内縁の夫が死亡!妻は「退職年金」を受け取れる?
内縁の夫が死亡!妻は「退職年金」を受け取れる?
内縁の夫が退職年金を積み立てている最中に若くして死亡したら、遺された妻は退職年金を受け取れるのでしょうか?年金的な意味合いがあるのであれば受け取れないようにも思えます。そこで弁護士と一緒に考えてみることにしましょう。
特に近年企業で採用されることの多い「確定拠出年金(企業型、個人型・iDeco)」を利用している場合にどうなるのか、みていきましょう。
1.ケーススタディ
Aさん(妻)はBさん(夫)と結婚していますが、婚姻届を提出していません。いわゆる内縁関係です。
Bさんは会社で「確定拠出年金」という退職年金の積み立てを行っていました。これにより、Bさんが60歳になったら年金が支払われる予定でした。
ところがBさんが不慮の事故で亡くなり、Aさんは1人遺されました。Aさんは、夫がこれまで積み立ててきた退職年金を受け取ることができるのでしょうか?
2.確定拠出年金とは
本件でBさんが積み立てていた「確定拠出年金」とは何なのでしょうか?
これは個人や事業主が掛け金を払って運用し、60歳になったときに年金を受け取れる制度です。毎月の支払金額は、加入者が指定できます。受取金額は運用実績によって変動するので、固定しません。
このように「支払う金額」が確定しているので「確定拠出年金」といわれます。現在は、「確定給付年金」は少なくなり、多くは「確定拠出年金」といわれています。
確定拠出年金の特徴は「60歳になるまで出金できない」こと。途中で解約してお金をもらうことはできません。
また確定拠出年金には以下の2種類があります。
2-1.個人型(iDeco)
個人が自ら加入して年金積立を行い、運用するタイプの年金です。会社員だけではなく自営業者も利用できます。
2-2.企業型
企業が従業員のために積立金を支出して、従業員の指示によって運用するタイプの年金です。企業に勤めている人しか利用できません。
最近では退職金制度として企業型の確定拠出年金制度を採用する企業が増えています。
2-3.確定拠出年金から支払われる給付金
確定拠出年金から支払われる給付金は、以下の3種類です。
老齢給付金
加入者が60歳になったときに給付される給付金です。一時金または年金方式によって支払われます。
一般的に「退職金積立」として確定拠出年金が利用される場合、この老齢給付金の受け取りを目的としています。
障害給付金
加入者が一定の障害者となったときに給付される年金です。
死亡給付金
加入者が死亡したときに給付される年金です。退職年金を積み立てている最中に加入者が死亡したら「死亡給付金」が支給されます。
60歳になるまでに死亡したからといって、まったくお金をもらえなくなるわけではありません。
3.死亡給付金を受け取れる人
では確定拠出年金から死亡給付金が支給される場合、誰が受け取れるのでしょうか?
3-1.加入者が指定する受取人
死亡給付金の受取人は、加入者が自らの意思で指定できます。
指定できるのは配偶者や親、祖父母、子どもや孫、兄弟姉妹です。指定があれば優先されるので、指定された人が死亡退職金を受け取れます。
Aさんの場合にも、夫(Bさん)が生前にAさんを死亡給付金の受取人に指定してくれていれば、これまでかけてきた金額に応じた死亡給付金を受け取れるでしょう。
3-2.指定がない場合には「遺族」が受け取る
加入者が生前に死亡給付金の受取人を指定していなかった場合、誰がお金を受け取れるのでしょうか?
これについて、法律は「遺族」が受け取れるものと定めています。
遺族の範囲と順位は以下のとおりとなります(確定拠出年金法41条)。
第1順位 配偶者
第2順位 子ども、孫、父母、祖父母、兄弟姉妹で死亡時に加入者におって扶養されていた人
第3順位 子ども、孫、父母、祖父母、兄弟姉妹以外で死亡時に加入者によって扶養されていた人
第4順位 扶養されていなかった子ども、孫、父母、祖父母、兄弟姉妹
配偶者には内縁関係も含まれる
「配偶者」は、もっとも優先して死亡給付金を受け取れる「遺族」です。配偶者の場合、死亡時に加入者によって扶養されていたかどうかは関係ありません。独自に収入があっても、死亡給付金が支給されます。
ここでいう「配偶者」には内縁の配偶者も含まれます。内縁の妻であっても、夫が死亡したらこれまで支払った掛け金に応じて確定拠出年金から死亡退職金を受け取れると考えましょう。
Aさんの場合にも夫と内縁関係であり婚姻届を提出していませんが、「配偶者」と認められ、請求すれば死亡給付金を受け取れます。
4.確定拠出年金の請求期限
内縁の配偶者が確定拠出年金の死亡給付金を受け取るときには「請求期限」に注意が必要です。
実は確定拠出年金の死亡給付金は、「5年以内」に請求しなければなりません。
5年以内に権利者が請求しない場合には「遺族がいない」扱いになってしまいます。
その場合には「法定相続人」へと死亡給付金が支払われます。
法律上、内縁の妻は法定相続人になりません。夫に親や前婚の際の子ども、兄弟姉妹などがいたら、そちらへ死亡給付金が払われてしまうでしょう。
そうなる前に、早めに年金の請求を行う必要があります。
5.退職一時金について
一般的な企業では、退職金制度として「一時払い方式」と「年金方式」を併用しているケースが多数です。
もしもBさんの会社でも両方の制度を採用していたら、Aさんは「一時払い方式」の退職金を受け取れるのでしょうか?
こちらについては、勤務先の退職金制度の内容によって異なります。会社によっては「死亡退職金」として、遺族への給付を定めているケースがあります。
そういった企業に勤めていた場合、Aさんが「遺族」として死亡退職金を受け取れる可能性があるといえるでしょう。
ただし死亡退職金が給付される「遺族」に内縁関係の配偶者が含まれるかどうかは規定によって異なりますし、支払われる順序も企業によって変わります。
まずは会社における退職金規程の内容を確認しましょう。
6.内縁の配偶者が死亡したときの対応まとめ
事実婚関係の配偶者(会社員)が死亡した場合、まずは勤務先の退職金規程を確認して、遺族に死亡退職金が支払われるか確認しましょう。
また確定拠出年金に加入していたなら、死亡給付金の申請を早めに行う必要があります。5年経つと内縁の配偶者は年金を受け取れなくなるので、注意してください。
内縁関係の配偶者が死亡すると、遺されたパートナーは年金や保険、遺産相続などさまざまな事項に対応しなければなりません。お1人では心細いと感じる方が多いでしょう。
お困りの際にはお気軽に弁護士までご相談ください。