内縁破棄の慰謝料請求について
内縁破棄の慰謝料請求について
日本でも、婚姻届を提出せずに「事実上の結婚」をして内縁の夫婦になっている方がたくさんおられます。夫婦共同生活の実態があるということがポイントです。
内縁関係でも相手が一方的に家出したり不貞したりしたら、法律婚の夫婦と同様に慰謝料請求できます。
ただし内縁の場合、子どもがいる場合の解決方法や婚姻費用についての考え方などが法律婚とは異なるので、知っておきましょう。しかし内縁にも一定の保護があります。夫婦共同生活の解消は離婚といえます。まずは離婚弁護士に相談しましょう。
今回は内縁関係破棄の慰謝料請求を始めとする法律問題を、名古屋の弁護士が解説します。
1.内縁関係とは
内縁関係とは、婚姻届を提出しない事実上の夫婦関係です。結婚届を出していないだけで夫婦ということですね。
実際には夫婦のように生活していても、婚姻届を提出していないので夫婦の姓が違いますし戸籍も別です。日本では「夫婦別姓制度」が認められていないので、夫婦別姓を希望するカップルが内縁を選択するケースが多くなっています。また「婚姻制度」による束縛を嫌う人も、あえて婚姻届を提出せずに事実婚として暮らしていることがあります。このことは日本ではなかなか離婚しにくいことや婚前契約が発達していないこと、若者に現在の「結婚制度」はヘビーであることなどが挙げられると思います。
かといって長期にわたる内縁はライトな関係とはいえません。内縁の配偶者を保護する必要性もあります。
内縁関係を「事実婚」とも言いますが、事実婚と法律婚は「婚姻届を提出しているかどうか」というだけの違いですから、法律上もだいたい同じような取扱いを受けます。ただし異なる部分ももちろんあります。
2.内縁関係の「不当」破棄とは
内縁関係と法律婚の大きな違いは「婚姻関係の解消方法」です。法律婚の場合には「離婚届」を提出しないと離婚できません。一方内縁関係の場合、もともと婚姻届を提出していないので離婚届は不要であり、夫婦が別居した時点で関係が終了します。したがって内縁の場合は別居時にトラブルが生じることもありますので、離婚弁護士に相談すると良いでしょう。
ただ、内縁関係の場合にも正当な理由がない一方的な破棄は認められません。内縁関係を不当に破棄すると、相手に対する「慰謝料」が発生します。
法律婚の夫婦で有責配偶者が相手に慰謝料を支払わねばならないのと同じです。
3.内縁関係不当破棄と慰謝料
3-1.内縁関係破棄で慰謝料が発生するケース
内縁関係で不当破棄となって慰謝料が発生するのはどういったケースなのでしょうか?
それは、以下のような場合です。
- 相手が一方的に家出をした
- 相手が急に生活費を渡してくれなくなった
- 相手が不貞した
- ひどいDVやモラハラ行為が行われた
このような事情で内縁関係が破棄された場合には、相手に対して慰謝料を請求できます。この点については、内縁は届け出がないだけなので離婚慰謝料とほぼ同じような原因で発生すると考えられます。
3-2.内縁関係不当破棄の慰謝料の金額
内縁関係を不当には記された場合の慰謝料の相場は、以下のとおりです。
- 不貞の場合…150~300万円程度
- 家出や生活費不払いの場合…50~200万円程度
- DVやモラハラの場合…50~200万円程度
婚姻関係の長さや相手の行為の違法性の強さによって金額が増減します。一般的な話しをいたしますと、結婚前のカップルが内縁生活をしていることが多いことから慰謝料が高額になることは少ない案件によく接します。
3-3.内縁関係不当破棄の慰謝料請求方法
内縁関係を不当に破棄されて慰謝料請求したいときには、相手に対して弁護士から内容証明郵便で「慰謝料の請求書」を送ります。
そして相手と話し合いをして慰謝料の金額と支払方法を取り決め、合意書を作成して慰謝料を振込送金などで払ってもらえば完了します。
相手が任意に慰謝料を払わない場合には、地方裁判所で「慰謝料請求訴訟」を起こします。
法律婚の場合とは異なり「離婚調停」や「離婚訴訟」はしませんし、裁判所も「家庭裁判所」ではなく「地方裁判所」となるので注意が必要です。
*調停は家事審判事項に限られません!
事実上の夫婦関係にある当事者間で,内縁関係の解消について当事者間の話合いがまとまらない場合や話合いができない場合に,家庭裁判所の調停手続を利用することができます。
調停手続では,内縁関係の解消のみではなく,解消に際しての財産分与や慰謝料についてどうするかといった財産に関する問題も一緒に話し合うことができます。
また,内縁関係を解消した方がよいかどうか迷っている場合にも,この調停手続を利用することができます。
4.内縁関係を解消するときの「財産分与」
内縁関係を解消するときにも「財産分与」を求めることが可能です。財産分与とは、夫婦が婚姻中に形成した共有財産を分け合う手続きです。内縁関係であっても婚姻中は夫婦が協力して財産を築いているので、別れるときに半分を請求できる建前です。しかしイメージとしては慰謝料として処理されていることが経験上は多いのではないかと接している案件では思います。こちらは長期の内縁のケースの例が中心になるのではないでしょうか。
財産分与対象になる資産も法律婚と同様で、預貯金や生命保険、不動産、車や株式などのすべての資産が対象です。また夫婦のどちらの名義の財産も対象になります。
ただし「内縁関係中に形成された資産」に限られるので、内縁関係になる前から持っていた資産などは対象になりません。相手の親から贈与されたり相続したりした財産も対象外です。
基本的に話し合いによって財産分与の方法を決定しますが、話し合いでは解決できない場合には、財産分与調停を申し立てて家庭裁判所で財産分与方法を決定します。
5.婚姻費用の取扱い―婚姻費用は払ってもらえず財産分与での清算があり得る。
内縁関係の場合「婚姻費用」の取扱いが法律婚と異なるので注意が必要です。
婚姻費用は、夫婦の生活費です。夫婦はお互いに相手の生活を支えなければならない義務を負っているので、収入の高い方は低い方へと生活費を渡さねばなりません。
内縁関係の場合でも婚姻費用分担義務は発生しますが、別居後の婚姻費用についての考え方が法律婚と違ってきます。
法律婚の場合、別居しても「離婚届」を提出するまで婚姻関係が継続するので、どんなに別居が長期になっても延々と婚姻費用を払い続けなければなりません。
一方内縁関係の場合、別居すると婚姻関係が終了するので、その時点で婚姻費用分担義務がなくなります。別居中には婚姻費用を支払う必要がありません。
つまり内縁の場合には、別居すると婚姻費用を払ってもらえなくなるということです。相手が一方的に家出した場合や不倫相手の所に行ってしまった場合などには、生活費は請求できないので慰謝料や財産分与を求めるしかありません。
実務では、婚姻費用が、一方の出損のまま、言わば立替金清算未了のまま離婚又は内縁解消に至った場合は、この財産分与の中で、過去の婚姻費用の清算を行うことがあります。話し合いでの解決が可能であるなら、財産分与に含めて解決することが1つの方法です。
家庭裁判所の調停手続でも、「立て替えた婚姻費用の清算」を含めて財産分与の合意ができる場合があります。財産分与の調停申立てがなされた場合で、調停不成立になったときは、審判手続に移行します。
財産分与の額を決定するについては、当事者双方の一切の事情を考慮すべきであることは民法 771 条、768条 3 項の規定上明らかであるから、過去の婚姻費用の分担の態様も事情の1つになります。(最判昭 53・11・14 判時 913・85)である。
審判においては、「過去の婚姻費用の分担の態様」として、一方が分担すべきであった婚姻費用の未払いが、財産分与の内容の考慮事情の1つとして斟酌されることもないわけではありません。
6.子どもの親権、養育費について
内縁の夫婦にも子どもがいる場合があります。法律婚の場合には、婚姻中は夫婦の「共同親権」になっていますが内縁の場合には異なります。内縁の夫婦は籍が入っていないので、子どもは「母親の籍」に入り、父親とは別々の姓になります。父親が認知しない限り父親とは「戸籍上他人」であり、親権は母親の単独親権です。
父親が認知しても親権者になれるわけではないので、婚姻中も母親の単独親権ですし内縁関係解消後ももちろん母親の単独親権です。
ただ、父親が「認知」すると法律上の親子関係が発生するので、内縁関係解消後に母親が子どもを育てるなら、母親は父親に養育費を請求できます。養育費の金額の相場は法律婚の場合と同様です。内縁の場合は経験上認知をしているケースが多いのではないか、と思います。
父親が子どもを認知していない場合には、まずは認知請求(調停や訴訟)を行って親子関係を確定させてから、養育費を求める必要があります。
ただし弁護士に相談していただければ内縁の場合は争いがあってもDNA鑑定で決着がつくことが多いので最終的に任意認知をしてくれるケースが多く、裁判は無駄になることが経験的に多いです。
7.年金分割について
内縁関係を解消する場合でも、年金分割を請求できるケースはあります。ただし内縁で年金分割できるのは「3号被保険者」つまり相手の「被扶養者」であった場合のみです。その記録が残っている期間に限り、年金分割が認められます。
婚姻届を出していない事実上の夫婦、いわゆる事実婚(内縁関係)の場合にも年金分割は認められているのですが、法律婚(婚姻関係)と違ってかなり制限されています。
その理由は、婚姻届と離婚届によって夫婦であった期間が明確な法律婚と違い、事実婚においては夫婦であった期間が不明瞭だからです。
法律婚と違い、夫婦が共働きで両方が厚生年金に入っているようなケースでは年金分割が認められません。
以上が内縁関係を解消するときの法律的なポイントです。今後の参考にしてみてください。