離婚調停って何?裁判所で行う話合いについて
離婚調停って何?裁判所で行う話合いについて
離婚をする場合、大きく分けると、①協議離婚、②調停離婚、③裁判離婚があります。多くは、協議離婚で終わっていますが、東京では離婚の際、弁護士を就けるのがスタンダード化しているといえます。主に、①離婚自体に争いがある場合、②親権に争いがある場合、③養育費に争いがある場合、④財産分与に争いがある場合、⑤年金分割の裁判が必要な場合、⑥紛争解決金額の調整が必要な場合、⑦その他家財道具や行政上の給付についての話合いなどが協議で息詰まると、離婚調停、婚姻費用分担調停、面会交流調停の3つの調停が起こされることがスタンダードといえます。
特に、婚姻費用分担調停と面会交流調停については、調停がまとまらないと、調停の結果も踏まえて家事審判といって裁判官による簡易迅速な裁判に移行しますので、調停・審判による解決が図れる可能性があるといえます。また、調停に手続き代理人として弁護士が就くことにより、争点整理や期日間における準備が整い成立のスピードが上がる可能性があります。
今回は、名古屋の弁護士が、「大阪家庭裁判所」での離婚調停の状況に関する論文を踏まえて、名古屋市、岡崎市、一宮市、豊橋市、岐阜市などでの実情もご紹介していきたいと思います。離婚調停などにお困りの方はぜひ参考にしてみてください。
1.利用しやすい家事調停
離婚の場合、いきなり「離婚裁判」を起こすことはできません。そのため、「離婚調停」で話し合うことが必要です。これを調停前置主義といいます。調停制度は100年の歴史を持ち、家事調停は74年以上の歴史をもっています。
そして、平成25年に家事事件手続法が施行されました。調停を含む家事事件の手続きなどの条文が整備され、利用者にとって手続きが分かりやすく、予測可能性があるものとなりました。また、様々な手続保障も整備されました。
ところが、みなさんご存じのとおり令和2年春に新型コロナウイルス感染症が拡大し、狭い調停室で、近い距離から当事者と向き合い、事情を聴き、紛争の渦中にある心情を受け止めるなどの紛争の自主的解決という調停が一時的に困難になりました。
マスクやパテーションなどの物理的な感染症対策もありましたが、コロナ禍によって、①時間をかけるべきところは時間をかけるが、②合理化できるところは合理化するというメリハリある調停運営が目指されてきたとのことです。
なお、ご紹介しているのは、大阪家庭裁判所による取り組みであり、必ずしも名古屋家庭裁判所の運用と一致しない可能性があることにはご留意ください。
調停の本質的な良さと弁護士代理人の必要性
- 紛争性が中程度以上であり、適正妥当な自主的解決であること
調停は、よくも悪くも柔軟といえます。調停委員を中心とする事情の聴取や調整を通じて、当事者が心情の安定を経て、合意により、納得性の高い離婚調停を成立させることができるというものです。また、裁判所で行う調停である以上、平場で行う法外な要求などをなされても、裁判官を含む調停委員会からの適正妥当な合意か否かは判断されます。
しかしながら、
・調停はよくも悪くも柔軟であるため、離婚事件の知識や経験のある弁護士が就いていないと、広範な「適正妥当な合意」とはいえ、不利益な合意をさせられてしまう可能性もあります。
・また、調停のキーワードは、「紛争の自主的解決」といわれていますので、当事者の方々が、裁判所に「斡旋機関」のような役割を期待しても、「申立人はこういっています」「相手方はこういっています」と言い分を投げられてしまいます。それら言い分に対して、場当たり的に反論するのではなく、離婚調停の知識及び経験がある弁護士と一緒に解決していくことにより、より満足の行く解決ができるかもしれません。
筆者は、司法書士会の令和4年の仲裁人研修会に参加させていただきましたが、仲裁人として公正にこういう意見を述べる、ということではなく、当事者間の言い分を通して、歩み寄りを促していくというのがその基本的技法のように理解されました。
しかし、法的な課題は、そこに法律があり、法律の解釈があり、裁判例があります。つまり、当事者間の言い分も法的なものに高めることにより、相手方に対する説得力を上げることができるといえるでしょう。
- 柔軟で幅の広い紛争解決であること
離婚で揉めると、「離婚裁判」というイメージがあります。そして、強制離婚原因がある場合、お話をうかがっていますと、当事者の「離婚裁判」に対する期待や信頼は高いものがあるように思います。
当事者の信頼はもちろんのこと、弁護士も調停よりも訴訟を信頼している傾向は、昔はあったのではないかと思います。
しかしながら、弁護士を就けて調停に臨むべきは、「交渉の幅」が広いからというところにあります。これを裁判所側では、「柔軟で幅の広い紛争解決」と呼んでいます。
例えば、「離婚裁判」では、住宅ローン、離婚時の自宅の明渡し(*大阪と名古屋では争いがある。名古屋本庁では明渡しを求められる可能性があります)、荷物の引き取り等の話合いも調停では話し合うことができます。柔軟で幅の広い解決ができるといえます。
- チームで連携すること
調停委員は一般人であり、個人的な見解では都市部では、元公務員、現役士業が多いのではないかという印象を受けますが、正式な統計は発表されていません。また、都市部でない地域は、民生委員、行政関係の役職に就いている方が、就いている印象があると思います。
とある外国の裁判官の本では、①時間を割いて調整している調停委員が良い調停委員、②弁護士調停委員は解決能力が高い―というような趣旨がありました。
もっとも、最近の離婚調停の傾向を見ていると、各当事者とも財産分与など、今後の生活に影響を与える事項については、「即断即決」を避ける方向性にありますので、調停で何度も入れ替わって、話が前に進むということは、総じて減少する傾向にあるのかもしれません。
また、チームでの連携がなされている調停もあるとは思いますが、地方によっては、裁判官が調停委員に任せきりにしてしまうなどの場合もありますし、調停成立率が高い調停委員は、実際は当事者の要望を丸め込んで成立させている面も否定できないと評価されますので、「チームで連携すること」が美名だとは思いますが、機能不全がある場合、弁護士代理人に頼ることができますし、弁護士代理人が限られた調停時間の中で、調停委員と共同して争点を整理するということが行われると思います。
- 簡易・迅速な手続きであること
調停は、紛争を簡易迅速できるということもありますが、ありていにいえば、裁判官が関与した手続きで和解を目指すことができるという実質がとても良いと思います。
平場では、なかなか話ができない相手に裁判所を通すと話し合いができるということがあります。そして、もちろん、良い方向ばかりに傾くわけではないかもしれませんが、調停は、「家事手続き」である以上、終わりがあるということがポイントといえます。
やはり、司会者がいると、司会進行もスムーズに進みますし、期限も守られていくのではないかと思います。
2.メリハリのある調停運営と調停枠組みの合理化(3枠)
昔は、一つの調停室に、午前・午後の家事調停を1件ずつ指定し、調停期日は2~3時間ということもありました。午前中は、ランチ休憩がありますから、午前10時スタートの場合、最大でも2時間、午後は午後1時から閉庁の午後5時までエンドレスに調停が続くことがありました。
時に、調停の一方当事者は、遠方から1日かけて訪れてきており、時間的負担をかけてきました。
これにコロナ禍もあり、都市部では、以下のような運用になってきています。
- 調停の時間を短縮し、当事者の時間的負担を軽減する
- 激増した未済事件の期日指定を増やす
- 初回期日まで何カ月もかかるという期日指定を短縮する
- 令和2年11月から、午前1枠、午後2枠とする3枠制度の導入が始まりました。
- このため、調停の目安は80分となりました。時間配分は冒頭説明5分程度、申立人及び相手方への一巡目の聴取が各20分、二巡目を各10分、加えて、段階に応じて、期日のまとめを5分設定したりしています。この間に、調停委員会での評議が入りますので、だいたい、午前10時~12時、午後1時~3時、午後3時~5時という時間の中で行われますが、多くは40分程度の待ち時間も織り込まれていることになります。中間評議は、裁判官が同時に5件から20件程度、調停を同時に開いていることがあるため、調停委員が順番待ちをしていることもあるため、このような待ち時間となります。
- このように、裁判所としては、「密度の高い」調停期日の実現を目指しており、実際、調停委員を通じて自分の言い分を伝えられるのは、30分程度というように指摘する判事の論文もあります。このことからも、「密度の高い」調停を実現するためには、従前のように場当たり的に調停期日に準備もなく出頭して、当事者が言いたいことを言うというだけでは、裁判所側の手持ち時間が短くなってしまっているので、対応しきれない可能性があるのではないか、と思います。
こうした観点からも弁護士へのご依頼を考えられると良いでしょう。
2-1.密度の高い調停期日を実現するための方策
調停期日の運用の仕方は、
- 調停の目安は80分となりました。時間配分は冒頭説明5分程度、申立人及び相手方への一巡目の聴取が各20分、二巡目を各10分、加えて、段階に応じて、期日のまとめを5分設定が目安になっています。
- 大阪家裁は大規模庁であり、今後は、大阪家裁の裁判官が異動し、大阪家裁でのプラクティスが全国に広がっていく可能性もあると思います。名古屋家裁での実情も、3枠という場合は、昔は、当事者の事情を聴くのは30分というのが普通でしたが、今では短いと15分から20分程度ということもあり、大阪家裁の実情に近くなってきているのではないかというのが筆者の意見です。
2-2.デメリットを防ぐために:弁護士の利用
今後は、調停期日の時間が短縮されていく可能性があると、調停委員の立場からみると、時間に追われて聴取や調整がおろそかになり、納得性の高い適時適切な紛争解決が遠のくことになる可能性もあるでしょう。
実際、私も、士業の集まりでの仲裁人研修会で仲裁人をやらしていただきましたが、もちろん1日でという前提はありましたが、双方20分で聴き取り、二回目が10分の聴き取りで一定の成果を上げるというのは大変なことではないか、と思います。
大阪では、80分を超える調停を行う場合は、調停委員会で延長の評議をすることになっていることであり、その徹底ぶりがうかがえるところではないかと存じます。
- 当事者には、調停進行のイメージ共有が求められる
調整すべき課題の多い離婚調停、面会交流調停、婚姻費用分担調停については、調停委員側で、手続きの進行に応じて聴取・調整すべき事項、そして調整は行わない事項、次回期日までに準備すべき事項等を整理したイメージを、評議を通じて持っていることが多いと思われます。
こうしたイメージは、当事者も持っておかなければ、調停は自主的紛争解決の場ですし、話合いたい事項が調整課題から漏れている場合など調停イメージの共有は、民事訴訟法など手続法に精通している弁護士を代理人にしておくことが望ましいと思います。
- メリハリのある調停委員からの聴取には弁護士が必要であること
昔は、カウンセリングの手法を用いた「傾聴」ということもありましたが、カウンセリングの平均的な時間は60分ですし、弁護士の有料法律相談でも時間は30分程度ということが多いです。
調停委員の側からすれば、これら作業を最初の20分で行うということは難しく、周辺的な事情は弁護士に書類として事情説明を行っておいてもらい、当日は核心的部分を中心にお話をされるというところが良いと思います。
なお、調停委員は、常勤の公務員ではありませんので、事情説明も、ボリュームが多くても効果的といえない場合もあります。大事なのは、調停委員会に実情を理解してもらうということとなります。
- 課題抽出までいかないこともある
調停委員側としては、聴取をした後、課題を浮き彫りにして、当事者双方に働きかけていきます。もっとも、20分程度の聴取では、弁護士として年間100件以上の法律相談をしたり、1回20分の市役所相談をこなしてきたりした経験からいえば、なかなか課題抽出の思考プロセスまでに追いつかないこともあります。また、事案の性質、内容、手続きの進行段階、期日の目的、当事者の個性、意向、代理人の有無を通して、バランスよく帰納的に聴取をしていく必要があるのです。
しかし、このような技術は、研修や研修用DVDを見るだけでは身に就くものではありません。当事者は、弁護士を就けることにより、調停委員側に法的争点の整理を求めることができるようになります。
なお、調停委員は、弁護士調停委員は解決能力が高いと、外国の裁判官の本でも評価されていましたが、論旨は別のところにありました。弁護士調停委員は、①紛争の自主的解決ということを理解していないこと、②上から目線で自分が思う解決案を押し付けがち、③当事者の感情的な機微に関心がなく納得感が低い―という問題点も指摘されています。
実際、ベテラン弁護士でも、円満調停の調停委員を担当している場合、なかなか、当事者間の心情の調整に苦労している様子がうかがえます。彼らは、ベテラン弁護士というところが買われているのであり、離婚問題に詳しいからあえて選任されているとは限らないところには注意が必要です。
2-3.評議の充実?
調停をしていると、調停委員はしばしば「評議を入れます」といって、評議待ちの列に並びに行きます。実際は、調停委員会を主宰しているのは、裁判官であり、裁判官の意向に反する調整の方向性は、調停委員は示せないのではないかと思われると感じることもあります。
そのため、調停委員は、自分たちの浮き彫りにした課題や調整の方向性、双方の言い分から息詰まっている場合など、頻繁に評議に行くといって良いと思います。最近では、調停の場合、評議のための待ち時間の方が長いのではないかと考えられる印象もあります。
この場合、代理人弁護士がいれば、調停委員が裁判官と評議する内容に、自分の言い分の合理性を盛り込むこともできますし、特に期日中に生まれた課題等に対して、当事者として適切に対処することができるようになります。
今後、3枠制のため、午後1枠目と午後2枠目の事前評議・事後評議と中間評議の時間が重なるため、調停の話合いの時間自体が少なくなっているため、効果的な調停弁護が求められているといえます。
3.今後は、当事者の準備が必要不可欠に
昔は、離婚調停などの場合、当事者は特に準備もなく、裁判所にいらしたり、資料は持参したものの事前提出はなかったり、整理もできていなかったりといったことがあり、①書類提出日、②思いついたことを言う日―に成り下がっていたという面は、現在のメリハリある調停運営からは否定できない可能性もあるでしょう。
また、裁判官の物理的いそがしさから、書面評議が増えています。書面評議とは、裁判官が法的観点から課題を検討し、手続きの進行について意見をまとめたものですが、裁判所から各当事者に事前準備として配られることは基本的にないと思われますので、裁判官の法的観点からの課題について、当事者もなるべく早く検証する必要性があるといえます。
裁判所も、調停の利用者に様々な準備をしていますが、少し空回りしていて、調停委員側から、どれくらい役に立つのか、いたずらに案内を増やし過ぎている可能性も否定できないと思います。時々、相手方当事者から、書類の多さに困惑しているといったお話をうかがうこともあります。
4.弁護士代理人への期待
まず、調停は、「紛争の自主的解決」の場ということです。つまり、当事者がそれぞれリードしながら調停の合意に至るというのが望ましいといえるのではないかと考えられます。
弁護士としては、事前に①調停制度に対する説明、②密度の高い調停への準備、③予想される争点を整理し、争いのない事実を構築していくために証拠による裏付けを図っていくというプラクティスをしていくことになります。
最近、調停では、打ち切りになる回数も早くなったという見解も聴いたことがあり、充実した弁護士による準備は欠かせないといえます。
また、婚姻費用分担調停や面会交流調停は、審判に移行する場合、「裁判」色が強くなりますので、民事訴訟に精通している弁護士がいると心強いといえます。
また、婚姻費用や財産分与などでは、調停の現場では打ち合わせをすることが難しいので、弁護士事務所で事前に打ち合わせをして準備に臨むことが望ましいといえるでしょう。
5.ウェブ会議導入の状況
家事事件について、ウェブ会議については、東京、大阪、名古屋、福岡で順次導入が始まりました。
民事裁判のteamsとは、少し立て付けが違うようですが、シスコというシステム以外に弁護士代理人がいるなどの事情も総合的に考慮して、teamsなどでの導入も進みました。
家事事件では、DV事案のような高葛藤事案の場合、物理的危険を避けるため、ウェブ会議の導入が進んできました。
もっとも、画面越しの場合、心理的な機微に触れることは、難しいのではないかと思います。
こうしたウェブ会議も、弁護士事務所と結ぶことにより、適切な運営を図っていくことができると考えられます。
なお、今後、令和4年5月18日の民事訴訟法改正法で、ウェブ会議等を用いた調停・離婚等の成立が可能となる見込みとなりました。(2023年10月時点では未施行、公布後3年以内に施行の予定です。)なお、それまでは、調停で離婚等の成立ができないことから、合意に沿った内容についての家事事件手続法284条の調停に代わる審判を活用することが考えられます。
名古屋駅ヒラソル法律事務所では、元来、調停における調停弁論を強みに発展してきた法律事務所です。離婚調停でお困りの際は、お気軽にご相談ください。
以上