子の監護者指定・引渡しの審判の「流れ」はどうなっているの?

 

子の監護者指定・引渡しの審判の「流れ」はどうなっているの?

 

婚姻中の夫婦の中で,主に母親がこどもを連れて、他方の親と別居した場合、非監護親が取るべき法的手段としては、1)子の監護者指定、2)子の引渡しの手続き―が考えられます。例えば自力で取り戻すなどすると、問題が生じる可能性があります。

子の監護者指定・子の引渡しの審判の申立てについては、当事者の紛争の程度が高まっていることが多いと考えられます。そこで、こどもを取り戻す緊急の必要性があるとして、審判前の保全処分(家事法157条1項3号)を一緒に申し立てることが多いといえます。

1)子の監護者指定、2)子の引渡し、3)審判前の保全処分といわれるため、「3点セット」といわれています。

なお、「祖母」など「父母以外の第三者は事実上子を監護してきた者であっても、家庭裁判所に対し、子の監護に関する処分として子の監護をすべき者を定める申し立てをすることができないので注意が必要です。なお、「祖母」の面会交流権も最高裁で否定されました。

今回は監護者を指定するケースや方法について、名古屋の弁護士が解説いたします。

 

1.親権者・監護者とは

まずは「親権者」と「監護者」がそれぞれどのようなものか、簡単に確認しましょう。

1-1.親権者

親権者とは子どもと一緒に住んで養育監護し、子どもの財産を管理し、また子どもに対して懲戒等を行使などして育てる権利を持つ親です。離婚に際しては、現状、「単独親権」であるため、離婚後が「親権」というイメージが強いかと思います。

離婚すると親権はどちらか一方の親にしか認められません。親権者となった場合には戸籍にその旨記載されます。通常親権者と次に説明する監護者は一致しますが、親権と監護権を分ける場合、親権者は子どもと一緒に住んで監護することはなく「財産管理のみ」を行います。

1-2.監護権者

監護者は、子どもと一緒に住んで子どもを養育監護する人です。通常親権者と監護権者は一致しますがこれらを分けると「親権者は財産管理、監護者は子どもの養育監護」を分業して担当します。監護権者については戸籍に記載されません。このため、監護権者は公正証書などで定めることもあり、安定性があるか微妙なところもあるため、親権と監護権の分離は進んでいないのが実情です。

 

離婚時には必ず親権者を決めなければなりませんが、監護権者については取り決めなくても離婚できます。特に監護権者を決めなかった場合、当然に親権者が監護権者となります。

2.提出書類

子連れ別居をされてしまい、子の監護者指定、引渡し、審判前の保全処分をしたい場合の提出書類はどのようなものでしょうか。

主には、1)申立書と2)証拠資料、3)添付資料が必要となります。

  • 申立書

申立書は申立をした場合、裁判所から申立書の写しが相手方に送付されます。

  • 証拠書類

証拠書類があるときは、添付することになります。一般的には、当事者の陳述書、収入資料、家の間取り図、母子手帳、保育園の連絡帳、通知表です。

  • 添付資料

添付資料としては、戸籍謄本と住民票があり3か月以内に発行されたものです。

 

3.子の監護者指定についての「審判期日」

審判期日は、普通の裁判でいうところの「弁論」です。裁判所と当事者が家事審判の手続に関する行為をするために設けられた一定の時間を指します。ただし、裁判長の職権により指定され、その内容もさまざまであるため、1)当事者に期日指定申立権は与えられていません。(審問を除く。)また、2)どのような内容の手続になるのか、「弁論」のような手続なのか、「証拠調べ」のような手続になるのかも裁判長の裁量により、不透明な手続です。

子の監護者指定・引渡し事件に保全がついている場合は、速やかに期日指定がついているのが通常といえます。

  • 期日の内容

シュシュ:先ほど、おじさんは、期日の内容は不透明といわれていましたよね。

弁護士:うん。通常、第一回期日では、当事者双方から争点整理的に事情を聴取し、今後の手続の進行について打ち合わせをすることになるといわれているよ。

でも、相手方の弁護士さんや当事者もいるわけだし、争点整理といっても充実したものにはなりにくいですね。

また、結論ありきで引渡しが決まっている場合は、当事者の陳述なんて聞かれないケースも昔はありましたね。家事法68条1項では、当事者の陳述を聴かなければいけないという規定があるよ。これを審問の期日と呼んでいます。

シュシュ:当事者には、期日指定申立権はないけれども、審問の開催の申出権はあるんだね。審問ってどういうものなの?

弁護士:わかりやすく言うと、裁判官がする取調べみたいなものです。警察の取調べと違うのは、犯罪と関係ないことと、弁護士が立ち会えることでしょうか。裁判官は、審問の開催を申し出た方のみに、口頭でその意向、意見、認識などを直接聞くことがあります。最近はあまり一般的ではありませんが、争点整理のための審問、事実認定のための審問があるという見解もあるよ。でも実際は、事実認定のための審問がほとんどです。

 

3-1.家庭裁判所調査官の調査が行われるパターン

審判期日においては、1)立ち合い調査というのと、2)調査官調査というのと2つあります。

審判期日に家裁調査官が立ち会っても裁判官がいるため、ほとんど意見をいうことはありません。どちらかというと、今後の調査官調査の内容を決めるために、裁判官に付き添うというイメージが強いと思います。

家庭裁判所は、事件の内容を直接把握する機会があります。カンファレンスのように、裁判官に対して意見を述べる場合もあれば、調査官インテークといって調査官の見立て通りに裁判を進行させるということもあります。

いずれにしても、裁判所による事件の事案の理解を助けるものといえると思います。

特に、子の監護者指定、引渡しの審判の第1回期日においては、1)家庭裁判所調査官がどこまで調査をするのか受命範囲を決めたり、2)調査の方法や内容について裁判官と決めたりしたりすることがほとんどではないかと思います。

ところで、家庭裁判所は「事実の調査」をすることができます(家事法56条1項)。

テレビドラマの調査員や警察官のような役回りと考えると良いと思います。調査官は、「こどもの専門家」ないし「臨床心理」の専門家といわれることもありますが、実際は、1)事件関係人の性格、2)経歴、3)生活状況、4)財産状況、5)家庭環境について「事実」を調べるということもやっているのです。したがって、家裁調査官の医学や心理学の知見は各庁によってバラバラでムラがあるのが実態です。特に田舎の場合、不良少年の担当調査官と兼任ということもあり、都心とはムラがあることは否定できません。

3-2.こどもの意思の把握と15歳以上の子の陳述聴取

  • 15歳を超えるパターン

家事法では、15歳以上は大人扱いしています。したがって、15歳を超えるパターンについては、本人の陳述を聴いて、基本的にはその通りの希望となります。(家事法152条2項)。

  • 10歳から15歳くらいまでのパターン

15歳未満のこどもの意思把握については、家庭裁判所が、こどもが意思表明により、影響を受ける家事審判の手続においては、家裁調査官による子の陳述の聴取をすることになっています。(家事法65条)

おおむね意向がそれなりに尊重されるのは10歳程度からで、10歳未満に関しては、現在監護されている親の下にいる場合では支障が生じるとか、定着ができていないのかという観点から決められていると思います。なお、こどもの手続代理人という制度を日弁連は推し進めていますが、日本では調査官調査が中心となることが多く、あまり利用されていないのが実態といえそうです。今後、「こどもの代理人制度」とともに活用が期待されます。

 

  • こどもの年齢も影響します。

上記に加えて年齢的な要素も大きくはたらきます。子どもの年齢が0~3歳程度であれば「母親が優先」されます。子どもの年齢が10歳程度以上になると「子どもの意思」も尊重されるようになります。4歳から9歳くらいまでの間は、母親に引き取られるとすると、こどもの真意に反するか、その志向に反するかという点から、判断されているように見受けられます。

 

 

4.審理の終結・審判日

裁判所は、相当の期間を置いて審理終結日を定めるのが普通です。ただし、裁判官は、「審判期日」を開いた場合は、直ちに審理を終結する旨を宣言することができます。(家事法71条)これらは、割といきなり決められる感じです。

平均審理期間は、理由がないものが8か月、理由がありそうなもの6か月、緊急のもの3か月といった相場感です。

審判日は、判決言い渡し日とは異なり、審判日に書類を受け取るか、送達を受けることが多いといえます。

審判では、父母のいずれが子の福祉の観点から、子の監護者として適格であるかが検討されるものであり、申立人ではなく、相手方が監護者として適格であるとの判断になった場合は、かえって、「相手方」が監護者に指定される場合もあるので注意しましょう。なお、保全も出された場合は、即時抗告をしなくても子の引渡しの強制執行をすることができます。

 

5.面会交流調停などの検討も必要

いわゆる子連れ別居の場合、母子優先の原則と監護の安定性に加えて、子の心情に反しないことという3つの軸によると、これまでの監護実績や現在の監護態勢からして、客観的に申立人が単独でこどもの引渡しを得ることが難しい場合もあります。

この場合は、子の監護者指定・引渡しの手続よりも、面会交流の手続を選択するということも考えられます。

戦わなければならないときは戦うべきですが、こどもとの関係の円滑さも反対利益として考慮しなければならない場合もあるかもしれません。

まずは、弁護士の相談においても、子の監護者・引渡しが候補に挙がりますが、面会交流の手続を検討できないか、考慮する必要もあるでしょう。

また、子の監護者指定・子の引渡しの事件の審理においては、離婚を有利に進めたいという目的で申立てに至ったという例もあります。

しかし、最近の名古屋家裁は、監護関係と面会交流関係は区別されている印象を受けます。そして、面会交流において有利な条件を引き出すために、子の監護者指定、引渡しを求める申立ての数は減ってきているのではないかと考えます。

また、葛藤を高めないために、子の監護者指定、引渡しの「調停」で総合的な解決を図ろうとするケースもありました。

審判には「家庭裁判所調査官による調査結果」が非常に大きく影響します。当事者が親権者変更に同意していても、調査官が「変更は不相当」と意見を出せば監護者指定が認められない可能性が高まります。監護者指定を認めてほしい場合、調査官調査への対応が非常に重要です。

 

また監護者指定では、「相手による養育環境が予想していたものとは異なり著しく悪化している」などの事情が必要な場合が事実上あります。

「相手が虐待している、ネグレクトしている」と主張するならその証拠が必要です。もちろん調査官が現状を調査しますが、相手は通常不利益なことを調査官に知られないようにするものです。

監護者指定を認めてもらいたいなら、事前に相手が言い逃れできないよう「監護者指定を要する事情に関する資料」を入手することが望ましいと言えるでしょう。

 

子連れ別居後に子の監護者指定・引渡しを認めてもらうのは、民法上はもちろん、手続も複雑であり、弁護士によるサポートが必須です。当事務所では離婚と子どもの問題に非常に力を入れていますので、名古屋で離婚や親権問題にお悩みの方はぜひご相談下さい。

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