離婚慰謝料の傾向と裁判例
離婚慰謝料には、離婚原因慰謝料と離婚に伴う慰謝料があります。
前者は、不貞や暴力など個々の不法行為に基づく損害賠償請求です。
後者は、相手方の有責な行為によって離婚をやむなくされたことに被った精神的苦痛、具体的には、離婚そのものによって生じた将来の生活不安等、配偶者たる身分法上の法益侵害によって生じたものが考えられています。
もっとも,以前は,「有責配偶者に対して賠償を求めるものとされ、離婚慰謝料額の勝手いにあたっては苦痛が総合的に斟酌」されるものと考えれていました。
しかし、今般では、離婚原因慰謝料以外は認められない傾向があると思います。「有責配偶者」イコール不貞をした方、という位置づけが強くなっているためで、支配型DVが有責配偶者といえる程度ではないか、と思います。しかし、相互に口論や暴力が絶えない対等型DVなどの場合は双方に責任があるので「有責配偶者」とはいえないでしょう。
このように、「ぼわっと」していた「有責配偶者」の概念が、不貞とDVにまとまってきたことから,それ以外は、慰謝料は認められないという傾向が強いと思います。
具体的には、お互い別々の道をということで離婚するのですから、離婚に伴って苦痛が発生するという論理も少しおかしいものがあります。また、将来の生活不安等というのですが、これは専業主婦を基準とした考え方といえますが、具体的には養育費や扶養的財産分与を2~3年命じる程度で行うのが妥当で、「生活不安」が、精神的苦痛の原因と位置づけることは、過去のものになりつつあるように思います。離婚については公刊判例が少ないので、必ずしも現在の慰謝料の傾向は、分からないのですが判決で慰謝料額が定められるケースは余り多くないと思います。相手方の有責行為によって、離婚に至った場合、これによって被った精神的苦痛に対する損害を慰謝料として請求することができます。
相手方に不貞行為、暴力行為があった場合、慰謝料を請求する場合が多いですが、明確な金額の基準はなく、相手方の有責行為の違法性の程度、夫婦関係が破綻に至った原因、経緯、他方当事者の精神的苦痛の程度等を総合考慮して判断されます。離婚についての慰謝料も、離婚から3年過ぎたら時効により消滅するという時間的制限がありますので、要注意です。
離婚慰謝料の算定については、有責性、婚姻期間、相手方の資力が大きな要因とされていますが、有責性というのは不貞行為とDVくらいです。
珍しいのは、性的不能に関する破綻です。こちらは、一般的に婚姻期間が短いにも関わらず高額な慰謝料が認められるところがありますが、告知義務違反であるとか、一流会社を退職しているなどの特殊な事情がある判例があります。しかし、離婚に関しては、こどもを持つ、持たないに伴う価値観の齟齬も目立ちますので、こうしたことが考慮されているのかもしれません。しかし,最近は,こどもを持つかどうかもライフスタイルの一つですし、性的不能や性交渉拒否に重きを置いた慰謝料の高額化を認める傾向は、20年くらい前の価値観ではないか、と思います。京都家裁では、500万円の慰謝料を認めた平成2年の判例があります。
たしかに、昔は、家庭、つまり、婚姻して子どもを持って一人前とされていましたが、現在、首都圏を中心にここまでステレオタイプな考え方に違和感があると思います。
また、性的不能については、病気というような側面もあることから、この観点からも今日では支持を失っているのではないか、と思います。
不貞については、婚外子をもうけているといった事情の場合、高額化する傾向があります。
まとめますと、慰謝料は、事故のようなものイコール直接婚姻破綻にストレートに結び付いた事情の場合、高額化していくと思います。しかし、因果関係が薄れていくにつれて慰謝料を認めるもののほどではない、として、婚姻を継続し難い重大な事由はあるが、慰謝料は認めない、という判決も出ていると思います。理論的には、離婚原因を相手方が作り出したのであれば慰謝料請求も認められるべきように思うのですが、慰謝料を認めるほどの因果性を与えていない、有責行為については、慰謝料額は低額にとどまる傾向にあるようです。