親権の意義と親権者の決定基準について
親権の意義と親権者の決定基準について
離婚するとき、夫婦の間に未成年の子どもがいたら、親権者を決定しなければなりません。
親権者とはどういった権限を持つ人なのか、また親権者をどのようにして決定するのか、決定基準を把握しておきましょう。
この記事では親権の意味や決定基準、親権を取得するために工夫する方法について弁護士が解説します。離婚で親権争いにお悩みの場合などには是非参考にしてみてください。
1.親権とは
そもそも親権とはどういった権利なのでしょうか?
親権は、親が子どもの養育監護や財産管理を行う権利です。子どもは財産を持っていることは少ないので、主には養育監護を中心の権利と把握します。
財産管理が問題となる場合、親は子ども名義の不動産の売買を行ったり子どもが当事者となる裁判の代理人などをつとめたりする場合をいいます。
このように親が子どもの代わりに財産管理できるのは、親権のうち「財産管理権」が認められるからです。
また親には子どもと一緒に住んで養育監護する権利も認められます。こちらの権利を「監護権」といいます。
親権は「財産管理権」と「監護権」から成り立つと言って良いでしょう。このうち、「監護権」を中心に考察されます。
離婚後、親権と監護権を分けて、別々の親にそれぞれ与えることも協議離婚で行う場合は可能であることもあります。
離婚後は1人の親にしか親権が認められない
日本では離婚後の親権について、単独親権制度となっています。
婚姻中は父母の両方に子どもの親権が認められますが、離婚後はどちらか1人の親にしか親権が認められません。
離婚する際には、離婚後にどちらの親に親権を認めるか、決定する必要があります。
したがって、子どもがいる場合は、親権者を指定しない限り協議離婚をすることもできませんので注意しましょう。
2.親権者を定めないと離婚できない
離婚の際に定めておくべき条件として、いくつかの事項があります。たとえば慰謝料や財産分与、養育費、年金分割などについては夫婦で話し合って取り決めておくべきです。
ただし慰謝料や財産分与、養育費や年金分割については決めなくても離婚はできます。
これらの事項については、離婚後に元夫婦が話し合ったり調停や訴訟を行ったりして決めてもかまいません。
一方、子どもの親権者は離婚時に必ず決める必要があります。
協議離婚の場合でも、親権者は決めないと離婚できません。
夫婦間で話し合っても親権者が決まらない場合、離婚そのものができなくなってしまうので、覚えておきましょう。この点、実務上は、親権者が決まらない場合は、家庭裁判所において「子の監護者指定」の審判が先行しているケースがほとんどであり、その審判で監護者に指定された者が親権者に指定されるケースが多くを占めます。
3.親権と監護権の違い
「親権と監護権は何が違うのか?」
と疑問を持つ方も少なくありません。
親権とは、子どもの財産管理権と身上監護権が一体となった権利です。親権者は通常、子どもの財産を管理しつつ子どもと一緒に住んで養育監護を行います。
一方、監護権は子どもと一緒に住んで養育監護を行う権利です。親権の中でも財産管理権と切り離して身上監護の権利を取り出したものが監護権です。子どもに高額な資産があることは少ないので、財産管理権が問題になることは事実上多くありません。
親権と監護権を区別するのは、主に親権者と監護権者を分けるケースです。
親権者と監護権者を分ける場合、親権者は子どもの財産管理のみを行い、監護権者が子どもと一緒に住んで子どもを養育監護します。
離婚の際に親同士が互いに譲らず親権争いとなった場合などに、一方が親権者となって他方が監護権者となり、折り合いをつけるケースなどがよくあります。ただし、これは協議離婚のケースであり、調停や裁判になった場合、家庭裁判所が積極的に親権者と監護権者を分離して指定するということはほとんどありません。したがって、分離して指定したいという場合は、父母間でよく協議する必要があります。
家庭裁判所での審理においては、裁判所は、親権者となる親が自ら子を監護教育することや財産管理をすることについて、親権者の適格性があることを前提に判断していますので、あえて親権者と監護者を別々にする必要性はなく、家庭裁判所では別々にする裁判がされることはまずありませんので注意が必要です(青木晋編『人事訴訟の審理の実情』16頁参照(判例タイムズ社、2018年))。
4.親権者の判断基準
親権者を決めるとき、どちらの親が親権者としてふさわしいのかが問題になります。
以下で親権者を決めるときの判断基準をみていきましょう。家庭裁判所では、「主たる監護者基準」に基づいて決められることが多いですが、協議離婚においては以下の判断基準を踏まえて話し合うことが良いと思います。
4-1.子どもの利益を第一に考える
親権者を決定する際には、まずは子どもの利益を最優先に考えることが重要です。
親の都合やエゴを優先して決めてはなりません。
相手へのさまざまな感情があるとしてもいったん脇において、「どちらが子どもの親権者になるのが子どもの利益になるか」をしっかり考えましょう。
4-2.子どもの事情
親権者を判断する際には、子どもの側の事情として以下のような事項が考慮されます。
- 年齢
- 性別
- 心身の発達状況
- 従来の生活環境への適応状況
- 生活環境が変化することへの適応性
- 監護環境の継続性
- 子どもの意思
- 子どもと父母との情緒的な結びつき
- 兄弟姉妹との関係など
子どもがある程度大きくなっていると、親権者についての子どもの意見も考慮される例が多数です。また子どもが新しい環境になじみにくい場合、現状の生活が維持される可能性が高まります。子どもと片方の親との関係性が良好な場合、そちらの親が優先的に親権者となる可能性があります。
4-3.父母の事情
父母の側の事情としては、以下のようなことが考慮されます。
- 監護能力や意欲
監護能力が高く、意欲のある側に親権が認められやすくなっています。
- 子どもへの愛情
子どもへの愛情が深いと考えられる方に親権が認められやすくなっています。
- 監護の実績や継続性
監護実績が高く、現在子どもと一緒に住んでいる側に親権が認められやすくなっています。
- 出生時以降の主たる監護者
子どもが生まれてから、主に育児を担ってきた側に親権が認められやすくなっています。
- 用意できる監護体制
離婚後にどのような監護体制をしけるかも重要な考慮要素となります。
- 子どもとの情緒的な結びつき
子どもと情緒的な結びつきが強く、子どもがなついている親に親権が認められやすくなっています。
- 父母の年齢や就労状況
仕事をしているかどうかなども考慮されますが、仕事をしていなくても親権者に離れます。また仕事が忙しすぎて子どもと一緒に過ごせる時間が少ない場合、親権争いには不利になります。
- 父母の資産や収入などの経済的な状況
収入や資産なども一応考慮されますが、さほど重要視はされません。
- 居住環境
居住環境は良好な方が親権者として有利です。ただし「大きい家に住んでいたら良い」などという単純なものではありません。
- 父母の心身の健康
健康な方が親権者としては適しています。ただ病気があると必ず親権を取得できないわけではありません。軽いうつ病などであっても育児ができれば親権者になれます。
- 性格や生活態度
生活や生活態度も評価の対象になります。たとえばあまりに自堕落な生活を送っていると、親権争いには不利になるでしょう。
- 暴力や虐待の有無、内容
子どもに対して暴力を振るったり虐待行為をしたりしていた場合、親権者として不適格と判断されます。
- 教育環境
良好な教育環境を整えられる側が有利になります。
- 親族等による監護の支援の有無や内容
本人が忙しくて子どもの養育に十分な時間を割けない場合などには、親族による監護の支援が重要視されます。親族による監護の支援があると、親権を獲得しやすくなるケースがあります。
- 監護補助者による監護が適切か
親族による監護方法は適切なものでなければなりません。
- 監護補助者に任せきりにしていないか
監護補助者がいても、子どもの養育を監護補助者任せにしていると親権者として不適格と判断されやすくなります。
- 監護開始の際に違法行為をしていないか
夫婦が別居して子どもの監護を開始した際、違法な方法で連れ去ったりすると親権者争いには不利になります。
- 面会交流に積極的かどうか
離婚後の面会交流に積極的な親の方が親権者としては適切であると考えられています。
4-4.経済事情について
親の資産や収入などの経済事情も親権者の判断に際して考慮されますが、さほど重要な要素ではありません。経済力がなくても親権者となっている方は多数います。
たとえばもともと専業主婦で収入がなくても、離婚後に親権者になることは可能です。
非監護親から養育費を得ることができますし、生活保護を受けながら子どもを育てている方も珍しくありません。
経済力がなくても、親権をあきらめる必要はないので、悩んだら弁護士へ相談してみましょう。
以下では親権者の判断基準の中でも特に重要な要素について解説していきます。
4-5.主たる監護者であったこと
家庭裁判所が、親権者を決める際「主たる監護者であったこと」が重要視されます。つまり子どもが生まれてから主に育児を行ってきた側に親権が認められやすくなっています。
主たる監護者が重視されるのは、主に子どもが乳幼児から小学校高学年までの間ではないかと思われます。
例えば、乳幼児期の子どもにとって、主たる監護者との情緒的、精神的結びつきが強く、断ち切ると子どもの成長に悪影響を及ぼす可能性があると考えられるためです。
このため、現在の家庭裁判所は、子の出生以来、主として子を監護してきた親である「主たる監護者」を事実認定した上で、主たる監護者の監護実績や、子と主たる監護者との愛着関係ないし精神的結びつきを重視し、主たる監護者の従前の監護状況や今後の監護態勢に特段の問題がない限り、主たる監護者を監護者と定めるべきであるという「主たる監護者基準」が採られており、監護者指定の裁判と親権者指定の裁判の判断基準は基本的に同じであるとされています。(大阪高裁平成28年8月31日参照)
他方、子どもが小学校に上がって学童期に入ってくると、主たる監護者(親)だけではなく学校や地域などの人との関係性も含めた環境の継続性が次第に重視されるようになってきます。そうすると、中学生以降は、主たる監護者基準の重要性がやや後退し、子の意向なども考慮されるようになってくるのです。
4-6.監護の継続性
親権者を定める場合には、監護の継続性が重視されます。
監護の継続性とは、現在の監護体制や環境を継続させることです。
子どもにとって、監護環境や居住環境、学校などがコロコロ変わるとストレスになりますし、新しい環境に馴染みにくいなどの問題が生じるおそれもあります。そこで監護体制については、なるべく継続させるべき(変えるべきではない)という判断がはたらきます。
たとえば夫婦が別居してどちらか一方が子どもと暮らしている場合、子どもが平穏に暮らしていれば同居親にそのまま親権が認められる可能性があります。
4-7.子どもの意思
親権者を決める場合、子どもの意思や希望が考慮されるケースもあります。
まず子どもが15歳以上になると、子ども自身が親権者を決められます。
また子どもの個性や発達状況にもよりますが、子どもが10歳以上になってくると親権者についての希望が考慮されるようになってきます。実務的には、子の意思が判断の決め手となるのは、小学校高学年くらいからです。
他方、小学校中学年以下の子が意思を表明している場合は、10歳以下であるため、裁判所のスタンスは、意思を尊重しつつ、主たる監護者の基準等を合わせて総合的に判断する傾向にあります。
一方、子どもが小さい場合や子どもの発達の程度が高くない場合には、子どもの意思はあまり親権者の決定に影響しません。たとえば4歳の子どもが「パパと住みたい」「ママと住みたい」などと言っても、その言葉とおりに親権が決まるわけではありません。
あくまで心身が十分に発達して自分のことをしっかり判断できる状態になった子どもの希望が優先されると考えましょう。
4-8.面会交流の寛容性
子どもの親権者を検討する際「面会交流の寛容性」も重視されるケースがあります。
面会交流の寛容性とは、離婚後の別居親との面会交流にどれだけ積極的になれるかという問題です。基本的には面会交流に積極的な親の方が、親権者としての適格性が高いと考えられています。
ただしDVなどの事案では面会交流似積極的になれないのも当然でしょう。そういったケースでは、面会交流への寛容性が必ずしも重視されるわけではありません。
4-9.監護開始の態様
離婚前に別居するとき、子どもを強硬に連れ去った経緯があると親権者としては不適格とみなされる可能性が高まります。
たとえば子どもが泣き叫んでいるのに無理やり相手親から引き剥がして奪取し連れ去った場合や、面会交流の際に連れ去って子どもを返さない場合などです。
別居時や別居後に違法な連れ去りをされた場合、子どもを取り戻せる手続きもあります。
相手に違法と思われる態様で子どもを連れて行かれた場合には、早めに弁護士へ相談しましょう。
4-10.兄弟を分けない
親権者を決める際、兄弟姉妹は分けない方が良い、という考え方もあります。兄弟不分離の原則といいます。ただし、年齢や性別によっては、この原則が妥当しない場合もあります。
原則としては、子どもが複数いる場合には、両方とも同じ親に親権が認められる可能性が高いと考えましょう。
5.相手が勝手に親権者を記載した離婚届を提出してしまいそうな場合
親権争いが発生すると、一方の親が勝手に親権者の欄を埋めて離婚届を提出してしまうケースがみられます。いったん役所で離婚届が受け付けられてしまうと、離婚の無効を確認するのが用意ではありません。相手による勝手な離婚届提出を阻止すべきです。
そのためには、役所に離婚届不受理申出をしましょう。
離婚届不受理申出をしておけば、申出人の意向確認ができない限り離婚届が受付けられなくなります。相手が勝手に離婚届を出せなくなるので、親権者を一方的に定められるおそれもなくなります。
役所へ行って、「離婚届不受理申出をしたい」と担当者の方へ伝えてください。
6.親権者を定める手順
親権者を決める際には、夫婦が話し合ってどちらかを親権者に指定して離婚届を提出するのが一般的です。
離婚届に記載された親が、離婚後の親権者となります。
ただ夫婦で話し合っても決められないケースもあるでしょう。その場合には、家庭裁判者所の離婚調停で親権者について話し合います。
それでも決められない場合には、離婚訴訟を提起しなければなりません。現在の家庭裁判所の運用では、親権は「訴訟事項」となっているのです。訴訟になると、家庭裁判所では、主たる監護者基準を中心に親権者に指定します。
裁判で親権を獲得するには、裁判所の判断基準を理解して適切な主張と立証をしなければなりません。自己判断で行動すると不利になる危険性が高まります。
親権争いが発生した場合には、早めに弁護士へ相談しましょう。
実務上、親権について真に争いがある事案では、通常、離婚訴訟に先立ち、子の監護者の指定・引渡し審判を経ていることが多く、その中で監護者の指定についての家庭裁判所の判断が示されている場合、離婚訴訟において監護者指定の裁判と異なる親権者指定の裁判がされることはまずないと指摘する裁判官もいますので、真に争いがある場合、親権・監護権争いの主戦場は、子の監護者の指定・引渡し審判であるといえます。
7.親権者になりたいときに工夫すべきこと
親権者になりたいなら、以下のような点に工夫しましょう。
7-1.育児に積極的に関わる
親権者は主たる監護者であった親に認められるケースが多数です。
特に乳幼児期の子どもの親権者になりたい場合には、育児に積極的に関わりましょう。
7-2.子どもとのコミュニケーションを大切にする
親権者を判断する際には、子どもとの情緒的精神的つながりも重視されます。
日頃から子どもとのコミュニケーションを大切にして、子どもとの関係を良好にしておきましょう。
7-3.別居するとき、子どもとはなれない
親権者を決定する際には、監護の継続性も重視されます。別居するときに子どもと離れると親権を取得しにくくなってしまいます。別居の際には子どもとはなれないのが望ましいでしょう。相手が出て行ってもらうなら1人で出ていってもらうということも考えられます。
他にも個別事情に応じて親権獲得のためにできる工夫がたくさんあります。個別にアドバイスいたしますので、親権を獲得したい方は、ご相談ください。
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