配偶者が子どもを連れて家を出たときに取り戻す方法

配偶者が子どもを連れて家を出たときに取り戻す方法

離婚時に親権者争いが生じると、相手が勝手に子どもを連れて家出してしまうケースが多々あります。そんなとき,こどもを連れ戻しても良いのでしょうか?
そんなとき「子の引き渡し請求」や「監護者指定審判」などの法的手続きをとれば、子どもを取り戻せる可能性もあります。

今回は離婚前に相手が勝手に子どもを連れて家を出たときの対処方法を弁護士がお伝えしますので、相手と親権をめぐってトラブルになっている方はぜひ参考にしてみてください。

1.子どもを連れていかれても自力で取り戻してはならない
相手が子どもを勝手に連れて出て行ったら、自分も同じように子どもを連れに行こうとする方がおられます。

しかしこういった「自力救済」をしてはなりません。自力救済とは、法律に従わずに自力で権利を実現する行動です。

日本では、権利を実現するために法的手続きをとる必要があります。たとえ権利があっても、法律を無視した行動をとると「違法行為」と判断される可能性があるのです。

もしも相手から無理やり子どもを連れ去ってしまったら、対抗して取り戻すといった,こちらの行動が「違法」とみなされて親権者争いで不利になってしまうリスクも発生します。

場合によってはこちらの未成年者略取罪などの犯罪が成立してしまうおそれもありますので、無理に子どもを連れに行くのは避けましょう(最二小決平成17年12月6日)。

例えば,公園などで,監護親が目を離した隙に幼児である子を連れて帰ってしまうような場合は,有形力の行使はないものの,違法性が強いといえます。(大阪高裁平成17年6月22日決定)
なお,子を電話で呼び寄せた場合や,監護親の不在の間に同居者の了解を得て子を連れて出たという場合でも,監護親の法的利益を侵害するものとする学説もあります。穏当な方法による場合は違法とする見解と違法とまではいえないという見解があります。
そこで,相手が子どもを連れ去った場合、以下のような法的手続きをとって対応すべきです。

2.子の引き渡し請求、監護者指定の申立をする
子どもを連れて行かれたときに利用できる法的手続きは「子の引き渡し請求」と「監護者指定審判(調停)」、「審判前の保全処分」の申し立てです。

2-1.子の引き渡し請求とは
子の引き渡し請求とは、子どもを連れて行かれた場合に権利者が相手へ子どもの引き渡しを要求するための手続きです。
家庭裁判所へ申立をすると審理が行われ、「子どもをもとの生活に戻すのが相当」と判断されたら、相手へ子どもの引渡命令が出ます。
相手が引き渡しに応じない場合には、直接的、間接的な方法で強制執行も可能です。

2-2.監護者指定審判(調停)とは
監護者指定審判(調停)とは、離婚するまでどちらがこどもを監護するのか,という,子どもの暫定的な監護者を決める手続きです。
しかし,実際は,監護者指定審判の帰趨が,親権者指定の裁判にも影響を与えるので,親権争いの前哨戦といわれることがあります。
離婚前は両親ともに親権が認められるので、親権にもとづく子どもの引き渡し請求はできません。
ただ両親が別居していてどちらが子どもを監護すべきか争いが生じていたら、どちらの親が子どもを監護養育すべきか決定しなければなりません。
そこで離婚までの間、子どもと一緒に住んで養育する「監護者」を裁判所が指定するのです。

子の引き渡し請求によって子どもを取り戻し、監護者として指定してもらうことで再度の連れ去りを防止できる効果があります。

2-3審判前の保全処分とは
子の引き渡し請求や監護者指定審判と同時に「審判前の保全処分」を申し立てるケースも多々あります。
審判前の保全処分とは、急迫的な権利侵害の危険が迫っている場合において、子の引き渡しや監護者指定の審判が出る前に、仮に子どもの引き渡しを認めたり監護者を指定したりする処分です。
違法状態を直ちに是正する必要があることから,「子の仮の引渡し」(審判前の保全処分)では,違法な監護の開始であることのみを理由とした認容審判を直ちにして,その後,本案について,監護者の適格性についても十分に審理したうえで,監護者の指定及び子の引渡しの審判をすべきであるという裁判例(東京高裁平成20年12月18日)があり,実務ではそれなりに有力になっているとする学説もあります。

子の引き渡しや監護者指定審判では、調査官調査や両親からの聞き取り、資料提出、裁判所における検討などを要するので、緊急性に応じて要する時間が変わりますが,数か月の期間がかかるのが一般的です。

しかしその間子どもを取り戻せないと、重大な問題が生じてしまうケースもあるでしょう。
そこで、一定のケースでは仮に決定を出し、すぐにでも子どもの取り戻しを認めるのが保全処分です。

上記の東京高裁平成20年12月18日のように,審判前の保全処分を先行させたうえで,本案の審判をするパターンと,審判前の保全処分は却下されるか,又は本案と共に判断されるパターンがあります。
このような緊急性が高い場合で認められたら、1か月以内に子どもを取り戻せる可能性もあります。

保全処分が認められやすいケース
審判前の保全処分は常に認められるわけではありません。子どもをすぐに取り戻さねばならない急迫した事情がある場合にのみ認められる可能性があります。

具体的には裁判所が、以下のような事情を考慮して保全処分を出すかどうかを決定します。
本案が認容される蓋然性が高い
1つ目の要件として、本案が認容される蓋然性が高くなければなりません。

保全処分が認められて子どもを取り戻しても、後に本案(子の引き渡し請求や監護者指定審判)で負けてしまったら、また子どもを相手のところへ戻さねばなりません。
このように、子どもを何度も移動させると子どもに悪影響が及ぶことは想像に難くないでしょう。これを「数次執行の弊害」といいます。
そこで保全処分が認められるには、本案が認められる蓋然性が相当程度高くなければなりません。

保全の必要性がある
保全処分が認められるには「保全の必要性」という要件を満たさねばなりません。
具体的には以下のような事情があると、保全の必要性が認められやすくなっています。
 相手が子どもを虐待している
 相手が子どもを学校に行かせていない
 相手が実力行使をして違法な態様で子どもを連れ去った
 相手との生活において、子どもが情緒不安定になるなど不都合が生じている

3.子の引き渡しや監護者指定が認められる基準とは
子の引き渡し請求や監護者指定審判の申し立てをしても、必ず認められるとは限りません。
どういった状況であれば引渡命令を出してもらいやすいのか、みてみましょう。

子の引き渡しや監護者指定を判断する際にもっとも優先されるのは「子どもの利益」です。
具体的には以下のような事情を考慮して定められるケースが多数となっています。
 監護者としての適格性
 従前の監護状況
 現在の監護状況
 監護の継続性維持の原則
 主たる養育者優先の原則
 別居親の生活状況
 別居親が子どもを引き取れる状況かどうか
 子どもに対する愛情の程度
 乳幼児における母性優先の原則
 健康状態、経済的な事情
 居住環境
 教育方針
 子どもの親に対する愛着度合い
 子どもの年齢
 子どもの希望
 監護補助者がいるかどうか
 子どもの心身の発達度合い
 違法な監護の開始であるか否か

子どもが乳幼児の場合には母親が優先されるケースが多く、子どもの年齢が高くなると本人の意思が尊重されやすくなります。
だいだい10歳~12歳を超える頃から子どもの希望も考慮されるようになり、15歳以上になれば子どもが自分で監護者を決められます。(家事事件手続法152条2項)

審判前の保全処分では,審問が重要
審判前の保全処分では,仮の処分のみ先行させる場合として、違法な連れ去りがあった場合、虐待の防止、生育環境の急激な悪化の回避、その他の子の福祉のために必要な場合や、本案審判の確定を待っていたら、未成年者の福祉に反する事態を招く恐れがある場合をいいます。
審問は、裁判官が行うヒヤリング手続のことです。申立後の最初の期日,あるいは2回目の期日に行われることがあり,裁判官としては,仮の処分のみを先行させるか,本案審理と同時進行とするのかを決めることになります。
審問は、調査官調査の前に行われることになりますので、特に審判前保全処分の緊急性を伝えるうえでは審問は重要といえるでしょう。
裁判官は,審問においては,暴力的奪取の有無などを聞いてくることもありますし,当事者双方に対して,口頭でその意向,意見,認識等を直接聴取します。第一回目の審判期日では争点の整理が中心になることがありますが,二回目以降,事実認定を意識しつつ審問をしていくのが一般的です。

調査官調査の結果が重要
子の引き渡し請求や監護者指定審判を申し立てると、家庭裁判所の調査官による調査が実施されます。
具体的には以下のような調査が実施される例が多数です。
 両親との面談や聞き取り
 家庭訪問
 子どもとの面談
 家庭裁判所で別居親と子どもの面接をさせ、その状況を観察
 保育園や学校などへの聞き取り調査
 提出された資料の精査
 提出された陳述書の確認

調査が終了すると、調査官は裁判官へ「調査報告書」を提出します。
調査報告書には、「どちらの親を監護者とすべきか」「引き渡しを認めるべきか」について、調査官の意見が記載されています。
裁判所は子の引き渡しや監護者指定の審判を下す際、調査報告書の内容や調査官の意見を非常に重視するので、調査報告書に何を書かれるのかは極めて重要です。

子どもの取り戻しを認めてもらいたいなら、調査官調査へ適切に対応しなければなりません。ご自身で判断すると不利になってしまう可能性もあるので、効果的に対応するため弁護士までご相談ください。

特に、調査官調査は、公権力が行う一種の取調べのようなものであり、調査官のカウンセラー的手法に負けて、不利になってしまう方もいますので、弁護士の立ち合いも有効です。

4.監護者指定審判と親権者の関係
監護者指定審判における監護者の判断基準は、離婚時の親権者の判断基準とほとんど同じです。
監護者指定審判で負けてしまったら、そのまま相手に親権が認められる可能性が高くなってしまうと考えましょう。
「今回の子の引き渡し請求が認められなくても、後の離婚裁判で親権者として指定してもらえれば良い」といった考えは通用しにくいので慎重に対応しなければなりません。
子の引き渡しや監護者指定審判を申し立てるなら、手続きの流れや裁判所の判断基準、傾向などを知って万全の体制を整えましょう。
お1人で不安がある場合、弁護士へ依頼するのが得策です。

5.面会交流を求める方法もある
相手が子どもを連れて行ったときの選択肢は、子の引き渡しだけではありません。
相手に対し、子どもとの面会交流を求める方法もあります。
面会交流とは、別居親が子どもと面会したり電話などで連絡をとったりすることです。法律により、別居親には面会交流権が認められるので、相手は正当な理由なく拒否できません。

5-1.面会交流が実現するとすぐに子どもと会える
子の引き渡し請求や監護者指定審判には非常に長い時間がかかりますが、その間子どもとは一切会えないケースも多々あります。
子どもと関われない期間が長くなると、子どもが同居親に遠慮して頑なに別居親を拒否するようになってしまう可能性も懸念されるでしょう。

面会交流が認められるとすぐに子どもと会えるようになるので、断絶される期間が短くなります。結果的に子どもとの関係性を維持しやすいメリットを期待できます。

5-2.監護者指定審判で負けるより面会するメリットが大きい
面会交流を求めるだけであれば監護者を指定しないので、離婚裁判で親権者争いが生じたときに0から判断してもらえます。監護者指定審判を申し立てて負けてしまう懸念があるなら、いったんは面会交流のみ行って子どもとの関係を維持する方法にも一定の価値があるといえます。

5-3.穏便に解決しやすくなる
子の引き渡しや監護者指定審判をすると、相手親との関係が悪化して熾烈な親権トラブルとなって子どもと会わせてもらえなくなるケースも多いですが、面会交流の申し立てであれば相手もさほど頑なにはなりにくいものです。

以上のように面会交流を実現して早急に離婚を求める方法にも一定のメリットがあるので、状況に応じて検討してみてください。

名古屋駅ヒラソル法律事務所では、子どもの問題解決に力を入れて取り組んでいます。子どもを連れて行かれてお困りの方がおられましたら、お気軽にご相談ください。

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