別居中の夫婦間の子の引渡請求
子の監護をめぐる紛争は、お父さんとお母さんによる争いが長引き、解決までに時間を要しますので、できるだけ早期に解決を図る必要があるとされているとされています。
緊急性は、以下のように分類されています。
審判前の保全処分申立事件として受理した家裁は、事件処理の方法として、本案と保全のどちらを重視して審理するのかを検討します。
レベルとして、連れ去りの違法性が顕著なために家庭裁判所の調査官の調査すら不要で審判をすべき事案(レベルA)
この事案だと1か月程度で審判がなされることが多いといわれています。
調査はするものの保全審判を重視した、限定した調査だけをする事案(レベルB)
この事案だと調査官調査を限定してできる限り早く審判し、レベルAと同じか少し遅いくらいで審判をするとみられます。
本案の結果を検討しつつ、じっくり幅広く調査する事案(レベルC)この事案だと本案と同時になされることが多いといわれています。
早期解決も上記AからCのレベルに分けて緊急性の判断をしていると考えられます。
一般的には、(い)子の監護者指定、(ろ)引渡し、(は)審判前の保全処分―を申し立てることになります。
当事務所が関与した事件の類型としては、
1)母が専業主婦として子の監護の中心的役割を担っていたが、父が一方的に子連れ別居をした。父は母による子の監護の問題を主張し引渡しを拒んだが最終的に監護者は母とされた事案
2)父は、母の精神的な病気を理由に子を連れて母と別居し、母子の面会交流も拒んだ。母から監護者指定が申し立てられたが最終的に父が監護者に指定された事案
3)母が子連れ別居した後、こどもは父母間を行き来し、やがて母の下に戻らなくなった。母は、父による監護の不適切を主張して子の引渡しを求めたが、最終的に父が監護者に指定された事案
4)母が専業主婦として子の監護の中心的役割を担っていたが、合意による面会交流をしたところ、こどもが母方への帰宅を拒絶し母方から子の引渡しが求められた事案
審判前の保全処分は本案審判に付随する手続として位置付けられている。そして保全処分と本案の結論が逆になることは絶対に避けるべきであり、本案の審判手続が一応見極められる段階まで、かなりの実質的審理が必要となります。
保全処分の審理についてですが、緊急性の程度に応じて、(い)緊急性が高い場合は本案と切り離して単独で審理をする、あるいは本案自体を急いで出すという方向性、(ろ)緊急性がそれほどでもない場合には審判前の保全処分及び本案を同時並行で審理し調査官調査を入れて時間をかけて同時に判断する、この場合は審判前の保全処分は取り下げるよう求める庁もある(却下する庁もある。)、(は)緊急性がない場合は同時並行で行いその後に判断するが、離婚訴訟が係属した場合は事実上取下勧告をすることもある―といった形となります。
緊急性の見極めを行い、審理の方針を決定することになり、緊急性のある事件では、申立てを行い、審問を中心に審理を行うか、直ちに子の状況調査に入るかを定めているのが通常です。
緊急性がない場合については、監護者としての適格性が重視されます。
家裁において緊急性の高い事案は平均すると2週間、平均すると1カ月半から3か月で審判をしているものの、緊急性の見極めが重要であると考えられる。2週間で審理をする場合には、客観的資料の収集があまりなされていないケースが少なくないと考えられ、調査官の調査についても学校を調査しておしまい、ということもあります。しかしながら、子の意向表明権が重視される今般では、子の監護状況の調査、子の意向や心理状態の調査を主に行うことが当然といわれています。
審理後の調整としては、高葛藤状態の場合ではありませんが、審理の中で任意に子どもを引き渡すよう促し、あるいは相手方の監護が子の福祉に合致する場合は、申立人の取下げを促すこともあります。審判前の保全処分は、親権争いの前哨戦であり監護者に指定されたものが親権者になれない、ということは特段の事情がない限りないと考えられます(もちろん例外はたくさんあります)。
しかしながら、余裕のある庁では、非監護親と子との将来にわたるかかわりにも配慮して、面会交流を活用して調整することが多いと考えられています。
もっとも、大規模庁ほど、こうした折衷案的な和解、つまり月から木までは母が監護し、金土日は父が監護するといった和解は行われず、申立後は裁判所からのレスポンスもなく、裁断的に判断がなされることが多いように思われます。別居中の夫婦では、審判前の保全処分では、「子の利益を最も尊重すること」が判断基準となっているので、拘束の違法性のみを理由に子の引渡しを命ずると、保全処分と本案の結論が逆になり、結果的に子の福祉侵害行為を裁判所が行うことになりかねない。したがって、拘束の違法性のみを理由に子の引渡しを命じることはできないものと考えられています。
また、子の監護をめぐる紛争は、離婚調停が係属していることが多く、離婚と併せて子の監護の問題を解決するため、調停に付されることがあります。この場合は、調整活動が予定されているものの、調査官調査にどの程度応じるのかなど弁護士などの得意な弁護士のアドバイスが必要であると考えられます。
最終的にこどもの問題は親権争いの離婚訴訟で決まるのですが、調停段階で、調査官は、解決方針を裁判官に意見します(インテーク意見)。そして、インテーク意見に沿った資料のみが収集されていくことになります。したがって、紛争の態様について、当事者が何を求めているか弁護士に相談し早期に論点整理をすることが大事です。むしろ、弁護士もインテーク意見を持ちますので、調査官が、夫婦の問題の解決に時間がかかると判断した場合には、子の監護者指定・引渡しの速やかな意見を行うべきとのインテーク意見を裁判官に送付することになります。そうなると、調停よりも、こどもの奪い合い紛争に攻撃防禦が集中することになります。
また、弁護士は一方当事者の代理人として事実の調査を行いますが、当事者双方の言い分の中で、相手によるこどもの監護に問題があるというのであれば、どこがどのような理由で問題であるのか、それがこどもにどのように悪影響を及ぼしているのか、又は及ぼすということが予想されるのかについて、具体的に明らかにするお手伝いをします。こうした関係は法的ポイントや事実調査のポイントを踏まえて主張しないと無意味になってしまう恐れがあります。弁護士が留意していることは、当事者が、相手による子の監護について、何らかの問題点を指摘する時、それが実際の子の審理や子の監護状態にどのような影響を与えたかまで論証する必要があるということです。