内縁関係で不倫されたら慰謝料請求できる?離婚する場合や相手が死亡した場合の法律上の取り扱いについて
内縁関係で不倫されたら慰謝料請求できる?離婚する場合や相手が死亡した場合の法律上の取り扱いについて
婚姻届を提出せずに内縁関係を継続してきた場合、パートナーが不倫したら慰謝料請求できるのでしょうか?
法律上、事実婚であっても不倫されたら慰謝料請求できると考えられています。
別れるなら財産分与を請求できますし、年金分割が認められるケースもあります。
ただし内縁関係の配偶者に遺産相続権は認められません。
今回は内縁関係で不倫された場合の慰謝料や離婚するときに請求できる権利内容、相手が死亡した場合の相続について解説します。
1.内縁関係とは
内縁関係とは、婚姻届を提出せずに事実上の夫婦として共同生活している状態です。
日本では夫婦別姓が認められていないので、お互いに別々の姓を名乗りたい方などが内縁関係を選択するケースが多数となっています。
「内縁関係(事実婚)」と認められるには、夫婦として共同生活する意思と共同生活している実態が必要です。単に恋人同士が同棲しているだけでは内縁関係になりません。夫婦であり届出は出していないというくらいでないと内縁関係にはあたりません。
2.内縁の相手と離婚する場合
内縁関係の相手と離婚する場合に法律婚とどういった違いがあるのか、相手に何を請求できるのかなどみてみましょう。
2-1.内縁関係でも慰謝料請求できる
内縁関係であっても相手が有責配偶者の場合には慰謝料を請求できます。
慰謝料の相場の金額についても法律婚と同様で、内縁だからといって減らされることはありません。
内縁関係解消で慰謝料を請求できるのは以下のような場合です。
- 相手が別の異性と不貞行為をした
- 相手が正当な理由なく家出をした
- 相手から暴力を振るわれた
- 相手から悪質なモラハラ行為を受けた
たとえば相手が不倫した場合、別れるときには100~300万円程度の慰謝料を請求できる可能性があります。
2-2.内縁関係でも財産分与を請求できる
内縁関係であっても、離婚するなら財産分与を請求できます。
対象となる財産の種類や財産分与の計算方法などについても法律婚と同様です。
財産分与の対象の例
- 預金や現金
- 不動産
- 車
- 株式や投資信託
- 動産類
- 退職金(ただし離婚後おおむね10年以内に退職する予定があり、退職金が支給される見込みが高い場合)
財産分与の割合
財産分与の割合は、基本的に2分の1ずつです。ただし夫婦で話し合ってお互いに納得すれば別の割合にすることも可能です。
2-3.内縁関係と年金分割
内縁関係でも、離婚するなら年金分割できる可能性があります。年金分割できるパターンと年金分割できないパターンがあります。
年金分割できるパターンの場合,内縁関係の場合、請求者が「3号被保険者」の場合のみです。
年金分割できないパターンの場合,お互いに仕事をしていて相手の扶養に入っていない場合には、年金分割ができないのです。
2-4.内縁関係で慰謝料、財産分与や年金分割を請求する手順
内縁の配偶者と離婚する際に慰謝料や財産分与、年金分割を請求するには、まずは相手と話し合う必要があります。
合意ができたら弁護士に相談して合意書を作成しましょう。相手から支払いを受ける場合には合意書を公正証書にしておくようお勧めします。
話し合っても合意できない場合には、以下のような方法で各種の請求をしなければなりません。
慰謝料請求訴訟
慰謝料を請求するには、地方裁判所または簡易裁判所にて訴訟を提起する必要があります。
財産分与調停
財産分与を請求したい場合、家庭裁判所で財産分与調停を行う必要があります。内縁の場合でも家庭裁判所を利用することができます。
調停で合意できない場合、裁判所が審判によって財産分与の方法を決めてくれます。
年金分割調停
年金分割については家庭裁判所で年金分割調停を申し立てましょう。
調停で合意できない場合、裁判所が審判によって年金分割の方法を決定してくれます。
2-5.内縁関係と婚姻費用
事実婚の方が離婚する場合、婚姻費用については法律婚と異なる取り扱いになる可能性があります。法律婚の場合、離婚前の別居期間には婚姻費用を請求できますが、内縁関係の場合、別居すると婚姻費用を請求できません。なぜなら内縁関係の夫婦が別居すると、その時点で離婚となってしまうからです。内縁の場合は別居すると離婚になるというのは覚えておきましょう。
離婚が成立した以上、夫婦関係を前提とした婚姻費用の請求ができなくなってしまいます。
内縁の夫婦が別居すると、別居後の生活費を請求できない可能性が高いので、別居するかどうかはより慎重に検討すべきといえるでしょう。
2-6.内縁関係を証明する証拠
内縁関係を解消したときに慰謝料や財産分与、年金分割などを請求するには、内縁関係を証明する証拠が必要です。
以下のようなものを集めましょう。
- 続柄が「妻(未届)」「夫(未届)」などと記載されている住民票
- 受取人が内縁の配偶者となっている生命保険の証書や資料
- 賃貸借契約書
- 一方が他方の扶養に入っている健康保険証
- 結婚式や結納式などの写真
- 家族写真
- 親族や友人の証言(陳述書)
- 相手との普段のやり取りを示すメールやLINEなどのメッセージ
内縁関係の証拠の集め方について迷われたときには、弁護士へ相談しましょう。
3.内縁の相手が死亡した場合
内縁の相手が死亡した場合、遺された配偶者はどういった保護を受けられるのでしょうか?
以下で内縁の相手が死亡した場合の法律上の取り扱いについてみてきましょう。
3-1.相手が死亡した場合には相続権がない
まずは配偶者に相続権があるかどうかが重要です。相続権があれば相手の預金や不動産などを引き継げますが、なければ何も受け取れないのが原則だからです。
法律上、内縁の配偶者には遺産相続権が認められていません。相手が死亡しても財産はまったく受け取れないのです。離婚の場合には内縁の配偶者は法律婚とほぼ同様の保護を受けられますが、死亡した場合には全く取り扱いが異なります。
内縁関係を継続している方は、死亡後のお互いの財産の行方について遺言など生前に検討し対策をねっておく必要性が高いといえるでしょう。
3-2.死亡した場合の財産分与は受けられない
それでは相手が死亡したとき、内縁の配偶者は「離婚時と同様の財産分与」を受けられないのでしょうか?
この点についてはすでに最高裁で判断が出ており、否定されています(最一小決平成12年3月10日)。よって内縁の配偶者が財産分与の準用として相手の遺した財産を受け取ることもできないと考えましょう。
内縁の配偶者が財産を受け取れるケース
ただし内縁の配偶者もまったく財産を受け取れないわけではありません。
たとえば財産形成に実質的に貢献してきた場合、「共有持分」を主張して財産を一部もらえる可能性があります。財産を取得する際に資金を出した場合や、相手の仕事を手伝って多大な貢献をしてきた場合などです。ただ,いずれにせよ例外的な場面といえるでしょう。
特別縁故者となるケース
パートナーに相続人がいない場合には、内縁の配偶者が「特別縁故者」として財産を受けられる可能性もあります。特別縁故者とは、亡くなった方と特に近しい関係にあった人です。
特別縁故者として財産を受け取るには、相手の死亡後、相続財産管理人の選任を申し立てましょう。相続財産管理人が財産の清算を進めた結果、残った財産があれば特別縁故者へ分与されます。
3-3.居住権は保護される
内縁の相手が死亡した場合、配偶者は自宅不動産も相続できません。
相手に子どもなどの相続人がいたら、家を相続した子どもから退去を求められないのでしょうか?
確かに子どもには所有権が認められるので、内縁の配偶者へ家からの退去を要求することもできそうです。しかし内縁の配偶者に対する家からの退去請求は権利濫用として認められない可能性が高いと考えられます。
子どもから所有権を根拠に家を明け渡すよういわれても、当然に応じる必要はありません。
賃貸物件の場合
賃貸物件に居住していた場合、契約者であるパートナーが死亡したら遺された配偶者が大家から退去を求められるケースもよくあります。
ただ、こういった状況になった場合には内縁の配偶者は相続人の賃借権を援用して明け渡しを拒めると考えられています。
相手に相続人がいない場合、死亡したパートナーの権利や義務を承継できるのでやはり明け渡す必要がありません(借地借家法36条)。
以上のように、所有物件でも賃貸物件でも内縁の配偶者の居住権は保護されます。
相続人や大家から明渡しを迫られて困ったときには、弁護士へ相談しましょう。
3-4.遺族年金も受けられる
内縁の配偶者は遺族年金を受け取れるのでしょうか?
遺族年金については、内縁の配偶者でも受け取れるとされています。国民年金でも厚生年金でも受給権が認められます。
ただし内縁の配偶者の場合、遺族年金を受け取るために内縁関係を証明しなければなりません。資料がなければ遺族年金を支給してもらえないので、内縁関係を示す証拠を集めましょう。
重婚の場合
内縁のケースでは、相手に法律婚の配偶者がいる場合もよくあります。
この場合、法律婚の配偶者か内縁の配偶者のどちらか一方しか遺族年金を受け取れません。
どちらに受給させるべきかは、死亡した人との連絡の頻度や経済的な依存関係などにより、個別具体的に判断されます。
たとえば法律婚の妻とは長年音信不通で婚姻費用などのやり取りも一切ないということであれば、内縁の配偶者に遺族年金の受給権が認められる可能性が高いでしょう。
3-5.死亡退職金も受け取れる
相手が死亡すると、勤務先の会社から「死亡退職金」が支給されるケースもよくあります。
死亡退職金は「配偶者」へ支給されるのが一般的ですが、内縁関係でも「配偶者」として死亡退職金を受け取れるのでしょうか?
この点について、退職金規程で「配偶者には事実婚の配偶者も含む」と記載されている場合、当然事実婚の配偶者も退職金を受け取れます。
こういった記載がなく単に「遺族」としか書かれていない場合でも、相手の収入によって生計を維持されていたなどの関係があれば、死亡退職金を受け取れます。
最高裁でも単に「遺族」と書かれていた事案で内縁の配偶者へ死亡退職金の受け取りが認められています(最一小判昭和60年1月31日)。支給規定に単に「遺族」や「配偶者」と書かれている場合に内縁の配偶者が死亡退職金を受け取れることについては争いがないといって良いでしょう。
3-6.遺言書を作成する
内縁の配偶者には遺産相続権がありません。居住権があるとはいえ、預金の出金などはできず保護が不十分になります。
死後の配偶者の生活を守るには、遺言書の作成が必須でしょう。遺言書で預金や不動産などを取得させれば、遺された配偶者が生活不安に陥らずに済みます。遺言書を作成するときには、効果を確実に生じさせやすい公正証書遺言をお勧めします。
遺言書の内容や作成方法がわからないときには、弁護士へご相談ください。状況に応じた遺言の内容をご提案し、公正証書遺言の作成のサポートなども行います。
特に前婚の際に生まれた子どもなどの「法定相続人」がいると内縁の配偶者とトラブルになるケースが多いので、必ず遺言書を作成しておきましょう。
名古屋駅ヒラソル法律事務所では夫婦や親子、男女トラブルなどの案件に積極的に取り組んでいます。内縁関係についてご不明な点がありましたら、お気軽にご相談ください。