前件調停後に「隠し子」がいた場合事情変更にあたる?

生活費、つまり婚姻費用の減額を請求する場合は、前件調停後に、調停成立時に存在しなかった事情があると考えられています。

事情変更の原則は、子の福祉や子の意向という軸が入る面会交流では認められやすいのですが、貸金返還請求訴訟とそれほど代わりがない経済事案では,事情変更の原則はなかなか認められません。
ひどい東京高裁では個人事業者が売上が半分に落ちても事情の変更を認めませんでした。

さて,今回は、松浦遊さんと光希さん夫婦が別居中で立夏というこどもがいるのですが、松浦遊さんは調停成立後、ロンドン帰りのありみさんと交際し、朔という男の子をもうけました。
この場合は事情変更にあたるのでしょうか。結論からいえば、調停成立後の事情変更ですから、当時予想もできないことですし重婚的内縁関係にあるありみさんの扶養費は支出が認められませんから,朔くんの扶養費を認める必要がありますから事情変更があると、私が家事調停官であれば認めます。

ところが、岐阜家庭裁判所中津川出張所平成27年10月16日審判は,「光希と立夏への扶養費の減額を認めることは、不貞の行為を助長・追認するも同然である」として申立てを却下しました。
さすが、「中津川の出張所・・・裁判官のレベルの低さが分かります・・・」といいたくなります。それをいうならば、生まれてきた朔にも罪はなく朔に不貞の責任をとらせるのは子の最善の利益に適っておらず論理破綻していることは明らかでした。

当然に、名古屋高等裁判所平成28年2月19日は、前件調停の際に予想し得た事情ではなく婚姻費用の分担額を減額すべき事情の変更に該当するとして、改めて、光希、立夏、朔への扶養費を考慮した遊の負担する婚姻費用額を算定し、原審判を取り消したうえで、前件調停によって定められた婚姻費用額を変更しています。

このようなことは確かに道徳的なことでは望ましくないのですが、なかなか離婚が成立しない場合、離婚成立する前から子をもうけてしまうカップルは一定数います。そして、そのうち連絡も絶つようになるのですね。ですから、10年も20年も怨念のような気持ちでいても、他人と過去は変えられない、自分と未来は変えられるというマインドでいかないといけない裁判例を示しているように思います。刑法ではないのですから、離婚できなくても、女性には出産のタイムリミットもありますから、法的整理がつく前に出産をしてしまうという例もあります。

こうした場合、遊さんの側は、きちんとした弁護士が就かない限り、もうどうとでもしてくれ、というタイプが多いような気がします。遊さんは建築チームのオーナーですから養育費や婚姻費用を差し押さえても実効性はありません。しかし、朔くんに不貞の行為を助長・追認というのは、中津川の裁判官は殿様、馬鹿様だったのでしょうかね。こどもに責任をとらせてどうするんでしょうか。算定表の理念とも異なりますし、本来、原審判を変更するという主文になることが多いのですが、余程引用できる箇所もないほどひどかったため「原審判を取り消す」となっています。

夫が妻以外の女性との間の子を認知した場合、夫は認知したこどもに対して扶養義務を負いますし、これを考慮することなく妻に対する婚姻費用の分担額を決めると、認知されたこどもが十分な扶養をうけられなくなってしまいます。そうすると、子の福祉を害することになります。ようやく解決した非嫡出子差別意識の強い違憲な裁判と断じる外はなく中津川の裁判官はその職責は失格であったというしかないと思います。非嫡出子に対する差別は、国籍法、相続分差別でいずれも憲法14条に違反するとして違憲無効の大法廷判決が確定しており、婚姻費用で差別して良いと考えた人権感覚が真に残念ですね。

名古屋高判平成28年2月19日は、別居期間が長期化した夫婦の一方のライフスタイル、減額の始期、事情変更が、仮に出生ではなく認知だったらなど、様々な問題を残すものといえそうです。また、潜在的稼働能力についての判断も注目されます。

ア 婚姻費用の分担額の減額は,婚姻費用分担の程度若しくは方法について協議又は審判があった後,事情に変更を生じたときに認められるものであるところ(民法880条参照),上記「事情の変更」とは,協議又は審判の際に考慮され,あるいはその前提とされた事情に変更が生じた場合をいい,協議又は審判の際に既に存在し,判明していた事情や,当事者が当然に予想し得た事情が現実化したにとどまる場合を含むものではない。
   イ 上記2の認定事実(補正して引用した原審判第2の1。以下同じ)によれば,抗告人は,前件調停成立後に出生したG,I及び□□を認知し,その扶養義務を負うに至っており,前件調停成立後,抗告人が扶養義務を負う未成年の子の数に変更が生じたことが認められ,これは,婚姻費用の分担額の減額を認めるべき「事情の変更」に該当するものである。
     これに対し,相手方は,重婚的内縁関係から派生した婚外子の存在を考慮するのは,信義則に反すると主張するが,G,I及び□□は,長男及び二男と同様,抗告人から等しく扶養を受ける権利を有するから,上記主張は採用できない。
     また,相手方は,Fが,前件調停時に既にGを妊娠していた可能性があるから,同人の出生が,抗告人に予見し得た事情にとどまると主張するが,Gは平成22年□□月□日に出生したものであり,前件調停が成立した平成21年□□月□□日の時点で,抗告人が,Fの妊娠を認識していたとはいえないから,上記主張は採用できない。
     したがって,抗告人がG,I及びJに対する扶養義務を負うことを前提に,その分担すべき婚姻費用額を算定すべきである。
   ウ また,上記2の認定事実によれば,前件調停が成立した平成21年□□月□□日当時,長男は10歳,二男は7歳であったことに加え,相手方が,心療内科に通院していたことから,前件調停においては,相手方が無収入であることが前提とされていたものと推認される。
     しかし,本件申立てがされた平成26年□月□日の時点では,長男は14歳,二男は12歳であり,長男及び二男を養育する必要から,相手方の就労が困難であるとはいえない。また,上記2の認定事実によれば,相手方は,精神疾患が平癒しているとはいえないものの(乙4,11),不定期ながら託児の仕事を請け負って収入を得ており,稼働能力がないとはいえない。
     これは,前件調停の成立後,当事者が前提としていた相手方の稼働能力の点に変更が生じたものであるから,婚姻費用の分担額の減額を認めるべき「事情の変更」に該当するものである。
     そして,相手方は,精神疾患が平癒したとはいえないこと,抗告人との同居期間中は基本的に専業主婦であったこと,平成26年□月の本件申立て当時44歳であったことを考慮すると,相手方には,平成26年賃金構造基本統計調査報告第3巻第13表「短時間労働者の年齢階級別1時間当たり所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額」産業計・企業規模計・女子40歳~44歳の年収額119万9582円(1時間当たりの所定内給与額1023円×1日当たりの所定内実労働時間5.4時間×実労働日数17.5日×12か月+年間賞与等3万9500円)の半額程度(60万円)の収入を得られる稼働能力があることを前提に,抗告人が分担すべき婚姻費用額を算定すべきである。
   エ その他,抗告人は,上記事情の変更に該当する事由として,①相手方との別居期間が長期化していること,②前件調停時,月額50万円の婚姻費用を分担する期間を限定したこと,③抗告人が自営業者であるため,その収入が変動し得ることを主張する。
     しかし,上記①については,上記2の認定事実によれば,前件調停事件において,相手方は抗告人との離婚に応じないまま,その後,長男及び二男を伴って□□□□□市に転居していることが認められ,その後,別居解消について協議されたことをうかがわせる事情もないから,別居期間が長期化することは,前件調停事件係属時に当事者双方が予見し得た事情といえる。
     また,上記②は,それ自体,前件調停の成立後に事情が変更したことをいうものではない。
     さらに,上記③については,抗告人は,前件調停事件係属前から歯科医院を経営する自営業者であり,前件調停成立後,その経営状況に大きな変更があったことを認めることはできず,上記2の認定事実によっても,抗告人の収入に大きな変動があったとは認められないから,前件調停によって合意された婚姻費用額を減額すべき程度に,事業所得金額の変動が生じたとはいえない。
     したがって,抗告人の上記①ないし③の主張は,いずれも「事情の変更」に該当する事由とはいえず,採用できない。
  (2) 婚姻費用減額の始期
    上記2の認定事実によれば,抗告人は,平成26年□月に本件申立てをしているところ,平成22年□□月□日にGが出生し,平成25年□月□□日にGを認知していることが認められるから,婚姻費用減額の始期は平成26年□月とするのが相当である。
  (3) 婚姻費用額の算定
    抗告人が分担すべき婚姻費用の額を算定するに当たっては,いわゆる標準算定方式及び標準算定表(判例タイムズ1111号285頁)に依拠して検討するのが相当である。
   ア 抗告人の総収入及び基礎収入
     上記2の認定事実及び証拠(甲24)を前提にすると,抗告人の平成26年度の総収入は,同年度の確定申告書に記載された事業所得金額,不動産所得金額及び雑所得金額の合計2326万6123円から,社会保険料103万7710円を控除し,青色申告特別控除額65万円を加算した2287万8413円となる。
     上記総収入額は,標準算定方式における自営業者の総収入額1409万円を約800万円上回るものであるところ,その基礎収入割合を42%とするのが相当と判断する。そうすると,基礎収入は960万8933円(2287万8413円×0.42)となる。
     この点,相手方は,抗告人がNに加入しておらず,接待交際費が発生するはずがないこと,Lに対する仕入原価及び広告宣伝費が水増しされてHへの生活費に充てられていることを理由に,これら費用を抗告人の総収入に加算すべきであると主張するが,一件記録上,抗告人に接待交際費が生じていないこと,上記仕入原価と広告宣伝費が水増しされてHの生活費に充てられたことを認めることはできず,上記主張は採用できない。
   イ 相手方の総収入及び基礎収入
     上記3(1)ウにおいて説示したとおり,相手方の平成26年度の総収入(給与所得)は,60万円であり,その基礎収入割合を42%とするのが相当であるから,基礎収入は25万2000円(60万円×0.42)となる。
   ウ 生活費指数等
    (ア) 相手方は,平成26年□月の時点において,長男(平成11年□月□□日生)及び二男(平成14年□月□□日生)を養育しており,抗告人が分担すべき婚姻費用額を算定するに当たり,抗告人及び相手方の生活費指数をいずれも100,長男の生活費指数を平成26年□月及び同年□月は55,同年□月以降は90,二男の生活費指数を55とするのが相当である。
    (イ) また,抗告人は,平成26年□月の時点において,G(平成22年□□月□日生,平成25年□月□□日認知)を養育する義務を負っているところ,上記2の認定事実によれば,抗告人が,Fとの間で,平成24年□月からGが成人するまでの間,育児費用として,月額15万円を支払うことを合意し,同月以降支払っているが,その支払を確認できない期間もあること,上記合意の際,抗告人が,相手方に対する婚姻費用の分担額をどの程度考慮したかは不明であることから,これをそのまま抗告人の基礎収入から控除するのは相当ではない。
      したがって,Gの生活費指数は,標準算定方式における15歳未満の子の生活費指数55を,抗告人の基礎収入額と,Gの母であるFの基礎収入額とで按分するのが相当である。
      そして,Fが昭和51年□月生まれの女性であり,その稼働能力に特段の問題があることをうかがわせる証拠もないから,Gが平成26年□月当時,3歳であることを考慮しても,平成26年賃金構造基本統計調査報告第3巻第13表「短時間労働者の年齢階級別1時間当たり所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額」産業計・企業規模計・女子35歳~39歳の年収額125万8224円(1時間当たりの所定内給与額1058円×1日当たりの所定内実労働時間5.5×実労働日数17.3×12か月+年間賞与5万0200円)程度の総収入を得られる稼働能力があると認めるのが相当である。そして,その基礎収入割合は41%とするのが相当であるから,Fの基礎収入は,51万5871円(125万8224円×0.41。1円未満切捨て。以下同じ)である。
      したがって,Gの生活費指数は,次の計算式のとおり52となる。
     (計算式)
      (55×960万8933円)/(960万8933円+51万5871円)=52
    (ウ) さらに,抗告人は,平成26年□□月以降,I及びJを養育する義務を負っているところ,同人らについても,Gと同様,標準算定方式における15歳未満の子の生活費指数55を,抗告人の基礎収入額と,I及びJの母であるHの基礎収入額とで按分するのが相当である。
      そして,Hは,Lの代表取締役であり,役員報酬として年額240万円の支払を受けており,その基礎収入割合を39%とするのが相当であるから,Hの基礎収入は,93万6000円(240万円×0.39)である。
      したがって,I及びJの生活費指数は,次の計算式のとおりそれぞれ50となる。
     (計算式)
      (55×960万8933円)/(960万8933円+93万6000円)=50
   エ 婚姻費用額の算定
     上記アないしウを前提に,婚姻費用額を算定すると,次のとおり,平成26年□月及び同年□月が月額45万5702円,同年□月から同年□□月までの間が月額48万6121円,同年□□月以降が月額38万4085円となる。
    (ア) 平成26年□月及び同年□月
      相手方が養育している長男が14歳(生活費指数55),二男が12歳(同55)であり,抗告人が養育する義務を負っている認知している子はG(同52)のみであるから,相手方に割り振られるべき婚姻費用は,次の計算式のとおり,572万0430円であり,ここから相手方の基礎収入25万2000円を差し引くと,抗告人が支払うべき婚姻費用は,年額546万8430円(月額45万5702円)である。
     (計算式)
      ((960万8933円+25万2000円)×(100+55+55))/{(100+55+55)+(100+52)}=572万0430円
      572万0430円-25万2000円=546万8430円
      546万8430円÷12か月=45万5702円
    (イ) 平成26年□月から同年□□月まで
      相手方が養育している長男が15歳(生活費指数90),二男が12歳(同55)であり,抗告人が養育する義務を負っている認知している子はG(同52)のみであるから,相手方に割り振られるべき婚姻費用は,次の計算式のとおり,608万5462円であり,ここから相手方の基礎収入25万2000円を差し引くと,抗告人が支払うべき婚姻費用は,年額583万3462円(月額48万6121円)である。
     (計算式)
      ((960万8933円+25万2000円)×(100+90+55))/{(100+90+55)+(100+52)}=608万5462円
      608万5462円-25万2000円=583万3462円
      583万3462円÷12か月=48万6121円
    (ウ) 平成26年□□月以降
      相手方が養育している長男が15歳(生活費指数90),二男が12歳(同55)であり,抗告人が養育する義務を負っている認知している子はG(同52),I及び□□(いずれも生活費指数50)であるから,相手方に割り振られるべき婚姻費用は,次の計算式のとおり,486万1023円であり,ここから相手方の基礎収入25万2000円を差し引くと,抗告人が支払うべき婚姻費用は,年額460万9023円(月額38万4085円)である。
     (計算式)
      ((960万8933円+25万2000円)×(100+90+55))/{(100+90+55)+(100+52+50+50)}=486万1023円
      486万1023円-25万2000円=460万9023円
      460万9023円÷12か月=38万4085円
  (4) 抗告人が分担すべき婚姻費用額
    以上のほか,本件に顕れた一切の事情を考慮すれば,抗告人が分担すべき婚姻費用額を平成26年□月及び同年□月を月額46万円,同年□月から同年□□月までの間を月額49万円,同年□□月以降を月額39万円とするのが相当である。
 4 まとめ
   以上の次第で,前件調停の調停条項第2項(3)を上記3(4)のとおり変更するのが相当である。
第5 結論
   よって,抗告人の本件申立てを却下した原審判を取り消し,前件調停の調停条項第2項(3)を上記第4の4の趣旨に変更することとして,主文のとおり決定する。
  平成28年2月19日
    名古屋高等裁判所民事第3部
        裁判長裁判官  揖斐 潔
           裁判官  池田信彦
           裁判官  片山博仁

依頼者様の想いを受け止め、
全力で取り組み、
問題解決へ導きます。

の離婚弁護士

初回60
無料相談受付中

052-756-3955 受付時間 月曜~土曜 9:00~18:00

メールでのお申込み

  • 初回相談無料
  • LINE問い合わせ可能
  • 夜間・土曜対応
  • アフターケアサービス

離婚問題の解決の最後の最後まで、どんなご不安・ご不満も名古屋駅ヒラソルの離婚弁護士にお任せください。