内縁・事実婚の配偶者に「遺族年金」の受給資格は認められる?
内縁・事実婚の配偶者に「遺族年金」の受給資格は認められる?
婚姻届を提出せずに事実婚として夫婦生活を送っている場合、一方が死亡したら他方は「遺族年金」を受け取れるのでしょうか?
そもそも遺族年金が支給されるのはどういったケースなのか、内縁関係でも遺族年金を受け取るにはどうすれば良いのか、名古屋の弁護士が解説します。
パートナーと婚姻届を提出せずに夫婦別姓で生活してきた方は、ぜひ参考にしてみてください。
1.遺族年金とは
遺族年金とは、配偶者が死亡したときにその配偶者によって生計を維持されていた配偶者へ支給される年金です。「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があります。
1-1.遺族基礎年金
遺族基礎年金は、死亡した配偶者が国民年金に加入していたときに支給される遺族年金です。
支給要件
【死亡した人の要件】
- 死亡した人が老齢基礎年金を受給していた
- 老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていた
- 死亡日の2か月前までに保険料納付済期間(免除期間含む)が3分の2以上
- 死亡日の2か月前までの1年において、保険料を滞納していない
【支給対象者の要件】
死亡した人によって生計を維持されていた子ども、子どものいる配偶者
ここでいう「子ども」は以下に限定されます。
- 18歳になった年度の3月31日を経過していない子ども
- 20歳未満で障害年金の障害等級が1級または2級の子ども
1-2.遺族厚生年金
遺族厚生年金は、死亡した配偶者が厚生年金に加入していたときに支給される遺族年金です。
支給要件
【死亡した人の要件】
- 厚生年金に加入していた
- 厚生年金加入中に初診日が含まれる傷病がもととなって初診日から5年以内に死亡した
- 老齢基礎年金の資格期間を満たしている
- 障害厚生年金を受ける資格があった
【支給対象者の要件】
- 死亡した人によって生計を維持されていた①配偶者、②子ども、③親、④孫、⑤祖父母
上記の①から⑤の順番で優先的に遺族年金を受給できます。
遺族厚生年金の場合、遺族基礎年金とは異なり「子どものいる配偶者」と「子ども」に限定されません。子どものいない配偶者、親や孫、祖父母も遺族年金を受け取れる可能性があります。
2.内縁の配偶者にも遺族年金が支給される
婚姻届を出していない内縁の配偶者も遺族年金を受け取れるのでしょうか?
2-1.内縁の配偶者は遺族年金を受け取れる
年金に関する諸々の法律は、事実婚の配偶者も「配偶者」の範囲に含み、年金の受給を認めています。そこで内縁・事実婚の配偶者は遺族基礎年金も遺族厚生年金も受け取れます。ただし、同性の内縁の場合については、解釈は分かれますが、同性パートナーを殺害された名古屋市の男性が同性を理由に遺族給付金を不支給とした愛知県公安委員会の裁定取り消しを求めた訴訟の判決で、名古屋地裁は、同性間の事実婚(内縁)について「社会通念が形成されていたとは言えない」として請求を棄却していますので、事実認定の問題もありますが、同性間では、現状、社会保障的側面は難しいようです。
2-2.死亡一時金、寡婦年金も支給対象となる
遺族基礎年金の受給資格を満たさないときでも、遺された配偶者へ死亡一時金や寡婦年金が支給されるケースがあります。これらについても、事実婚の配偶者も支給対象になります。
- 死亡一時金
25年以上、年金保険料を納めて受給資格を得たにも関わらず年金が支給されないケースにおいて、1度だけ配偶者へ支給される給付金です。
- 寡婦年金(かふねんきん)
国民年金加入者が25年以上年金保険料を納めて受給資格を満たすケースにおいて、10年以上の婚姻期間があり、死亡した配偶者によって生計が維持されていたものへ60~65歳までの期間、支給される年金です。
2-3.遺族補償年金(労災)も支給される
配偶者が「労働災害」によって死亡した場合には、遺された配偶者へ「労災保険」から「遺族補償年金」が支給されます。支給対象となるのは、死亡者によって生計を維持されていた配偶者、子ども、親、孫、祖父母、兄弟姉妹です(配偶者以外の遺族の場合、年齢や障害などの一定要件を満たす必要があります)。
労災保険からの遺族補償年金についても、事実婚の配偶者が支給対象となります。内縁の配偶者が仕事中の事故や仕事を原因とする病気などで死亡したときには、労災保険の申請を行いましょう。
以上のように、事実婚のパートナーが亡くなった場合でも、遺された配偶者は「遺族年金」を受給できる可能性があります。忘れずに年金事務所で手続きをしてください。
3.内縁の配偶者が遺族年金を受給する方法
内縁の配偶者が遺族年金を受給するには「事実婚の実体があったこと」「死亡した人によって生計を維持されていたこと」の2つの事実を証明しなければなりません。
法律婚であれば、「婚姻関係の実体」については証明不要ですし、死亡した人によって生計を維持されていたことの証明もさほど難しくないでしょう。それと比べると事実婚の場合、遺族年金を受給するハードルが高くなります。
3-1.事実婚の実体について
事実婚の実体があったといえるには、以下の2つの要件を満たす必要があります。
- 当事者が、互いに「夫婦共同生活」を送る合意をしていた
- 当事者が、社会通念上「夫婦共同生活」と認められるような生活を送っていた
つまり、男女が同居して夫婦として生活する意思を持ち、実際に共同生活をしていた事情が必要です。
証明するには、以下のような資料を集めましょう。
- 住民票
- 健康保険証
- 認知された子どもの存在を示す戸籍謄本
- 写真やその他の生活記録
3-2.生計維持関係について
死亡した人によって生計を支えられていたといえるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 住民票上、世帯が同一
- 住民票上の世帯が別の場合、住所が同一
- 住民票上の住所が異なる場合、実際に同居して家計が1つになっている
- 単身赴任などのやむを得ない事情によって居所が異なる場合、生活費などの支援を受けている
生計維持関係を証明するため、以下のような資料を集めましょう。
- 住民票
- 健康保険証
- 賃貸借契約書
- 単身赴任などの事情を示す資料
- 生活費を送金していたことがわかる通帳の記録や取引履歴
4.婚約者が死亡した場合の遺族年金
男女が同居生活を送るのは、事実婚に限りません。婚約中に「同棲」するケースもあるでしょう。婚約者が死亡した場合でも、遺族年金を受け取れるのでしょうか?
国民年金や厚生年金などの遺族年金が支給される「配偶者」は、夫婦としての実体があり、相手によって生計を維持されていた人に限られます。
単に婚約していただけで同居していなければ、これらの要件を満たさないと考えてください。
一方、婚約者と同棲して住民票上の住所が1つになっていれば、遺族年金を受け取れる可能性が高くなります。同居を始めたばかりで住民票を異動していなかった場合などには、同居生活を証明するための工夫が必要となるでしょう。
5.事実婚の配偶者が死亡してお困りなら弁護士へご相談ください
事実婚の配偶者が死亡すると、遺された配偶者は年金や遺産相続問題で困難な事態に直面するケースが多々あります。迷われたときには、法律の専門家である弁護士の力を頼りましょう。当事務所では内縁関係のカップルへの支援を積極的に行っていますので、名古屋で男女関係、遺産相続のトラブルに巻き込まれたら、是非とも一度ご相談ください。なお、遺族厚生年金は(30歳以上の)妻には制限はありませんが、夫が受け取ることができるのは60歳以上からと、年齢の制限があります。