住宅ローンが残っている家に子と住み続けたい場合
住宅ローンが残っている夫名義の家に、こどもと一緒に住み続けたいという妻の希望を実現することはできますか。
利用権利(賃貸借、使用貸借)を設定してもらい、居住権を確保するという方法があります。
弁護士とシュシュとのパースペクティヴ
弁護士:原理原則からいえば、妻が不動産を得るためには、夫に代償金を支払い、住宅ローンを負担することになります。しかし、専業主婦やパートタイム労働の場合、名義を書き換えるのは困難が予想されます。
シュシュ:そこで、使用貸借権及び賃借権を設定してもらう方法が出たんだね。
弁護士:この考え方は極めて異例の名古屋高裁平成21年5月28日がベースになっているんだ。この判例は、財産分与で「賃借権」の設定を得命じたものですが、後に続くものはありませんでしたね。
シュシュ:財産分与って、お金と登記というイメージが強かったんだけど。
弁護士:財産分与は理論的には、金銭による分配だけではなく、現物の給付、利用券の設定方法があり、裁判所は一切の事情を考慮して合理的な方法を定めることができるのです。財産分与は裁判官がする行政処分で広範な裁量にゆだねられているんだ。
シュシュ:やっぱり有責配偶者の法理というのが影響しているね。
弁護士:名古屋高裁は、夫の不貞行為が破綻の原因であり、別居は夫による悪意の遺棄であると認定しています。そのうえで、「婚姻関係の破綻により責められるべき点が認められない妻には、扶養的財産分与として、離婚後も一定期間の居住を認めて、その法的地位を安定を図るのが相当である」としています。
シュシュ:ただ、叔父さんは、この判例群は相当特殊なものとみているんだよね。
弁護士:利用権利の設定を認める裁判例は、公刊判例集では数件にとどまっているからね。
不動産を取得し、妻が住宅ローンを支払いを続ける方法
シュシュ:基本的に、金融機関とのネゴだよね。
弁護士:そうですね。妻もしくは親族に支払い能力があれば、銀行と交渉して、住宅ローンの借り換えをして一括弁済してしまうという方法があります。この方法によれば夫の債務が免責されて、離婚後は妻は残ローンを支払うことになります。仮換えている場合は登記名義も変えることができ、トラブルが少なくなります。
シュシュ:住宅ローンについて借り換えるだけの資力がない女性の場合、妻が夫名義の住宅ローンをそのまま引き継いで支払う方法もあります。この場合は、完済後に不動産の名義を妻にしたり、仮登記をつけておくなどの約束をしておく必要があります。
弁護士:このケースが実は一番多いように思うのだけど、夫への信頼がんければトラブルを招くことになるので、この方法は妥協の産物なので、基本的にお勧めできません。
一 本件婚姻関係の経緯 《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。 (1) 夫(昭和三九年一〇月七日生)と妻(昭和三八年二月二〇日生)は、平成六年一〇月五日に婚姻し、平成八年七月一日、長女が生まれた。 本件夫婦は、当初豊橋市西岩田のアパートで、平成九年九月から同市東岩田のアパートで暮していたが、平成一一年一二月二〇日、本件マンションを購入して、同所に移り住んだ。 (2) 夫は、本件勤務先の情報システム部に勤めていたが、平成一〇年に名古屋に転勤して営業担当になり、その後産業システム開発部長をしている。夫は、遅くとも平成一一年頃には、本件勤務先からカード(JRコーポレートゴールドカード。)を支給されており、同カードを使用した場合、後で本件勤務先から、みずほ銀行豊橋支店の夫名義の預金口座に「カ)乙山コグチバライ」等の名目で使用相当額の金員が補填されるという経理手続により、社用の小口経費の支払、精算ができるようになっていた。 一方、妻は、丁原株式会社(以下「丁原社」という。)豊橋事業部に事務職員として勤めていたが、長女の出産に伴い、平成八年六月に同社を退職した。下記(3)の長女の幼稚園の行事や家族旅行等に夫が参加していた点を除くと、家事や育児は、もっぱら妻が行なっていた。 (3) 長女が生まれた後、妻は、平成一〇年に第二子を流産し、本件夫婦間には、平成一三、四年頃から夫婦関係がなくなり、平成一四年頃から寝室も別になったが、その後も本件夫婦は、連れ立って長女の幼稚園の行事等に参加したり、休日には、家族で近郊や京都等に旅行に出掛けたりしていた。 (4) しかるところ、夫は、平成一五年(下記(6)まで、同年中の日付は単に月日のみで表示する。)五月一〇日、一一日に、同僚と下呂温泉に旅行に行ったが、その頃から挙動がおかしくなり、六月頃以降、休日前日になると夜間に出掛けて、翌日帰宅するとか、深夜になって、急に帰宅できないと妻に連絡するとか、自宅でも携帯電話を手放さず、通話等は家の外に出て行なう等の行動を取るようになった。 実際には、夫は、氏名不詳の相手と、名古屋市内や名神高速道路一宮インター周辺のマイン、ステラ、サントロペ、サザンリゾート、ツインタワーアメリカ、ロンドン等のラブホテル(名称は当時のもの)で不貞行為を繰り返しており、夫の行動を不審に思った妻が夫の持ち物を確かめたところ、九月頃以降、複数回にわたり、夫の財布の中等から、かなりの量のラブホテルの割引券や利用カード、あるいはホテルの名前入りのライター等が発見された。 (5) この間、妻は、上記(4)のラブホテルの割引券等を見つける前にも、夫の不審な行動に対する不安等が原因で、八月のお盆頃から同月末までにかけて約二週間、実家に帰ったことがあったが、上記割引券等を発見した後も事を荒立てることを避けて、当初は夫を深く追及しておらず、一〇月一二日や一一月二日その他の休日には、家族で、あるいは親戚とともに近郊や京都、奈良等に旅行する等、ほぼ従前と変わらない生活を続けていた。 (6) しかし、夫は、九月頃から、妻にまったく連絡せずに無断で外泊するようになり、一一月一四、一五日には、本件不貞行為の相手方と京都に不倫旅行に出かけ、湯豆腐店で二人でとった食事の代金を自分のカードで支払ったりする一方で、妻には、十分生活費を渡さないようになった。 更に、夫は、一二月頃以降、要旨、「回りくどい言い方しても仕方ないから、ストレートに言うけど、俺の中では心の整理着いているし、もう終わってしまってる。」「俺の性格からもう何をやっても無理。……おまえ達がいないとホッとする。……離婚しよ。……メールでこんなの卑怯なのは承知の上。罵倒されても軽蔑されても本望です。」「俺にとっては考えに考えた上での結論。今更何を言われても心は変わらない。無駄です。……俺は家をでる。慰謝料養育費は月一〇万円。春子が大学出るまで一五年間。今の収入がある間は保証する。学資保険も春子のために継続。貯金はおまえ達の名義のものはすべて差し上げます。……マンション売った差額の借金はすべて俺が今後で払う。」等々と、離婚を求めるメールを、一方的に妻に送りつけた。 (7) そのため、妻は、やむなく平成一六年三月一日、家庭裁判所に夫婦円満調整と婚姻費用分担の調停を申し立てた。 しかし、夫は、転居先を隠したまま、同月二〇日、本件マンションを出て別居をし、夫婦円満調整の調停は不調に終わった。 一方、婚姻費用分担の調停は、不調により、別件婚費審判に移行したが、妻と長女の家賃相当額を婚姻費用の分担額から差し引くよう、夫が強く主張したため、結局、家庭裁判所が算定した家賃相当額四万六一四八円等を控除した月額八万七〇〇〇円の支払を夫に命ずる審判が、平成一七年一月六日に出て、そのまま確定した。 二 本件婚姻関係の破綻原因、及び妻の損害賠償請求の当否 (1) 前記一認定の事実によれば、夫は、遅くとも平成一五年六月頃以降、氏名不詳の相手と不貞関係にあって、本件婚姻関係は、もっぱらこれによって破綻しており、将来にわたり容易に回復し難い状態にあると認められる。また、夫は、正当な理由なく本件別居を行なったものであって、これは、妻に対する悪意の遺棄に当たるというのが相当である。 したがって、本件では、民法七七〇条一項一号、二号及び五号所定の各離婚事由があると認められるから、本件夫婦の離婚請求を認容することとする。 (2) そして、上記(1)の本件不貞行為及び悪意の遺棄は、妻に対する不法行為に当たるところ、夫のこれら行為によって妻が離婚を余儀なくされたことや、本件婚姻関係の継続期間、妻の年齢等を考慮すれば、妻の被った精神的損害に対する慰謝料は、四〇〇万円と認めるのが相当である。 結局、夫は、上記同額及びこれに対する本件別居の日である平成一六年三月二〇日から支払済まで民法所定年五分の割合の遅延損害金の支払義務があることとなる。 (3)ア 上記認定に対し、夫は、①マイン、サントロペ、サザンリゾート、ツインタワーアメリカ、ロンドンというホテルの割引券やカード等が、夫の持ち物の中から出てきた事実を争い、これらのホテルには、心当たりがないとして、その利用自体を否定している。 また、夫は、②利用したことを認めるステラ及びシャインリゾートは、残業や出張など本件勤務先の業務のために終電に間に合わなかった場合等に、そこに宿泊して利用しただけであり、③湯豆腐店も、本件勤務先の取引先を接待するのに使用したと主張し、本件勤務先の業務の証拠として、本件報告書を提出している。 更に、《証拠略》にも、上記主張に沿う部分がある。 イ しかしながら、まず上記ア①の点についてみるに、《証拠略》によれば、マインとは、夫が利用したことを認めるシャインリゾート(これが会社名に当たる。)の経営するホテルの名称であると認められるから、同ホテルの割引カード等が夫の持ち物の中から見つかった事実は、上記事情と《証拠略》により、十分裏付けられるというべきであり、その利用を否定する夫の供述等は信用性がない。 そして、これらの事情と、《証拠略》によれば、上記ア①のマイン以外のラブホテルについても、その割引券やカード等が夫の持ち物からかなりの量発見された事実、及び夫がこれらを反復して利用していた事実を十分認定することができるのであって、夫の上記ア①の主張は採用できない。 ウ 次に、上記ア②の点について検討するに、夫が本件勤務先の業務の証拠として提出する本件報告書は、夫も自認するように、一か月毎にまとめて作成されており、家族で日帰り旅行に出かけた日に、夫が休日出勤をしたかのような客観的に誤った内容も記載されている。また、夫が自分に都合のよい記載をしている可能性も否定できないから、本件報告書の信用性は、必ずしも高いと認めることができない。 他方、夫は、前記一(2)のとおり、遅くとも平成一一年頃以降、本件勤務先のカードを支給されており、これを利用して、社用の小口経費の支払、精算等をすることができたはずであるにもかかわらず、夫が前記湯豆腐店での食事代を自分のクレジットカードで支払っている事実は、上記食事と本件勤務先の業務との関係に強い疑問を生じさせる証拠というべきである。 また、上記イのとおり認定される、かなりの量に上るとみられるラブホテルの利用がいずれも本件勤務先における夫の業務と関係があった等という事態は容易に納得できる話ではない。 エ なお、夫は、そもそも上記ア①②のような種類のホテルは、出張中のサラリーマンや家族連れに幅広く利用されている場所で、いかがわしいホテルではないとも主張しており、《証拠略》には、これに沿う記載があるが、名古屋市内やその周辺には、通常のビジネスホテルやカプセルホテル等が多数存在するのであるから、このような弁解では、夫が上記のようなラブホテルばかりを選んで利用している理由を合理的に説明することができない。 また、《証拠略》によれば、夫のマイン(シャインリゾート)の利用代金の中には、その金額からみて、一泊の宿泊の代金ではなく、数時間以内のいわゆる休憩の代金と考えられるものが含まれている疑いが濃厚であり、これらを帰宅できない時の宿泊所として使用していたということは考え難い。 オ したがって、上記イないしエ認定の事情に照らせば、夫の上記アの主張は、全体としても採用できないというのが相当である。 (4)ア 次に、夫は、本件婚姻関係は、妻の言動等を原因として、遅くとも平成一五年八月末までに破綻しており、これに対し自分の不貞行為が始まったのは、同年九月六日以降であるから、本件婚姻関係の破綻と本件不貞行為との間に因果関係はないと主張し、また本件別居にも正当な理由があったかのような主張をしている。そして、《証拠略》には、上記主張に沿う部分がある。 イ しかしながら、本件婚姻関係が従前から深刻な状況だったことを裏付けるに足りる客観的証拠は存在しない。 前記一(3)のとおり、本件夫婦間には、平成一三、四年頃から夫婦関係がなくなり、平成一四年頃から寝室も別になったとは認められるが、同(3)(5)認定のとおり、その後も本件夫婦は、連れ立って長女の幼稚園の行事等に参加したり、休日には、家族で近郊や京都等に旅行に出掛けたりしており、これらの状況が、平成一五年一〇月から一一月にかけても継続していたのであるから、同年八月当時、本件婚姻関係が、本件不貞行為以外の原因によって、すでに破綻していたと認めることは困難である。 のみならず、上記(1)のとおり、夫の本件不貞行為は、遅くとも平成一五年六月頃には始まっていたと認められる。以上によれば、本件婚姻関係の破綻と本件不貞行為との因果関係を否定することはできず、本件別居に正当な理由があったと認めることもできない。 三 長女の親権者及び養育費 (1) 前記一認定の事実によれば、夫は、正当な理由なく本件別居をしており、長女の監護養育を放棄したと認められるから、妻を長女の親権者と指定するのが相当である。 (2) 次に、その養育費について検討するに、《証拠略》によれば、平成一五年度の夫の総収入は九一九万六七七九円(年額・税込。以下同じ)、平成一六年当時の妻の総収入は一二九万四〇八〇円と認められるから、これを東京・大阪養育費等研究会(判例タイムズ一一一一号)作成の表一に当てはめると、夫の支払うべき養育費は、月額八から一〇万円の範囲に入ると考えられるところ、本件に現れたその他一切の事情を考慮して、これを月額九万円と定めたうえ、前記一(6)認定の夫のメールの内容等も勘案して、離婚判決確定の日から順調にいけば長女が大学を卒業するはずの時期に相当する平成三一年三月までの給付を命じるのが相当である。 四 財産分与 (1) 清算的財産分与の基準時 ア 清算的財産分与は、夫婦の共同生活により形成した財産を、その寄与の度合いに応じて分配することを、内容とするものであるから、離婚前に夫婦が別居した場合には、特段の事情がない限り、別居時の財産を基準にしてこれを行なうベきであり、また夫婦の同居期間を超えて継続的に取得した財産が存在する場合には、月割計算その他の適切な按分等によって、同居期間中に取得した財産額を推認する方法によって、別居時の財産額を確定するのが相当である。 イ これに対し、妻は、離婚時を基準とする清算的財産分与を主張しているが、独自の見解であって、採用することができず、上記特段の事情を認めるだけの証拠もない。 ウ そこで、次項以下において、具体的な財産につき、上記アの点等を検討する。 (2) 預貯金 ア 《証拠略》によれば、本件別居時の夫名義の預貯金の残高は下記(ア)の、妻名義の預貯金の残高は同(イ)のとおりであり、全額が財産分与の対象となる(下記(イ)d、eの妻の郵便局の担保定額貯金、定額貯金は、本件別居後の金額が明確でないので、解約時の金額をもって、本件別居時の残高とみなすこととする。)。 (ア)a みずほ銀行豊橋支店・普通預金 -二万三六五七円 b みずほ銀行豊橋支店・定期預金 二一万〇九六〇円 c 豊橋信用金庫本店営業部・普通預金 三七二一円 d 豊橋信用金庫本店営業部・定期預金 一〇万〇〇〇〇円 e 岡崎信用金庫豊橋柱支店・普通預金 一八万九九六三円 f 郵便局・通常貯金 一〇万一一四二円 g 郵便局・担保定額貯金 三万一〇〇〇円 h 郵便局・定額貯金(七口) 一四二万五〇〇〇円 小計 二〇三万八一二九円 (イ)a 豊橋信用金庫二川支店・普通預金 三万六〇一二円 b 豊橋信用金庫本店営業部・普通預金 一〇〇円 c 郵便局・通常貯金 -五〇万八八九二円 d 郵便局・担保定額貯金 一一〇万三一六〇円 e 郵便局・定額貯金 四七五万七三四五円 f 豊橋農業協同組合岩田支店・普通貯金 一五万〇一七五円 小計 五五三万七九〇〇円 イ 上記認定に対し、妻は、上記ア(イ)c、d、eの郵便局の通常貯金、担保定額貯金、定額貯金が妻の特有財産である旨主張しているが、これを認めるだけの証拠はない。 (3) 保険・共済 《証拠略》によれば、夫名義の保険は下記(ア)の、妻名義の保険・共済は同(イ)のとおりであり、全額が財産分与の対象となる(下記(イ)の妻の保険は、本件別居後の解約返戻金を、月割計算によって本件別居時に引直した金額である。)。 (ア)a 郵便局・簡易生命保険 四六万八一〇〇円 b アリコ・終身保険及び特定疾病給付終身保険 一二四万五〇〇〇円 小計 一七一万三一〇〇円 (イ)a 損保ジャパン・積立介護費用保険 三六万二六五五円 b 豊橋農業協同組合岩田支店・終身共済 二五万〇二七九円 小計 六一万二九三四円 (4) 株式 《証拠略》によれば、本件別居時に存在した夫名義の株式会社乙野の株式二〇〇株は、夫が従業員持株会を通じて、本件勤務先に入社した平成元年四月から平成一二年二月までにわたり、定期的に購入したものと認められる。 したがって、月割計算によって、本件同居期間中の購入株式を推定すると九九株となるので、これに本件別居時の株価四八六〇円を乗じると、その価額は四八万一一四〇円となる。 (5) 自動車 ア 《証拠略》によれば、本件別居後、妻が使用する自動車は、日産プレサージュ(平成一〇年一〇月初年度登録)であり、本件別居当時の価額は五一万円と認められる。 イ これに対して、妻は、本件別居当時、上記自動車は無価値であったと主張するが、上記証拠に照らし採用できない。 (6) 動産 妻が所有するブランド品のバッグを、高価品として財産分与の対象とするよう夫は求めているが、乙一七に記載されているのは、専門店から一般消費者に対する販売価格と考えられ、上記バッグにこれだけの価値があるとはいえず、高価品として、財産分与の対象になるとは認められない。 (7) 退職金及び確定拠出年金 ア 《証拠略》によれば、①現在、本件勤務先には、退職金規則が存在すること、②本件勤務先は、本件別居後の平成一七年一〇月一日から確定拠出年金制度を導入したが、それから約三年後の平成二〇年八月三一日時点の夫の掛金は累計三三七万三三二五円に上っていること、以上の事実が認められる。 したがって、上記①の退職金のうち、本件同居期間に対応する部分は、本来、財産分与の対象となる夫婦共有財産というべきである。また、上記②の掛金が本件別居から約三年のうちに三〇〇万円以上の高額に達していることを考慮すると、その一部にも本件同居期間中の蓄財等を原資とする部分が存在する可能性は否定することができない。 イ しかし、上記退職金及び確定拠出年金は、いずれも夫が六〇歳で定年退職する際になって現実化する財産であると考えられるところ、夫は口頭弁論終結時四四歳で、定年までに一五年以上あることを考慮すると、上記退職金・年金の受給の確実性は必ずしも明確でなく、またこれらの本件別居時の価額を算出することもかなり困難である。 したがって、本件では、上記退職金及び確定拠出年金については、直接清算的財産分与の対象とはせず、下記(8)のうちの扶養的財産分与の要素としてこれを斟酌するのが相当である。 (8) 本件マンションについて ア 妻の特有財産部分の存否及び内容 (ア) 妻は、妻の持分がその特有財産であると主張するので、この点について検討するに、《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。 a 妻は、本件婚姻前の昭和五六年三月に丁原社に入社し、本件婚姻後の平成八年六月同社を退職した。退職金は三〇三万一〇四七円であり、妻は、そのほか同社から受給した賞与約二〇〇万円、厚生年金基金約六二万円、失業保険や、従前貯めていた財形貯蓄の解約金約一八六万円を合せて、その大半を定額貯金にしていた。 b 本件マンションの購入代金は、約二八〇〇万円であり、そのほかに諸経費約二八〇万円が必要だったが、そのうち二六八〇万円は、夫が主債務者となって住宅金融公庫から融資を受けた。 その余の約四〇〇万円の前払代金・諸経費のほとんどは、上記aの妻名義の定額貯金を解約してまかない、本件夫婦は、夫が全体の一〇〇〇分の八八三、妻が同一〇〇〇分の一一七の割合で本件マンションの共有持分の登記手続をした。 (イ) 以上認定の事実によれば、本件マンションにつき、わざわざ妻の持分が共有登記されたのは、上記(ア)bのとおり、前払代金・諸経費のほとんどを妻名義の財産によってまかなったことによると認められるところ、①上記(ア)aのとおり、妻が昭和五六年三月に丁原社に入社し、平成八年六月に退職するまでの大半は、本件同居期間以前の時期に当たり、本件同居期間の分はわずかであること、②本件婚姻後に支払われた失業保険についても、上記①のような本件同居期間以前の妻の就労に対応する部分が大きいとみられること、③前記一(2)認定のとおり、家事・育児はもっぱら妻が行なっており、本件婚姻後も、妻の就労に対する夫の貢献は極めてわずかであったと考えられること等を勘案すれば、上記のとおり、妻名義の財産によって取得された妻の持分は、その特有財産に当たると認めるのが相当である。 (ウ) したがって、本件マンションは、①全体の一〇〇〇分の一一七が妻の特有財産であり、②残り一〇〇〇分の八八三だけが財産分与の対象となる本件共有財産というべきところ、《証拠略》によれば、本件別居時の本件マンションの価額は、二〇〇〇万円程度と見積るのが相当であるから、本件別居時の前者の価額を二三四万円、後者の価額を一七六六万円と認定することとする。 (エ) これに対し、夫は、妻の持分がその特有財産であることを争っているが、上記(ア)(イ)認定の事実に照らし、採用することができない。 イ 夫の持分に対する妻の占有権原等 (ア) 妻は、本件夫婦間には、夫の持分を目的とする本件賃貸借契約が成立していたと主張してその確認を求めており、その根拠として、別件婚費審判における夫の主張内容及び同審判の結果等をあげているが、従前の紛争の経過に照らすと、本件別居時に、夫が妻に対し、将来にわたり本件マンションの使用を承諾していたとは認められず、上記確認請求は採用することができない。 (イ) しかしながら、前記二認定のとおり、本件別居は、夫による悪意の遺棄に該当し、また上記(7)のとおり、遠い将来における夫の退職金等を分与対象に加えることが現実的ではなく、更に一部が特有財産である本件マンションが存在するところ、このような場合には、本件婚姻関係の破綻につき責められるべき点が認められない妻には、扶養的財産分与として、離婚後も一定期間の居住を認めて、その法的地位の安定を図るのが相当である。 (ウ) そして、(a)甲四から明らかなとおり、別件婚費審判において、夫が本件マンションの家賃相当分の控除を強硬に主張し、その結果、前記家庭裁判所の認定によって、その金額が四万六一四八円と定められた点や、(b)上記(7)判示の直接清算的財産分与の対象とすることが困難な退職金及び確定拠出年金についても、扶養的財産分与の要素としては斟酌することが妥当である点を考慮すれば、①清算的財産分与によって、本件マンションの夫の持分を夫に取得させるとともに、②扶養的財産分与として、夫に対し、当該取得部分を、賃料を月額四万六一四八円、賃貸期間を長女が高校を卒業する平成二七年三月までとの条件で妻に賃貸するよう命ずるのが相当である。 (9) 住宅ローン 《証拠略》によれば、本件マンションの住宅ローンの本件別居時の残額は二四六五万二八二一円と認められる。 (10) まとめ ア 以上に基づき、清算的財産分与から検討するに、本件共有財産のうち、積極財産の金額は、上記(2)ア、(3)、(4)、(5)ア、(8)ア(ウ)②の合計二八五五万三二〇三円であり、消極財産の金額は、上記(9)の二四六五万二八二一円であって、前者から後者を控除した残額は三九〇万〇三八二円となるから、本件夫婦一人当たりの金額は一九五万〇一九一円となる。 イ これに対し、夫が管理する積極財産は、上記(2)ア(ア)、(3)(ア)、(4)、(8)ア(ウ)②の合計二一八九万二三六九円であり、また法律上その支払義務を負う消極財産は、上記(9)の二四六五万二八二一円であるから、前者から後者を控除した残額はマイナス二七六万〇四五二円となり、上記ア末尾の金額に対し、四七一万〇六四三円不足する。 ウ 他方、妻が管理する積極財産は、上記(2)ア(イ)、(3)(イ)、(5)アの合計六六六万〇八三四円であり、また法律上妻が支払義務を負う消極財産はないから、結局、上記ア末尾の金額に対し、四七一万〇六四三円超過する。
五 年金分割 |