子どもを引き渡してもらえない場合の強制執行について
子どもを引き渡してもらえない場合の強制執行について
「子の引き渡し請求」をして裁判所で引渡命令が出ているにもかかわらず、子どもを引き渡さもらえないケースが少なくありません。
そのようなときには「強制執行」や「人身保護請求」によって子どもを取り戻せる可能性があります。
今回は子どもを引き渡してもらえない場合の対処方法を離婚に詳しい弁護士が解説します。裁判所から引き渡し命令や監護者指定の決定が出ているにもかかわらず相手が従わないので困っている方はぜひ参考にしてみてください。
1.子どもを取り戻す3つの方法
子の引き渡し請求によってこちらの言い分が認められると、裁判所が相手方へ子どもの引渡命令をします。子の引き渡し請求をするときには通常監護者の指定も申し立てるので、引き渡しと同時に監護者としての指定も受けられるケースが多いでしょう。
しかし裁判所が子どもの引渡命令を出しても従わない人が実は少なくありません。その場合、強制執行や人身保護請求という手続きによって子どもを取り戻す必要があります。
子の引き渡し請求とは
子の引き渡し請求とは、子どもを連れ去られた場合などにこちら側へ取り戻すための手続きです。たとえば離婚前に配偶者が子どもを違法な方法で連れ去った場合、法的に子どもを取り戻すには「子の引き渡し請求」をしなければなりません。子の引き渡し請求が認められると、裁判所が相手方へと子どもの引渡命令を下します。
多くの人は裁判所から引渡命令が出ると、子どもの引き渡しに応じるものです。しかし中には裁判所の命令に背いて子どもの引き渡しを拒否する人もいます。今回取り上げるのは、そのように裁判所の命令に従わない相手方への対処方法です。
相手が子どもを引き渡さない場合に子どもを取り戻すための3つの具体的な方法は、以下のとおりです。
- 間接強制…相手に金銭を支払わせる強制執行です。金銭的にプレッシャーをかけて相手が子供の引き渡しに応じるようにはたらきかけます。
- 直接強制…子どもを直接的につれてくる強制執行です。裁判所の執行官と債権者が子どものいる場所へ行って子どもを奪還します。
- 人身保護請求…人が違法な方法で拘束されているとき、その拘束を解いて自由を取り戻すための手続きです。相手が無権利であるにもかかわらず子どもを囲い込んで引き渡さない場合には、子どもを保護するために人身保護請求が有効となる可能性があります。
以下でそれぞれの手続きについて、詳細をみていきましょう。
2.間接強制
間接強制は、債務者が命令を履行しない場合にお金を支払わせることによりプレッシャーをかける手続きです。
命令に従わない限りお金を払い続けなければならないので、相手が自ら命令に従おうとすることを期待しています。
たとえば「引き渡しを1日遅延したら1万円支払わねばならない」とする支払い命令が出たら、相手は10日で10万円、30日で30万円払わねばなりません。
そのようなお金を払うと子どもとの生活も厳しくなってくるでしょうから、自ら引き渡しに応じる人もいます。
間接強制によって支払い命令の出る金額は相手方の資力や事案の内容などにより、裁判所が定めます。ケースによって大きく異なり1日5000円という場合もあれば30万円になる場合もあります。
2-1.メリット
間接強制のメリットは、子どもにプレッシャーをかけにくい点です。
金銭的な支払いをプレッシャーに感じた相手が任意に引き渡しに応じれば、子どもを無理やり連れてくる必要はありません。穏便に解決しやすいメリットがあるといえるでしょう。
2-2.デメリット
強制力が低い
間接強制のデメリットは、強制力が低い点です。
単にお金を取り立てるだけなので、相手が「お金をとられてもかまわない」と開き直る場合、効果を期待できません。
資力のない相手方には効果がない
間接強制は、相手にお金を払わせることによってプレッシャーをかける強制執行方法です。つまり「相手に支払い能力がある」ことが前提となっています。
たとえば相手が無職無収入で資産もまったくない場合、関節強制をしてもほとんど意味がありません。相手が生活保護を受けている場合も同様です。
必ず認められるとは限らない
相手が子どもの引き渡しに応じないとしても、必ず間接強制が認められるとは限りません。たとえば子どもが請求者のもとへ行くのを嫌がってうまくいかないとき、子どもの引き渡しが成功しないのは相手方の責任とは言い切れません。
相手方としては子どもの引き渡しに協力する姿勢を見せていても、子どもが激しく拒否して引き渡しを実現できないケースも考えられます。
そういった事例では、間接強制が認められない可能性があります(東京高裁平成23年3月23日)。
2-3.間接強制より直接強制を先行させるべきケース
間接強制は、金銭を支払わせるプレッシャーによって履行を間接的に促す強制執行方法であり、インパクトや効力は弱いといえます。
たとえば相手が強硬に子供の引き渡しを拒否している場合に間接強制を申し立てても、相手方が自ら子どもを引き渡してくることは期待しにくいでしょう。また相手に資力がない場合に間接強制を行っても無駄になる可能性が高いといえます。
そういった状況であれば、間接強制のステップを踏まずに、すぐに次に紹介する直接強制の手続きをとりましょう。
3.直接強制
直接強制は、子どもを取り戻しに行って直接子どもを連れ帰るタイプの強制執行です。
間接強制と異なり、ダイレクトに子どもを取り戻すので「直接強制」といいます。
直接強制を行う場合、裁判所の執行官と債権者が一緒に子どものいる場所へ行き、子どもを直接債権者のもとへと取り戻します。相手が強硬に子どもの引き渡しを拒否していても、強制的に子どもを連れ帰れるので強制執行が成功する可能性を期待できます。
子の引き渡し命令が出ても無視する相手方の場合、関節強制をしても子どもの引き渡しに応じるケースは多くありません。引き渡しの実効性を考えるなら、はじめから直接強制を行った方がよいでしょう。
3-1.直接強制の手順
子の引き渡しの強制執行(直接強制)をする場合には、まず地方裁判所の「執行官」へ申立をしなければなりません。予納金を納める必要もあります。金額的には1件4~6万円程度となるでしょう(具体的には裁判所や事案の内容によって異なります)。
直接強制で重要なのは、「子どもがどこにいるか」「いつ直接強制を行うか」です。
実際に子どもがいる場所へ行かねばならないので、子どもの行動パターンを事前に債権者側で把握しておく必要があります。執行官や裁判所が子どもの居場所を調べてくれるわけではないので、勘違いしないようにしましょう。
よくある執行場所
- 子どもが学校や幼稚園に行く前の早朝に相手の家へ子どもを迎えに行く
- 子どもが学校から帰ってきた後の夕方や夜に子どもを迎えに行く
- 子どもの習い事の場所へ子どもを迎えに行く
債権者側で「いつどこへ強制執行に行くか」を指定して執行官と打ち合わせをしたら、決まった日にちと場所へ子どもの取り戻しに行きます。子どもを連れてくることができれば直接強制は成功です。
3-2.メリット
直接強制のメリットは、相手が強く拒否していても子どもを強制的に連れて来られる点です。相手の資力も無関係で、相手にお金がなくても成功する可能性があります。
子の引き渡し請求をしても相手が従わない場合、まずは直接強制を行って、不成功に終わると間接強制を検討する方も少なくありません。
3-3.デメリット
直接強制のデメリットは、子どもに強いプレッシャーを与えてしまう点です。
強制的に連れてくるので子どもはショックを受けますし、年齢が低い場合には激しく泣いてしまうケースもあります。ただ、いったん連れ帰ると債権者の用意した環境になじんで何事もなかったかのように平穏に過ごせる子どもも多いので「泣いたからあきらめるべき」というわけではありません。
3-4.直接強制が失敗するパターン
直接強制も必ず成功するわけではありません。
以下のような失敗パターンが多いので、参考にしてみてください。
- 待っていた場所に子どもが現れなかった
- 子どもを家に迎えに行ったが子どもが家に出入りせず待ちぼうけになった
- 子どもが泣き叫んで暴れるので連れてくることができなかった
- インターホンを押しても無視されて子どもと出会うことすらできなかった
4.人身保護請求
人身保護請求は、子どもを取り戻すための最終的な手段です。
もともと、不法に身体拘束されている人を解放するための手続きであり、子どもを取り戻すための手続きとは趣を異にします。
ただ子どもの引き渡しに有効なので、実務的には子どもを取り戻すための手続きとして使われる事例もあります。ただ,実務上の利用がそれほど多いというわけではありません。
人身保護請求の手続きでは、以下のようなことができます。
- 相手に子どもを裁判所に連れてくるよう命令する
- 相手が子どもを裁判所に連れてこない場合「勾引」によって強制的に子どもを裁判所につれてくると伝え、プレッシャーを与える
- 相手がどうしても子どもを裁判所へ連れてこない場合、実際に勾引する
たとえばある期日に裁判所へ子どもを連れてくるように命令し、その場で子どもを取り戻すなどの対応を実現できる可能性があります。
4-1.メリット
相手が子どもの引き渡しに応じない場合でも強制的に子どもを取り戻せます。
直接強制と異なり、相手に裁判所へ子どもを連れてこさせることができるので、直接強制に失敗した事例でも子どもの取り戻しが成功する可能性もあります。
4-2.デメリット
現実に子どもを強制的に取り戻すので、子どもに精神的なダメージを与える可能性があります。
また人身保護請求は必ず認められるものではありません。直接強制よりも要件は厳しくなっています。たとえば離婚後に親権者ではない親が子どもを連れ去った場合には人身保護請求が認められやすいのですが、離婚前の共同親権の状態では原則として人身保護請求が認められないと判断されています(最高裁平成5年10月19日)。
ただし離婚前であっても子の引渡命令が出て監護者指定の審判が確定しているなら、人身保護請求が認められます。相手が裁判所の命令に従わない場合には人身保護請求の手続きを利用することも検討しましょう。
5.子どもの引き渡しを求める場合の配慮
直接強制にせよ人身保護請求にせよ、子どもに強いプレッシャーをかけてしまうのは事実です。引き渡しを行う際には親同士が大人になり、子どもが過酷な状況に置かれないように可能な限りの配慮をしましょう。
名古屋駅ヒラソル法律事務所では子どもの問題に高い関心をもって取り組みを進めています。子の引き渡しに応じてもらえずお困りの方がおられましたらお気軽にご相談ください。