園に預けていました。こういっては何ですが、未希も出版社の編集で夜遅くなることもありました。僕は独立した一級建築士ですので、保育園の送迎は僕がして、しばらく設計事務所のキッズスペースで遊ばせてから家に帰るというのが平日では多かったと思います。
弁護士:家事や洗濯、寝かしつけなど、ここに書いてある点はどうですか。 游さん:・・・料理や洗濯は未希の仕事でした。僕は夜はもう一度設計事務所に戻ってしまうので、食事は一緒に食べていましたが、同居時は、歯磨き、お風呂などは未希がやっていました。でも休日は、僕だってやっていましたし、こどもたちとお風呂に入るのは楽しみだったんです。
弁護士:平日で再度の外出をしない日はどうですか。
游さん:・・・週に1日か、2日くらいは 游さん:他の弁護士から頻繁に面会することを条件に、長女を引き渡すのはどうかとアドバイスをされました。
弁護士:情緒不安定な女性の場合、多くの面会交流の経験から頻回な面会交流は実現できないと思いますが、交渉してみる余地はあると思います。ただ、あまりご希望ではないような印象もありましたが。 游さん:別の弁護士がみな無理だから面会交流のアドバイスをしてくるのです。
弁護士:他の弁護士は他の弁護士ですし、この3点セットと呼ばれる子の監護者指定、引渡し、審判前の保全処分を最後まで争って離婚訴訟で親権争いまで繰り広げたという経験がある弁護士は名古屋にはほとんどいません。
和解の話しは審判の進行をみて考えましょう。 加えて監護親の情熱を問題にした例もあります。現実に引き取りたいという情熱がないのであればほかの弁護士さんのいうとおりかもしれません。しかも書類の用意などやるべきことがたくさんあって、依頼者が情熱的で能動的でないと訴訟維持が難しいという現実もあるのです。
游さん:僕は、情熱はあります。だから、いろんな弁護士さんの話しを聞いているのです。
弁護士と院生伊串くんのインテーク意見
院生:僕のインテークは、游さんの連れ出しは面会交流からの引き揚げで監護開始の違法性が認められる可能性があるということ、わずか3~4カ月しかいないことから、まだ緊急事態として、審判前の保全処分も認められると思います。
弁護士:審判前の保全処分は、こどもに情緒障害、それに強制執行を繰り返してもやむを得ないと認められる事情が必要なので、現在の生活が安定していれば先行して審理が進むことはなく本案の子の監護者引渡しと仮の審判前の保全処分が同時進行になると思います。
院生:そこら辺ってどのように決まっているのですか。岐阜で修習している先輩からは審判前の保全処分は取り下げるように命令されたそうです。
弁護士:僕はいわゆる東京方式と呼んでいるのですが、審判前の保全処分のみ判断を先行させるというものです。東京方式は保全の必要性がないとして却下するものが多いので却下されると充希さんに不利なので充希さんの弁護士が取り下げることがあります。ただ、判断基準がとても厳しいので先行してくれるとありがたいケースかもしれませんね。名古屋や事案では、子の監護者の審判全体を急いで解決するというように舵をとるケースもあるようですね。
院生:審判前の保全処分は乗り切れるとして、主たる監護者基準からすると、家事や洗濯は未希さんがしていて游さんは夜中設計事務所に戻っていたのですから、主たる監護者は未希さんですかね。
弁護士:今回は都会ならではの正社員同士の共働きだからね。しかも、保育園の送迎は游さんがやっていたという点は見逃せませんね。
院生:現在は、未希さんが監護者で立夏さんの引渡しが命じられる可能性が高いですね。
弁護士:本案ではそうかもしれません。ただ、未希さんは仕事をしているうえ、長女は未希さんの家で情緒不安を起こしているのです。そこで①妻が不安定であったときの状況を示す証拠、物にあたったり人にあたったりすることが分かる写真や記録を出すこと、②長女と游さんの両親との交流状況が分かる証拠、③両親頼みではなく游さんも監護に関わり、それを日記・写真などで記録してもらう、④現在の監護状況が安定していることが分かるように、子の監護に関する陳述書の作成経過に弁護士も入り緻密化しよう。
院生:ところで、情緒不安定な①の証拠なんて見つかるのでしょうか。
弁護士:掘り起こすしかないね。 委任契約を締結し、第一回目の審問期日の延期の上申書を提出した。つい最近まで家事調停官をしていた福尾雪美弁護士は早期に期日を開催を要求し、つい最近まで同僚だった鈴木知恵子裁判官からは、「別に来られないなら来なくても良い。弁護士もいらないから本人が来られるのであれば出頭するように。調査官調査を入れて勝手に進めます」という連絡が入った。
院生:鈴木さんという裁判官、かなり感じ悪いですよね。
弁護士:本件は微妙な問題があるのに、結論ありきという感じだね。欠席裁判で構わないというのは裁判を受ける権利からも問題があります。しかし男性側の弁護をするというのはこれくらいの哀愁があるということです。特に鈴木さんは弁護士会のアンケートでも態度が強権的、横柄とされていた人だからいつものことではないのかな。
院生:保全の必要性は大丈夫なんですよね。
弁護士:審問や調査官調査を差し入れること自体、本案と同時進行するというつもりだと思う。
院生:どういう申し入れをしますか。
弁護士:あせらない。まず管轄は別管轄のはずだから移送の申立てをしよう。 そのうえで「反論の機会も与えられない状況で、妻の主張のみに基づいて結論ありきの調査では公平な調査は期待できない」と強く抗議したうえで、こちらも朔くんの監護者指定・引渡し、審判前の保全処分・面会交流調停を起こそう。
院生:では、その間に、反論の書面と子の監護に関する陳述書を作成するんですね。
弁護士:そう。こどもがいる間に僕らで自宅訪問をして調査官調査のポイントを調査してしまおう。 院生:仁さんと千弥子さんにも連絡をとって、生活環境、両親の理解と協力環境の陳述書の作成依頼をします。夕食の時間に帰宅するために早朝出勤をして、仕事を済ませて、食事、入浴、寝かしつけと立夏さんを中心としている生活は、情熱的ですね。
弁護士:百聞は一見に如かず、というよね。たいていこどもに会わせたがらない親というのはこどもを中心とする生活ができていないこともあります。しかし游さんは、当たり前のケースというか、きちんとしているケースですね。 証拠収集 院生:証拠も集めるものというより、発見するものなんですね。
弁護士:そうですね。千弥子さんが、別居前から頻繁に立夏さんを游さんの実家で預かっていたこと、未希さんが興奮しすぎて電話をかけてきてそのときの未希さんの様子を簡易録音していたり、備忘録をつけていたりしたのは発見でしたね。
院生:母子優先の原則とパースペクティブでいいましたが、一見して游さんに対する侮辱ととれるメールや手紙が大量にありましたね。
弁護士:メールはスクリーンショットか、接写の方が信用性を争われないからそうしましょう。
院生:先生のいったとおり、立夏さんを受診させて診断書が出たのは大きいですね。
弁護士:類型的信用力は高いですからね。
院生:しかし、期日の延期が認められず、その間に準備するのは大変ですね。
弁護士:そうですね。本当は映画になりそうですけど生々しいというかリアルすぎてならないのでしょうね。夜鍋もしますから。
院生:先生と松浦さん、気があっていましたね。
弁護士:もともと夜鍋したり、自宅起案したりする点は弁護士と設計士は共通点が多いんだよ。 法的論点
院生:法的論点を整理してみました。まずは主たる監護者はどちらであったのか。次に監護開始の違法性が認められるか、双方の監護能力及び監護環境はどうか―ですね。
弁護士:そうですね。子の福祉といいながら監護開始の違法性という判断枠組みは強い違和感がありますね。
院生:たしかに、子の福祉に沿っていれば立夏ちゃんが游さんのところにいてもいいと思うのですが、そもそも何法に違反するのですか。
弁護士:裁判所法です(笑)。つまり違法、違法といっても、刑訴法の違法収集証拠の重大な違法と一緒で、いったい何法に違反するかはよくわからないのですよね。今回は、この点は争点となり得るでしょう。もともと人身保護請求で子の奪い合いは審理されていたのですが最高裁判決が人身保護請求の利用例を極めて限定したので、その押し出されてきた形で、拘束の違法性というパースペクティブをいれないといけなくなってしまったと考えられます。
院生:最大の争点は、監護能力及び監護環境でしょうか。
弁護士:はい。たいていはどちらにも有意な差はないのですが、今回は有意な差がありそうですね。
調査官調査
院生:調査官調査の結果で、留美さんが、現状の援助に問題がありストレスを感じている、ということを正直に話してくれましたね。
弁護士:はい。これは決め手になりそうですね。共働きの場合は監護補助者が重要な役割を果たします。おそらく妻の代理人は、これまで未希さんにしか会っていなかったのでしょう。致命的です。
院生:先生は、游さんはもちろん、立夏さん、仁さん、千弥子さんにも、面会していますからね。
調査官の意見書
妻には、情緒不安定な面がみられる。現在の妻の生活状況が安定しているとはいえず、留美による十分な監護補助も期待できないこと、妻側で想定される監護環境は不安定と思われる。他方、父による監護は安定しており、かつ、監護補助者による監護の結果、行動観察結果も安定している。 審判 未希の申立てを却下する、との審判が出た。審判理由では、游さんが立夏さんを引き取ることを同意していたとは認められないものの、妻は体調を崩しておりそれまで游が監護することはやむを得ないとの認識があると推認され、その期待に反して返還を得られなかったとしても、違法な連れ去りと評価することができない。
ケースクローズ
院生:今回のポイントは、やはり游さんの監護が情熱的だったというところでしょうか。
弁護士:はい。否定する裁判官もいますが、依頼者が別居前後を通して子育てパパで監護に大きく関与していた点、僕は特に保育園の送迎を游さんがしていたこと、こどもが情緒不安を起こしたことがポイントだと思います。
院生:適切な記録があったのも良かったですね。
弁護士:両親やこどもに会うとそれぞれのパースペクティブがあることが分かるでしょう。 依頼者の母親が妻の言動や長女を頻繁に預かっていたことを日々記録していたことは、面談してみないと出てこないことかもしれません。
院生:監護補助者も大きいですかね。
弁護士:重要な役割を果たしますからね。
思考停止の裁判官が書くとだいたいこんな審判
院生:僕は今回の裁判、負けだと思っていました。僕が裁判官だったら、「思うに、主たる監護者は母親であるというべきところ、かかる母親によって継続的に監護される方が継続性の原則によれば子の福祉に適う。重ねて、朔は現在のところ問題がないところ、きょうだい不分離の原則を貫徹するべく立夏の引渡しを命じるのが相当である。母子優先の原則、監護の継続性の原則、きょうだい不分離の原則や監護開始には違法性までは認められないものの、不当と認識されるおそれもあったところである。そうすると、長女のチックなども母親による監護のみが問題・原因と直ちに断定する証拠はなく、相手方の論旨に理由はない。」 となりますかね。
弁護士:本当にテクニカルタームを振りかざしているだけだね。やはり監護環境の調査、監護補助者からの聞き取りなどを行い、別居後の双方の監護環境を丁寧に主張・立証したこと、游さんのもとでの監護が非常に良好であり、テクニカルタームを形式的に適用するのではなく、現在の安定した生活を継続させることが長女の福祉に合致することを裁判所に理解してもらうということができたのではないかな。
院生:こどもの生活する環境がどうあるべきかを多角的に検討し、主張・立証することが大事ですね。