別居後の不貞行為は慰謝料請求されますか。
別居後の不貞行為について慰謝料請求されるか、判例は3カ月程度は別居しても破綻しないし、長いものでは別居して3年破綻を認めないものもあります。 しかし、理論的には、離婚訴訟の離婚原因の破綻と慰謝料請求が否定される破綻は、概念が異なるようになったと解されるように思われます。 リーディングケースとなった最高裁平成8年の婚姻破綻後は慰謝料請求は特段の事情ががない限り認められないとされた事案ですが、婚姻破綻は3カ月後でした。 しかし、裁判所は表向きは概念が同じであることから一緒といいますが、どうやら不貞の破綻は別居をもって認められる傾向があるように分析されます。 調査官解説は、婚姻関係の破綻に原因を与える行為をした第三者が婚姻関係破綻後に不貞行為を行ったような事情が最高裁のいう「特段の事情」に当たり得るとされています。このような見解に立つと不倫相手との同棲関係を継続している限り、婚姻破綻を認定できても、その後同棲関係を解消しない場合は、なお不法行為が構成することになることになります。 下記の判例は、東京高裁平成17年6月22日ですが、不貞相手と性交渉を繰り返しても、平成8年のいう「特段の事情」にはあたらないとしています。 2 被控訴人と花子の婚姻関係破綻の時期について 控訴人は,被控訴人と花子の婚姻関係が平成11年6月ころ遅くとも平成12年9月ころには破綻したと主張するので検討するに,上記認定によれば,花子は,長年にわたる被控訴人からの暴力に耐えかねて平成11年初めころに離婚届用紙を入手したり,家を出てアパートを借りる契約をして,被控訴人に離婚を求め,被控訴人も一旦離婚届用紙に署名押印したものの提出までには至らなかったことが認められるが,このころには,花子の婚姻継続意思は,かなり希薄になりつつあったというべきである。もっとも,花子と被控訴人との性的関係は,花子が家を出た日の1~2日前日が最後であったが,そのことによって上記認定が左右されるものではない。そして,花子は,悩み事の相談相手である控訴人と同年6月ころから性的関係を持ち始め,同月27日単身家出をして以来控訴人と同棲を開始継続しており,以後被控訴人とは没交渉となり,平成12年4月5日には控訴人の子葉子を出産し,同年5月ころ被控訴人からの修復要請を無視し,葉子について,被控訴人を相手に親子関係不存在確認の訴えを提起し,同年9月2日には親子関係不存在確認の裁判が確定し,同月7日,控訴人が葉子を認知し控訴人戸籍に記載したことが認められるのであり,以上の経過にかんがみると,遅くとも平成12年9月2日には,被控訴人と花子の婚姻関係は,完全に破綻したものと認められる。 3 控訴人の不法行為について 被控訴人は,控訴人が花子と性的関係を持ち同棲を開始継続することを不法行為に当たると主張するところ,控訴人が花子と性関係を持ち同棲を開始継続することは,被控訴人の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為であるから,不法行為を構成することは明らかである。もっとも,婚姻関係が既に破綻していた場合には,このような権利又は法的保護に値する利益の侵害が認められないので,特段の事情がない限り,不法行為を構成しないというべきである(最高裁平成8年3月26日第三小法廷判決・民集50巻4号993頁参照)。これを本件についてみるのに,平成11年6月ころから遅くとも平成12年9月ころまでの控訴人が花子と性的関係を持ち同棲を開始継続した行為は,被控訴人に対する不法行為を構成するが,遅くとも平成12年9月2日以降の控訴人の花子との同棲の継続は,特段の事情がうかがわれない本件においては,被控訴人に対する不法行為を構成しないというべきである。 4 消滅時効について そして,平成11年6月ころから平成12年9月ころまでの控訴人が花子と性的関係を持ち同棲を開始継続した行為に対する被控訴人の不法行為に基づく慰謝料請求権については,被控訴人が同棲関係を知った時から,消滅時効が進行するものと解するのが相当である(最高裁平成6年1月20日第一小法廷判決・判例時報1503号75頁参照)ので,これを本件についてみるのに,被控訴人は,遅くとも平成12年9月には,控訴人と花子の同棲関係を知っていたのであるから,そのころまでの被控訴人の慰謝料請求権の消滅時効は,遅くとも平成12年9月から進行するところ,被控訴人が本訴を提起したのは平成16年5月6日であることは記録上明らかであり,控訴人が被控訴人の慰謝料請求権の消滅時効を本訴において援用する以上,被控訴人の慰謝料請求権は,3年の経過により消滅したものといわざるを得ない。 5 結論 以上によれば,被控訴人の本訴請求は,理由がないので,棄却すべきであるところ,これと一部結論を異にする原判決は,その限度で不当であり,本件控訴は,理由があるから,本件控訴に基づき原判決中控訴人敗訴部分を取り消し,その取消部分に係る被控訴人の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。