千葉家裁平成28年3月29日判決でフレンドリーペアレントルールが重視される

フレンドリーペアレントルールが重視される珍しい判決が,松戸の裁判所で判決として出されました。 千葉日報は,次のように伝えています。 「5年以上別居状態の夫婦が長女(8)の親権を争った訴訟の判決で、千葉家裁松戸支部(庄司芳男裁判官)は30日までに、自分が親権を持った場合、離婚後も相手に認める長女との面会交流の日数について「年間100日間程度」を提案した夫を親権者と定め、妻に同居の長女を引き渡すよう命じた。妻は「月1回」を希望していた。夫の代理人弁護士によると、面会交流に寛容な点を重視し、子どもと別居中の夫を親権者とした判断は異例という。判決によると、夫婦は関係がうまくいかなくなり、2010年5月に妻が夫に無断で長女と実家に戻った。夫と長女が会ったのは同年9月が最後だった。妻が離婚や親権を求めて提訴。「長女を慣れ親しんだ環境から引き離すべきではない」と主張したが、判決は「両親の愛情を受けて健全に成長するのを可能にするために、父親を親権者とするのが相当」とした。 本件は,子連れ別居事案であり,面会交流も拒んでいた事案と考えられます。そして別居時3歳のこどもが8歳になっても引き渡すという点で,これまでにない判断枠組みといえるのであり,公開されることが求められる判決のように思われます。産経ニュースと朝日新聞ニュースを総合すると,平成22年5月に子連れ別居したとのことで、平成22年9月以降面会を拒否されていたとのことです。 これは安易にDVを主張し緊張感を高め、離婚するまでこどもに会わせないという戦略をとる弁護士に大きな反省を迫る内容といえるでしょう。既に我が国はハーグ条約を批准し,子の最善の利益という観点からも欧米と価値観を共有することを決めたものと考えられます。 本件は,一面的な観点からの情報しか出ていないのですが、例えば、DVなどの主張がない、長期の別居以外特段の離婚原因がない、妻の監護に不適切な点があったなどの背景事情がある可能性もあるのではないかと思います。こうした背景事情がなく、いわゆるフレンドリーペアレントルールを適用して,それを利益考量の指針にしたとすれば,それは欧米的価値観,これは心理学的裏付けのある正しい判断ということができると思います。いずれにしても,本件は,最高裁まで上告されることになると思いますが最高裁は親権争いに関心がないものの、ハーグ条約違反などの趣意が出され続けられている今般,1審でこのような判決が出て2審で逆転ということになると最高裁に上告される可能性はあるものと考えられます。 おそらく控訴されてこどもの引渡しは現実には行われないのではないか、ということではないかと思います。判決を言い渡した庄司裁判官は、平成25年に松戸に赴任しており、異動のタイミングで異例の判決を出したと考えられます。男性裁判官は家裁を担当するのは1回程度ですから,最後に自分なりの問題意識を提起して家裁を去ったといえるかもしれません。(異動は確実ではありませんが) これまでは,産経ニュースで報道されているとおり、いろいろいわれるように、母子優先の原則と監護の安定性の2軸から判断がされるものと考えられていました。そして,この2軸に子の意向が加わるというものです。本件では,母子優先の原則や監護の安定性につき、利益考量指針として重視せず子の意向も8歳だと通常考慮されませんから,面会交流の寛容性という利益考量指針で判断し,子の最善の利益から父母両方から愛情を受けられること,父側の監護に問題がないことが期待されていることなどが判決理由として挙げられているものと考えられています。 日本では、離婚すると一方の両親とは会わなくなるという因習があり、小泉元総理の三男なども有名です。 人事訴訟では、裁判官は親権の判断に迷うことはないというほど,子の監護の安定性と母子優先の原則の二軸だけで決めていますが,いずれの軸も妥当ではないことは明らかです。 監護の安定性はいいかえれば継続性の原則ですが、場所の移動はあまり重要ではなく両親との情緒的つながりが大事であると解されます。そうすると,8歳のこどもにとっては,生活の中心は,家庭内であり父母との情緒的コミュニケーションがとれる方に監護をさせた方が良いということになり,一方の監護親が監護してそれが継続しているからこれを尊重しなければならない理由は特にありません。母性優先の原則も父母との愛着が保障されているのであれば、別に「母」を優先する理論的根拠を喪失することになります。フレンドリーペアレントルールというと大人が作ったものといえるかもしれませんが、こどもの視点からは、もっとも合理的な判断枠組みといえるものと考えられます。 今回は100日を母親と過ごし、265日を父親と過ごすという枠組みのようですが、離別後の共同養育を推進する連邦家族法などオーストラリアなどの法制に否定的な日本の場合、共同監護権論を展開しても全く裁判所では相手にされません。今回、面会交流は月1回の12日程度で多くて年間20日程度を100日までにするということで、おそらくオランダなどの法制も参考にした意見を提出したものと考えられます。 判決の射程距離についてですが,本件は特殊な利益状況の下のものと思われ、射程距離はそれほど長くないものと解されます。(千葉家庭裁判所平成28年3月29日平成24年(家ホ)第19号) ポイントは以下のようなものです。 本件は,松浦遊さんと光希さんが,立夏さんの親権を争っていたものです。 光希さんが原告であり,立夏さんの健康や成長には問題がなく監護が安定していること、監護補助者がいること、養育環境が整っていること、立夏の主たる監護者は光希さんであること、監護者指定の審判で光希さんが監護者と指定されていることなどから,光希さんが親権者として相応しいと主張しました。 遊さんは,立夏さんの利益を第一に考慮して離婚を望まないため請求棄却を求めると述べて予備的に親権者を自己に定めるべきであると主張し、引渡しの附帯処分、光希さんが立夏さんと会えるように共同養育計画案を提出し、要旨100日の面会を認めるとの附帯処分の準備を提出した。 遊さんは財務省に務める国家公務員であり、光希さんは国連職員でした。光希さんは、国連職員に復帰しようとしたものの職がなく、他方、遊さんは、財務省財務官に任命されました。 その間に子連れ別居し保護命令の申立てをしましたが却下されています。それ以降は面会を拒むようになりました。 光希さんは,現在,港北医大教養学科教授として勤務している。面会交流はエフピックを使って1回2時間を要求している。 他方の遊さんは、松戸市で、広大な農地を持つ農家の二男であり、実家で叔父と県会議員を務める叔母夫婦が暮らしている。日中は遊の監護補助者に遊の父母がなることが可能である。 遊さんは、親権者に指定されても、光希さんとの面会交流を維持しておくことが長女の利益に資するものと考えて年間100日程度の面会交流を保障する旨を申し出ているものです。 そして遊さんは、合理的理由なく面会交流をさせない場合は親権者変更事由になることを自ら宣明しています。これらは判決文を前提としたフィクションである。 裁判所の親権者についての判断は以下のとおりである。  上記認定事実によれば、原告は被告の了解を得ることなく、長女を連れ出し、以来、今日までの約5年10か月、長女を監護し、その間、長女と被告との面会交流には合計で6回程度しか応じておらず、今後も一定の条件のもとでの面会交流を月1回程度の頻度とすることを希望していること、他方、被告は、長女が連れ出された直後から長女を取り戻すべく、数々の法的手段に訴えてきたが、いずれも奏功せず、爾来今日まで長女との生活を切望しながら果たせずに来ており、それが実現した場合には,整った環境で、周到に監護する計画と意欲を持っており、長女と原告との交流については,緊密な親子関係の継続を重視して、年間100日に及ぶ面会交流の計画を提示していること,以上が認められるのであって,これらの事実を総合すれば、長女が両親の愛情を受けて健全に成長することを可能とするためには,被告を親権者とするのが相当である。原告は、長女を現在の慣れ親しんだ環境から引き離すのは、長女の福祉に反する旨主張するが、今後長女が身を置く環境は、長女の健全な成長を願う実の父親が用意する整った環境であり、長女が現在に比べて劣悪な環境に置かれるわけではない。加えて,年間100日に及ぶ面会交流が予定されていることも考慮すれば、原告の懸念は杞憂にすぎないというべきである。  よって,原告は被告に対し、本判決確定後,直ちに長女を引き渡すべきである。 本件では,少し特殊であると思われるのは幼児の奪い合いになり、男性側が監護者指定の裁判で負けているということです。しかし、監護者指定の裁判で負けても、親権者指定の裁判で勝てる可能性があるという意味で、理論的には当然ながら実務上の意義は少なからず認められるように思われる。本件のポイントは、裁判所の判断としては、離婚原因がないので請求棄却にするのが相当、と考えていたと考えれられるということです。この件も、保護命令をして取り下げているなど仕立て上げDVが疑われる事案である判文となっています。しかしながら,女性側の離婚請求に対して,男性側としては,請求棄却を求めて徹底的に争っていて、それは「長女の利益を第一に考慮して離婚を望まない」というものであったと思われます。 そうすると,この点について何らかの配慮をしなければ、長期の別居以外に、高級官僚である被告につき特段の有責性も認められないことに照らすと,おそらく別居期間が6年ありますが、婚姻期間は12年以上あるケースではなかったのではないでしょうか。そうすると、裁判所としては、まずもって請求棄却にするほかないものの、全体最適をみると、被告も原告と夫婦でいたいわけではなく、単にこどもの利益を考えると離婚すべきではない、と考えているというものと考えられます。本件の場合は、仮に女性側である原告が控訴しても被告がさらに請求棄却を求めて控訴する可能性すらあるわけであって,女性側もなかなか受け容れざるを得ないような利益状況になっているものと考えられます。また、年齢的に8歳と調査官調査において、親権者の指定にあたり子の意向がほとんど考慮されない年齢であるということも判断を左右し、むしろ父母からの愛着が得られた方がよいこと、加えて、高級官僚同士といえること、女性側は、海外出国の懸念が消えないことなどの特段の事情があるように考えられます。 そういう意味では、離婚を認めてあげたという点で女性に花を持たせ、親権は男性に花を持たせて,こどもについては面会交流の量的調整でバランスをとり子の利益を図ることで、請求棄却を回避するという、ある意味では喧嘩両成敗的な発想でよく考えられていると思われます。まるで地裁の裁判官のさばきのようで、松戸では地裁、家裁がそれぞれ一緒に担当しているようですので、バランスのある裁判所だったのかもしれないといえます。 こどもがいる場合には、裁判上の離婚の場合は親権者指定が必要的です。 ここで、驚いたのが、裁判所の裁判官向け内部資料で親権者指定については、3段階に分けて将来における監護養育の計画も考慮されるという点です。 1、子の出生後夫婦が別居するに至るまでの監護養育の状況 2、別居後現在に至るまでの監護養育の状況 3、将来における監護養育の計画 一般的には、母子優先の原則と現状追認の原則を掛け合わせているだけですが、執務資料には「将来における監護養育の計画」というものがあるのです。 この論文は、母親であっても、「子が幼少であり、母親が監護養育していた実績が認められたとしても、その監護養育の過程において虐待等の事実があり、子が年齢相応の発達を遂げていない場合は、母を親権者とするのは不相当」としているようです。 もっとも、父親が母親から子を奪取した場合は正義に反する違法がある場合には、現状追認はできないとも書いてあるのですが、共同親権行使であるのに男性親が連れ出したら「正義に反する違法」となるのが全く意味不明ですね。 ★ こういう裁判官にあたったら徹底的に争ってあげよう 昔、愛知県弁護士会では、なるべく準抗告をしようという運動をしたことがありました。刑事事件における安易な人質司法を見直す運動であったわけです。裁判官の執務資料にはこのように記載がされています。「父親が親権を主張し、母親による監護状況の現状を非難することが少なくないが、その非難の内容を主張として具体化させる必要がある。」「過去において監護の中心を担っておらず、監護の現状についても具体的な問題点を主張できず、漠然と不満を述べるのみでは、審理の見通しを説明して、親権者の指定を事実上争点から外してしまうのが相当である」とされている。 つまり、こどもに関することは終えて、あとはカネ、というわけである。こういう訴訟進行は公益にもそぐわないので裁判官忌避の申立をしても構わない。現在、名古屋家裁にいる裁判官のうち、忌避の申立てを受けたことがない人の方が少ないのではないか。大事なことは肩入れしている、母子優先の原則という特定の価値観から訴訟指揮しているなどで最高裁まで特別抗告することです。 人によっては重要なポイントは異なります。 なお、反対側の立場からは財産分与の申立てをして、細かく主張をして時間を稼ぐということをやられることがあります。この松戸の事件もそういう事件であり、女性の側としては、時間の経過を待って、子を環境に溶け込ませ、やむなく親権者であることを追認させるという結果にさせないことは重要といえます。

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