配偶者の暴力から逃げて別居する方法
配偶者の暴力から逃げて別居する方法
配偶者から暴力を受けているなら、早めに別居しましょう。同居を続けているとさらに暴力を振るわれる可能性がありますし、冷静な判断も難しくなるからです。別居のタイミングを失してしまうと,夫婦間で緊張状態が高まり,突発的なDVを招きやすいともいわれています。
別居して落ち着いて考えたときに離婚を決意したら、離婚へ向けて進んでいくと良いでしょう。
そうはいっても「どうやって別居したらいいかわからない」「家を出ると相手が追いかけてくるのではないか不安」と感じる方も多数いるはずです。
今回は配偶者の暴力から逃げて別居する方法を名古屋の弁護士が解説します。
1.配偶者からの暴力とは
配偶者暴力とは、配偶者からの身体に対する暴力またはそれに準じる心身に有害な影響を及ぼす言動全般をいいます。配偶者暴力は「DV」といわれるケースもよくあります。DVは英語の「Domestic Violence(家庭内暴力)」の略です。
DVには以下のような種類があります。
1-1.身体的暴力
直接身体へ向けて発せされる暴力です。殴る蹴る、髪の毛を引っ張る、引きずり回す、胸ぐらをつかむ、小突くなどが該当します。
1-2,精神的暴力
相手を罵倒、侮辱したり言葉で追い詰めたりして精神的苦痛を与える暴力です。モラハラも一種の精神的暴力といえます。
1-3.経済的暴力
一家の大黒柱が相手にお金を渡さないなど、経済的に追い詰めるタイプのDVです。
1-4.性的暴力
性に関する不適切な言動がDVになるケースもあります。たとえば性行為を強要する、避妊に協力しない、中絶を強要する、他の女性との関係を無理やり認めさせるなどです。
1-5.社会的隔離
社会的隔離とは、配偶者の家族や友人との付き合いを絶たせたり働きに出ようとするのを阻止したりして社会から隔絶しようとする行動です。これも一種のDVと考えられています。
1-6.子どもを巻き込んだ暴力
子どもを巻き込んだDVの形態もあります。
たとえば子どもに配偶者の悪口を吹き込み「お母さんのようになってはいけないよ」などと告げること、配偶者へ「子どもに危害を加える」といって脅すこと、子どもを取り上げて接触できないように仕向けることなどが該当します。
一般的にDVというと「身体的暴力」を思い浮かべる方が多数ですが、実際には上記のようにいろいろなパターンがあります。心当たりのある方は被害を受けている可能性があるので、注意すべきといえるでしょう。
2.別居へ向けて準備すべきもの
配偶者からの激しい暴力があって危険が及んでいるなら、別居を検討すべきです。特に毎日のように,身体的接触がある場合や口論がある場合は真剣に別居を検討すべきです。
以下では別居へ向けて準備すべき事柄やものをご紹介します。
2-1.生活に必要なもの
まずは当面の生活に必要なものやお金をいくらか用意しましょう。
たとえば以下のようなものが必要です。
- 運転免許証やパスポート、マイナンバーカードなどの身分証明書
- 常備薬
- 子どもの学用品
- 衣類
- 日用品
上記のようなものは持って出られるように準備しましょう。ただしあまりに荷物が多くなると目立って相手に見つかりやすくなります。相手に見つかると暴力を振るわれる可能性がある場合、衣類などはあまりたくさん持って出ない方が良いでしょう。
お金はできるだけたくさん用意したいところです。ただしお金がなくても別居はできるので、金銭的な理由で別居をあきらめる必要はありません。
2-2.離婚手続きで必要なもの
次に離婚手続きで必要なものも持って出るべきです。別居時には離婚を決意していなくても、別居後に離婚したいと考え始める可能性があるので、準備をしましょう。
以下のようなものを用意してください。
- 暴力を受けたときの傷の写真
- 診断書
- 相手が暴言を吐いているときの録音
- 相手から来たメール
- 通帳や取引履歴、証券会社の取引明細書、保険証券などの財産関係資料(財産分与を請求するのに必要です)
- 相手が不倫しているなら不倫の証拠(肉体関係を証明できるものが必要です)
離婚に必要な証拠類は、別居すると集めにくくなるものがたくさんあります。できるだけ同居している間に集めておきましょう。きちんとしたコピーでなくても,スマートホンの写真でも十分対応できます。
3.別居する際の注意点
3-1.通帳、キャッシュカード、保険証で相手に居場所を知られるリスクがある
別居時に通帳やキャッシュカード、保険証などを持ち出す方は少なくありません。
ただこういったものを持ち出して別居後に使うと、そこから相手に別居後の住所や居住地域を知られる可能性があります。
通帳やキャッシュカードを使った金融機関やATMの場所は調べられますし、相手の扶養に入っている場合には相手に医療機関の利用明細が届いてしまうからです。
通帳やキャッシュカード、保険証を継続利用するかどうかについては慎重に検討しなければなりません。迷ったときには弁護士へ相談しましょう。
3-2.離婚届不受理申出について
別居すると、相手が勝手に離婚届を作成して役所へ提出してしまう可能性もあります。
相手が偽造した離婚届でも、役所には確認する方法がないので受け付けられてしまうのが一般的です。
勝手に離婚届を提出されたら、婚姻費用も止められるでしょうし財産分与や慰謝料などの話し合いもできないままになってしまいます。そういった問題を防ぐため、事前に役所へ「離婚届不受理申出書」を提出しておきましょう。この申出をしておけば、申出人の意思確認ができない限り離婚届が受け付けられなくなります。
4.別居の際に検討すべきこと
別居の際には、以下の2点をしっかり検討すべきです。
4-1.どこへ住むか
まずは別居後にどこに住むのかを決めなければなりません。
一般的には以下のような選択肢があります。
- 賃貸住宅を借りて居住する
- 実家へ戻る
- DVシェルターへ入所する
- こどもの学校を変えたくないという理由で,自宅のそばにアパートを借りて,すぐに相手方に住所が知られてしまうケースも多いですので気を付けましょう。
賃貸住宅を借りる方法のメリット・デメリット
賃貸住宅を借りる方法の場合、誰にも迷惑をかけずに済みますし、頼れる実家がなくても可能であるなどのメリットがあります。
ただし相手に見つかったとき、押しかけられると自分や子どもしかいないので不安が大きくなるのがデメリットです。生活費や家賃を工面しなければならないので金銭的な負担も大きくなるでしょう。
実家へ戻るメリット・デメリット
実家へ戻る場合には、親が一緒にいてくれるので相手が押しかけてきても安心感があります。実家の家族がいる前では相手も暴力を振るいにくいので、暴力による被害を抑えやすいでしょう。
ただし親や兄弟などを巻き込んでしまう可能性がありますし、頼れる実家がない方は実家に戻ることはできません。いずれにしても,別居後の有形力を行使した押し入りなどには警察に通報するなど厳格に対応しましょう。
DVシェルターのメリット・デメリット
DVシェルターとは、全国各地に備えられているDV被害者を保護するための施設です。
加害者に情報が漏れるとシェルターの意味がなくなるので、場所はすべて非開示になっています。
DVシェルターへ入所したい場合、配偶者暴力相談支援センターや警察などに相談をしてシェルターへの入所を希望していると伝えましょう。必要があればこれらの機関がDVシェルターへつないでくれます。
DVシェルターでは被害者の安全は守られますが、生活が大きく制限されるデメリットがあります。荷物は最低限となりますし、外との接触は基本的に全面禁止されます。
いずれの方法がベストとなるかは、相手の家(同居時に夫婦で住んでいた家)と実家との距離、親兄弟との関係、予想される相手の反応や暴力の程度などの個別事情によっても異なります。
迷ったときには弁護士へ相談しましょう。
5.暴力から逃れる方法
DVを受けて別居する場合には、相手の暴力から逃れる方法を検討しなければなりません。
別居後も追いかけてきて暴力を振るわれる可能性があるなら、以下のような方法を取りましょう。
5-1.保護命令を申し立てる
配偶者から身体への直接的な暴力を受けた場合には、保護命令を申し立てることができます。ただし,保護命令が相当な事例かどうかは,よく弁護士と協議した方が良いように思われます。
保護命令とは、暴力を振るった加害配偶者に対し、被害配偶者等への接近を一定期間禁止する命令です。保護命令を出してもらえたら、相手は半年間、被害者へ接近できません。
面談の強要はもちろん、電話やメールなどの方法による接近もすべて禁止対象です。
親や子どもなどに対する接近禁止命令も出してもらえる場合があります。
加害者が保護命令に違反した場合には逮捕される可能性があるので、たいていの人は近づいてこなくなります。
DV加害者から逃れるには極めて有効な対処方法といえるでしょう。
ただし保護命令を利用できるのは、相手から直接的な身体的暴力を受けた場合に限られます。精神的暴力や経済的暴力などの場合には保護命令を出してもらえません。
5-2.保護命令を利用できない場合
保護命令を利用できないけれども相手が別居先に押しかけてくる可能性がある場合には、他に相手を退ける方法を検討しなければなりません。
たとえば弁護士を間に入れて弁護士から通知を送ると、相手もあきらめて退いていく可能性があります。
それでもしつこく接近してこようとする場合、民事保全を利用しましょう。
身体に対する急迫の危険が迫っているなら、裁判所から相手に対して接近禁止命令を出してもらえる可能性があります。
また相手の行動がつきまといに該当するなら、ストーカー規制法による規制が適用される可能性もあるので警察へ被害申告しましょう。
6.別居後の生活
DV加害者と別居した後の生活でも、いろいろな注意点があるのでお伝えします。
6-1.住民票の閲覧制限措置を利用する
別居して住民票を異動すると、相手が住民票や戸籍附票を取得してこちらの住所を特定してくる可能性があります。
住民票などを見られないようにするには「住民票閲覧等制限措置」をとらねばなりません。
住民票閲覧等制限措置とは、DV加害者が住民票や戸籍附票などの請求をしても、開示しない制度です。
事前に役所で制限措置をとっておけば、相手に住民票や戸籍附票を見られて居場所を知られるリスクが低下します。
ただし閲覧制限を申し出ると、市区町村は警察や配偶者暴力相談支援センターなどへ支援措置の必要性について照会します。適用したい場合には事前に警察や支援センターなどに相談をしておきましょう。
なお住民票閲覧等制限措置の効力は1年間です。ただし期間が満了する1か月前から延長の申出ができるので、希望する場合には忘れずに延長申出をしましょう。こうした延長申出には手間がかかるものですので,秘匿にする以上は手間もかかるということを理解しておきましょう。
6-2.調停を申し立てるときには住所非開示にしてもらう(あるいは弁護士に相談する。)
DV加害者と別居して離婚を決意したら、家庭裁判所で離婚調停を申し立てましょう。
ただし調停を申し立てると、相手に調停申立書の写しなどが送付されるので、こちらの居場所を知られてしまうのが原則です。
年金分割情報通知書の記載から住所を知られる可能性もあります。
住所を知られないためには、裁判所へ調停を申し立てる際に「住所等非開示上申書」を提出しましょう。各家庭裁判所で住所を非開示にする制度が運用されているので、調停申立時に裁判所へ確認してみると良いでしょう。また,その他の事実上の方法もある場合もあるので,まずは弁護士にご相談ください。
6-3.婚姻費用の請求
DVを原因として別居した場合でも、夫婦関係が続いている限り相手へ婚姻費用(生活費)の請求ができます。
相手が支払いを拒否する場合や話し合いが難しい場合、家庭裁判所で婚姻費用分担調停を申し立てましょう。調停では調停委員が間に入って話し合いを進めてくれるので、相手と顔を合わせる必要はありません。DV事案の場合、相手と鉢合わせしないように配慮もしてもらえます。また離婚調停と婚姻費用分担調停を一緒に申し立てれば、離婚と婚姻費用の問題への対応を同時並行で進めてもらえます。
もちろん離婚調停なしに婚姻費用分担調停のみ申し立てることもできるので、状況に応じて申立てる事件の種類を選択しましょう。
6-4.面会交流
子どもがいる場合には、相手が子どもとの面会交流を求めてくる可能性があります。たしかに子どもとの面会交流権は親の権利でもありますが、子どもにとって明らかに悪影響な場合にまで無理に面会すべきとは考えられていません。
相手が子どもに暴力を振るう場合、面会によって子どもに大きな不安感を与える可能性がある場合、相手が子どもを連れ去る危険性が高い場合などには面会交流が認められないケースが多数です。
相手から強硬に面会交流を求められて困ったときには、弁護士へ相談しましょう。
名古屋駅ヒラソル法律事務所では離婚問題に積極的に取り組んでいます。DVを受けてお困りの方にも支援体制を整えていますので、1人で抱え込まずにまずはご相談ください。