夫がマザコンだったら離婚できる?離婚できる条件や慰謝料についても解説
夫がマザコンだったら離婚できる?離婚できる条件や慰謝料についても解説
母親を大切にする優しい人だと思っていた夫が、結婚後にマザコンだったと気づき、トラブルになる事例は少なくありません。あるいは、妻がファザコンというケースもあります。
さらに、夫は自分がマザコンであることを自覚していないことが多く、妻の悩みはとても深刻です。とはいえ、実際は「嫁姑問題」の可能性もあります。「マザコン」というと過激ですが、「嫁姑問題と離婚問題」と言い換えると、身近な問題になるのではないでしょうか。
今回は、マザコン夫との離婚を目指すケースについて詳しく解説します。
マザコン(又はファザコン)を理由とした離婚はできる?
結論からいうと、マザコンを理由とした離婚は難しいといえます。マザコンというと、過激な言い回しに聴こえますが、裁判所では「嫁姑問題での離婚」と整理されるものです。経験的に、婚姻当初は、「配偶者の両親との不和」が離婚理由によく挙げられている印象がある一方で、夫婦の絆が深まっていくにつれて、「配偶者の両親との不和」のみで離婚というのは少なくなる傾向にあると感じられます。
よく弁護士事務所での法律相談で、「嫁姑問題など配偶者の親族との関係悪化は、配偶者本人に離婚原因があるとはいえないから、離婚原因にならない」と指摘されることがあります。
しかし、この場合、夫が、自己の母親と妻との不和を認識しながら、その関係改善に勤めない点に夫としての帰責性が認められ、夫婦関係が既に破綻し関係改善の見込みがないのであれば、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する場合もありえないわけではありません。
まずは、夫婦間で話合いをするということですが、合意が成立すれば離婚するわけですから、離婚について話し合って見るのが良いでしょう。前提として、婚姻は、「両性の合意のみに基づいて成立する」のですから、実際は夫婦関係と嫁姑問題は区別されるべきように思いますが、社会的実態としては、配偶者の親族と一切関わりなくやっていく夫婦の方が少数派といえるでしょう。
古くから、「嫁姑問題」「冬彦さんのようなマザコン」などは、「夫婦関係に過度に干渉する姑が悪い」という意見や「気の利かない妻が悪い」という意見が目立ちますが、実は、裁判上は、「無関心を通す夫に問題あり」とされることも少なくありません。
夫には、妻を保護する義務があるといっても差し支えありません。つまり、嫁姑問題は自らの婚姻関係に影響を与え得るものですから放置していては保護義務に違反するのです。
これは「婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことにある」(最大判昭和62年9月2日)とされています。したがって、夫は真摯な意思を持たないといけません。こうして、夫婦は婚姻関係を良好に維持するために互いに力を尽くす義務を負っているのです(最判昭和38年10月24日)。
したがって、マザコンが別に悪いわけではありませんが、往々にして妻との関係で、真摯な意思をもって共同生活を営んでいないとか、婚姻関係を良好に維持するために互いに力を尽くす義務に違反しているとされる可能性もあり得るのです。
もちろん、上記の義務違反は法的解釈問題ですから、妻から「夫がマザコン」であることを理由とする一方的な離婚は認められない可能性が高いでしょう。
しかしながら、弁護士事務所に相談に来られる方の場合、我が国が「夫婦中心主義」であることを忘れるような「家父長制」意識の強い家族も少なくなく、上記保護義務に違反すると思われる例も散見されるのです。
したがって、裁判によって離婚が認められるためには、夫がマザコンであるとか、嫁姑問題が婚姻を継続し難い重大な事由という5号事由に該当しなければなりません。
この点、妻が嫁姑問題において、妻が苦しみ婚姻関係に悪い影響が出ている状態を自らの問題として認識しようとせずに放置する夫は、共同生活を営もうとする真摯な意思や努力が認められない可能性があるのです。
実際の裁判例でも、妻の夫の家族との軋轢及び妻への何らの配慮もなく義母に同調する夫の態度等を指摘して離婚を命じた判決があります(東京地裁平成6年9月28日家月49巻9号100頁)。
したがって、理由がマザコンのみである場合であっても、程度問題やその他の事情を総合考量して決められることになるでしょう。
このような意味において、マザコン夫の言動や夫婦の関係が、民法770条1項5号に定められている「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に当てはまれば、離婚が認められる可能性があります。
この点について、詳しくは後述します。
よく相談があるマザコン夫の特徴とは?
マザコン夫には、共通する特徴があります。
結婚当初、妻はマザコン夫を「母親思い」と勘違いすることが多く、マザコンであることに気がつきにくいのですが、共に結婚生活を送るに従って通常では考えられない夫と母親との関係に気づくのです。
また、マザコン夫は妻に対してのモラルハラスメントが多いことも特徴といえるでしょう。離婚問題に詳しい安藤一幹弁護士によれば、モラハラの仕方として、「母さんが正しいからお前が我慢しろ」、「母さんに従え」といった言動や、自分の母親に由来する「マイルール」を押し付けてくる方もおられるそうです。
同じく離婚問題に詳しい服部勇人弁護士は、「心理的な問題もあるが、実家の敷地内で同居をしていたり、夫側実家側から金銭的援助がある、学費を親から借金しているなど見えにくい『恩』という負債を持っているケースもある」と話す。
何でも母親に相談する
マザコン夫はほんの些細なことであっても、常に母親に相談しようとします。一般的には、成人した男性でも、時と場合により母親に相談することはあり得るでしょう。それに対し、マザコン夫はほぼすべての事柄において母親に相談する傾向があります。つまり、物事を自分で決められず母親に決めてもらうのです。
また、本来なら夫婦間で話し合って解決するべき事案でさえも、母親に相談します。これもマザコン夫の特徴といえるでしょう。
さらには、事前に夫婦で決めたことであっても、母親が違った意見を持つ場合は母親の意見を優先することが多く、妻にとっては非常に大きなストレスとなり得ます。
妻や家庭よりも母親を優先する
マザコン夫は、何よりも母親との約束を最優先にします。家族間や夫婦間で交わされた事前の約束があったとしても、母親の急な用事や約束のためなら平気で反故にするのです。また、マザコン夫は母親に会いに行ったり、連絡を取る頻度が多いことも特徴です。
常日頃から母親を大切に考え、場合によっては妻よりも母親の方が大切だと考えている可能性があります。
妻を母親と比較する
マザコン夫の理想の女性像は母親であり、どのような点においても母親が基準です。妻が家庭で行っている家事や育児に対し「母親はこうしているからそのやり方は違う」「家事はこう(母親がやっているように)するものだ」など、母親と同じようにすることを求めます。
また、妻が作る料理についても同様に「入っている具が母親と違う」「母親の作り方と違う」「母親の味と違う」など、常に妻を母親と比較し、母親に合わせようとします。
このように何でも母親と比較し妻を卑下する夫の言動は、妻に対するモラルハラスメントといえるでしょう。
母親の自慢が多い・母親の悪口を許さない
マザコン夫は母親を誇りに思っており、夫婦の会話でさえ母親が登場します。母親に関する自慢話の頻度が多い傾向があります。また、マザコン夫は母親の言動が常に正しいと考えています。
夫は母親が間違ったことをしたり、言ったりする訳がないと思い込んでいるため、妻が少しでも母親に対する批判や悪口を言うと激しく怒り、妻が考えを訂正するまで許しません。
母親との距離が近い・何でも母親に話す
マザコン夫は、精神的にも肉体的にも母親との距離が近く、同様に母親も子離れできていない可能性が高いといえます。常日頃から頻繁に連絡を取ったり会いに行くなどして、普段の些細な出来事まで伝えようとします。また、何歳になっても母親とのスキンシップがあり、常に物理的な距離が近いことも特徴です。母親から身だしなみを直されたり何でも用意してもらうなど、まるで幼い子どもに対するような世話を焼かれています。
とにかく母親とのコミュニケーションを取りたがり、家庭や妻のことなど、本来なら夫婦間だけで話す内容でさえも母親に話そうとするため、妻と夫の距離は必然的に離れる傾向があります。
マザコンは簡単に治らない
マザコンは病気ではありません。夫が育ってきた過程で形成された、夫自身の性格といえるでしょう。幼児期の母親との距離感が影響している可能性もあり、一長一短では心理的には是正は難しい可能性もあります。成人した人間の性格を治すことは非常に難しく、マザコンは簡単には治らないといえます。心理的には、「母親離れができていない」とか、「母子密着が強すぎる」というように説明ができる可能性があります。
また、マザコン夫は自分のことをマザコンだと理解していないことがほとんどです。
また、社会学的にも、母親に身の回りの世話を委ねてきたことから今さら自立が難しいという場合もあるかもしれません。
夫のマザコンを治すためには、夫自身にマザコンであることを自覚させ、夫の言動が世間の感覚とずれていることを理解させる必要があります。
ただし、妻がいくら頑張って夫の性格を治そうとしても、少年のような可塑性はありませんので、ほとんどの場合は喧嘩になって終わるのです。
マザコン夫と離婚する3つの方法
離婚の手続きには「協議離婚」「調停離婚」「裁判離婚」の3つがあり、「協議離婚」「調停離婚」については、マザコン夫が同意しなければ離婚が成立しません。いずれにしても本気で離婚を考えたら、弁護士に相談をしましょう。
一般的には「協議離婚」が約9割を占めますが、マザコン夫は母親と一緒に抵抗して自らの非を認めず、調停を申し立てたとしても、離婚に合意しない可能性が高い可能性もあります。
一方で「裁判離婚」では、マザコン夫の同意がなくても離婚できる可能性があります。
ただし、前述したように、マザコンを理由とした離婚はそれだけでは直ちに認められない可能性があるので、理由を複数準備することも必要です。
マザコン夫との離婚を考えている場合は、以下のような「その他婚姻を継続し難い重大な事由(民法770条1項5号)」に当てはまる事実がないか探します。
・夫婦関係が破綻している
・長期間別居している
・家庭内暴力(DV)やモラルハラスメントで妻が肉体的または精神的苦痛を受けている
・性格の不一致
・口論
・子育ての方針の不一致
また、これらに当てはまる事実が存在する場合、その証拠は必ず残しておきましょう。ただし、証拠集めは独断で行わず、専門的な知識を持つ弁護士へ相談の上で行う方がよいでしょう。
マザコン夫と離婚したい時にやっておくべきこと
悩み抜いた末にマザコン夫との離婚を決断したといえども、衝動的な行動は慎みましょう。冷静になり、離婚に向けての準備を順序立てて着実に進めることが、自らを有利にします。
ここでは、離婚に向けてやっておくべき具体的な方法を紹介します。
しっかり夫と話し合う
離婚について、しっかりと夫婦間で話し合いましょう。離婚が認められるための条件のひとつとして、夫婦間での話し合いがしっかりと行われた事実が必要となるためです。
マザコン夫に対し、その言動による問題点や被った苦痛について説明します。多くの場合、夫は理解しようとせず自らの正当性を主張する可能性が高いでしょう。それでも、夫との話し合いは何度も続ける必要があります。
話し合った内容はすべて後の証拠となるため、動画や音声、メモなどの記録に残しておきましょう。
ただし、口論になるだけの場合は最早、夫の保護義務違反が問えるレベルの可能性も否定できません。口論を勧めることはできませんので、この場合は、次のステップに進むべきように思います。
財産を確認しておく
マザコン夫のケースでは、住宅ローンの自宅が実家の敷地にあったり、財産を姑が管理しているケースもあります。このような場合は、まずは、自分なりに財産調査をして早めに弁護士のアドバイスを受けましょう。
夫婦間では、夫が家計を管理しているケースも多く存在します。夫婦である限り大きな問題はありませんが、離婚後は自分自身で生活していかなければならず、特に金銭面の課題は離婚前にしっかりと道筋を立てておく必要があります。
離婚後、夫との財産分与を見据えて、現在の夫婦財産がどの程度あるのかを確認しておきましょう。夫が管理する財産の確認方法は、弁護士からのアドバイスを聞いてから行うとよいでしょう。
離婚後の生活を考えておく
離婚後は、自ら生計を立てていかなくてはなりません。そのため、離婚後の仕事やそれに伴う収入、居住する家などについては事前によく検討することが重要です。決して一時的な感情で行動しないように、注意しましょう。
その場の突発的な感情で行動すると、離婚後の生活が成り立たない状況に陥る可能性があります。あくまでも冷静になり、将来を見据えてしっかりと計画を立てましょう。
家庭内暴力(DV)やモラルハラスメントがあれば証拠を残す
例え夫が離婚を拒否し続けたとしても、夫の言動によって肉体的または精神的苦痛を受けている場合は、離婚できる可能性が高くなります。もしも、夫があなたに対して家庭内暴力(DV)やモラルハラスメントを行っている場合は、必ず証拠を残しておきましょう。
家庭内暴力の場合は、傷の写真や病院への通院履歴、状況を記した日記やメモなど、詳細に記録します。
また、マザコン夫に多く見受けられる妻へのモラルハラスメントについては、夫の言動や行動を可能な限り動画や音声で記録しておきましょう。
別居する
マザコン夫との婚姻関係がすでに破綻している場合、すぐに別居を検討しましょう。結果的に別居に至る場合、その行動は早ければ早いほど有利になります。将来的に裁判となった際、長期的な別居の事実が離婚事由として認められる可能性があるためです。
「お互いに冷静になるため」「一時的なわだかまりを解消するため」など、その時点で最適な別居理由を伝え、夫から別居の同意を得ましょう。
夫から暴力を受けている場合は、一刻も早く避難することを最優先にしましょう。このことは、義母のことを巡っても同じですが、夫婦間で口論が絶えない場合にも当てはまります。
夫の母親を離婚に賛成させる
マザコン夫は自分で物事を決められず、何でも母親に決めてもらう特徴があるため、母親の意見であれば無条件に受け入れる傾向があります。もしも、夫よりも母親が先に離婚に賛成すれば、その意見に従ってマザコン夫も賛成する可能性が非常に高いといえるでしょう。
ただし、このような「家父長制」的な家の場合は、あなたを通り越して、あなたの両親と離婚を勝手に決めてしまうという例もあります。離婚は、経済的問題も解決してからでないと難しい場合もありますので、あくまで離婚は自分ごととして、親同士の話合いに丸投げすることは止めましょう。
調停離婚や裁判には証拠集めが重要
離婚をするためのステップである、調停や裁判では、マザコン夫との婚姻関係を破綻に導いた原因となった強い証拠が必要です。
つまり、マザコン夫の言動や行動が、法律の定める「その他婚姻を継続し難い事由」に当てはまると主張するための証拠がとても重要なのです。
先ほどの判例などから考えると、夫が、嫁姑問題を「放っておけばいい」というだけで、自らの妻と母親の関係改善に向けた真摯な努力をしていない場合は、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があります。
そのため、次のような証拠があれば集めておきましょう。
・LINEやメールを通じた夫と母親とのやり取り
・家庭内暴力やモラルハラスメントなど、夫の行動を記録した写真や動画、音声
・家庭内暴力による傷の画像や通院の記録
・日頃から記している日記やメモなど、日常生活の記録
ただし、相手が配偶者であるパートナーであっても、証拠集めの方法がプライバシーの侵害や不正アクセスとして、刑事罰の対象となる可能性があります。証拠集めの前に弁護士に相談することをおすすめします。
マザコン夫が離婚に同意しない場合は弁護士に相談を
マザコン夫が自らの非を認める可能性は低く、離婚を切り出しても簡単な合意は難しいでしょう。母親からの干渉も考えられるため、離婚へのハードルは非常に高くなります。
また、調停や裁判においても、マザコンを理由とした一方的な離婚はそれだけでは認められない可能性が高いことが現状です。弁護士に依頼し、過去の裁判例に即した主張をする必要があります。
一例を挙げると、名古屋地裁岡崎支部において、婚姻関係が破綻した原因については、妻と舅姑との間の不和にその端緒があるが、夫が無関心な態度を改め、積極的に家庭の円満を取り戻すような努力を払わず、夫に婚姻関係を維持する意思すら現在はないとして、離婚を命じた判決があります。(名古屋地裁岡崎支部昭和43年1月29日判時515号74頁)
また、婚姻関係が破綻した原因は、姑の気難しさにもその一半があったことは否定し難いが、大半の責任は、夫が婚姻共同生活の融和を図ろうとしないばかりか、一途に離婚を希求し、これを実現するために妻に思いやりを欠く手段を矢継ぎ早に策し、当時取り立てて非難すべきところのなかった妻に犠牲を強いようとしたところにあるとして離婚を命じた判決があります。(岡山地裁昭和62年6月30日判タ640号237頁)
マザコン夫との離婚が認められるためには、法律を正しく解釈し準備を進める必要があるため、個人では難易度が高いといえます。法律の専門家である弁護士は、調停離婚や裁判に向けた証拠集めの段階でも専門的なアドバイスを行うため、早めの弁護士相談をおすすめします。悩むよりも、まず弁護士に無料相談をしてください。
マザコン夫やファザコン妻が問題になる場合、自宅の建設に義父母が出資していたりするケースや先祖の土地の上に自宅を立てているなど、住宅ローンの問題もあることもあります。この場合は、財産分与に詳しい弁護士に相談する必要があります。特に、夫の先祖代々の敷地に住宅ローンの自宅があったり、夫の父母が多額の資金を不動産に注入している場合、あるいは、妻の先祖代々の敷地ないし妻の父母が多額の資金を不動産に注入している場合はお早目に弁護士にご相談ください。
名古屋駅ヒラソル法律事務所では、離婚や財産分与の弁護士経験が豊富な弁護士が、親身になってあなたの相談に乗ります。