別居前の主たる監護者である抗告人の監護に問題があったかどうか,抗告人が監護者と定められた場合に予定している監護態勢と相手方による現状の監護態勢のいずれが未成年者らの福祉に資するかについて差し戻した例
原審判は相当ではなく,これを取り消して本件を奈良家庭裁判所に差し戻すのが相当である。
1 はじめに
別居中の夫婦間において子の監護者を定めるに当たっては,子の出生以来主として子の監護を担ってきた者(主たる監護者)と子との間の情緒的な交流や精神的なつながりを維持して子の精神的安定を図り,別居による子への影響をできるだけ少なくすることが子の福祉に適うものであるから,従前の主たる監護者による別居前の監護や同人が監護者に定められた場合の監護態勢に特段の問題がない限り,従前の主たる監護者を監護者と定め,同人による監護を継続するのが相当である。
2 夜間外出して不倫をしていた
これを本件についてみると,上記2の認定事実によれば,未成年者らの出生以降別居までの未成年者らの主たる監護者は抗告人であるが,抗告人は,平成27年の春ころから長女を実家に預け,長男および二男を自宅に置いて,夜間外出して男性と会っていたのであって,そのような行為自体不適切であることはいうまでもない。
3 不倫が未成年者にどのような影響を与えたのか明らかではない
しかしながら,抗告人の上記の不適切な行為が未成年者らの監護に具体的にどのような悪影響ないし問題を生じさせたのかは明らかでない上,別居前の普段の生活における抗告人による未成年者らの監護についての客観的な状況(長男の小学校および二男の幼稚園の出欠状況やそこでの様子,小学校および幼稚園と保護者との連絡状況,長女の健診の受診状況等)やその適否も明らかでない。
4 不倫があったからといって監護が将来的にも適切さを各とはいえない
そうすると,抗告人に上記の不適切な行為があったからといって,これのみで抗告人による監護が将来的にも適切さを欠くとし,未成年者らを主たる監護者である抗告人から引き離し,相手方による単独監護に委ねるのは,子の福祉の点からは十分な検討を経たものとはいえない。
5 死にたいという言動について
(なお,抗告人は,平成27年□□月□□日午後3時34分ころ,「死にたいいやや。こどもらもすてたい。」というメールを相手方に送信したことが認められるが,これは,抗告人が,未成年者らを自動車に乗せて入院中の母を見舞いに行くにあたって,イライラが募った中で相手方に送ったメールであり,抗告人が精神的に負荷のかかった状態にあったとは認められるものの,上記メールの内容から,抗告人が未成年者らの監護を放棄したとか,その監護が不適切であったと認めることはできない。)。
6 抗告人による監護と比較して相手方による監護の方が未成年者らの福祉の点が不明
また,原審は,抗告人が監護者に定められた場合に予定している監護態勢について検討することなく,相手方による現状の監護態勢を維持することが未成年者らの福祉に資するというべきであるとするが,相手方のもとにおける未成年者らの監護については,相手方の職業からすれば,日中の監護の大部分は相手方の父母が担うことになるところ,上記2の認定事実以上には相手方の父母による監護の実情は明らかにされていないし,抗告人による監護と比較して相手方による監護の方が未成年者らの福祉の点で優れているということも明らかにされていない。
7 まとめ
以上によれば,原審判は相当でなく,未成年者らの監護者を定めるに当たっては,別居前の主たる監護者である抗告人による監護に問題があったかどうか(抗告人の上記行為が未成年者らの監護に悪影響ないし問題を生じさせたかどうか,普段の生活における抗告人による監護に問題があったかどうか),抗告人が監護者と定められた場合に予定している監護態勢と相手方による現状の監護態勢のいずれが未成年者らの福祉に資するかについてさらに審理を尽くすべきである。そのためには家庭裁判所調査官による別居前の長男の小学校および二男の幼稚園に対する調査,G子ども家庭センターに対する調査(原審においても同センターに対して調査嘱託がされているが不十分であり,虐待通告を受けた後に同センターが抗告人による監護について調査をしたかどうか,調査の結果,抗告人による監護に上記の不適切な行為以外にも問題があったかどうか等も調査するのが相当である。),抗告人が監護者と定められた場合に予定している監護態勢の調査等が必要と考えられるから,本件を原審に差し戻すのが相当である。