障害児を持つ夫婦が離婚する際に考えるべきこと

障害児を持つ夫婦が離婚する際に考えるべきこと

障害を持つ子どもを養育する場合、さまざまな困難が伴うでしょう。子どもの介護や家事、仕事にと、おいそがしい日々を送り、現実から逃げ出すように離婚を考える夫婦も少なくありません。今回は障害児を持つ夫婦の離婚について解説します。

 

障害児を持つ夫婦は離婚率が高い

障害児を持つ夫婦が抱える問題点

四六時中子どもの世話をしなければならない

周囲に相談できる相手が少ない

障害児を育てる上での社会の理解が少ない

障害児の子育てを理由に離婚できる?

夫婦の合意があれば離婚できる

合意がない場合は離婚事由に当てはまるかが争点となる

法定離婚事由とは

離婚の前に確認しておくべきこと

親権について

財産分与について

離婚後の養育費について

慰謝料について

やむを得ず離婚を選択する場合は離婚弁護士に相談しよう

 

障害児を持つ夫婦の離婚率は少なくない

我が国では、障害児を持つ夫婦が離婚を選択する確率は、そうでない夫婦と比べて高いといわれています。離婚事件の臨床の立場では、子どもの発達障害、自閉症スペクトラム、その他精神的な問題などを患っている児童を有する親の離婚率は特に高く、約8割が離婚をするともいわれています。

なお、自閉症スペクトラムは、幼児期に明らかになる発達障害の一種です。社会性、コミュニケーション、想像力に障害を示すというものです。脳の中枢神経の機能障害を原因とするものと考えられています。特性や状態は様々で、目に見える状態には幅があるため、最近は連続体を意味する「スペクトラム」と呼ばれています。

夫婦における子育ての負担は、夫よりも母親の方が多いのではないでしょうか。

毎日の子どもの世話や家事など、母親は常にストレスに晒されています。

もちろん、夫もストレスを感じているでしょう。障害を持つ子どもの医療費や、今後家族を養うためにかかる費用を稼ぐ必要があります。

障害児を育てることは想像以上の苦労を伴います。このような現実から目を背けるために、離婚を選択する夫婦が後を絶ちません。

障害児を持つ夫婦が抱える問題点

障害児を育てることは想像以上の苦労を伴います。毎日休みなく子どもの介護を続けるため、肉体や精神が消耗し、気持ちの余裕がなくなります。ここからは、障害児を持つ夫婦が直面する問題点を紹介します。

四六時中子どもの世話をしなければならない

依然として日本は、女性よりも男性が働く時間が長く、男性よりも女性が育児をする時間が長いといえます。

障害児の母親の負担はかなりのものです。親は子どもから離れられず、気が休まる時間がありません。四六時中子どもの世話をする中で、徐々に心身の疲れやストレスが増えていきます。

周囲に相談できる相手が少ない

障害児を持つ親の多くは、周囲に相談できる相手がいません。

同じ障害を持つ子どもが少なく、相談する相手が見つかりにくい人が多くいます。例え相談相手がいても、少数であり、満足がいくまで相談できることはないでしょう。

また、障害を持つ子どもは周りの子どもと溶け込みにくく、親同士も親しくなりづらいでしょう。障害を持つ子どもの行動を見て、親が子どもを遠ざけてしまうことも珍しくありません。障害児の親は孤立しやすいといえます。

相談先としては、例えば、児童家庭支援センターというところがあります。児童福祉施設のひとつであり、児童に関する家庭その他からの相談のうち、専門的な知識及び技術を前提としているものに応じること、児童相談所からの委託を受けた児童及びその家庭への指導、その他の援助を総合的に行う機関です(児童福祉法44条の2)。具体的には、児童虐待、不登校の相談・援助、発達障害児のケアなどの相談・援助も行っています。多くは、児童養護施設の施設に設置されています。

障害児を育てる上での社会の理解が少ない

障害を持つ子どもはしばしば特徴的な行動を起こします。

その行動は時として、親のしつけと結び付けられます。「障害児の行動は親のせい」と捉えられて、第三者から批判や冷たい目を浴びる恐れがあります。

障害児の子育てを理由に離婚できる?

夫婦が離婚に至る理由はさまざまです。果たして、障害児の子育てや養育を理由として離婚はできるのでしょうか。ここからは障害児の子育てと離婚の関係性について解説します。

夫婦の合意があれば離婚できる

お互いの同意があれば、夫婦はいつでも離婚できます。しかしながら、現実的には、発達障害など病気に対する双方父母の認識の齟齬が埋まらない、他方が監護に協力的ではないといった事情が多いのではないか、と推察されます。

たとえ障害児の子育てや養育が原因であっても、夫婦がしっかりと話し合ってお互いが納得をすれば、問題なく離婚が可能です。これを「協議離婚」といいます。もっとも、障碍児がいる場合は、子の福祉に慎重に配慮した離婚条件にすることが求められているといえるででしょう。

合意がない場合は離婚事由に当てはまるかが争点となる

夫婦の片方、または両方が離婚や離婚理由に納得がいかない場合もあるでしょう。

典型的な場合は、一方はこどもの障害は大したことがないと考えており、他方は、治療ないしキュアをしていく必要があると考えているような場合です。これは広くいえば教育的価値観の不一致ともいえるでしょう。

夫婦間の話し合いで合意できない(離婚について争いがあり協議離婚ができない)ときは、裁判所の仲介が入る「調停離婚」に進みます。

「調停離婚」でも合意できなければ、家庭裁判所に訴えを起こして裁判官へ判決をあおぐ「裁判離婚」を行います。「裁判離婚」では、離婚を求める理由が法律により定められている「法定離婚事由」に当てはまるかがどうかが争点となります。

もっとも、離婚訴訟は、「子の福祉」の観点から裁判が行われるケースは、少なくとも現状はおおくないことから、話合いで「子の福祉」に適う内容で合意をした方が良いと思います。

法定離婚事由とは

夫婦間で話し合って決める「協議離婚」や裁判所が仲介する「調停離婚」で合意に至らない場合、「裁判離婚」で裁判官の判断を求めます。

その際に最も重要なものが「法定離婚事由」と呼ばれる離婚理由です。法定離婚事由は次の5つが定められています。

 

  • 不貞行為
  • 悪意の遺棄
  • 配偶者の3年以上の生死不明
  • 回復の見込めない配偶者の精神病
  • その他婚姻を継続しがたい重大な事由

 

裁判官に離婚を認めてもらうには、5つの法定離婚事由のどれかを満たす必要があります。法定離婚事由に当てはまらない訴えは退けられ、離婚はできません。

もっとも、5号事由は「重大な侮辱+長期の別居」と法律要件が読み替えられています。

通常であれば、障害児の育児を理由とした離婚は法定離婚事由に当てはまらないので、別居期間の積み重ねが必要になるでしょう。

ただし、次のような「婚姻を継続しがたい重大な事由があること」に該当するときは離婚が成立します。

 

  • 長期の別居
  • 子どもの障害を発端としたパートナーによる不貞行為(不倫)
  • 悪意の遺棄(家にお金を入れない・家事や育児をしないなど)
  • さまざまなハラスメント
  • 家庭内暴力など
  • 児童虐待

 

法定離婚事由は専門的な知識が必要です。裁判離婚での離婚を目指すときは、早めに弁護士へ相談をしましょう。特に、他方当事者に障碍児の監護を任せきりにした場合、こどもの年齢に照らして信義誠実ではないと判断される恐れもないとまではいえないでしょう。

仮に、母親と障碍児を遺して別居した父も、婚姻費用を支払って3年経過すれば離婚請求できるとは限らず、信義に照らして誠実である必要があります。

離婚の前に確認しておくべきこと

お互いが離婚に合意しただけでは離婚は完了しません。離婚の前に、確認しておかなければならない事項があります。

親権について

子どもの親権は、子どもの将来を左右する非常に大きな問題です。親権はさまざまな条件を考慮したうえで決まります。

 

考慮される条件は次の通りです。

 

  • 親の監護能力やその意欲、監護体制や監護の実績
  • 子どもとの間に存在する、情緒的な結びつき
  • 親の経済力
  • 家庭内暴力やさまざまな虐待の有無
  • 子どもの年齢や性別、心身の発育状況
  • 従来の教育環境に対する適応状況
  • 生活環境変化への適応性
  • 障害の特性に配慮できる環境の準備

 

一般的に、子どもは父親よりも母親と過ごす時間の方が多いため、子どもが幼いケースでは母親が親権者となる可能性が高いといえます。

 

なお、面会交流については、父が、母に対して、未成年者の親権者を母と定めて協議離婚をしましたが、その後、母の内縁の夫が未成年者に虐待を加えたため、未成年者は、情緒障碍児短期治療施設への入所措置、その他の未成年者は児童養護施設入所措置となりました。東京家庭裁判所平成29年6月29日家月65巻3号52頁は、未成年者らが父との面会を望んでおり、未成年者の福祉を害する恐れのある特段の事情はないとして面会交流を認めました。この場合、「施設の未成年者は、施設と協議して定めるべきであり、母がこの協議の上で実施される面会交流を妨げることはできない」とされました。施設入所中のこどもとの面会交流について、参考になると思います。

財産分与について

財産分与とは、結婚してから離婚に至るまでの間、夫婦が築いた財産をその貢献度に応じて分配する制度です。

 

財産分与では、離婚後の状況は加味されません。つまり、障害児の介護を理由とした増額はないといえます。

 

ただし、財産分与の割合は、夫婦間の話し合いにより変更ができます。そのため、子どもを養育する側の分与割合を増やしたい際は、話し合いまたは裁判で決めましょう。

離婚後の養育費について

養育費の算定に「養育費算定表」が用いられます。「養育費算定表」は家庭裁判所が公表する表で、夫婦それぞれの収入を基準にして養育費を決めます。

 

算定時は子どもの障害への考慮はなく、障害児の養育を理由に養育費が増額されることはありません。

 

もちろん、養育費の増額の請求は可能です。ただし、養育費の増額を請求するとき「増額を必要とする明確な根拠」が求められます。専門的な内容になるため詳しくは弁護士に相談しましょう。

 

ケース研究では、重度の障害児につき、離婚後子が中学校を卒業するまでは婚姻費用と同額を支払い、中学校卒業後まで満20際までは算定表より4割増の金額を調停委員会が提示することがあり得るとの教室設例が紹介されています(326号123ページ)。これは架空事例とケース研究には書かれていますが、参考にしてみても良いでしょう。

もっとも、離婚後であれば、一人親に対する児童扶養手当、児童育成手当が自治体から支給されるほか、障害児に対する手当として、申請資格の所得制限要件を満たせば、障害児福祉手当、特別児童扶養手当、障害手当、重度心身障碍者手当を受けられる可能性があります。こうした諸点も、調停委員会では考慮される可能性はあるでしょう。

離婚慰謝料について

離婚で支払われる慰謝料は、離婚の原因となる側の配偶者が、もう一方の配偶者に対して支払う賠償金です。主に、別居に至る原因が主として又は専ら夫にある場合、妻は夫に離婚慰謝料を請求できるというものです。

子どもの障害は夫婦どちらかの責任とはいえず、子どもの障害を理由とした慰謝料の請求はできないのは当然のことです。

いずれにしても、「障害」があるにしても、父母はその子の「あるがまま」を受け入れるべきであり、「障害」について父母いずれに責任があるなどという論争は社会的相当性がなく、こどもの人格を否定しこどもを傷付けるもので是認されません。

もっとも、子どもの障害を原因としたパートナーの不倫や家庭内暴力、悪意の遺棄など、さまざまなハラスメントなどが存在した場合、それらを理由に慰謝料は請求できる可能性はあるでしょう。

慰謝料の請求については専門的な法解釈が必要です。裁判のために証拠集めをするとき、自分の行動が法律に触れる恐れがあり繊細な行動が求められます。

専門的な知識を持たない個人が、法律に則って行動することは非常に難しいといえます。離婚を考える場合、早めに弁護士に相談しましょう。

後悔のない離婚を選択する場合は離婚弁護士に相談しよう

今回の記事は、障害児を持つ夫婦の離婚について解説しました。離婚を選択する場合は専門的な知識が必要です。離婚を検討した段階で一度弁護士へ相談しましょう。適切なアドバイスが受けられるほか、自分にとって不利になる行動を回避できます。

悩むよりもまずはお気軽に無料相談をしてください。名古屋駅ヒラソル法律事務所では、離婚問題の経験が豊富な「離婚弁護士」が、親身で迅速な対応を行っています。

(2024年1月31日配信)

 

 

 

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