肉体関係がなくても不貞になる?弁護士が認められる場合や判例解説!
肉体関係なしでも慰謝料請求できる?認められるケースや過去の判例を解説
パートナーが自分以外の第三者と交際している事実を知った場合に、相手との肉体関係がなくても慰謝料を請求できるのでしょうか。
今回は、肉体関係がなくても慰謝料請求が認められるケースや、過去の裁判例について解説します。
h2:肉体関係なしで慰謝料請求することは難しい?
結論として、パートナーが自分以外の第三者と交際をしていたとしても、肉体関係を伴わない交際では慰謝料請求が認められることはほとんどありません。
判例は、「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意または過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被った精神上の苦痛を慰藉すべき義務があるというべきである」(最判昭和54年3月30日民集33巻2号303頁)があり、昭和54年判例は、「肉体関係」をいう言葉を使用していることから、原則的には肉体関係を伴う交際のことをいうのではないか、と考えられています。
しかし、令和に入り複数の裁判例で、「不貞行為」は肉体関係に限られない、という裁判例が多く出されています。
東京地裁令和元年12月26日は、「不貞行為がその当事者の配偶者に対する不法行為となるのは、それが当該配偶者の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであるが、上記権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為は、性交渉又はこれに準じる行為があった場合に限るのが相当である」としています。
東京地裁令和3年2月16日は、「不貞行為とは、端的には配偶者以外の者と性的関係を結ぶことであるがあ、これに限らず、婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する蓋然性のある行為と解するのが相当であり、必ずしも性行為(陰茎の挿入行為)の存在が不可欠であるとは解されず、夫婦共同生活を破壊し得るような性行為類似行為が存在すればこれに該当するものと解するのが相当である」としています。
東京地裁令和元年5月30日は、比較的緩やかに不貞行為を認めており、「肉体関係が端的なものであるが、婚姻関係を破綻に至らせる可能性のある異性との交流、接触であれば不貞行為に該当すると解される」としています。もっとも、本件は、部屋での密会が認定されており十分肉体関係がうかがうことができる事案でした。
このほか、温泉施設で、キスをするなどの接触をしたことを問題視している裁判例もあります。(東京地裁平成30年10月4日)
慰謝料請求が認められるには、配偶者(パートナー)による不貞行為(民法770条1項1号)について、法律の専門家である弁護士が裁判官的視点でみて証拠から事実認定できるか、あるいは、裁判で事実認定できるに足る証拠があると有利になるといえるでしょう。
示談交渉ベースにしても、恐らく裁判をすれば不貞行為が認められるだろうという前提に立つと交渉がし易くなります。
不貞行為というのは、配偶者に貞操を求める権利の侵害となります。
これが、民法709条の「自身の権利や保護されるべき利益の侵害による不法行為(民法709条)」となります。民法709条の法律要件を満たせば、その効果として、慰謝料請求権が発生することになります。
つまり、たとえパートナーが自分以外の第三者とキスやハグ、デートなどをするような行為があったとしても、その事実だけでは不貞行為とは認められず慰謝料請求が認められない可能性が高いのです。
一方、肉体関係が無かった場合でも慰謝料請求が認められたケースが存在します。このケースについては後述します。
h2:そもそも不貞行為とは?
不貞行為とは、民法の770条1項1号に定められている離婚事由のひとつです。また、同時に、民法709条の「加害行為」のひとつでもあります。
夫婦はこの法律によって貞操義務を負うため、配偶者(パートナー)以外と肉体関係を持つことは法律に違反し、不貞行為として違法となるのです。
不貞行為として認められれば、民法770条1項1号の離婚事由に当たるだけではなく、民法709条に定められている「不法行為に基づく損害賠償請求権」を行使して損害賠償請求権を行使できるのです。
また、たとえ肉体関係の事実がなかったとしても、肉体関係に準ずる行為があった場合は、不貞行為として認められることがあります。
h2:肉体関係なしでも慰謝料請求が認められるケース
肉体関係がない場合に慰謝料請求が認められることはほとんどありませんが、肉体関係がなくても慰謝料が認められたケースもないわけではありません。
配偶者(パートナー)による第三者との行為が、「夫婦共同生活の平和を害する」といえる場合です。
ここからは、その具体的なケースについてみていきましょう。
h3:度を超えた親密な連絡やデートをしていたケース
妻が夫との婚姻中に無店舗型風俗店に勤務して夫以外の男性と性的関係を持っていたことは不貞行為になるのでしょうか。
この点、詳しい説明は省きますが、売春防止法がある日本では、肉体関係につき風俗店を介して持つということは社会通念上想定されにくいといえます。
東京地判平成28年3月28日では、夫婦間の婚姻共同生活の平和の維持という利益は、私法上の権利又は法的保護に値する利益であるから、これを正当な理由なく侵害する行為は不法行為を構成するとしました。
そのうえで、東京地裁は、「夫婦の一方が第三者と肉体関係を持った場合に限られるものではない」と指摘し、秘密裡に不特定多数の男性に性的サービスを提供する風俗店に勤務しており、かかる行為が婚姻共同生活の平和を害するものとされました。そして、妻が風俗で働いていた時期に婚姻破綻していた事情がないので、不法行為は構成すると判断しました。
このように、裁判例によっては、肉体関係か否かは問わないとしているものもありますが、少なくとも性的類似行為であることは求めているのではないかと思います。
そもそも、男女同権が進んだ今日、異性の部下を持つことも珍しくなく、仕事仲間や親しい友人として連絡を取り合うことは、ごく一般的だと考えられるでしょう。一方で、社会常識の範疇を超えて親密なやりとりをしていた場合、夫婦間の婚姻共同生活の平和の維持という利益は、私法上の権利又は法的保護に値する利益を侵害することがあるのです。
また、パートナーが相手と手をつないで歩いていたり、一緒に食事をしたりしたケースでは、その頻度や状況にもよりますが、少なくとも性的類似行為とはいえないので、直ちに、夫婦間の婚姻共同生活の平和の維持という利益は、私法上の権利又は法的保護に値する利益が侵害されたといえる可能性は低いのではないかと思います。
h3:男性の性風俗店の利用
実務上は、男性が性風俗店を利用した場合、不貞行為にあたるのかということが問題にされることが多いと思われます。
性風俗店の利用は、素人の女性とキス、ハグ、食事に行くという行為と比べて、性的類似行為が伴うことがうかがえる場所といえることは間違いないといえます。
しかし、先にも述べたように、日本では売春防止法があるため、直ちに肉体関係を持ったと断定することは不可能であると思われます。
ただし、風俗通いをしている弁護士からすると、ソープランドは必然的に肉体関係やそれに近しい行為が伴うことが多く不貞行為といわれても仕方がないという言質を聴くことがあります。
これに沿うように、約4年間~5年間、ソープランドに通っていたという事案では、「ソープランドに通う行為」が「不貞行為」と断じられ、「婚姻関係を決定的に破綻させる重大なもの」と判決されました(東京地裁平成15年9月11日判決)。
東京地裁の判決は離婚訴訟ですが、ソープランドに行くようになり、妻からソープランドの名刺を見つけられ、民法上の離婚原因である不貞行為を引用するまでもなく、貞操の保持が婚姻関係を維持する上で極めて重要な要素であるとして、夫の不貞行為は、妻との婚姻関係を決定的に破綻させる重大なものとしています。判決では、ソープランドで性交渉をしたか否かは問題視されておらず、ソープランドに行くこと自体が性交渉と等価的な行為と位置付けていることが分かります。
h3:キスやハグなどのスキンシップ
肉体関係までは及んでいないとしても、社会通念上過度といえるスキンシップがあるケースです。今日では、セクハラやパワハラなど、異性に対して身体に触れるような行為は基本的にハラスメントになると考えられていますから、アメリカやフランスなど、挨拶でキスする文化がない日本では、キス、ハグなどのスキンシップも社会的相当性はないことがほとんどといえます。
一般的に許容されると考えられる、友人としてのスキンシップを遥かに越える接触は、夫婦間の婚姻共同生活の平和の維持という利益は、私法上の権利又は法的保護に値する利益を害するといえるでしょう。
この点、地方などでは、レストランや飲食店などが少ないため、異性を自宅に上げてしまったり、異性同士なのに同じ部屋で就寝してしまったりするケースもありますが、実際のところ肉体関係がなかったとしても、これは、スキンシップでは済まない「不貞行為」と認定を受けることになります。
ただし、1度キスをしただけのケースや、軽くハグをしたケースなどでは、直ちに違法とまではいえない可能性もあるかもしれません。回数の積み重なりが重視される可能性があるでしょう。
しかし、これらの事実を積み重ね、パートナーによるさまざまな行為を踏まえて総合的に判断した結果として、夫婦間の婚姻共同生活の平和の維持という利益は、私法上の権利又は法的保護に値する利益を害するとされてしまうこともあるでしょう。
h3:旅行に行く、ホテルに宿泊する
一般的に、配偶者(パートナー)が自分以外の第三者と一緒に宿泊を伴う旅行をしたり、ホテルに宿泊したりするなどの行為は、肉体関係を持ったことを法律上推認されます。
したがって、私たちの行動規範としては、既婚者を安易に自宅にあげない、既婚者と一緒に宿泊しない、会うときは3人以上で会うといったことに留意すべきではないかと思います。
また、一般的な理解として肉体関係を持つことを前提とするラブホテルに宿泊した場合、不貞行為に及んでいる事実を証明する有効な証拠となります。
このほか、ホステスが旅行で夫と宿泊した場合に、ホステスに賠償が命じられた場合もあります(東京地裁平成29年3月13日判決)。
さすがに宿泊に至る場合は、営業の一環とはいえないことが多く、「ホステスの行動は、妻と夫の夫婦関係に少なからず悪影響を与える蓋然性があるものであり、婚姻共同生活の平和を一定の限度で侵害した」として、金30万円の慰謝料額が認められています。
h3:離婚して第三者と結婚すると宣言する
パートナーが配偶者であるあなたに対し、結婚を前提に第三者と交際している事実を伝え、そのために離婚を要求してきたケースはどうなるでしょうか。
このケースでは、配偶者であるパートナーはすでに夫婦関係を継続する意思を放棄しているといえます。したがって、夫婦関係も別居に至る可能性が高く、遅かれ早かれ夫婦関係は破綻しているといえます。
この場合は、配偶者の一方は他方及び不貞相手に対して損害賠償を請求できるかが問題となります。しかし、あくまでベースは肉体関係の有無ですので、離婚後まで性交渉を避けているような事例では、直ちに配偶者の一方は他方及び不貞相手に損害賠償を請求することはできないかもしれません。精神的な浮気、つまりプラトニックな関係には慰謝料請求はできないと思われるからです。
h2:肉体関係がなければ離婚はできない?
あなたがパートナーとの結婚生活に見切りをつけた場合でも、パートナーが離婚を拒否している限り、すぐに離婚することはできません。
特に有責配偶者と認定される場合、有責配偶者からの離婚請求は困難を伴いますので、弁護士へのご相談をお勧めいたします。
離婚事由と慰謝料請求は、分けて考える必要があることを理解しておきましょう。
つまり、離婚事由は、「不貞行為」ないし「婚姻を継続し難い重大な事由」をセットで組み合わせることにより、あなたが不貞をされた被害者側であれば肉体関係の立証ができなくても離婚ができる可能性はあります。
これに対して、慰謝料請求などの損害賠償請求は、このように、広く理解されていないのが一般ではないかと思われます。
h2:肉体関係なしでも慰謝料請求が認められた判例
日本では、肉体関係がない場合でも慰謝料請求を認めたケースがいくつか存在します。認められるケースは非常に稀であり、決して数は多くありませんが、今後の係争についても判例として参考にされる可能性が考えられます。
ここでは、慰謝料請求を認められたケースをいくつかご紹介します。
h3:関係性を明確に拒否しなかったケース
平成26年3月に、大阪地方裁判所の判決です。
妻が夫の交際相手である女性に対して、不貞を原因とした慰謝料請求を認めました。裁判所の事実認定では、2人の肉体関係を認められていませんでした。
しかしながら、慰謝料として44万円の支払いを命じたのです。
既婚者である夫との関係性については明確に拒否することなく継続していたことが、慰謝料を認める理由とされたものと考えられます。
h3:過度に親密な連絡を取り合っていたケース
平成24年11月に、東京地方裁判所で出された判決です。
妻が夫の交際相手である相手方の女性に対して、不貞を理由とした慰謝料請求訴訟を起こしました。裁判所はここでも肉体関係の存在を認めませんでしたが、慰謝料については30万円の支払いを命じています。
判決では、夫と交際相手女性との「度を超えた親密なメールのやり取りが、婚姻生活の平穏を害する」と指摘しています。
h3:深夜に会っていたケース
平成25年4月に、東京地方裁判所で出された判決があるとされています。
夫婦関係にあるパートナーが、深夜に第三者と面会していたことについて「不法行為が成立する」と判断されました。
この判決の背景にはパートナーが過去に起こした不貞行為の存在がありました。パートナーとこの第三者との間に過去に不貞行為の事実があり、今回の判断は過去の不貞行為も加味した判断だと考えられます。
h2:慰謝料請求には証拠集めが重要
肉体関係がないケースでの慰謝料請求は、婚姻関係を破綻に導いたパートナーの行為について、強い証拠が必要です。さらに、パートナーが行っている第三者との密接な関係の継続が、自らの権利や利益を侵害していることを証明する必要があります。
慰謝料を請求するためには、次のような証拠を集めておきましょう。
・LINEやメールなどを使ってやりとりした、相手との親密なメッセージ
・程度を超えた親密な行為や、疑わしい行動を記録した写真や動画、音声などのデータ
・パートナーの行動が記録されているGPSからの位置情報やドライブレコーダーなどのデータ
・パートナーが支払った食事代や宿泊代などの領収書や、クレジットカードの使用履歴など、支払い状況が分かる資料やデータ
一方で、証拠集めをする際には注意が必要です。相手が配偶者であるパートナーであったとしても、場合によっては証拠集めの方法がプライバシーの侵害や、不正アクセスとして刑事罰の対象となる危険があるのです。
自分自身を守るためにも、証拠集めを始める前に弁護士に相談しましょう。
h2:肉体関係がない場合の慰謝料相場は少額
これまでお伝えした通り、肉体関係の事実や明らかな証拠がない場合は、慰謝料請求が認められる可能性は高くありません。
さらに、判決で慰謝料が認められたとしても、その金額は少額になる場合がほとんどです。
慰謝料の相場は多くても50万円程度と考えておきましょう。
ちなみに、パートナーと第三者との肉体関係を認めたケースでは、慰謝料相場が高くなります。その金額はおおよそ50万円から300万円程度といわれており、肉体関係がない場合の慰謝料相場とはかなり差があります。
今日では、かつての非常識な「枕営業判決」も覆されており、ホステスが相手であっても賠償が認められる場合もあります。東京地裁平成30年1月31日判決は、いわゆる枕営業と称されるものであったとしても、ホステスが夫と不貞関係に及んだことを否定することができるものではないし、仮に、指名をとりたいという動機から出た行為であるとしても、当該不貞行為が夫の配偶者である妻に対する婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益に対する侵害行為に該当する以上、不法行為が成立すべきとされています。
一般に、性風俗店の店員について、不法行為責任を否定することが一般的かと思われますが、クラブのママやホステスについては判断が分かれ、最近は、クラブのママやホステスは性的サービスを提供することが仕事の本旨ではないことから、交際は、夫婦共同生活の平和を害すると認定される傾向にあるように思われます。
h2:肉体関係なしでも諦めずに弁護士に相談を
肉体関係がない場合の慰謝料請求は非常に難しいといわざるを得ません。請求が認められる可能性もわずかにありますが、準備の段階から専門的な法解釈を必要とするため、個人では難易度が非常に高いといえるでしょう。
パートナーの行動に疑いを持ったら、弁護士への早めの相談をおすすめします。弁護士は、将来の調停や裁判に向けた証拠集めの段階でも専門的なアドバイスを行います。
悩むよりも先に、弁護士への無料相談を検討しましょう。
名古屋駅ヒラソル法律事務所では、慰謝料請求の経験が豊富な弁護士があなたに寄り添ってご相談にお応えします。