養育費をもらえない,請求できない場合について
養育費をもらえない,請求できない場合について
最近、社会問題になっている養育費不払い。離婚の際、子どもを引き取って親権者になると、通常は別れた相手に養育費を請求できます。しかしときには養育費をもらえないケースもあります。兵庫県明石市では養育費を不払いしている者への勧告手段として実名の公表などの条例案を検討しだしました。
また離婚当初は養育費の支払いを受けられても、途中で請求できなくなるパターンもあります。
今回は、親権者になっても養育費を受け取れないケースにどういったパターンがあるのか、弁護士が解説します。
1.養育費を支払ってもらえないケース
離婚時に子どもを引き取っても養育費を請求できないのは、以下のようなケースです。
1-1.養育費の取り決めをしていない
離婚するときに相手と養育費についての取り決めをしなかった場合、離婚後に養育費を払ってもらえません。
確かに子どもと離れて暮らす親には養育費の支払い義務があります。しかし現実に養育費の支払いを受けるには、親同士がお互いに「月にいくらずつ払うのか」を取り決める必要があります。何も決まっていなければ、相手が離婚後に自主的に支払いをしなくても違法にはなりません。
養育費の支払いを受けたければ、必ず離婚時に養育費についての取り決めをして「協議離婚合意書」を作成しましょう。また単なる合意書では効力が弱いので、「離婚公正証書」にしておくことをお勧めします。公正証書にしておけば、離婚後に相手が支払いをしなくなったとき、養育費調停をしなくても相手の預貯金や給料などを差し押さえることができます。(なお、私見ではありますが、養育費の取り決めをしていなくても任意に養育費を支払うよう求めたり、認知されたケースでは出生に遡り相当額の請求をすることができるのではないか、と考えています。)
1-2.相手に支払い能力がない
離婚時、養育費の取り決めをしようとしてもできないケースもあります。それは、相手に支払い能力がない場合です。一般的には、職を転々としている男性に多いと考えられますし、男性が親権者となった場合、おおくの場合、相手方女性には支払い能力がないことが臨床的には多いといえます。
養育費の支払義務は「子どもに自分と同程度の生活をさせる義務」である生活保持義務です。ですから、相手が困窮している場合はそれなりの生活費しか請求することはできません。他方、高額な養育費に関しても贅沢することを認めるものではありませんから、同程度の生活以上の生活に匹敵する養育費となってしまう算定表の計算方式の場合は請求できない場合があるといえるでしょう。
しかし本人にほとんどあるいは全く収入がなく、子どもに養育費の支払いをしたら本人の生活が破綻する場合にまで養育費の支払義務は発生しません。
たとえば相手に障害があって働けない場合、相手が生活保護を受けている場合などには、養育費の請求は困難となります。相手に収入があっても年収が100万円以下なら、養育費は請求できても月1万円が限度となり、0円になる可能性もあります。
よく養育費の相場が3~4万円くらいといわれるのは、離婚夫婦が20代後半から30代前半で、算定表の目安がこれくらいになるケースが多いからと考えられます。
1-3.自分の収入が高い
養育費の金額は、請求者と被請求者の収入のバランスによって決まります。つまり、請求する側の収入が高いと減額され、相手の収入が高いと高額になります。
そこで、請求者であるあなたの収入が高くなると、養育費を請求できなくなる可能性があります。
たとえば相手の年収が350万円程度の場合、請求者の年収が100万円程度までであれば月額4万円程度ですが、年収が上がるとだんだん減額されて、年収300万円程度になると月額2万円程度になります。請求者側の年収が350万円を超えると、請求できる金額は月額1~2万円程度にしかなりません。
このように、年収が高い方の場合、相手に請求できる養育費の金額が少なくなる可能性が高いので、注意が必要です(ただし相手に支払い能力がある限り、完全に0円になるケースは少数です)。
2.離婚後、養育費を請求できなくなるケース
離婚当時は養育費を請求できていても、離婚後に受け取れなくなるパターンもあります。
2-1.離婚後、相手に支払い能力がなくなった
離婚後、相手に支払い能力が無くなった場合、養育費を請求できなくなる可能性があります。
養育費の支払い義務は、支払う側の生活を破綻させてまで行うべきではないからです。
たとえば離婚後に、相手が本人に責任のない事情によってリストラされた場合、交通事故などで障害者となって働けなくなった場合、相手が何らかの事情で生活保護受給者となった場合などです。ただし障碍者年金などは所得として考慮され得るので、障害の程度に応じる可能性はあります。
このような場合、相手が家庭裁判所に申し立てると、養育費の支払い額が減額されたり支払い義務が免除されたりする可能性があります。そうなったら、状況が変わるまで養育費の支払いを受けることができません。
2-2.相手が死亡した
離婚後、相手が死亡してしまうケースもあります。たとえば交通事故や病気などにより、子どもが成人するまでの間に命を失うケースもあるでしょう。
養育費は、本人の「一身専属義務」と言って、本人のみにしか発生しない責任です。つまり本人が死亡すると「相続」されないので、権利義務関係が完全に消滅します。相手の相続人に養育費を請求することは不可能であり、相手の死亡とともに養育費の支払いを受けられなくなります。
ただし相手が財産を残した場合、子どもには遺産相続権があるのでまとまった遺産を相続できる可能性はあります。また、生命保険の受取金をこどもにしておくことでリスク回避を求めることがあっても良いでしょう。
2-3.相手が再婚した、子どもができた
離婚後、相手が再婚したり再婚相手との間に子どもができたりするケースがあります。その場合、相手には再婚相手や新しい子どもに対する扶養義務が発生します。
相手の扶養能力は限られているので、前婚の際の子どもと再婚相手、再婚相手との子どもにその扶養能力を分配することとなります。つまり、今までは全面的に前婚の子どもが養育費をもらって扶養されていたけれども、再婚相手や再婚相手の子どもにも分配しなければならないので、その分前婚の子どもに支払われる養育費の金額が減額されます。相手の収入状況によっては、養育費をほとんどもらえなくなる可能性もあります。
ただし相手が再婚したとき、自然に減額されるわけではありません。相手が家庭裁判所で「養育費減額調停」を申し立てて減額が認められることにより、金額が変更されます。
2-4.自分が再婚して、子どもと養子縁組した
相手ではなく、養育費の請求者側が再婚するケースもあります。再婚しただけでは相手に対する養育費の請求権はなくなりません。
しかし再婚相手と子どもを養子縁組すると、その後は元のパートナー(元配偶者)に対する養育費の請求ができなくなります。養子縁組すると、養親と養子の間には「法律上の親子関係」が生まれます。すると、養親は親権者として養子に対する扶養義務を負います。養親の扶養義務は離婚したパートナーのものに優先するので、養親がいるならば、まずは養親が養育をしなければなりません。養親がどうしても子どもを養えない状況があれば別ですが、普通に働いて収入のある方の場合には、元のパートナーへの養育費請求は認められなくなります。
ただし再婚相手と離婚して養子縁組を解消した場合や、再婚相手が死亡した場合などには二次的な養育費支払義務者となっていた元のパートナーの支払い義務が復活します。
なお、養子縁組をすると養育費は貰えなくなる一方で面会交流義務だけ残るケースもあり、面会交流で一番トラブルの多い典型例といえます。この場合は、面会交流の量を減らしてもらったり、養育費については、両親が3人いるものとして弁護士に計算してもらい、その金額を割り付けて扶養義務の履行を引き続き求めるということもあるでしょう。他方、面会をしたい父サイドとしても、相手方が再婚したから直ちに養育費の支払い停止を申し出るのは相当ではなくまずは減額や面会に影響が出るか否かを考慮する、という形で対応することが現実的ではないでしょうか。
2-5.子どもが成人した、結婚した、自立した
養育費を請求できるのは、基本的に子どもが未成年の間だけです。成人したら請求は受けられません。また16歳や18歳であっても、子どもが結婚すると成人したのと同じ扱いになるので養育費は請求できません。子どもが高卒で就職した場合など、自立した場合にも養育費を請求できなくなる可能性が高くなります。ですから、長女は21歳で成人しているが大学生であるので養育費の支払い対象であるが、長男は18歳で大企業に就職している場合は養育費の支払い対象とはならないということが起こった事例もありました。
なお成人年齢が18歳に引き下げられても、当面の間は「20歳に達する月まで」という運用が続くと考えられています。
名古屋駅ヒラソル法律事務所では弁護士が離婚問題に積極的に取り組んでおり、数多くの養育費トラブルを解決して参りました。離婚と養育費の問題で悩まれたらお気軽にご相談下さい。
養育費相談―弁護士の法律相談に向く場合、向かない場合
なお、主には、①いそいで離婚したため取り決めをしていなかった、②夫には十分な給与収入があるのに養育費が不払い、③再婚したのでこどもや再婚相手のことも考えて養育費問題をしっかりしておきたい―というケースが法律相談に向いているといえるでしょう。反対に、前夫が行方不明の場合、無職の場合などは、民事的解決は難しく児童扶養手当や生活保護などの行政的支援も視野にいれるようにしましょう。後者の民事的解決に向かない場合は役場などに相談することになると思われます。