親権者変更の審判の動向に変化はあるか
名古屋の弁護士のコラムです。 これまで、親権者変更については,かなり制限的に解釈されてきたように思います。実質的に親権者の喪失請求と効果が変わらないからではないか、など諸説があるところです。 このため、例えば、「親権者の変更をなすには、子の利益のために必要があることを要するところ(民法819条6項)、新たに親権者を指定する場合とは異なり、いったん指定された親権者の監護状況や監護実績に照らして、これを変更する必要がある場合であることを要する」と指摘する裁判例もある。(名古屋家裁平成27年7月8日)この審判例は,「必要性」という判断枠組みを示して,監護状況に問題がなければ「未成年者の利益のために必要である」とは認められないとしているわけです。 ポイントは、本件は、親権者変更の申立人が不貞の女性であり、離婚協議の成立過程について問題がない事例といえました。 これに対して,福岡高裁平成27年1月30日は、実質審理をして比較衡量をして、上記のような原審を破棄しています。 (1) 民法819条6項は,「子の利益のため必要があると認めるときは,家庭裁判所は,子の親族の請求によって,親権者を他の一方に変更することができる。」と規定し,親権者変更が認められる場合を「子の利益のため必要があると認めるとき」としている。この規定の存在から,親権者変更の判断は,既に親権者たる地位を取得している者があり,監護養育の実績がある場合が多いのであるから,この実績等を考慮する必要があり,親権者指定の判断のように双方の適格性の相対的比較では足りないとの見解がある。 (2) 親権者変更審判において,子の利益のための必要性を認定する具体的事情として,従来の裁判例をみると,①監護体勢の優劣,②父母の監護意思,③監護の継続性,④子の意思,⑤子の年齢,⑥申立ての動機,目的等が挙げられ,相対的比較衡量の基準として,①母親優先の原則,②監護の継続性(現状尊重)の原則,③子の意思尊重の原則,④兄弟姉妹不分離の原則等が挙げられています。 (3) 親権者変更が必要とされる場合として,親権者の指定後の事情の変更があった場合が挙げられる。ここが親権者変更のポイントなのです。 親権者の指定後の事情の変更により,子の利益のためには親権者を他の一方とすることが適切となる場合があるからである。 (4) 民事裁判官出身者の共感を集めるのは、親権者の指定は,先になされた親権者の指定後の事情の変更を要するとの見解があり,このような審判例も多いのです。しかし,こどもの発達に合わせていないとの批判を免れないところです。 (5) 親権者指定後,事情の変更もないのに,法的地位の変動を認めることは法的安定性を害するし,親権者の指定はある程度将来の事情を予測して決定しているから,事情の変更は予測したものと異なる事情が新たに生じた場合であるというわけです。 確かに,父母の協議若しくは家庭裁判所における調停や審判において子の利益について検討がされて親権者が指定され,親権者とされた者が子を監護養育している場合は,事情の変更がない限り,その親権者の指定を尊重すべきであり,親権者の変更を認めることは子の利益に反するようにも思えます。しかし,実際は思春期のこどもの場合は親権者がころころ変わっているのも、社会的実態の事実ともいえます。 そこで、法令限定解釈をして、特に父母の協議によって親権者が指定された場合は,諸般の事情により子の利益を十分検討することなく指定された場合もあり得るところであるから,このような場合に事情の変更がない限り親権者の変更を認めないというのはむしろ子の利益に反するであろう。上記論者も,このような観点から事情の変更はある程度ゆるやかに解する必要があるとして,指定当時存在した事情でも,指定に当たって考慮しなかった事情は,新たな事情として親権者等の変更に際して考慮してもよいとしている 本件では,Bは,親権者指定後の事情の変更を要すると主張し,原審はこの主張を容れて,親権者指定後の事情の変更がないとしてAの申立てを却下したものである。 しかし,裁判官の中には、既判力や事情変更の原則は無視できませんが、問題はこどもの問題にどこまで厳密に適用するかではないかと考えられます。 福岡高裁のポイントは、親権者の指定は,A及びBらの協議によって定められたが,その協議はBの親権の主張に対してAが譲歩した形になり,必ずしもBに監護能力があることを認めて親権者を指定したわけではないし,その中で未成年者らの利益を検討した事情はうかがえないものとされました。前記のとおり事情の変更がない限り父母の協議による親権者の指定を尊重すべきとはいえず,前記の考慮要素に基づいて父母のいずれが親権者として相応しいか相対的に決すべきものといえる。 また,本決定は,その相対的比較の中で,母性優先の原則や子の年齢よりも,監護能力ないし監護適格及び監護の継続性を優先させたと評価することもできよう。 5 本決定は,親権者変更の判断は,必ずしも親権者指定後の事情変更の有無のみで決せられるものではなく,民法819条6項の文言どおり親権者を他の一方に変更することが子の利益のために必要であるのかを諸般の事情から決すべきことを示したものである。この点で,家裁実務においては,親権者変更の申立てに対しては,親権者指定の経緯もポイントになることが示されたものと考えられます。 なお,本決定と同じく親権者変更を認める特段の事情変更はないとして親権者変更申立てを却下した原審判を取り消して,親権者変更を認めた決定例としては,名古屋高決昭和50年3月7日家裁月報28巻1号68頁及び東京高決昭和54年5月9日家裁月報32巻1号159頁がある。 6 これらと上記裁判例は矛盾するわけではないと考えられます。つまり、もともと監護態勢に問題があったり、離婚の経緯に問題がある場合は親権者変更については実質的にするべきだ、というように解釈されるべきということです。しかし、以前から、それが当たり前ではありませんでした。したがって、事情変更の原則が支配するテリトリーを小さくしていったことに本裁判例の意義が見出されるように思われます。