保護命令を利用してできることや手続きの流れについて

 

保護命令を利用してできることや手続きの流れについて

 

配偶者からの暴力で悩んでいる場合、保護命令を利用すると暴力から逃れられる可能性があります。

保護命令とは、家庭内暴力(DV)の被害者を守るために裁判所が加害者へ下してくれる命令です。

緊急性がある場合は警察官への相談と並行して弁護士へも相談することをすすめます。

 

この記事では保護命令を利用してできることや保護命令の手続きの流れについて解説します。配偶者からの暴力に悩む方はぜひ参考にしてみてください。

 

 

1.保護命令とは

配偶者から暴力を受けている場合、身体を傷つけられるだけではなくときには命にかかわる問題につながります。配偶者間だけではなく、子どもも巻き込まれるケースが少なくありません。家庭内暴力の被害者は身を守る必要が高いといえます。

 

配偶者からの暴力から身を守る手段として「保護命令」があります。

保護命令とは、配偶者暴力から被害者を守るため、裁判所が加害者へ対して出してくれる各種の命令をいいます。代表的な保護命令が「接近禁止命令」です。接近禁止命令を出してもらえたら、加害者は6か月間被害者へ接近できなくなります。

違反すると刑事罰を科される可能性もあるので、たいていの加害者は命令された事項を守ります。

家庭内暴力の被害者にとって、保護命令は有効な対処方法といえるでしょう。

 

1-1.保護命令の対象には事実婚の配偶者も含まれる

結婚の形態は、法律婚のみとは限りません。近年では夫婦別姓とするためなどの理由で事実婚を選択するご夫婦もおられます。

保護命令は、法律婚の夫婦だけではなく事実婚の夫婦であっても出してもらえる可能性があります。内縁の配偶者から暴力を受けている場合にも、保護命令の適用を検討しましょう。

1-2.離婚後でも保護命令の対象になる

保護命令を出してもらえるのは、婚姻中だけではありません。同居中に暴力や脅迫を受けていた場合には、離婚後であっても保護命令を出してもらえる可能性があります。

1-3.保護命令の対象になるのは身体的なDVのみ

保護命令で保護の対象になるのは身体的な暴力(DV ドメスティック・バイオレンス)のみです。もっとも、身体的な接触やもみ合いも身体的暴力に該当する可能性がありますので、不明な場合は弁護士へご相談ください。

経済的DVや精神的DV(いわゆるモラハラの場合)などには現状の保護命令の対象になっていません。

もっとも、保護命令の要件は、①過去の暴力に加えて、②将来もそうした状態が続く蓋然性があること―ですので、②の要件との関係では、経済的DVや精神的DV(いわゆるモラハラの場合)も考慮の対象になる可能性があります。

一般的にいわれるすべての「DV」のケースで保護命令を利用できるわけではないので、間違えないように注意しましょう。また、6カ月の有効期間も意外と早く過ぎてしまいますので、保護命令を申し立てるかどうかも弁護士とよく協議してからすると良いでしょう。

 

2.保護命令でできること(保護命令の種類、内容)

次に保護命令でできることにはどういったことがあるのか、保護命令の種類をご説明します。

2-1.接近禁止命令

まずは被害者への接近禁止命令を出してもらえます。接近禁止命令は、保護命令の根幹となる禁止命令で、加害者が被害者に接近してはならないとする命令です。

発令後6か月間、加害者は被害者の住居に近づいたり被害者の身辺につきまとったり勤務先や住居の近くをはいかいしたりしてはなりません。

加害者が接近禁止命令に違反すると、刑事罰が科される可能性もあります。罰則の内容は1年以下の懲役または100万円以下の罰金刑です。

 

加害者が近づけなくなるので、被害者が1人暮らしなどをしていても相手が押しかけてくる心配がありません。万一相手に来られた場合には、警察へ通報して対応してもらうこともできます。

暴力の被害者が加害者から離れて別居したい場合には有効な命令といえるでしょう。

 

2-2.電話等禁止命令

被害者への接近やつきまといなどを禁止しても、加害者が電話やメールなどの方法で被害者へ嫌がらせや脅迫をする可能性があります。

そこで保護命令で接近禁止命令を出してもらうときには、電話等の禁止命令も出してもらえます。

 

電話等禁止命令で禁止してもらえる行為は以下のようなものです。

  • 面会の要求
  • 行動を監視していると思わせるような事項を告げたり、監視していると知りうる状態においたりすること
  • 著しく粗野や乱暴な言動をすること
  • 電話をかけても何も告げないこと、連続して何度も電話をかけること、FAXやメールを送り続けること(ただし緊急やむを得ない場合をのぞく)
  • 午後10時から午前6時までの深夜早朝の時間帯に電話をしたりFAXやメールを送信したりすること(ただし緊急やむを得ない場合をのぞく)
  • 汚物や動物の死体その他の著しく不快または嫌悪の感情を抱かせるようなものを送付したり、知りうる状態においたりすること
  • 名誉を害する事実を告げたり知りうる状態においたりすること
  • 性的な羞恥心を害する事実を告げたり知りうる状態においたりすること、性的羞恥心を害する文書や絵、写真などを送付したり知りうる状態においたりすること

 

当事者の申立により、裁判所は保護命令を発令するときに上記のような電話等禁止命令を一緒に出すことができます。電話等禁止命令の効力も発令から6か月間です。

 

2-3.被害者の子どもへの接近禁止命令

被害者が子どもを連れて別居する場合には、加害者が被害者の子どもに近づくと結果的に被害者の安全が脅かされる可能性があります。

そこで保護命令が発令される際、必要に応じて子どもへの接近禁止命令もつけられる場合があります。子どもへの接近禁止命令が出るのは、子どもが未成年(18歳未満)の場合です。子どもへの接近禁止命令が出ると、加害者は子どもの居住する家や学校その他の場所において子どもの身辺につきまとったり学校などの場所の近くをはいかいしたりしてはなりません。

 

ただし子どもが15歳以上の場合に子どもへの接近禁止命令を出してもらうには、子どもの同意が必要となります。

 

また子どもへの接近禁止命令の効力も発令から6か月間です。

 

2-4.被害者の親族等への接近禁止命令

DVが行われる場合、加害者が被害者の親などの親族へ危害を加える可能性もあります。

そこで保護命令を発令してもらうときには、親族等への接近禁止命令も出してもらえます。

親族等への接近禁止命令の対象になるのは、以下のような人です。

  • 被害者と社会生活において密接な関連を有する人(被害者の別居の親など。被害者と同居している人や同居の子どもはのぞかれます)

 

親族等への接近禁止命令がでた場合、加害者は対象となる親族につきまとったり勤務先や居住場所の近くをはいかいしたりしてはなりません。

また親族等への接近禁止命令を申し立てるには、対象となる親族の同意が必要です。同意なしに勝手に接近禁止命令を申し立てられないので、事前に連絡をとって同意書をもらっておきましょう。

 

親族等への接近禁止命令の効力も発令後6か月です。

 

2-5.退去命令

被害者と加害者が同居している状態で被害者が家から出るには、一時的に加害者を家に近づけないようにさせる必要があるケースがあります。

たとえば被害者が日常的に同居の加害者から暴力を受けて別居したいと考えているとき、被害者が引っ越しの準備をしようとすると加害者から暴力を振るわれる可能性が高いでしょう。被害者が安心して別居するには、加害者を一時的に被害者から遠ざける必要があります。そのために認められるのが退去命令です。

退去命令が出ると、加害者は一時的に被害者と同居していた家から退去しなければなりません。

 

退去命令の効力は発令後2か月です。

被害者はその間に荷物をまとめて引っ越しができます。この命令は引っ越しをすることが目的となっていて、もともとの居住者の占有を排除して明渡しのような効果を得ることはできないと考えられています。

 

なお被害者がすでに保護命令の申立時に配偶者暴力相談支援センターなどに避難していても、一時的な避難であることが明らかであれば自宅からの退去命令を出してもらえる可能性があります。

 

 

3.保護命令の流れ

次に保護命令の流れについてみていきましょう。

3-1.警察や配偶者暴力相談支援センターへ相談に行く

保護命令を申し立てるには、まずは相手方からの暴力に付いて配偶者暴力相談支援センターか警察へ相談に行かねばなりません。申立前に相談しておきましょう。

 

3-2.申立ての方法

次に具体的な申立の方法をお伝えします。

管轄の裁判所

保護命令を申し立てる裁判所は、以下の3種類です。

  • 相手方の住所地を管轄する地方裁判所
  • 申立人の住所地や居所を管轄する地方裁判所
  • 暴力や脅迫が行われた場所の地方裁判所

上記のうち、もっとも便利な裁判所を利用すると良いでしょう。ただし申立人の居所を管轄する裁判所を利用すると、居住地域を知られてしまう可能性があります。心配な場合には相手方の住所地を管轄する地方裁判所や暴力が振るわれた場所の裁判所を利用しましょう。一般的には、別居前の管轄裁判所に提起することが多いと思われます。

必要書類

保護命令申立に主な必要書類は以下のとおりです。

  • 申立書
  • 主張書面や証拠(戸籍謄本、住民票、診断書や写真など)
  • 15歳以上の子どもへの接近禁止命令を申し立てる場合には子どもの同意書
  • 被害者の親族等への接近禁止命令を申し立てる場合には親族等の同意書

 

提出した書類については、写しが相手へ送付されます。誤って申立人の現在の住所地を推察される可能性のある資料を提出してしまわないように注意しましょう。たとえば診断書のクリニックの住所から居住エリアを推察されてしまう可能性もあります。自宅近くのクリニックで作成してもらった診断書を提出する際には、病院の所在地を秘匿した状態で提出する方が良いでしょう。

 

3-3.申立後の流れ

申立を行った後の保護命令の流れをご説明します。

本人審尋

保護命令の申立を行うと、多くの裁判所で本人の審尋が行われます。審尋とは、裁判官が本人に事情を聞く手続きです。当日は申立人が裁判所へ行って裁判官に話をしなければなりません。

本人審尋は裁判所が事案の内容を理解して適切な判断をするために行われます。手続きにおいて裁判所へ配慮してほしい事項なども伝えられるので、漏れのないように裁判官へ話をしましょう。言いたいことはメモなどで準備しておくと良いでしょう。

もちろん、代理人弁護士がいる場合は弁護士が同行することも可能です。大枠は弁護士から説明し、細かい裁判官からの質問に申立人が答えるという印象です。

相手方の審尋

保護命令の手続きでは、原則として相手方の審尋も行われます。相手方の言い分によっては、保護命令が認められない可能性もあります。

 

また相手方への審尋が行われた当日に保護命令の決定が出るケースが多くなっています。

たとえば退去命令が出る場合、相手方への審尋が行われて命令が出ると相手方は即座に「家に戻れない状態」になります。その場合、パスポートや保険証などの重要書類が自宅へ残っていると、申立人宛に相手から「重要書類を送付するように」などと連絡が来る可能性も考えられます。

 

相手と直接連絡を取りたくない場合には、弁護士を代理人に立てておくと良いでしょう。

 

近時は、相手方も弁護士を立てることが多いですが、弁護士を立てていない場合、保護命令が出てもトラブルが続くことがあり得ないわけではありません。例えば、以前、三重弁護士会に所属する弁護士が相手方の弁護士をしていましたが、自宅退去命令が出ても、申立人に鍵を渡す義務はない、と社会的に相当とはいえない主張をする例などもありました。

 

3-4.保護命令の発効

申立人と相手方の審尋が終わると、裁判所で保護命令が発令されます。原則として相手方の審尋が終わったその日に発令されることになっています。イメージとしては、審尋が終わると、しばらく待たされてその場で渡されるという感じでしょうか。

保護命令が発令されると、裁判所から当事者や警察へ通知が行われます。申立人は、引っ越しにあたっては、警察に警備の要請をすることが多いのではないかと思います。(なお、警備の要請をできるのは、保護命令事件に限られているようです。)

保護命令に違反した場合には相手方は1年以下の懲役または100万円以下の罰金刑に処される可能性があるので、警察にそのための対応をさせる目的です。

相手が保護命令に従わずに接近してきた場合には、すぐに警察へ通報しましょう。逮捕してもらえる可能性があります。また、相手の弁護士が近寄ってきたり、相手の親が暴言を吐きにきたりした例もありましたので、警察と打ち合わせをされることをおすすめします。

 

3-5,即時抗告

保護命令に対する裁判所の決定に不服がある場合には、当事者は即時抗告によって争うことができます。

ただし即時抗告をしても原決定が取り消されるまでは保護命令の効力を止めることはできません。相手が即時抗告したとしても、保護命令の効力は続きます。保護命令の効力を止めるには、別途「即時抗告に伴う効力の停止の申立」を行う必要があります。

 

4.保護命令の要件を満たさない場合の対処方法

保護命令の対象になるのは物理的な暴力のみです。暴言などの精神的暴力は含まれません。

保護命令の要件を満たさないけれども相手によるつきまといなどを防止するにはどうすれば良いのでしょうか?

この場合、「民事保全」や「ストーカー規制法」を利用する方法があります。

4-1.民事保全

物理的な暴力がなくても、権利侵害のおそれがあって保全の必要性が高い場合、民事保全を検討しましょう。

民事保全では、裁判所から相手方へ面談の強要禁止や接近禁止の仮処分を出してもらうことができます。つまり裁判所から相手に対し、面談を強要したり接近したりしてはならない、と命じてもらえるのです。

ただし民事保全には刑事的な効力がないので、相手が違反しても逮捕してもらったり刑罰を与えてもらったりはできません。あくまで違法行為として慰謝料請求するなどの対応にとどまります。また民事保全が認められるには保証金を支払わねばならないなどのハードルもあります。

 

4-2.ストーカー規制法

相手がつきまとってくる場合にはストーカー規制法も適用できる可能性があります。ストーカー規制法は、特定の人に対する恋愛感情や好意の感情、またはそれらが満たされなかったことに対する怨恨の感情によって相手につきまとい、不安を与える行為を禁止する法律です。

相手がストーカー規制法に違反する行為をする場合、警察から警告を発してもらえたり公安委員会から禁止命令を発令してもらえたりできます。

ストーカー規制法違反には罰則もあるので、実効性も期待しやすいでしょう。

また法律婚のケースだけではなく事実婚や元恋人同士の関係でもストーカー規制法を適用してもらえます。

ただし「恋愛感情やそれが満たされない場合の怨恨の感情」という要件が必要なので、子どもとの面会などを口実につきまとわれる場合には利用しにくい側面があります。

 

5.配偶者の暴力にお悩みなら名古屋駅ヒラソル法律事務所までご相談ください

暴力は重大な人格権への侵害行為です。配偶者から暴力を受けている場合、我慢する必要はありません。身を守るためにも早急に保護命令を申し立てて別居しましょう。

名古屋駅ヒラソル法律事務所ではDV被害者への支援に力を入れて取り組んでいます。配偶者からのDVでお困りの際にはお早めにご相談ください。

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